北風
私の名前は「ヴィント」です。どういう意味かって? 「風」ですよ。
私の周りには広い平野が広がっています。こんなに広くて何もないと風はぴゅうぴゅうと気持ちよく流れてくれるので私も楽しく速度を上げて動くことができます。
「おーい風さん」
すると私の上から声が聞こえてきました。きっと太陽さんでしょう、私は上に向かって返事をしました。
「ちょっくら私と遊んでくれないかい?」
流石に何もない平原でさんさんと日を照らすだけでは太陽さんも暇なのでしょうか、まぁ私もそろそろ淡々とした光景に飽きてきたのでそれに乗ることにしました。
でも一体どうやって遊ぶのでしょうか、私は太陽さんに聞きました。
「ちょっとあれを見てごらん」
太陽さんが前方を指し示します(もちろん私たちに指はないのであくまでもイメージとしてです)そこには一人の旅人が歩いていました。広い平野に吹いている強い風を受けて寒そうに外套を握り締めています。
「あそこの旅人の外套をどっちが先に脱がせられるか勝負しないかい?」
なんとまぁ太陽さんはそんなことを言い始めました。
どっちが早く服を剥くことができるかを競おうとは大した太陽もいた物です。でも割と楽しそうだったので私はそれに乗ることにしました。もちろんやるからには負ける気などさらさらありません。
適当に話し合いをした結果、私が先行になりました。
「やぁーッ!」
私は声を張り上げつつ(もちろん私たちに声はないのであくまでもイメージとしてです)手を振り上げたのち(もちろん私たちに――)に、旅人さんの方を指さしました(もちろん以下略)
風である私は風と一体になってしか動けませんが逆に言えばそこいらにある風は私でもあるので手足のように(説明不要)自由に動かすことができるのです。
広い平野にあるたくさんの風が一気にあつまり強力な風になって旅人さんに襲い掛かります。
「うわーッ!」
すると旅人さんがしっかりと握り締めていた外套はあっという間に吹き飛ばされてしまいました。
「ありゃあ、これはまいった、私の負けだな」
それを見て太陽さんはやれやれといった具合に言いました。
めでたしめでたし。私の勝ちです。えへん。
あ、もうちょっとだけ続きます。
「ああっ!」
旅人さんは飛んでいく外套を見て悲鳴を上げます。きっと大切な物なんでしょう。
「ゥォォオッ!」
するとそこへ太陽さんが声()を張り上げます。するとあたりは瞬く間に暖かくなってきました。
「やぁっ!」
その間に私は軽く風を起こします。すると飛んでいった外套が戻ってきて旅人さんの手に収まりました。
「あ、あれ……戻って来た? それに急にあったかくなってきた……」
旅人さんは度重なる異常気象に驚いていましたが、とりあえず暖かく過ごしやすい感じになったのでそれ以上は文句を言うことなく外套を抱えて歩きだしました。
こうして私は勝負に勝って、旅人さんは何もなくさず、辺りはぽかぽか気持ちいい陽気になりました。めでたしめでたし。