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君の涙が目に沁みる  作者: 上ノ森 瞬
前編 君の笑顔で目を奪われる
6/13

06

 鳥のさえずりが1日で一番聞こえる時間にうるさい目覚まし時計の音とともに、弾は目覚める。

 目覚ましを止め、眠たそうな目をこすりながら、ベッドから降りる。

 カーテンを開けると、眩しい太陽の光が弾を照らし、

 「今日もいい朝だな」

とつぶやき弾の一日が始まった。


 自分の部屋で服を着替え、一階へ降りる。


 すると、台所からは味噌のいい香りと包丁でまな板を叩く軽快な音が聞こえる。

 弾が降りてきたことに気づいた弾の母、友江ともえは弾の顔を見ながら言った。

 「おはよう」

 「おはよう」

 弾が応える。

 「昨日は何時ぐらいに帰ってきたの?」

 「んー。終電だったと思う」

 弾むはまだ目が覚めきっていないのか、あくびをしながら目をこする。

 「じゃあ、いつもと同じくらい?」

 「まぁ、そうなるかな」

 「ふーん。朝ごはん食べる?」

 友江は作業を止め、弾に聞く。

 「あぁ。食べる」

 「じゃあ、準備するから先に顔洗ってきたら?それとお姉ちゃんも起こしてきて」

 「わかった」


 弾は洗面所に行って顔を洗い、引き出しに入ったタオルを一枚取り出し、顔を拭く。


 目が覚めたのか、タオルをかごに入れると確かな足取りで、二階へと向かう。


 楓の部屋の前にきた弾は部屋をノックする。

 「母さんがご飯できたから、降りて来いってさ」

 しかし、部屋からはなんの反応もない。

 弾は

 「まぁ、そうだよな」

とつぶやいて、部屋のドアを開ける。


 弾の目の前には掛け布団をはいで、足を開き、腹を出して寝ている醜い楓の姿があった。

 「はぁ・・・。彼氏が見たら泣くぞ・・・って彼氏いないか」

 弾はうんざりしながら、楓のそばに行き耳元で叫ぶ。

 「起きろ!楓!」

 楓はゆっくりと目を開いたが、寝ぼけているのか、近くにいる弾を抱き寄せる。

 「かわいい、はずむ。こっちにおいで」

 楓の胸に頭を埋ませられた弾は楓に聞こえるぐらいの大きさで言った。

 「こんな小さい胸。全然、嬉しくない・・・」

 「ウッ・・・」

 直後、ドスッという大きな音とともに、弾は床に転がりこんだ。

 みぞおちに正拳突きを食らった弾は殴られた場所を手で必死に抑えながら悶え苦しむ。

 「ふぁ〜。よく寝た!」

 そう言って、ゆっくりと起き上がった楓は悶え苦しんでいる弾に、

 「あれ?どうしたの?」

 と聞いた。

 弾は必死に振り絞って、

 「この悪魔・・・」

と言った。

 そのまま、楓は自分の部屋を出て、一階へ降りて行った。


 しばらくすると、お腹のあたりを抑えながら、ゆっくりと歩く弾がリビングへとやってきた。

 ダイニングテーブルには味噌汁とご飯、ベーゴンエッグとレタスが人数分用意されていた。

 友江と楓はすでに席に座って、ご飯を食べ始めていた。

 弾も椅子に座って、箸をとり食べ始める。


 しばらくしてから、楓はテレビを見ながら二人に喋りかける。

 「そういえば、私のバイト先に新しい子が来たんだけどさ、弾と同じ学校で年齢も一緒らしいよ」

 楓は家から四駅先のカフェで働いている。

 一応、カフェではあるが、夜はお酒も出している。

 昼は主婦、夜はサラリーマンやOLが利用する。

 店の規模は街の周辺では最大級で、売り上げも他のカフェに比べて群を抜いている。

 話を聞いていた友江は楓に聞く。

 「どんな子なの?」

 「そうだね〜。なんか可愛らしい子だよ。顔も性格も。まぁ、タイプ的には私と同じ天使みたいな感じかな」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 友江は弾にご飯のおかわりがいるかを聞いたが、弾はいらないと答えた。

 「なんで、無視するの!?」

 楓が二人に向かって不満そうに聞く。

 すかさず、弾は悪魔の間違いでしょ?と言う。

 「さっきのパンチの痛みはもう治ってしまったのかしら?」

と上品に言いながら、楓はご飯を口に運ぶ。

 弾は

 「ひぃ〜」

と小さく悲鳴をあげて、真っ青になったが、すぐに落ち着きを取り戻し、

 「コホン。コホン」

とわざとらしく、咳払いをしてみせた。

 友江は苦笑いをしながら、

 「その子。名前はなんて言うの?」

と楓に聞いた。

 楓は思い出すように、

 「う〜ん」

と言ったあと、

「あっ。庭崎 唯加ちゃんって言う子」

と答えた。

 その時、お茶を飲んでいた弾は目の前に座っていた楓の顔に向かって盛大にお茶を吹き出した。

 弾は慌ててびとびとになって呆然としている楓の顔を近くに置いてあった布で拭く。

 「姉さん、ごめん!」

 その様子を見ていた友江がうつむきながら、弾に言う。

 「弾・・・。それ、ぞうきん」

 「え?」

 顔を拭くのをやめた弾の顔は徐々に真っ青になる。

 それを聞いていた楓はこめかみに青筋を立てて弾を睨みつけながら、ドスをきかせた低い声で言う。

 「殺されたいの?」

 弾は真っ青になりながら、

 「すいません・・・」

と言い、逃げるように、

 「いってきます」

と言って、リビングをあとにした。


 自分の部屋に荷物を取りに戻って来た弾は窓の方を見ながら、何かを思い出すようにつぶやく。

 「・・・完全に忘れてた。どうしよう・・・ま、大丈夫か・・・」

 弾はカバンを持って、玄関の方へと向かう。


 今日は唯加とまた会う約束をした次の週の金曜日。


 テレビの占いコーナーの最下位には弾の星座が映っていた。

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