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君の涙が目に沁みる  作者: 上ノ森 瞬
前編 君の笑顔で目を奪われる
5/13

05

 七時間目の終了のチャイムがなる。

 弾と唯加の通うこの学校では、週に二回七時間目の授業が行われる。

 七時間目まで授業があるとみんな疲れるのかチャイムがなったのと同時に背伸びをする者や、広げていたノートを閉じてカバンにしまう者、ため息をつく者など様々だ。


 佐知はくるりと後ろを振り向き、ノートを見ている唯加に声をかける。

 「ねぇねぇ。唯加。今日、パフェ食べに行かない?最近、できたお店なんだけどねー」

と言って、手に持っていた一枚の紙を唯加に見せる。

 唯加はメニューが印刷された紙を見ながら、

 「え?パフェ?行きたい!行きたい!」

と少し興奮気味に嬉しそうな顔で言ったが、一瞬、弾の方に視線を向けたあと表情を曇らせ、

 「佐知ごめん。今日はちょっと用事があるから行けない。本当にごめんね」

と言った。

 「そっかぁ。用事があるなら仕方ないね。また今度行こう」

と佐知は少し残念そうにしながら、体をくるりと前に向けた。


 弾はいつも通り寝ていてチャイムがなった少しあとに起き上がって、机の横にかけていたカバンを机の上に置く。


 しばらくすると、担任の教師が教室に入ってきて、必要な連絡事項を伝える。

 連絡事項を伝え終わると、学級委員の方へと視線を送る。

 視線を感じた学級委員は、

 「起立!」

と言った。

 それを聞いたクラスの全員が立ち上がり、礼をする。

 すると、急いで教室を出る者や教師に喋りかけに行く者、席の離れた友達の方へ行って話をし始める者、帰る準備をする者などがいる中で、弾はゆっくりと立ち上がり教室のドアの方へと歩き始める。


 それを見ていた唯加は急いで帰り支度をする。

 教室のドアから出た弾は校舎の入り口の方へ向かう。

 そのあとを追うように唯加は近くの人に

 「バイバイ、またね」

と言って教室を出た。


 下駄箱に着いた唯加は外から差す光を避けるためか、手を目の上に掲げながら、くるくるとあたりを見渡す。

 弾の姿を見た唯加は目の上に掲げてた手を下げて、もう一方の手で自分の下駄箱から、靴を取り出す。

 履いていたスリッパをしまって、靴に履き替え、校門の方へと走った。


 校門を通り抜けた弾は右へ曲がる。

 あまり運動が得意ではない唯加は息を切らしながらも、弾のあとを追うように、校門を通り抜け、右に曲がった。

 すると唯加のすぐ目の前には弾がいたので、唯加は少し驚いた顔をして、すぐに近くの電柱に隠れた。

 「ば、バレてないよね・・・」

 誰かに確認するようにあたりをキョロキョロするが、周りには誰もいない。

 弾はゆっくりと駅の方へと歩いている。

 電柱に隠れていた唯加は上がっていた息を無理やり落ち着かせるように深呼吸をして、心臓のあたりに手をあてて、小さな声で

 「よし!がんばれ、わたし!」

と言って、弾の真後ろに立ち、肩にかけていたカバンの紐を両手で掴みながら、弾の方へ向かって叫ぶ。

 「あ、あの!」

 誰かがその状況を見れば、一人の女子高生が歩いている男子高生に呼びかけているのは、一目瞭然だが、肝心の本人には聞こえていないのか、はたまた自分に話しかけられていないと思っているのか、後ろを振り向くことなく歩き続ける。

 唯加は聞こえていないと思ったのか、もう一度呼びかけるが弾は振り向かなかった。

 唯加は少し不安そうな顔で今度は、

 「津滝くん!」

と叫んだ。

 すると、弾はようやくそこで認識したのか、歩くのをやめ、後ろを振り向いた。

 唯加は弾の目の前まで駆け寄り、弾の顔を見て言った。

 「わたし、同じクラスの庭崎 唯加です。ちょっとだけお話ししたいことがあるんですけどいいですか?」

 弾は初めて喋りかけられた相手に少し驚いたような顔をしながらも腕時計に目を落とし、

 「・・・うん。少しだけなら・・・」

と答えた。

 唯加は近くの公園で話したいと伝え、弾を誘導する。


 ベンチにお互い座り唯加は話を切り出す。

 「今日、朝の通学中に目の不自由なおじいさんを学校の最寄り駅の三駅先まで送り届けてましたよね?」

 弾は俯きながら、

 「えっと・・・。とりあえず、敬語は使わなくていいよ。同じクラスだし・・・」

 「あっ。・・・うん。・・・わかった・・・」

 「で、おじいさんのことだけど、確かに送った・・・。けど、なんで知ってるの?」

 「え・・・な、なんでだろう?ちょ、超能力かなぁ・・・?」

 真っ赤になった顔を手で抑えながら、唯加は俯く。

 「え?」

 弾はすかさず顔をあげ、唯加の方へと視線をやる。

 「う、うそだよー」

 一体なにが原因かはわからないが唯加はとても混乱しているようだった。

 「えっと・・・。ごめん。あんまり時間ないから・・・。できれば、手短に・・・」

 「ご、ごめんね。わたし、なに言ってるんだろう。ははは」

 真っ赤になった顔を冷まそうと手で仰ぎながら唯加は言った。

 「えっとね。今日、たまたま津滝くんを電車で見たんだ。そしたら、途中の駅で席を譲ってるところ見て、そして会話も聞いちゃって・・・。あのあと、遅刻してきてたからどうしたのかなぁ?と思って・・・」

 それを聞いた弾は少し照れくさそうに言った。

 「そっかぁ・・・見られちゃってたか・・・恥ずかしいな・・・」

 「ううん。全然、恥ずかしくないよ。わたし、本当にかっこいいなって思ったもん。席、譲ったりするのって本当に勇気いるもん」

 唯加は目を潤ませながら、弾を見たが、すぐに自分が言ってることがとんでもないことだと気づいたのか、また顔を赤くして、

 「ほんとにごめんね」

と言って俯いた。

 しかし、弾は特に気にした素振りを見せず、言った。

 「いや、別に大したことはしてないから・・・。まぁ、あのあと結局おじいさんを行きたいところまで連れて行くのに時間かかっちゃてさ・・・」

 「そうなんだ。だから、遅かったんだ・・・」

 「まぁ。そんなところかな。じゃあ、ごめん。ちょっとそろそろ行かないと・・・」

 腕時計に目を落として、ベンチから立ち上がり、公園の出口の方へと歩き出す弾。

 唯加もすぐに立ち上がって、弾に向かって言う。

 「ねぇ。津滝くん、来週、数分だけでもいいから、今日みたいにまた二人で話したい!」

 弾は歩くのをやめて振り返った。

 少し怪訝そうな顔をしながら、

 「・・・え?・・・うん・・・。じゃあ・・・木曜日。木曜日ならまだ時間あるから・・・」

 「本当に?ありがとう!じゃあ、木曜日の放課後ここで待ってる!」

 それを聞いた弾は手を申し訳程度に小さくあげて、公園の出口の方へ歩いていった。

 唯加は公園のベンチに座り、嬉しそうな顔でスマートフォンのスケジュールの画面を開いて、木曜日の予定を打ち込んだあと、軽やかな足取りで駅の方へと向かった。


 そして、家に着いた唯加は自分の部屋のベッドにダイブして枕に顔を埋めながら、叫ぶ。

 「今日ははーくんと初めて喋った記念日!はーくん!はーくん!はーくん!」

 部屋の扉が開いていたのか、扉の外から、小学生の妹、有里沙ありさが言った。

 「・・・お姉ちゃん・・・。・・・大丈夫?」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・え?もしかして、今の聞いてた?」

 「・・・うん・・・。はーくんがなんとかって・・・。なんかよくわからないけど、一応、お父さんとお母さんには内緒にしておくね・・・。あと、ご飯できたって・・・」

 「・・・うん・・・。ありがとう・・・」

 有里沙は少し気まずそうに一階へと降りて行った。

 このあと、唯加が泣きそうな顔になったのは言うまでもない。

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