喧嘩するほど……
2話目ですが、同棲はまだです。
やばい、タイトル詐欺になりそう
散々口喧嘩をしていた俺と鶴羽だったが、学校が近付いてくると流石に自重する事にした
「早く学校が終わらないかな」
「まだ学校に到着すらしてませんよ。気が早すぎませんか?」
「って言ってもな……やっぱり集中できん」
「学校と恒樹君の考え事はまた別の問題でしょう? 頭を切り替えなさいよ」
相変わらず容赦ないなこいつ。まぁもう慣れっこだけどさ。
そして、鶴羽に怒られながらも俺達は学校に到着した。下駄箱で靴を履き替えて自分の教室に向かった
「しかし、鶴羽はやっぱり人気者だよなぁ」
「……それって皮肉ですかね?」
さっきから学校の男子達の視線を集めている鶴羽に言うと嫌そうな顔をされた
「そんなんじゃないって。男子にモテるのは人気の証拠だろ? 見た目だけは良いもんなお前」
「だけって何ですか。他に良い所無しって言うんですか。恒樹君は見た目から中身まで普通人間のくせに」
本当、見た目は小柄で可愛らしい、守ってあげたくなるような女の子なんだけどな。中身は毒舌ばっかりの生意気娘だと言うのに
「さっさと教室に行くぞ。俺もさっきから嫉妬の視線が飛んできて辛いんだ」
「貴方の意見に従うのは癪ですけど仕方ないですね」
素直に俺の言うことを聞くことは出来ないのかこいつは。
そして、少し早足気味になりながらも教室にたどり着いた。
俺達はさっさと教室に入ることにした
「おはよう傘南さん!」
「今日も可愛いね~」
「今日も雪原君と一緒? もしかして二人とも付き合ってるの~?」
教室に入ると、鶴羽は数人の女子に挨拶されていた。俺の前だと毒舌がポンポン飛び出してくるが、それ以外の前ではお淑やかで社交的な性格なので、同性の友達を作るのは早い
「皆さんおはようございます。後、恒樹君とは付き合ってません。あれはただの友達ですから」
俺をあれ扱いかよあの野郎。ま、女子の集まりに飛び込んで行けるはずもなく、大人しく自分の席に着くことにするけどな
「よぉ恒樹。傘南さんとは上手くやれてっか?」
俺が席に着くと、一人の男子生徒が俺に話しかけてきた。
こいつの名前は砂谷 大輝。高校に入って最初に出来た友達だ。容姿はかなり良いイケメンだが、中身は……ある部分を除いて至って普通の男子高校生である
「上手くって何だよ?」
「何だよってお前……あんなに可愛い女の子が身近にいるのに放っておくのかよ!?」
「可愛い女の子? 誰の事だよ?」
「ひでえなお前!!」
大輝はそう言うが、俺にとってはあいつは『生意気な女の子』の部類に入るが、間違っても『可愛い女の子』の部類には入らんからな
「勿体ねえなー……あんな可愛い娘が身近にいるのに」
「なら大輝が貰ってくれよ。今なら500円でやるわ」
「500円ってお前な……」
大輝は呆れたような視線を俺に向けるが、正直俺はこれでも高い値段だと思う
「500円が嫌なら300円で……」
「誰が300円ですか誰が」
俺が更に交渉しようとすると、いつの間にかこっちに来ていた鶴羽が不機嫌そうに腕を組みながら割り込んできた
「誰って、お前の事だが?」
「よく本人に堂々と言えますよね……」
そう言いながら、鶴羽は俺の隣の席に座る。
何で隣かって? 最初の席替えで席が隣同士になってしまったからだよ。お陰でいつでもこいつの毒舌を聞けるはめになってしまった
「おはよう! 傘南さん」
「おはようございます、砂谷君」
元気よく挨拶してきた大輝に笑顔で返す鶴羽
「砂谷君はいつも恒樹君と一緒にいて疲れませんか?」
「別に疲れないよ? ってか傘南さんも結構一緒にいるじゃんよ」
「私はただの腐れ縁ですよ」
敬語口調を全く崩さずに話す鶴羽。俺に対してもこれくらいお淑やかな態度でいてくれれば楽なんだけどなぁ
「……何ジロジロ見てるんですか?」
俺が二人の会話を見ていると、鶴羽がジトーッとした目で俺を見てきた
「別に何でも良いだろ」
「隠し事ですか、気に入りませんね。言いたい事があればはっきり言ってくださいよ」
「隠し事なんかじゃないっての。あんま気にすんなよ」
「誤魔化そうとしてるでしょ。ますます気に入らないわね」
うわ、もう口調崩れた。さっきまでのお淑やかな雰囲気はいずこへ?
「あんまり細かい事ばっか気にしてると身長伸びねえぞ?」
「何でそこで身長の話になるのよ! てか余計なお世話よ!」
「じゃあ小さいままで良いってことか?」
「小さいって言うな!」
「だって小さいだろ? 身長も胸も」
「なっ……なぁっ!?」
そうなんだよなぁ、こいつ見た目も小さいし胸も小さいんだよ。まぁそれを引いても見た目は悪くないんだけどな、あくまで見た目は
「こ、この変態ッ!! 朝から胸の話なんてするんじゃないわよ!! ってか小さくて悪かったわね! これでも毎日牛乳飲んでるっての!」
「それでも効果なしか……もう諦めた方が良いんじゃね?」
「諦めないわよ! いつか大きくなってやるんだから!」
最早さっきまでのお淑やかな鶴羽は消えてなくなっていた。でも、教室の皆は特に気にした様子もない。
ま、俺とこいつの言い合いは毎日やってるからな。今更動揺するやつもいないか
「まぁまぁ二人とも。とりあえずその辺にしておいたら?」
大輝が苦笑しながらも俺達の言い合いを止めに入ってくれた
「ああ、はい……すみません、砂谷君。お見苦しい所を見せてしまって……」
「はは、気にすんなって。いつもの事だしさ」
大輝との会話になると途端にお淑やかな雰囲気に戻ったぞあいつ
「で、さっきの鶴羽を300円で貰ってくれないかって話だけどさ」
「まだ言いますか貴方は」
再び俺をジト目で見てくる鶴羽
「いやぁ、傘南さんも魅力的だけどさ……俺、好きな相手いるしさ」
そう言って、大輝はチラッと窓際の席に視線を向ける。
そこには、一人で黙々と本を読んでいる眼鏡をかけた真面目そうな女子が座っている
「そっか。大輝はあいつが好きなんだったな」
「まぁな。でも今日は話しかけない方が良いかな~」
「今日は新しい本が発売されるって言ってましたからね。それが賢明かと思います」
普段はあの眼鏡の娘とも一緒に話したりするんだが今日は別だ。新作の本を読んでいるあいつの邪魔をするのは絶対に止めておかないと。
ちなみに一つ言っておくと、大輝は優等生で堅苦しい女子は苦手なタイプだ。つまりこいつの好きな相手であるあいつは……まぁそれはまた別の機会に話すとしようか
「おっと、もうHRが始まるな。それじゃあまた」
そう言って、大輝は自分の席に戻っていった
「恒樹君。真面目に授業を聞くんですよ」
「へいへい」
鶴羽の言葉を適当に聞き流しながら、俺は入ってきた担任の先生に視線を向けるのだった