第9話 天然天使と噂話
今回は、あの3人は出て来ません。
ある日の昼休み時間、僕はいつもの様に図書室へと向かって行くと。
目の前の教室の出入り口から、クイクイと手が上下するのが見えた。
どうやら、僕を呼んでいるみたいだ。
とりあえず呼ばれるがまま、その教室の中に入る事にした。
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教室の中に入ると教室は空き教室だけど、換気の為に開け放たれてる様だ。
中には女の子が3人いた。
いずれも上靴の色から、3年生で上級生だ。
「ごめんなさいね、呼び止めちゃって」
と、髪を肩口で切り揃えた、ツリ目の女の子が言った。
「いえ、なんでしょうか?」
「失礼だけど、名前はなんて言うの?」
さらに、髪を後ろで纏めた、眼鏡の女の子が言った。
「はい、伊倉 秋人と言います」
「へえ、秋人くんか、かわいいね」
今度は、頭の上に大きなお団子の女の子が言った。
「ちょっと、余計な事は言わないで」
「そうそう、本題に入らないと」
と、ツリ目と眼鏡の女の子が言った。
「こほん、秋人くん、あなたをここに呼んだのは、聞きたい事があるからなの」
「一体、何ですか?」
ツリ目の女の子がそう言ったので、僕は尋ねた。
「あなた、恵とつきあってるの?」
と、ツリ目の女の子が聞いて来た。
「へっ?」
はい?何の事ですか?
「この間、二人が抱き合っていたのを、見た子がいるのよ」
クイっと眼鏡を押し上げながら、眼鏡の女の子が言って来た。
「で、どうなの?」
好奇心丸だしで、お団子の女の子が聞いて来た。
どうやらこの間、恵先輩にモフられている時に、その場面を見られた時の話のようだ(第6話、天然天使の嫉妬参照)。
「いえ、つきあってはいません」
「じゃあ、なぜ、抱き合ってたのよ」
「そうよ、そうよ」
ツリ目と眼鏡の女の子が問い詰めて来た。
「ち、違いますよ、のどか先輩がハグしたのが羨ましかったから、僕をモフりに来たんですよ!」
「「「???」」」
3人は頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「ハグ、モフり?」
「のどかって?」
「読書部の2年生の」
「ああ、あの子」
「そう言えば、もう1人、2年生がいたね」
「そうそう、静って子」
3人は固まって、ヒソヒソ話をしている。
そのうち、ツリ目の女の子が僕に聞いて来た。
「それじゃあ、静って子は、ハグしたりモフったりしないの?」
「静先輩は、ハグしたりモフったりしないけど、くっついてきて僕の手を両手で握ってきたりはします」
と僕が答えると、3人は何か分かった様だ。
「わかったわ、つまりあの子は」
「読書部のペットな訳ね」
「いや、この場合、日本語の”愛玩動物”と言うのが正解ね」
「でも、この子の場合、愛玩動物と書いて、"かわいがるいきもの"と言うのが似合いそう」
などと、かなり失礼な事を言いながら、また固まって話し合った。
ひとしきり話合うと、3人はこちらを向いて聞いて来た。
「ねえ、秋人くん、お願いがあるけれど、いい?」
「はい、何ですか?」
一瞬、背中に冷たい物が走った。
「いつも、あの娘たちにモフられてるんでしょ」
「だからお願い、私たちにもモフらせてよ」
「こんな可愛い子といつもいるだけでもズルいのに、それに好きなだけモフれるなんて羨ましい」
3人は邪悪なオーラを放ちながら近づいて来る。
「ねえ」
「お願い」
「「「モフらせてぇーーー!」」」
ひえーーーーー!
「し、失礼しまーーす!」
身の危険を感じ、僕は脱兎の如く走り去った。




