第31話 天然天使とお弁当3
4時限の終鈴がなった。
雨降りの中、食堂への渡り廊下を、足早に食堂へと向かった。
食堂の入り口に到着すると、そこで見覚えのあるお下げ髪の女の子と、バッタリ出会った。
「あれ、有佐先輩」
「あ、秋人くんね」
小さなお弁当箱を持った、有佐先輩がそこにいた。
「偶然ですね」
「うん、偶然やねぇ、食堂に食べに来たとね?」
「はい、でも、購買でパンを買ってですけど」
「じゃあ、一緒に食んね」
「はい、お願いします」
と言う訳で、先輩と一緒に食堂で、食べる事になった。
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「すいません、お待たせしました」
「よかよ、じゃあ、食よっかねぇ〜」
パンを買って来た僕は、待たせていた先輩に軽く謝った後、一緒に食べ始める。
僕がパンの袋を破ると、先輩が可愛い弁当の包を解いて、蓋を開けた。
弁当の中身は、だし巻き卵と肉じゃが、餃子、何か弁当で、余り見られない組み合わせのオカズだけど。
「先輩、何か、珍しい組み合わせのオカズですね」
「ああ、これね、昨夜の残りたい」
へえ、盛り付けが上手だから、残り物を詰めた時の、ゴチャゴチャ感が無いなあ。
先輩は、家事の一切をやってるから、こう言う所は家庭的だなあ。
そんな事を思いながら、パンを両手で持って、モグモグと食べていると、先輩がニコニコしながら、僕を見ていた。
「ん、先輩どうしたんですか?」
「いやね、秋人くんが食ぶる姿ん、可愛かけんがら見よったとたい。
恵ん言よるごつ、ほんなこて、リスんごたる」
(いやね、秋人くんが食べてる姿が、可愛いから見ていたんだよ。
恵の言っていた様に、本当に、リスみたいだね)
・・・僕は赤くなりがら、パンを食べた。
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食事が済んで、一服していると。
「先輩、弟さんとは、どうなりましたか?」
僕は、少し気に掛かっていた事を聞いてみた。
「うん、少しね、あん子に手ば出さんごつしたと。
そぎゃんしたら、あん子ね、”ごめんなさい”って謝って来たったい」
(うん、少しね、あの子に手を出さない様にしたら。
そうしたら、あの子ね、”ごめんなさい”って謝って来たの)
「そっでね、なんでねって、聞いたら。
“お姉ちゃんが構って来んとは、何かして怒らせたけんじゃなかと?”って言うたとたい」
(それでね、どうしてって、聞いたら。
“お姉ちゃんが構って来ないのは、何にかして怒らせたからじゃないの?”って言うの)
「だけん、”お姉ちゃんがギュっとすると、嫌がるけんがらたい”って言うたら」
(だから、”お姉ちゃんがギュっとすると、嫌がるからだよ”って言ったら)
「あん子、顔ば赤こうして、小さか声で”・・・お姉ちゃんの胸が恥ずかしかけん”って言うと。
そうたいね、あん子も年頃やけんね」
(あの子、顔を赤くして、小さな声で”・・・お姉ちゃんの胸が恥ずかしいから”って言うのよ。
そうだよね、あの子も年頃だからね)
と言いながら、先輩は自分の胸を両腕で抱えて、強調させた。
・・・それがダメなんでしょうが。
「キュってせん代わりに、頭ば撫でさせてんね、て言うたら、渋々承知したばい。」
(ギュってしない代わりに、頭を撫でさせてね、て言ったら、渋々、承知したよ)
先輩が笑って、そう言った。
先輩の様子を見る限りでは、とりあえずはこの問題は良さそうだ。
「秋人くんがあん時、私ば慰めてくれたけん、あん子の事ば冷静になれたと、ありがとうね」
(秋人くんがあの時、私を慰めてくれたから、あの子の事を冷静になれたの、ありがとうね)
先輩があの時を思えば、考えられない位の明るい笑顔で笑った。
「今日は図書室行くけど、一緒に行かんね?」
と先輩が誘うので、僕は、
「はい、一緒に行きましょう」
と答えた。
雨が上がり、雲間から日が差し込む空をみながら、僕らは渡り廊下を通り、図書室へと向かった。




