第2話 天然天使との出会い(前)
4時限目の終鈴が鳴った。
「入学してからもう1週間かあ・・・」
と、独り言を呟いた。
しばらく慣れる為にも、休み時間もクラスに居たけれど。
もうそろそろクラスにも慣れたから、前から行きたいと思ってた図書室に行こうかな。
昼食を急いで食べて、知り合ったばかりの友達に一声掛けた後、図書室へと向かった。
***************
校舎の奥まった場所にそこはあった。
「あった、あった」
”図書室”と書いてある標札をみつけると、期待に胸を膨らませた。
扉を静かに開いて、中に入って部屋の中を見渡せば、中学の時と違う分量と規模に軽く驚く。
回りには誰も居なくて、どうやら僕一人の様だ。
「カウンターに誰も居なくて良いのかな?」
独り言を言いながらも、早速、目的の本を探しに、”歴史”の棚の”日本史”の段を探し始める事にした。
***************
目的の本は無かったけど、代わりに面白そうな本を幾つか見つけた。
テーブルの適当な場所に座り、本の面白さにしばらく没頭してると、カウンターの奥から扉が開く音が聞こえた。
どうやら図書準備室から誰かが出て来たみたいだ。
顔を上げて見てみると、女の子が出て来た。
髪をポニーテールにした、目がややツリ気味の美人さんです。
上靴の色を見ると3年生、上級生だ。
美人さんは、そのままこちらに来て、僕の目の前に止まった。
「ごめんなさい、ちょっと聞きたい事があるけどいい?」
と、美人さんは僕に尋ねて来た。
「はい、何でしょうか?」
と答えた、すると美人さんは。
「君は新入生なんでしょう、部活は決まった?」
と美人さんは聞いて来たので。
「いいえ、まだ、決まってません」
と答えた、すると。
「じゃあ、じゃあ、読書部に入らない?」
と、美人さんは捲し立てる様に言ってきた。
「ちょっと、ちょっと、待ってくださいよ、恵先輩」
美人さんの横から声がした。
「どうしたの?静」
と、美人さんが答えた。
静と呼ばれた女の子を見れば、ストレートロングの眼鏡を掛けた女の子が立っていた。
彼女を見ると、今ではほぼ死語と化した、”清楚”と言う単語が頭に浮かぶ。
上靴の色を見れば、2年生、やはり上級生だ。
「だからぁ、まず、自己紹介をして、部の説明をしないと」
と、静先輩が注意した。
「あ、そうだった」
と言いながら、恵先輩は頬を掻いた。
「じゃあ、まず自己紹介から、私は木葉 恵、上靴を見れば分かるけど3年生、一応読書部の部長をしているよ。
それと、恵って読んで良いからね。
こっちは植木 静、2年生で同じく読書部の部員」
「・・・植木 静です・・・。
・・・静って呼んで下さい・・・」
「ああ、気にしなくて良いよ、この娘は男性恐怖症ぎみだから」
確かに、俯いてこちらに視線を合わせようともしないなあ。
「あ、でもこの娘が男にこんなに接近するなんて珍しいかも?」
「恵先輩!」
俯いたまま、静先輩は顔を真っ赤にした。
「あ、そうそう、君の名前は?」
そう言えば、自分の名前がまだだった。
「僕ですか、僕は伊倉 秋人です」
「そう、秋人君ね」
「それから読書部の説明だけど、読んで字の如く本を読んでそれをレポートに出したり、発表する事になっているんだけど。
現在では有名無実化して、部活はやりたくないけど建前上、何処かに籍を置かなければならない人間の名義を置いておくだけの場所。
要するに幽霊部員の溜まり場になってるね。」
そうだ、この学校は部活動が必須で、必ずどこかに所属しなければならなかったのだ。
そして、入学して1ヶ月間の間に決めなければならない。
「もう、恵先輩!」
静先輩が頬を膨らませて怒った。
「でもここに居る2人ともう一人は、奇特にも真面目に活動している変人な訳ね。
で、どうする?名前だけでも入ってみる?」
ん〜、部活と言っても、運動系は苦手だからダメだし、文化系にしようと考えていたけど、まあ、いいか。
「分かりました、別にどこかに決めていた訳でも無いので入ります」
「そう、それじゃあこれが入部届けの用紙。
これを顧問の先生に渡してね。
あ、もうそろそろ、予鈴が鳴る頃だから帰った方がいいよ」
もうこんな時間か、じゃあ帰らないと。
「もう時間ですか!それじゃ帰りますので、失礼します」
「入部届けの件、よろしくね〜」
先輩方に見送られて、そそくさと図書室を後にした。
**************
「恵先輩、どうしたんですか、自分から部員をスカウトするなんて。
ウチの部は放っといても、入部希望の幽霊がいっぱいいるんでしょうに」
秋人が居なくなった図書室で、静が恵に質問した。
「いやね、幽霊じゃなく、一緒に活動してくれる仲間が欲しかったんだよね。
それに秋人君だっけ、あの子こんな時間に図書室に来るなんて、本が好きだと思ったからかな。
静も一緒に活動してくれる仲間が欲しいんでしょ」
「そりゃ、確かにそうですけど・・・」
「それにあの子、可愛いじゃない。
思わず、モフモフしたくなるじゃないの」
「それが目的ですか・・・」
冷めた目で静は、恵を見た。
「静もあの子をモフモフしたいとは思わないの?」
「確かに、頬ずりしたいとは思いますが・・・、きゃぁ!もおっ、何を言わせるんですか!」
静は自分で言った言葉で、一人でパニクった。