第18話 お姉ちゃんは辛いよ
今回は、有佐お姉ちゃんのブラコン炸裂の回です。
放課後、いつもの様に図書室に行くと。
「あれ?」
カウンターには、この時間帯には見ないはずの、おさげ髪の女の子がいる。
「あれ、有佐先輩、今日はどうしたんですか?」
有佐先輩がカウンターに座って、受け付けをしていた。
「ん、あ〜、秋人くん、今日はね、弟がクラブでちょっと遅くなるけん、ここば手伝いにきたと〜。
私も図書委員やけん、タマには放課後も手伝わんとね」
「そうですか」
「恵も、もう来とるけん、準備室に入らんね〜」
有佐先輩からそう言われて、僕は準備室に入った。
準備室には、恵先輩が一人で本を読んでいるだけだった。
「あれ、今日、二人は?」
「ん〜、今日は、予備校の日だって」
「へ〜」
僕が尋ねると、恵先輩がそう答えた。
僕は恵先輩の向かいに座り、カバンから本を取りだし読み始めた。
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しばらく本に集中して読んでいると、準備室のドアが開いて、有佐先輩が入って来た。
「あれ、有佐?」
「あれ、有佐先輩、どうしたんですか?」
と、恵先輩と僕が尋ねると。
「ん、あんまり暇やけん、気分転換にきたと〜」
有佐先輩がそう答えた。
しかし、続いて。
「ね、秋人くん、今度こそお願い、ギュってさせてんね〜」
と、この間の事を蒸し返した。
「ちょっと、有佐」
「有佐先輩〜」
恵先輩と僕が言うが、すると有佐先輩が。
「だって、秋人くん見とーと、弟思い出すけんが」
「だから、弟可愛がりなさいよ」
「だけん、その弟が、私ば避けよーとたい!」
恵先輩が注意すると、有佐先輩が感情を爆発させた。
「ほんなこて、小さか頃は、今よりも可愛ゆうて。
しかも、いっつも、おねえちゃん、おねえちゃんって言うて、甘えて来るとたい」
(本当に、小さい頃は、今よりも可愛くて。
しかも、いつも、おねえちゃん、おねえちゃんって言って、甘えて来るのよ)
「いつも外行く時は、”おねえちゃん手えつなでよかね?”って可愛らしゅう遠慮して言うし。
夜寝る時は、”おねえちゃん、一緒ん寝てよか?”って可愛らしゅう甘えて来よーたと。
そぎゃんか時は、いつも頭撫でたり、ギュってしよーたー。
そうすっと、あん子、可愛か笑顔ばしよったとばい」
(いつも外に行く時は、"おねえちゃん手をつないでもいい?"って可愛らしく遠慮して言うし。
夜寝る時は、"おねえちゃん、一緒に寝てもいい?"って可愛らしく甘えて来るの。
そう言う時は、いつも頭を撫でたり、ギュってしてたよ。
そうすると、あの子、可愛い笑顔をしてたんだから)
「うちん家は、母親がおらんけん、私が母親代わりばしよーと。
あん子の面倒見よーたら、いっつも”おねえちゃんありがとう”言うて、可愛か笑顔で笑うと。
そん笑顔ば見とーと、胸が”キュン”となってくさい、ますーます、あん子ば構いとーなるとたい」
(うちの家は、母親がいないから、私が母親代わりをしているの。
あの子の面倒を見ていたら、いつも"おねえちゃんありがとう"言って、可愛い笑顔で笑うのよ。
その笑顔を見ていると、胸が"キュン"となってきて、ますます、あの子を構いたくなるの)
「それが、最近は私ば避けよーと。
いくら年頃でも、そりゃ酷かー」
(それが、最近は私を避けてるの。
いくら年頃でも、それは酷いよー)
滔々(とうとう)と、有佐先輩は弟愛を語りながら、愚痴っている。
そして、僕を指差して。
「恵も、こぎゃん可愛か男の子が、いっつも側にいて、”おねえちゃん、おねえちゃん”言うて可愛らしゅう甘えて来よーと、構いとうなろーもん」
(恵も、こんなに可愛い男の子が、いつも側にいて、"おねえちゃん、おねえちゃん"言って可愛らしく甘えてきたら、構いたくなってくるでしょう)
恵先輩は、その情景を想像すると。
「まあ、絶対そうするわね」
と、納得した。
「だけん、弟が構わんけん、寂しかと。
秋人くん、お願い、ギュってさせてえ〜」
「って、それはあなたの弟ととの問題でしょ。
あーちゃんは関係無いじゃない」
「恵のケチ」
「け、ケチっ・・・」
と、有佐先輩と恵先輩が言い合った。
そして、その言い合いは延々と続いた。




