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ノートの切れ端  作者: 本宮愁
20歳
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宛てのない手紙(2014/4)

過ぎた出来事は美化されて、いつしかまるで別物にすり替わる。


人の性と知りつつも、それを素直に受け入れられないのは、赦されずにいたいという独りよがりな感傷だろう。


忘れずにいたい。


犯した罪の重さを抱いて、立っていたい。


なにを大げさにと笑われるかもしれないが、私が彼に捧げられることは、もう他にないのだ。



愛していた、とはとても言えない。

好きだった、と胸を張れもしない。



それでも寄り添うことを許したのだ。

それでも寄り添うことを選んだのだ。


ただそれだけのことが、私にとってどれだけの重さをもったのか。どれだけの覚悟を要したのか。


――きっと、彼は最期まで知らずに逝った。




あなたの死に、私はいまだ、涙の一雫も流せません。


あなたは最期まで、私の真実など欠片も知らず。

無知であることさえも、自覚せぬまま。


永久の旅路に踏みだしたのでしょう。



昔を語ることもできず、現在を共有することもできず、重ねた時間に託しあったモノが、はたしてどれだけあったのか。


あなたの虚を私は埋めましたか。

あなたの生を私は埋めましたか。


あなたでなければいけない、なんてことはなかった。

それでも、あなたは、私でなければいけなかったの?


傷つけることも苦しめることも予想していた。

あなたの昔を聞き、壊しかねないことを知って、はじめて身が竦んだ。



どうして私を選んだの。



傷つくことも苦しむこともわかっていたでしょう。

なのに、どうして。



ねぇ、そろそろ。

死の理由を教えてくれたって、いいんじゃないですか。


理由なんてないならないと、はっきり教えてくださいよ。


でなきゃいつまでも、中途半端な後悔を、くすぶらせつづけなきゃならないじゃないですか。



誰に聞けばいいのかもわからないまま、そろそろ、二年の月日が経ちます。

正確な命日すらも知らないなんて、信じられますか。



恨んでください。

憎んでください。


どうか、赦さずにいてください。



いつか壊すくらいならと手放して、その結果、あなたを喪ったことに、悲しみすらも抱けなかった薄情者を、あなただけが謗られるのです。


続ける理由も終わらせる理由もみつからないまま、独りよがりな覚悟を抱いて、鎌を振り下ろした処刑者を。



あなただけが、咎められるのです。



――いまはもう亡き、あなただけが。




書き散らした手紙は、宛先を亡くしたまま。

握りつぶされて、ごみ箱に消える。


灰になり煙になり

いつか届く日はくるの?


天にあなたがいるとも思えないまま。

願う先知らず 祈りは地に堕ちる



どうか幸せに――と

つぶやいた日は、もう

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