宛てのない手紙(2014/4)
過ぎた出来事は美化されて、いつしかまるで別物にすり替わる。
人の性と知りつつも、それを素直に受け入れられないのは、赦されずにいたいという独りよがりな感傷だろう。
忘れずにいたい。
犯した罪の重さを抱いて、立っていたい。
なにを大げさにと笑われるかもしれないが、私が彼に捧げられることは、もう他にないのだ。
愛していた、とはとても言えない。
好きだった、と胸を張れもしない。
それでも寄り添うことを許したのだ。
それでも寄り添うことを選んだのだ。
ただそれだけのことが、私にとってどれだけの重さをもったのか。どれだけの覚悟を要したのか。
――きっと、彼は最期まで知らずに逝った。
あなたの死に、私はいまだ、涙の一雫も流せません。
あなたは最期まで、私の真実など欠片も知らず。
無知であることさえも、自覚せぬまま。
永久の旅路に踏みだしたのでしょう。
昔を語ることもできず、現在を共有することもできず、重ねた時間に託しあったモノが、はたしてどれだけあったのか。
あなたの虚を私は埋めましたか。
あなたの生を私は埋めましたか。
あなたでなければいけない、なんてことはなかった。
それでも、あなたは、私でなければいけなかったの?
傷つけることも苦しめることも予想していた。
あなたの昔を聞き、壊しかねないことを知って、はじめて身が竦んだ。
どうして私を選んだの。
傷つくことも苦しむこともわかっていたでしょう。
なのに、どうして。
ねぇ、そろそろ。
死の理由を教えてくれたって、いいんじゃないですか。
理由なんてないならないと、はっきり教えてくださいよ。
でなきゃいつまでも、中途半端な後悔を、くすぶらせつづけなきゃならないじゃないですか。
誰に聞けばいいのかもわからないまま、そろそろ、二年の月日が経ちます。
正確な命日すらも知らないなんて、信じられますか。
恨んでください。
憎んでください。
どうか、赦さずにいてください。
いつか壊すくらいならと手放して、その結果、あなたを喪ったことに、悲しみすらも抱けなかった薄情者を、あなただけが謗られるのです。
続ける理由も終わらせる理由もみつからないまま、独りよがりな覚悟を抱いて、鎌を振り下ろした処刑者を。
あなただけが、咎められるのです。
――いまはもう亡き、あなただけが。
書き散らした手紙は、宛先を亡くしたまま。
握りつぶされて、ごみ箱に消える。
灰になり煙になり
いつか届く日はくるの?
天にあなたがいるとも思えないまま。
願う先知らず 祈りは地に堕ちる
どうか幸せに――と
つぶやいた日は、もう