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六月二十日、午前八時三十分


登場人物紹介


 黒澤昇陽

・主人公。お兄ちゃん。


 黒澤花憐

・義妹。ブラコン。


 高橋大輝

・馬鹿。と思ったら案外良識持ち。


 田中正之助

・教師にして主人公の担任。愛称は正先生、正公とも。



「はあ……」

 六月。日差しの強さは日毎に増し、それに比例するかのように顔合わせが一通り済み、様々な行事を前にしてクラスの連帯感をも増していく時期。そんななか、僕はその空気に真っ向から立ち向かうかのように一人クラスの片隅で溜め息を吐いていた。

 その原因は勿論僕の義妹、黒澤花憐。彼女のあの発言から既に三日が経つが、未だに花憐は何の行動を起こさず、不気味な静寂を保ったままだ。しかし、そのこと自体がまた僕に妙な重圧を与えていた。

 断言しておくが花憐は言った事を実行しないような人間ではない。むしろどんな事があっても必ず実行するような子だ。本来であれば素晴らしいと思うのだが、こういった状況に陥った場合、とてつもない悪癖に見えて来るのは何故だろうか。

「よ、昇陽ショウヨウ

「……どうした、大輝?」

「いや、ここニ、三日妙に気を張ってるじゃないか。何かあったのかな、と思ってさ」

 そんな感情を表には出していない筈なのだが、僕の悪友である高橋大輝が僕の席まで歩いて来た。普段は冴えないくせに、どうしてこんな時だけ感づくのが早いのか。こいつとつるんで早三年にもなるが、未だにそれだけはわからない。普段は単純バカのくせに。

「……今、なんか滅茶苦茶酷いこと言われた気がしたぞ」

「気のせいだよ。で、何の用だ?」

「何もねえよ。しいて言うのならただ単に無駄話でもしに来ただけさ」

「そうか。じゃあ帰れ」

「せめて何か話でもさせろよ!! せっかく此処まで来てやったんだからさ」

「断る。こっちは色々と忙しいんだ。話たいのならお願いします昇陽様とでも言ってみろ。そうしたら考えてやらん事もない」

「お願いします昇陽様」

「断る」

「今考えてやるって言ったよな!?」

「何を勘違いしているのかは知らないけど僕はあくまでも考えてやると言っただけだ。誰も話をしてやるだなんて言ってないよ」

 そもそも今はあまり話をしたいという気分でも無い。正直ストレスで胃に穴が空きそうなんだ。頼むからどっか行ってくれ。お願いだから。

「ったく、せっかく転入生が来るって情報を得てきたのに。全く、つれない奴だな」

「……転入生?」

「お、食いついたな?」

 中学までならともかく、高校で転入生なんて、なくはないかもしれないが正直珍しい。かく言う僕も、この学校に入ってからそんな話があったという情報は掴めていない。なるほど、高橋の奴が話に来るわけだ。

「で、その転入生なんだが、今日少し目にしたんだけどすげー美少女なんだよ!」

「お前の好きそうな話だな」

「まあな!」

 おまけに飛びっきりの美少女とは。なんだかどこにでもありそうなラノベや十八歳未満お断りのゲームみたいな話だ。最も、僕は前者はともかく後者を嗜んだ事は無い。せいぜいネットでネタにしているのを見ているだけだ。そもそも僕は一般的な高校生であるからして――

「……おい昇陽、聞いているか?」

「――ッ、悪い、ちょっと考え事してた」

「ったく。仕方無いな。いいか、よく聞けよ。なんでもその子は、色々な事情があってあまり学校に通っていなかったらしいんだ」

「ほうほう」

「で、肌はそれこそ長い間太陽に当たっていなかったかったかのように白い」

「ふむふむ」

「で、髪は黒のショート、おどおどしてそうだったからかなりの内気と推測でき、制服は当然の事だが新品、身長は145〜155の間、体重とスリーサイズは」

「待て。最初の方はともかくどうして初対面で体重やスリーサイズまでわかるんだ」

「最後のはお茶目なジョークに決まってるだろ、全く。冗談の通じない奴だな」

「お前の冗談は全く冗談に聞こえないんだよ」

 しかし、学校に通っておらず、異常なまでに白い肌、内気で身長が約150センチメートル……。

 ……おかしいな。凄く心あたりがあるんだ。それも、とてつもなく身近に。

「高橋。ホームルームを始めるから席につきなさい」

「やべっ、正公が来やがった……じゃ、また後でな!」

 逃げるようにして俺の席を離れ、自らの席へと戻る高橋。出きる事ならさっさと戻って欲しかったが――いや、今それはどうでもいい。

「えー、もう知っている人もいるかとは思いますが、今日このクラスに転校生が来ます」

「先生、質問です!」

「はい、どうぞ倉田くん」

「性別はどっちですか?」

「女の子です」

 正先生の言葉と同時に、クラス中の男子が喜びの声を上げ、女子が小さく舌打ちを鳴らす。現在クラスがどこぞのギャンブル漫画のような状態に陥っているが、そんな事は今の僕からしたらあまりにどうでもよく、先程走った電流が今なお体を蝕み続けている事の方が問題だった。

「では、入って来て下さい」

「は、はい……」

 頼むから違っていてくれ、と祈る僕をよそに開け放たれた扉から現れたのは、

 新品同然の制服を身に纏い、

 過剰な化粧をしない素の状態で、それでいて十分過ぎる美しさを合わせもち、

 それでいて少し内気気味で、守ってあげたくなるような反則的な可愛さを誇る、

「では、挨拶をお願いします」

「は、はい……黒澤、花憐です……よろしくお願いします……」

 僕の、たった一人の義妹だった。





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