特別編・プロローグ
――覚えていますか?
私のこと、覚えていてくれていますか?
月日がたつのは早いもので、私のことを覚えている人も少ないかもしれません。
そんな私にはとても好きな人がいます。
……本当は、いました、って言わなければいけないはずなのに、実のところ私はまだ過去形にすることができません。言葉に出すと胸の奥が痛くて、のど元までせり上がってきた言葉を渋々飲み込んでしまいます。
あのとき、私は確かに大好きな人の背中を押したはずなのに。
他の誰かを好きになっていいと言ったはずなのに。
本当はずっと私のことを思っていてほしいと願っている、自分勝手な私がいます。
山田ウメさん、中村杏里ちゃん、二人がうらやましい。私の大好きな人のそばにいられる二人が、本当にうらやましく思えます。
毎日騒がしい教室の喧噪の中で、大好きなあの人は、どんどん新しい思い出を作っていく。
笑ったこと、驚いたこと、嬉しかったこと……山のように積み重なっていく。
そうしたら、少しずつ、みんなの中から私が消えていくのかな。
みんなの記憶の引き出しから、取り出されることもなくなっていくのかな。
新しい記憶がどんどん引き出しに入り込んできて、私の思い出は引き出しの隅に追いやられてしまうのかな。
仁君のそばにいられなくなった私。
私がこれから語るのは、そんな私が見ていた優しい物語の顛末です。
興味を持ってくださった方、読んでくださった方、ありがとうございます。
一ヶ月ぶりの連載ですね。早いものです。
ある方のアンコールに触発される形で、新たに連載します。密かにプロットを練りました(笑)
それほど長くはなりませんが、不定期連載になります。申し訳ありません。
短い話ではありますが、どうぞよろしくお願いします。
評価、感想、栄養になります。