11.「海外」というキーワード
恵茉が高校生活をなんとかスタートさせた頃、学校側から短期留学の打診があった。夏休みを利用した一カ月弱の期間。予算は全額自腹なので、長期留学に比べれば安いとはいえ、サラリーマン家庭にとっては決して安い話ではない。
経済的な理由で及び腰だった光一に対して、恵理子が勢いよく後押しをしたことで恵茉の参加が決定した。
一見すると、恵理子が味方をしてくれたように見えるこの件。しかし恵茉の味方というよりは、恵理子にしてみれば、この短期留学が「世界へ羽ばたく」ことへの布石になると期待しての後押しだった。
それからの恵理子はといえば、それはすごい浮かれようで、短期留学に持って行く服や下着や日用品などを買いに出かけると、その度に聞かれもしないのに店員に話した。
「この子ねえ、実は遠い所へ行くの。それで着替えとか色々必要でね…。」
「まあ!すごいですね!」
たいていの場合は恵理子と店員のこの定番のやりとりが成立するので、恵理子としてはそれがうれしくてたまらなかったようだ。
そんなこんなで嬉しそうに送り出してもらい、元気よく帰国した直後のこと。
頼まれたお土産は購入して、恵理子に渡したのに、恵茉が自分で配ろうと思っていたお土産を恵理子がどんどんとかすめ取っていく。
「これ、〇〇さんに持って行って良い?」
「これ、△△さんに持って行って良い?」
恵茉は、「少しくらいなら…」と自分が配りたい相手への分を調整して渡していたのだが、それは「少し」を完全に超えたレベルになり、とうとう恵茉が渡したい相手への分を調整できなくなってきてしまった。
「ちょっと、困るよ!頼まれていた分は渡したし、私だって配りたい相手がいるから、ちゃんと数を考えて買ってきたんだよ?」
「だって、〇〇さんと△△さんに知られちゃったんだもん♡」
恵理子は悪びれるわけでもなく嬉しそうに言うばかり。
恵茉が留学している間にも勝手に色んな人に「知られちゃった」というよりは「知らせちゃった」ようで、どうしても「海外」というキーワードを少しでも多くの人に広めたかったのだろう。
そして「世界に羽ばたく」きっかけだと疑うこともなく、短期留学を自慢しまくって、恵茉から没収したお土産を広範囲にわたって配りまくった恵理子であった。




