10.行かせたい高校≠行きたい高校
高校受験のシーズンのこと。親からは励ましの言葉もなく、経済的な事情からどうしても公立へ行けと、科は普通科しかダメとばかり言われ、さらにはジャイアンのような武の知ったかぶりで高圧的な口出しに疲弊して、受験そのものへの意欲がほとんどゼロに近い日々。
そんな中でも志望校を決めないといけない。高校に行く気すら失くしているのに、言い分を何も聞いてもらえず、話し合いにもならない中、公立高校のすべり止めとして、私立の志望校を決めるというカオスな時期を迎えてしまった。
恵理子の行かせたい私立高校というのは、恵理子の母校である女子高である。しかし、恵茉は女子高に抵抗があったので頑としてイヤだと言い張り、家で話し合いが成立しないまま三者面談の日を迎えたために話がまとまらず、担任を目の前に親子喧嘩をするという状況に、学年主任まで駆けつけてしまった。
周りから見たら、受けられる高校がないのでは?と誤解されかねない光景である。
そんな中でもかろうじて自分の行きたい高校は受けさせてもらえることになったが、恵理子の強引な希望により、恵理子の母校も受ける羽目になった。そして滑り止め。合計3校。
結果は3校とも合格。
しかし、そこからがまたひと悶着。というのは、全部合格ということは、恵茉は自分の行きたい高校を希望するが、恵理子は自分の母校に行かせられる望みが消えたことで落胆し、その結果、恵茉を一週間無視した。
ある晩、部屋にいたら光一に呼ばれ、リビングに降りていくと、光一と恵理子が座っていた。
「そろそろ、入学手付け金の期限もあるから、どこに手付金を納めるか、決めないといけないんだが…。」
光一が切り出すと、恵理子はふくれっ面で座っている。恵茉も恵理子に無視された怒りから負けずとふくれっ面をする。
「第一希望の高校に決まってるじゃん。」
恵茉の一言に無言でにらみつける恵理子に対し、恵茉も負けじと敵意むき出しの目で恵理子をにらみ返した。これ以上、口を開いたら「誰が行くかクソババア!」という言葉が飛び出しそうだった。
嫌な沈黙が続く中、光一が口を開いた。
「…まあ。そういうことなら、わかった。第一希望のほうで手続きしておくから。」
恵理子も恵茉も譲らない状況ではあったが、恵茉の志望校に手続きをすると決まった。
ガタンッ!
恵理子が無言で立ち上がってその場を立ち去ろうとしたが、背中に哀愁どころか稲光に近い怒りがみなぎっていた。光一にしたらそんな恵理子が不憫に思えたのだろう。
「…やっぱり、お母さんの希望の母校のほうにするか?」
光一が恵茉に声をかけたが、恵茉は完全にキレた。
「絶対にイヤ!」
その声にふり返って大魔神か山姥のような表情で恵茉をにらみつける恵理子であった。
思い通りにならないからといって我が子を一週間も無視する恵理子の神経がすでに理解できない。こんなことをする相手の意見なんてきいてやるものかと、心から思っていた。




