9.「知らぬが仏」とはこのことであると知った時。
世間には「知らぬが仏」という言葉があるが、恵茉はそれを中学生の時に身をもって知ることになる。
武は、恵茉の成績表をやたらと見たがる。強引に取り上げてみた末に、色々と口出しをする。
「私の成績表は見るくせにずるいじゃん。たまには見せてよ!」
「……。」
恵茉はいつも勝手に見られた上に口出しされるのがイヤだし、人のことをとやかく言うなら、見せてほしと思って武に言ってもスルーされる。
「お兄ちゃんが私の成績表を見るくせして、自分のは見せないからずるい!」
恵理子に訴えてみたことがあるが、聞こえないフリをするだけ。
そんなある日、中学生の恵茉は、自分のと武の成績表を保管してある場所を見つけてしまった。勝手に見るという事に対して罪悪感はあったものの、いつも勝手に成績表を見られているし、恵理子もそれを叱ってくれるわけでもなかったので、好奇心と罪悪感を天秤にかけた結果、好奇心が圧勝。そして家に誰もいないこの瞬間を逃すわけには、といそいそと武の学年順位の成績表を開いた。
「………。」
その中身については、見るんじゃなかった、という後悔が大きかった。
というのは、武のテストの順位は、恵茉が不調の時よりも格段に悪かったのである。
こんな順位のくせに、威張っていたんだというショックもあったが、こんな順位のくせに、恵茉に虚勢を張っていたということもショックだった。
いっそのこと、知らなければ良かった、と思いながらバレないように元の位置に戻して、恵茉の盗み見は終わった。
恵茉は、恵理子が絶対に武の成績を明らかにしない理由がこれで理解できた。これを理由に恵茉が武を兄として上に見なくなるのを恐れていたのだろう。
しかし、武はどんな成績を取っても、夜中に恵理子のヒステリーの対象になることはなかった。




