プロローグ 一見平凡なサラリーマン家庭。だがそこには強烈なクセのある母と長男と、そしてその中で孤軍奮闘する長女の姿があった。
「ちょっと!やめてよ!」
言ってもムダと半分諦めながら、声を上げる。すると長男の武からゲンコツか蹴りが飛んでくる。もちろん「やめてよ」と訴えたことについてはやめてもらえない。そして母恵理子も祖母たま子も「いいじゃないの」と庇う。何が「いいじゃないの」なのか恵茉にはさっぱり理解できない。
それが恵茉の日常だ。
何に関してもそうだ。武は自分の自転車が普通に使える状態でも、恵茉の自転車を無断で乗り回して、壊しても、修理して知らん顔。後からカミングアウトする。それを嫌な顔をしても「修理して返したんだからいいじゃん」と涼しい顔。自分が同じことをされたら相手をとことん攻撃するであろう。そのずるさが恵茉には気に障る。しかし周りの大人はいいじゃないの、お兄ちゃんのすることなんだから許してあげなさい、と言う。挙げ句、恵茉は、こんな居心地の悪い家は住みたくない。アンタ達と一緒に住むのはもうたくさん!と言い放ったら、やっと歩み寄ってもらえるようになったが、小さな頃からの積み重ねを思うと、そんなぬるい対応で納得できるはずがない。
武は富川家では、内孫の初孫。しかも長男。昔ながらの「跡取りバンザイ」な家庭では文句なしにチヤホヤされる。ここ富川家も例外ではなく。サラリーマン家庭であっても跡取りはどうしても「バンザイ」な扱いなのである。
後々知ったが、武は癇癪がひどく、言い聞かせようにもかなりそれが困難なこともあって、なおさら周りが恵茉を無理矢理に我慢させることでなんとか治めてきたようだ。
この作品では主人公の恵茉が体験した不思議な理不尽を時系列を追ってお話ししていきたいと思います。




