十七封 彼女の本当。
「そんな顔をなさらないで。貴女を怖がらせたい訳じゃないの」そう告げる彼女の顔は、とても悲しそうだった。覆われていない赤い目に、より強く感情が伺える。ただでさえ、感情豊かなひとなのに。しばらく見つめ合い、お互いがお互いの苦しさを受け止めていた。
「いえ、今日はもうお帰りなさいな。気持ちの整理が付いたらでいいわ」パッと手が放され、背を見せ椅子に向かって歩き出した。
「違うんです。すみません、困らせてしまって。でも、気持ちの整理をする為に、貴方と此処を知りたくて、私は来たんです」
声が大きくなる。一歩前に進む。そうだ、決して彼女を困らせたい訳でも、悲しませたい訳でもないんだ。もっと知って、深く知って、助けを求める貴方を、救いたいんだ。
その言葉を聞き、ぴくっと体を揺らし、くるりと振り返った。驚いているような、はたまた嬉しそうな、そんな表情だった。
「そう。その言葉が聞けて何よりよ」
「今紅茶とお昼を出しますわ。それまで、わたくしのお話を聞いてくださる?」
椅子に座る。彼女の変わらず目の覆われていない姿のままだった。さっきの私の姿を見て、気遣ってくれたんだろうか? そうだとしたら、なんだか悪いことをしてしまったかな。
「あの、その姿……」
「あぁ、これ。昨日は服と少しを変えたけれど、あれじゃまだ怖いでしょう? 気にしないでちょうだい」
やっぱり、気を使わせてしまったんだ。呼ばれた立場とは言え、ここは彼女の家なのだろう、気を使うことなんてないのに。
「確かに怖かったけど。でも、私は本当の貴方を知りたい。気を使わせてしまってごめんなさい……」今日はなんだかうつ向いてばかりな気がする。また彼女に気を使わせてしまうかもしれないのに。
「ふふ、そこまで熱烈に言われちゃあ、断れないわよね」
笑われると思ってなく、チラッと顔をうかがった時。パチンと指を鳴らし、あの時と同じ風と花びらが彼女を包んだ。瞬きの間に彼女が纏う衣装は変わっており、最初会った時、一瞬しか見られなかった服に変わっていた。でもやっぱり怖い。なんていうのだろう、包み隠さない秘密と恐怖に、身を震わされる感覚。これが彼女の本当。




