悪意と復活
スローン城 魔王の間
騎士団が突入し城内が荒れると思われたが、メフィストが先に手を打ち親衛隊は眠らさせていた。
「メフィスト〜少し甘やかし過ぎじゃないか?」
「不毛な争いは後の体制に響きます」
「でもステラ母様の事はどうする?父さんが黙ってないよ?」
ケルベロスはメフィストの決断を止めなかったが、支持もしていない。
「女神に選ばれた王は何時裏切るかわかりません…今の騒ぎは好機、直ぐに別の王を準備致します」
「今でも信じられないよ、あのステラ母様が普段は笑いもしないなんて」
「ケルベロス様も魔王の血を濃く受け継いでおります、ルーク様の血縁者には明るい女性を演じていましたから」
ケルベロスはため息を付く…
「どうなると思う?ステラ母様抵抗するかな?」
「わかりません…女神の出方次第ですな」
同時刻 ルイ商会 倉庫
「姉さん騎士団が動きました!」
「やっとかい!長かったねぇ」
ドーラは部下数名を引き連れ、王都の報道機関にテトラガーデンの内情を漏らしていた。
「よし!じゃあずらかるよ、集合場所は何時もの所だ良いね?」
部下達は黙って頷くと各自逃走を始めた。
「姉さんもお早く、私は痕跡を消してから追います」
「任せたよ」
ドーラは内心ニコニコだった、無事に帰ればルークを手に入れられると。
(あぁ~待ち遠しい、年甲斐もなくトキメイてるさね)
スローン城内 女王の私室
部屋の前でヘクトールが止まる…玉座に強制的に眠らされてる筈のステラの気配を察知して。
(何だ?寝てる気配じゃない?)
部下が部屋の扉に手を掛けると。
「待て!警戒態勢!」
その一言で団員は扉から離れ抜刀する。
ヘクトールもデュランダルを抜き扉を切り開く。
ガラガラと音を立て扉が崩れると…ステラが息子のジークと共に待ち構えていた。
(やはり起きてる…どういう事だ?)
本来なら次期王が決まるまで玉座に強制的に眠らされるが、今の玉座はマモン製ステラはその影響下には無い。
「女王…いえステラ様、玉座に座れなくなった貴方には大人しく退位してもらいます」
「そうね…でも納得出来ないの、役人達を裁けば終わりなのに何故私が?それにあの玉座も本物なの?私は眠ってないわよ?」
皆が感じていた違和感を指摘する。
「それは我らも感じています、玉座の調査も同時に進めますので此処は我等に従って下さい」
ステラはゆっくりとカリバーンを抜く。
一気にその場がヒリつく…最強の聖剣、ヘクトールのデュランダルでも分が悪い。
同時刻 大聖堂 女神の私室
「もうここまでじゃ、妾の手駒に使えると期待したが…仕方が無い格は落ちるがアレに変えるか」
一触即発の場面を覗きながらステラを見捨てる決断を下す。
(向こうに協力されても困る、妾の祝福を最後に解いてやろう…さぁ目覚めるがいい)
パチンッ! 女神は指を鳴らす。
これから起きるショーを見るかの様にソファーに座り寛ぐ。
女王の私室
パチンッ! ステラの耳に指を弾く音が聞こえた。
(ん?何の音?)
次の瞬間カリバーンの持ち手に火花が走り、ステラの手から音を立てて床に落ちた。
「つっ…!?」
「今だ!捕らえろ!」
団員達に取り押さえられながらステラはカリバーンを睨む。
「何故今になって!?私を見捨てるの?答えなさい!」
カリバーンは静かに佇み何も反応を示さない。
「おい!手は後ろ手だろ!」
「あっ…すみません焦って」
団員の一人が焦って手を前で拘束していた。
「まあいい、団長終わりました!」
その言葉と同時にステラの様子がおかしくなって行く。
「なっ…何?」
キョロキョロと辺りを見回す。
「ここ何処!?何なのあんた達!」
「え??」
突然の豹変に理解が追い付かない。
「その服騎士団?何で私の屋敷に騎士団が居るのよ!」
ステラは王に選ばれる前の状態に戻っていた。
更に…もう一度パチンッ!と音が鳴る。
「何??知らない…私こんな…何これ知らない!」
女神の暇潰しが始まった、昔の人格を呼び起こし今までの記憶をわざと断片的に見せる。
「ステラ様!?落ち着いて下さい!」
「ルーク?誰?何よこれ気持ちが悪い…知らない男と…何よこれ」
知らない男に抱かれる記憶、嫌悪感で震える…そして目の前の子供に目が向く。
(知らない男の子供?私が産んだの?何で!?)
頭が混乱し正気を失って行く…
「あああああ!!」
ドンッ!! 横の団員に体当たりすると腰の剣を奪う。
「何を!?」
周りの騎士達が一斉に抜刀する、その僅かな隙にステラはジークに斬りかかった。
ザンッ! 一瞬でジークは言葉も無くその場に倒れる。
「何を…お前は何をやってるんだ!!」
ヘクトールはステラの剣を砕き壁に叩きつけた。
「アハハハ!ざまあみろ!」
「お前の子だろ!」
「知らない男の子よ!」
その言葉に息を呑む。
女神は更に追い打ちをかける…パチンッ!
「えっ…」
断片的に見せた記憶の繋がりが蘇る、ルークと結婚した事、子供が生まれ楽しかった日々が…
「嘘…私は何を!?嫌…いやぁぁぁぁ!!ジーク!ジーク!!」
女神の私室
「ふふふっ…アハハ!あぁ~楽しい!」
ステラの姿を見ながら下卑た笑いを浮かべる。
(人が壊れる瞬間はなんと甘美な事か、あぁ…ルークよ早く妾を滅茶苦茶に壊しておくれ)
魔王に穢される自分を想像し身悶えている。ルークの神化が進んでいるとは知らずに…
その後、正気を失ったステラは貴族や役人達と共に裁かれ幽閉される事になった。
その一部始終の報告を聞いたルークは怒りに震え、女神に対する殺意が明確になる。
1ヶ月後 魔王の間
「失礼致します」
ヘクトールが姿を見せる。
「ヘクトール急に呼び出してすまない、大事な話があってね」
「大事な話しとは?」
その立ち振る舞いに悪魔の1人が怒りを露わにする。
「おい!魔王様の御前だぞ!立場を弁えろ」
「僕は騎士団の規則に従っているだけだ」
「ルーク様には跪いていただろう!」
「お義父さんは前女王の夫だった、我等の仕える立場だ」
そのやり取りにケルベロスは呆れていた。
「お前達ヘクトールが正しい黙っていろ」
「はっ!」
遅れてメフィストがやって来た。
「遅くなり申し訳ありません」
「許可は出たかい?」
「はい、ルーク様の了承は戴きました」
メフィストは直ぐに話し始める。
「では、騎士団長ヘクトール!おまえを次期国王に指名する!」
「ん??」
ヘクトールはキョトンとしている、当然だこの国の王は玉座が選ぶ。
「お断りします!意味がわからない!」
「メフィスト説明を頼む」
メフィストは新しい玉座の事、女神の本性、これからの敵を詳しく説明した。
「成る程そういう事か、ステラ様のあの豹変は意図的…女神か」
「コソコソやってるみたいだけど、オレの目は騙せないよ」
「しかし僕なんかに国王が務まるのか…」
ケルベロスはニヤニヤしていた。
「大丈夫だよ、いつも通りリリスがお尻を叩いてくれるさ」
「えっ…その」
「ハハハ!頑張れよ」
ヘクトールに断る選択肢は残されて無かった。勿論、彼の能力や今までの貢献も加味した結果だ。
(玉座の秘密を知った以上断れない…それにこの2人は信用出来ない、お義父さんとは違う)
「わかりました引き受けます、但し今までと同じ王の立場が上でいいですね?」
「ああ、それで構わないこの国は人間の国だからね」
(弟のジーク様を見殺しにしておいてよく言う…)
ヘクトールは魔王の監視も兼ねて王になる決断をする。
数ヶ月後 聖地 地下施設
「やった!やったぞ!遂に完成したぞ!」
研究室で興奮するアルコーン、その部屋には複数体のヤルダバオトが並んでいた。
「さぁ起きろ!」
ヤルダバオトの1体を目覚めさせる。
「ん?…俺は…ここは何処だ??」
ヤルダバオトは自分の身体を確認すると。
「おいおいおい!何だ量産型じゃねぇか!?」
「相変わらず騒がしい」
声のする方を向くとアルコーンが座っている。
「アルコーン!状況を説明しろ!」
ヤルダバオトは記憶を弄られディアボロスに敗北した事を忘れている。
(よし…覚えていないな)
「思い出せ、貴様はナンバーズに負けた…コアもボロボロで再建不可、本来は廃棄の予定だった所を私が救ってやったのだ」
ヤルダバオトは記憶を辿る…するとニューに力負けした苦い記憶か蘇った。
「くそおおおお!チクショォォォォ!!」
「うるさい黙れ!」
息を切らす程叫び狂った。
「はぁはぁ…復活には感謝するが、何故量産型なんだ!?」
「我が新たな戦術を考えた、後ろを見てみろ」
振り向くとヤルダバオトが6体ズラリと並んでいる。
「俺?何だこれは?」
「すべてお前だ」
「見りゃわかる!」
アルコーンはニヤリと笑う。
「想像してみろ、コレ全てお前が同時に動かせたら?」
「出来るのか?そんな事が」
「出来る、思考の並列化と各自の独立運用方を我が確立した!」
「で?それで何が出来るんだ?弱くなった事は変わんねえぞ」
「その空っぽの頭で想像しろ、お前の戦闘経験値を持つヒューマノイド…それも複数体、数を揃えれば数百体」
ヤルダバオトは考え込む。
「蹴散らされて終わりじゃねえのか?」
「量産型なのを忘れるな、装備も役割も全てカスタマイズ出来る」
「おっ…なら自爆も可能か?」
「可能だ」
「ヒャハハハ!それゃあいい!!おい、俺を大量に作れ」
「言われるまでも無い、もう製造レーンは完済している」
相手の強さ等関係なし数で押し切るイメージが湧く。
「アルコーン…アルファはどうなった?」
どうやらアルファを奪われた事も思い出した様だ。
「今は元魔王ルークの専属侍女をやっている」
「くそっ!あのエロい女は俺の物だ!絶対に奪い返す」
「これを見てもそう言えるか?」
現在のアルファ、シルファとなった姿を見せる。
「はぁ!?何だこのガリガリは!?」
「スレンダーと言え、それにお前にはコレがガリガリに見えるのか…」
「女は派手な化粧にタッパとでかいケツ!それに巨乳だろ!」
アルコーンはヤレヤレと首を振る。
「我とは間逆だな」
「もうコイツには興味がねぇ…だがやり返さないと気がすまねえ」
カタカタ… ルークの妻達の姿をモニターに映す。
「好きなのを選べ」
「これと…これとこれだ!どれか攫えそうな奴は居るか?」
「ふむ…エキドナは無理だな城には現魔王が居る、ブリュンヒルデも近くに女神が居るな…最後のモリガンなら可能だ、今はマーロの領主をやっている」
「ヒャハハハ!やったぜ!このヴァンパイアを俺の女にしてやる!」
「暫くは大人しくしてろ、7体程度では返り討ちに合う」
ヤルダバオトは股間をパンパンと叩く。
「ならその時間でこの俺だけ良いのを付けろ!いいな?」
「我にやらせるのか…」
「お前しかいねぇだろ?」
「直ぐには出来ん、起きたついでにデミウルゴス様に挨拶しておけ」
退屈そうに欠伸をしながら研究室を出て行く。
廊下
(アルコーンの奴癖が悪化したな…嘘をつく時は「私」で本当の時は「我」わかり易い、頭空っぽはお互い様だ)
デミウルゴスの元に向かっていると、1人のおとこと出会った。
「やあ、久しぶりだね」
「あぁ?誰だてめぇは?」
ディアボロスが声を掛けてきた。
(覚えてない?ならラッキーだ)
「ごめん、僕が一方的に君を知ってるだけだったよ、はじめまして僕はディアボロス」
「俺はヤルダバオトだ」
ヤルダバオトには既視感があったが…思い出せない。 データベースへアクセスするとディアボロスはデータを見る。
「いいコアじゃねえか大事にしろよ」
「ありがとう、大切にするよ」
違和感を覚える受け答え…
「ん?まぁいいデミウルゴスは何処だ?」
「今は大聖堂にいるよ」
「そうか…じゃあな」
本来の自分のコアが目の前にあるのに気が付かない…
テトラガーデン
「お前さんこれ見ておくれよ!」
ドーラはドレスを選んでいる。
「ん〜少し派手だな」
「人生の大一番だよ?これくらい派手なのが良いさね」
「ねえ〜これはどう?」
ライラも楽しそうにドレスを持って来る。
「良いのかライラ?また妻が増えるんだぞ?」
「大家族みたいで楽しいよ?」
「そうか?」
「それにルークの1番は誰?」
「ライラさんです!」
「よろしい!」
ライラは嬉しそうにドーラの元に行く。
(2人共喧嘩したと思ったら急に仲良くなって女はよく分からないな)
ルークは約束通りドーラを妻に迎えた。
王都 大聖堂
地下深くに降りる階段を女神が歩く。
ガチャ… 部屋の中にナンバーズ達が拘束されたまま停止していた。
(全然育っていない…起きている時は予想より早く育っておったのに)
ベータの頭を掴み中を探る。
「遅い!」
色欲は全く育っていない。
(だが今起こせば問題を起こす…あぁ焦れったい…)
全てが上手く行かない事に苛立ちを隠せなくなって来ていた。
(我慢じゃ…迂闊に動けばすべて台無しになる)
ルークが一向に覚醒しない事を不審に思っていたが、今会えば確実に戦闘になる…千里眼で覗いても普段と変わりない姿に、対処されたと見るしかなかった。
事態は膠着状態のまま
それから約2年の時が経った…




