皆殺し
5日が経ち 早朝スローン城地下研究所
「よし、では起こすぞ興奮剤を投与開始」
「開始します」
ルークの意識がゆっくりと戻っていく。瞼を開くとその眩しさに一瞬怯む。
「うっ‥眩しい‥」
「気分はどうじゃ?何処か痛い所はないか?」
マモンが体の確認を取る。
「ああ、問題無い‥それで改造は成功したのか?」
「完璧じゃ!ホレ動いてみよ」
ルークは起き上がると体を軽く動かす。
「あまり変わった感じはしないな‥」
「試しに魔力を流してみよ、骨格フレームは最新式の物じゃ」
ルークが魔力を高めると全身に力が漲る。
「おおお!凄いぞ!力が溢れる!ハハハ!」
「肉体強度は人間の時の凡そ30倍じゃ」
カイが金属棒をルークに手渡す。
「コレを、封魔の拘束具によく使われる魔法金属です」
「ふんっ!」
バキッ!! 力を込めると簡単に金属は折れた。
「なあ‥これ程の性能で何故ナンバーズはあんなに弱いんだ?」
「お主は他と比べると性能は4割増し最新型じゃからのう‥それを差し引いても弱く感じるなら、その特性のチグハグさ適当に作った女神のせいじゃ」
「チグハグさ?」
マモンは火が着いた様にまくし立てる。
「ナンバーズ特にアルファ、ベータ、ガンマの3人を例に上げるとアルファは死ぬのが前提の能力じゃが‥戦いにおいて負け前提の設計なぞ愚の骨頂!ベータに至っては覚醒で超反射に目覚めたが、本来の特性は獣化‥繊細な精神コントロールの必要な反射とは真逆じゃ!更にガンマは追加武装による戦闘力向上を想定した筈が特性はコアの励起‥継戦能力の持ち味が励起で装備を使い捨てに実に愚か!あぁ考えただけでイライラしてきたわい」
「わかった!わかったから落ち着けマモン」
カイが申し訳なさそうに補足する。
「フローラ様は戦闘においては素人なので‥仕方がないかと」
「そのナンバーズ達は今何をやってる?」
「全員調整中じゃ、今の外見では外すら歩けんからの〜騎士団に見つかったら大事じゃ」
「ナンバーズは改良を加え調整中、現在は簡単な整形や髪型髪色の変更をしています」
ナンバーズの数名は騎士団と戦闘している。顔が割れてる以上仕方がない。
「他に何か変わった事は?」
「な〜んもないのう‥強いて言うなら聖地に新たな女神が降臨したとか何とか‥あっルークの嫁が増えたぞ?」
「は???」
突然の事に唖然とする。
「ファリスじゃよ、今回お主を救った功績で爵位と領地が与えられる筈が辞退してのう、流石に無償とは言うわけにはいかん‥何か欲しいものを聞くとお主と結婚したいと」
「ステラは了承したのか!?」
「そもそも断る理由がない」
ルークは頭を抱えている。
「ヒルデに怒られる‥どうすれば?もう結婚してるんだよな、ヤバいヤバい」
「ヒルデ様が真っ先に浮かぶんですね」
「ホッホッホ!ルークはヒルデにゾッコンだからの」
ピピッ! ルークの脳内に自分の設計図が送られて来た。
「ん?コレは‥脳も電脳化したのか?」
「当然です、そうしないと体内の部品の操作が出来ませんよ?人間の脳にそんな機能はありませんし」
「それもそうか‥ん?コアは右胸に入れたのか」
マモンが詳しく説明する。
「魂も魔力も心臓に宿る脳はあくまで記憶装置じゃ、悪魔はデーモンハート、天使はエンジェルハートと呼ばれる様にな、力は心臓から生まれる」
「ルーク様の力は元は悪魔のもの、女神のコアと対消滅するのを恐れ分けたんです」
ルークは目を瞑り魔力をコアに流す。
「問題無いちゃんと動く‥ハハハ!エンジンが2個あるような物だな!コレは凄いぞ!」
「ワシも驚いたわい!お主専用に作られた恩恵じゃな、コアがブースターの様な動きをしておる」
ルークは背伸びをしながら体を伸ばす。
「んん〜〜運動がてら皆に会いに行くか」
その時部屋にエルフが駆け込んできた。息を切らし顔は青ざめていた。
「ルーク様!ルーク様は!?」
「お前はドロシーの‥確かカタリナだったな?何があった」
「はぁはぁ‥ルーク様!ドロシー様をお救い下さい!」
マモンがカタリナにエーテルを渡す。
「魔力が底をついておる、回復せねば気絶するぞ」
ゴクッゴクッ エーテルを飲み干すと懐から一枚の紙を渡す。
「コレを見て下さい!」
ルークは内容を確認するとワナワナと震えを始めた。
「ゲス共が‥おい!この老人共の会合は何時からだ!?」
「結婚式の後なので後2日あります!」
「2日か間に合うな‥よく知らせてくれた!後は任せろ」
安心したのかカタリナはその場にへたり込むと失神した。
「どうやら不眠不休で知らせに来た様じゃな」
「俺はプリマステラに向かう、後は任せるぞ」
ルークは部屋を後にする。残した紙をマモンが手に取ると。
「これは酷い‥エルフは腐り切っておる、弱き者が長生きするとこうなる、絶対的な王が居なければ国民が監視するしかないがアノ国は6人の長老が牛耳っておるからのう」
「ルーク様1人で大丈夫でしょうか?」
「今のルークに勝てる者など想像できん」
「あっそうでは無く国際問題に‥」
「この事を公表すればよい、フィオナが失踪した理由付けにもなる‥エルフは1度痛い目を見たほうが今後の為じゃ」
「ではコレをステラ様に届けてきます」
カイは紙を受け取ると直ぐにステラに報告に向かった。
王都 上空
「さて‥行くか!待ってろよすぐに助ける!」
ドーン!! 空気を切り裂く音と共に音速でエルフの国へ飛ぶ。
「ハハハハ!素晴らしいパワーだ!」
人間の時とは違い障壁は対衝撃のみ、強靭な体は保護の必要が無い。その分飛行魔法の出力に回す。圧倒的なスピード、コアのおかげで魔王の時より速い。
本来なら馬車で3週間掛かる距離をたった3時間で踏破した。
プリマステラ 上空
ルークは眼下にエルフの城を捉えるとドロシーの魔力を探す。
「見つけた!」
ルークは姿を魔法で隠し城に接近する。
「この部屋だな‥」
中を除くとドロシーと侍女2人、壁際のウエディングドレスとは別に並べられた服や下着の数々。
室内
「会合の時にコレを着ろと?」
「はい、長老のご希望です‥先ずはコチラ新郎のお祖父様からのリクエストになります」
ミニスカートで胸が丸見えのメイド服。癖全開の服をマネキンに着せる。
「今日はコレを試着してもらいます」
「悪趣味ね‥」
「時期に慣れます、長老の中には異常性癖の方もおられるので覚悟しておいてください」
(どうしよう‥このままだと‥)
「ドロシー様?聞いておられますか?」
「えっ?ええ」
侍女は次に下着を手に持つ。
「下着はこちらを着てもらいます」
「何よそれ!殆ど生地が無いじゃない!」
「リクエストですので従ってもらいます」
ドロシーは既に涙目だった。
「酷い趣味だな‥エロは強要するものじゃない、それがわからんとは‥なあ?ドロシー」
「えっ??」
部屋の全ての視線が窓側に集まる。
「ルーク!!!」
「なっ!何処から!?」
ルークは言葉に魔力を乗せる。対象を正面に絞って。
「眠れ」
ドタッ! 侍女2人は強制的に昏倒した。
(本当に便利だな‥声も指向性で出せば言霊が使い放題だ)
本来なら言葉に魔力を乗せると聞いている全てが対象になる。余りにも使い難い上大量の魔力消費に対象者が増えると更に倍、普通の人間は速気絶する‥その殆ど使い手が居ない魔法が問題無く使える。
「助けに来たぞ!」
「ルーク!」
2人は抱きしめ合う。
「良かった‥カタリナは間に合ったのね!」
「ああ、かなり無茶をしたようだったが、おかげで間に合った」
ルークは部屋に外からの進入禁止の結界を張る。
「すまないが此処で待っててくれ、老人達を片付けてくる」
「気をつけて!長老達の側近は選りすぐりの精鋭達よ」
「問題無い、皆殺しだ」
ルークはこの部屋を覗いていた長老達の元に転送陣で飛んだ。
長老達の監視室
「おい!何で急に見えなくなった!?」
「折角俺の衣装を試着する所だったのに!」
「早く直せ!」
「そうじゃ!何をしてる!」
側近達が慌てて監視魔石の操作をするが何も反応がない。
「申し訳ありません!魔力切れの可能性が‥」
「そんなはずは無かろう!定期的に交換しておる」
「マズいぞ!魔力切れなら魔禍が発生する!」
慌てふためく一同の真ん中に転送陣が浮き上がる。
「なっ!?転送??」
短距離転送は一瞬で終わる。瞬く間にルークが長老達の目の前に現れた。
「魔王!?何故此処に!!」
「お前達!コイツを‥」
「黙れ‥動くな」
魔力の乗った言霊で一同が静止する。誰一人として抗え無い。
「そうだな‥お前にするか‥そこの髭!お前だけ生かしてやる証言者が必要だからな」
長老の1人髭の老人を選ぶと‥ルークは他の者に手を翳す。
「死ね‥ゴミ共」
ボンッ!! 長老の1人が一瞬で木っ端微塵になった。
誰一人反応すら出来ない。静止したまま涙を流す者も居た。
ボンッ!ボンッ!ボンッ! 次々と殺していく。
「もう少し遅れていたら!あぁ!考えただけでも反吐が出る!このゴミが!」
1人を残し部屋は鮮血に染まる。
「お前はコレから今迄の数々の行いを世界に公表しろ、女王に何をしてきたのか包み隠さず全てだ!エルフの浅ましさをぶちまけろ!」
ルークは暗示では無く呪いに近い言霊をぶつける。
「畏まりました‥全て公表します」
「全てが終わったら直ぐに自害しろ」
「御意」
ルークは更に老人に対人の接近禁止の魔法を掛ける。普通は人よけ位の効果だがルークが使うと物理的に触れなくなる。これで取り押さえられる事無く全部喋るだろう。
「これでエルフの信用は地に落ちる‥自分達の蒔いた種だ悪く思うなよ」
ルークはドロシーの元に戻った。
「待たせたな!じゃあ帰るか」
「長老達は?もう大丈夫なの?」
「ああ、1人を洗脳して後は始末した、もう大丈夫だ」
ドロシーはその場にペタリと座り込む、安心して腰が抜けたようだ。
「うぅっ‥助かった‥恐かった‥」
張り詰めていた緊張から開放されると同時に涙が溢れてくる。
「もう此処には未練も無いだろ?帰ろう」
「うん‥」
2人は転送陣で王都へ飛ぶ。
その後数日でエルフの国は崩壊を迎える。長老による数々の悪行や蛮行が公表されると、ギルド協会やフローラ教は直ぐに撤収、人々の往来が無くなり国は瞬く間に衰退した。
数日後 スローン城
メフィストがケルベロスにエルフの現状を報告する。
「現在エルフ達は国を離れ散り散りになり、各地では差別や迫害を受ける者も目立ち始めています」
「そうか‥ならタイミング的には丁度良いね、王国領になった西の地に新たなエルフの里を作る」
「簡単に労働力が手に入り、エルフの管理も出来る‥恩を売る機会にもなりますな」
「ルナからもお願いされてね、女王の事は恨んでいるけど余りにも可哀想だって‥それに悪いのは長老達だ全員じゃない」
ケルベロスの指示で新たなエルフの里が作られる事になり、人々を集める為に代表者はドロシーに、それを聞いたエルフ達は新たな地に集い始める事になる。
ルークの執務室
ルークはドロシーの集めた情報を精査していた。
(この戦闘行為の数々に、棺を担いだ人間‥目撃情報から恐らくヒューマノイドだな、カプセルに女王を詰めて運び出したか)
何度読み直しても目的が推測出来ない。女王は特別な力を持つ訳でもない普通のエルフ。籠の鳥で取り分け秀でた者でもない。
(ん〜??何で攫ったんだ?さっぱりわからん)
ヤルダバオトがコレクション目的で攫った等わかるはずもなく、無駄な時間が過ぎていく。
コンコンッ ガチャ‥ 部屋にファリスが顔を出す。
「ルーク様お話があります」
「あっああ‥何かな?」
「今日は来てくれますよね?」
ルークの顔に汗が浮かぶ。
「少し待ってくれ!ヒルデに説明する時間をくれ!」
「もう‥まだ話をしてないのですか?」
「怒ってないか不安でな‥」
「先延ばしにすると後が大変ですよ?これから向かわれては?」
ファリスはルークの背中を押す。
「プレゼントはあったほうが良いよな?」
「先ずは誠心誠意説明する所からですよ?プレゼントはその後」
「事の元凶はファリスなんだが‥目が覚めたら結婚してましたなんて信じてもらえるか‥」
「ほら!シャキっとして!」
ファリスに押され部屋を出る。見送られながらトボトボと歩き始める。
(あぁ‥気が重い‥)
夕方 ブリュンヒルデの屋敷
ルークは使用人に通されヒルデの部屋に入る。
「旦那様をお連れしました」
「ありがとう、あなた結婚お・め・で・と・う」
顔は笑っているが目が笑っていない。
「違うんだ!聞いてくれ!」
「何が違うのです?皆子育てに忙しいからって若い子に手を出して‥」
「正直に言う!寝て起きたら何故か結婚してたんだ!」
「‥嘘を付くならもっとマシな嘘を付きなさい!!」
事の詳細までは伝わっていない様だ。ルークは必死に説明する。
「と、言うわけなんだ!」
「最近会いに来ないと思ったら‥相談も無しにヒューマノイド化するなんて、それで断る事も出来なかったと?」
ルークは全力で頷く。
「呆れた‥それで他の方達の許しはもらえたのですか?」
「ん?先ずはヒルデに話そうと思って」
「あなた?私達は結婚していないのですよ!話はライラ様からでしょ!」
ヒルデは気不味そうなルークの顔を見て自分の優先順位を察した。
(そんなに私の事が‥)
「‥もう〜しょうがない子ね」
満更でも無いヒルデの反応にルークはここぞと計りにプレゼントを差し出す。
「そうだ!これを受け取って欲しい!」
「これは?薬?」
小瓶に入った液体。
「若返りの効果がある、この量だと8歳程戻るらしい」
ルークはフローラに頼み込み女神の奇跡を込めた若返りの薬を用意していた。
「飲んで37か‥もう少し用意出来なかったの?」
「突然若返ると周りが困惑するからって言われてな」
「それもそうね、でもこんなの用意して何を期待してるのかな〜?」
ヒルデは鏡の前で薬を飲み干すと、見る見る若返って行く。
「やっぱり40代と30代じゃ全然違うわね!ふふふっ!あの服また着られるかも」
ご機嫌なヒルデにルークは一安心する。
「あなた、今日は泊まって行くわよね?」
「良いのか!?」
「あらあら?折角若返ったのに帰っちゃうの?」
「泊まって行く!」
すると部屋にフレアが入って来た。
「ママー!ただいま〜」
「おかえりなさいフレア、学校楽しかった?」
「うん!‥アレ?ママ綺麗になってる!」
若返ったヒルデに早速反応する。
「フレア、ルーク様にご挨拶は?」
「あっ‥ルーク様ごきげんよう」
フレアはちょこっとお辞儀をする。
「元気そうだな、どうだ此処には慣れたか?」
「うん!パパとママが居るから楽しいよ!」
ルークの顔が引きつる。ヒルデをママと呼ばれるとフレアの父親と再婚したように聞こえる。
「そっそうか‥安心したよ」
「これからねパパとお買い物に出かけるの!ママも一緒に行く?」
「ママはルーク様とお話があるから、2人でいってらっしゃい」
「は〜い!」
フレアは走って部屋を出る。
「上手くいってる様だな‥」
「顔引きつってるわよ?ヤキモチ焼いちゃった?」
「目の前でパパママ言われるとな‥かなり効いたよ」
ルークはボソッと呟く。
「なあ結婚しないか?」
「あらあら、火がついちゃった?」
「安心したい‥自分勝手な話だが」
「いいわよ?」
「本当か!?」
ヒルデは両手を広げルークを抱きしめる。
「正直に話すとね、私の立場を利用しようと婚姻の申し出が後を立たないのよ‥もう辟易しちゃって」
「なっ!?誰だそいつ等は!」
「色々あるのよ、あなたは知らなくて良いの」
「子供扱いするなよ」
「誰か教えたら、あなたその人達を敵として見ちゃうでしょ?だからダ〜メ」
「うぅ〜気になる‥」
美しいヒルデは家柄も今迄の功績も申し分なく引く手数多、数々の男達に言い寄られていた。
(心が繋がってるなんて思い上がりだな、放って置けばいつか誰かの女になる‥それだけは嫌だ)
「そうだ子供達と遊んであげて、久しぶりにパパらしい事もやらないとね?」
ルークは夜まで双子の兄妹と遊び寝かしつけると、ヒルデとの時間を満喫する。その日はお互いの思いを確認した事もあり滅茶苦茶燃え上がった。
地下研究所
ナンバーズの最終調整が終わり起動を待つ状態に移行する。
「修理、改修、強化、最適化、全て完了‥漸く終わりましたね」
「長かったのう〜流石に疲れたわい」
マモンとカイの2人が主導でナンバーズ達の改良が行われた。
「起動は何時にしますか?」
「ルークやフローラが居る時がええじゃろ、さて今日はゆっくり休むかのう」
「あのっ‥」
「ん?何じゃ?」
カイは複雑な顔をしている。
「ルーク様は何故あそこ迄ヒルデ様に惹かれて‥他に若い女性は沢山いるのに」
「ホッホッホ!確かに若さは武器じゃ、じゃが今のヒルデの艶や色気それにアノ余裕は若さに勝る、小娘では勝てんよ」
「そこ迄違うのですか?」
「まあ男にしか分からんかも知れんのう、ルークにとっては聖母みたいな者じゃ」
カイは考え込んている。
(私もなれるかしら‥)
「お主はお主の魅力がある、無理に真似などせんで良い」
ルークと同時期に始まったナンバーズの改良が終わり。新たな局面を迎えようとしていた。




