和解
オルテア連邦 首都マルレーン
旅立ちから2週間、ルーク達は久方ぶりの冒険と旅を始めたがいきなり躓いていた。
冒険者ギルド 待合室
「ルーク、大丈夫かな?」
「まあ心配無いだろ、ファリスが上手くやるさ」
ガチャ! 扉が開きカーラとファリスが戻って来た。
「まぉ‥ルーク様手続きが無事終わりました」
「いや〜参ったよアイツら死ぬ程疑いやがって!」
「2人共お疲れ様、大変だったね」
ルーク達は入国は簡単に済んだものの、流石にファリスやカーラは他国でも知る者が居た。直ぐに捜査官や軍人が派遣され今に至る。
「偽名を使うべきだったか?」
「偽名だと逆に怪しまれて拘束される可能性がありました」
「私が目立つからな〜デカい身体は隠しようがないな」
ギルドで冒険者としての照会が終わり。ファリスが休職した事、カーラの護衛で旅に出た事が説明された。
「ライラの顔が割れてないのが大きいな」
「何で私の顔知られて無いんだろ?」
「ライラの顔は魔族化した後が有名だからな、美獣教なんて団体が出来る程に人気があるんだぞ?」
「えっ何それ?」
ファリスが話を補足する。
「騎士団にもライラ様の信者は多く、獣人嫌いが反転する程でした‥今も根強い人気があります」
「ああ〜!一時期王都で金髪の獣人が娼館で大人気だったのはその影響か!」
「おい馬鹿!その情報は必要ないだろ!」
「あっごめん‥」
ライラは顔を真っ赤にして下を向く。恥ずかしさと男の欲望の対象になっていた事への戸惑い。
「男は皆馬鹿だからな!まあ気にするな」
「ルーク様フォローになってません‥」
「ライラ様元気出して!私は羨ましいぞ?デカい女なんて全然モテ無いし」
その言葉にファリスがツッコミを入れる。
「カーラ様も人気あるんですよ?騎士団は特に強い方が多いので様々な人が居ます」
「そうなのか!?いや〜嬉しいな」
ゴホンッ! ルークは大きな咳をする。
「まだ昼間だぞ?そう言う話は宿に帰ってからな」
「すっすみません!つい」
「そう言えばルークは顔バレして無いのは何でなの?この中で1番有名なのに」
ライラが疑問を聞く。
「ああ、俺は認識阻害の魔法を掛けてるからな、人によっては別人に見えてる筈だ」
「えっ?私達普通に見えてるよ?」
「流石に常時は使わない、出入国時や警戒してる兵士の前でだな」
「皆さんそろそろ出ましょうか」
「そうだな長居しても迷惑だ、行こう」
ルーク達はギルドの外に出る。すると男性が道行く人にビラを配っている、その男性はカーラを見ると声を掛けてきた。
「そこの大きなお姉さん!冒険者だよね?腕に自信があるなら挑戦してみないか?」
カーラにビラを渡す。
「ん〜?剣術の模擬戦?師範代に勝てれば金貨10枚か‥」
「凄い金額ですね、余程の剣客でしょうか?」
「面白そうだ!ルーク様参加しても良いかな?」
「構わないが‥カーラが相手だと剣術でどうにかなるとは思えないんだが」
ビラに書かれていた広場に向かう。かなりの人だかりが出来ている。
「参加者はこちらで参加費と名前の記入をお願いします!」
金貨10枚に誘われた人々が列を成す。カーラも並び順番を待っていた。ルーク達は広場に作られた簡易的な観客席に座る。
「ルーク、あの人が師範代かな?」
ライラは剣を携えた中年の男性を指差す。
「あれか、雰囲気はあるがさて‥」
「ルーク様から見て彼はどう見えます?」
「剣術は見てみないと何とも言えないな、魔力の様に測定出来るものでも無いからな」
最初の挑戦者が広場の中心で向かい合わせで立つ。増幅の魔石の付いた拡声器で開始が告げられた。
「お待たせしました!これより開始致します!ルールは1本勝負、武器は木刀、魔石や魔法の使用は禁止!先に一撃を入れた方が勝ち時間切れ無し!」
パチパチパチパチ 観客席から拍手が送られた。
「師範代クレス!そして挑戦者前に!」
対峙していた2人が剣を構える。
「始め!!」
審判の声で戦いが始まる。挑戦者は間合いを詰め剣を振り上げた瞬間。
「ふっ!」
一瞬で懐に飛び込み振り上げた両手を突く。カランカラン! 音を立て木刀が地面に落ちた。
「おおおおお!」
その速さに会場が湧く。
「そこまで!勝者クレス!」
湧く会場とは逆にルークは冷めていた。隣のファリスも察した様だ。
「ルーク様、あの方は道場剣術の師範代ですね‥」
「その様だな」
「??2人共どうしたの?」
ライラが不思議そうに見ている。
「ライラ様、簡単に説明しますと普通相手が武器を振り上げた場合、距離を取るのが定石なんです」
「でも、私も訓練の時は打ち合ってたよ?」
「そうしないと練習にならないからです、ですが実戦形式だと打ち合いはしません‥」
「ライラはカーラと打ち合いたいか?」
想像したライラは首を振る。
「無理!パワーで押し切られちゃう」
「だろ?だけどあのクレスって人は飛び込んだ、あの間合いはリスクが高すぎる‥態態振り上げた両手を狙ってな」
それから暫くは一般人の挑戦が続く。流石に素人には負けない‥次の挑戦者が前に立つ。
「やっと俺の番か!金貨はいただきだぜ!」
見るからに悪そうな男が剣を構える。クレスはそれを見て挑発する。
「無様な構えだ、我流か‥つまらん」
「ああ!?舐めるなよ?」
2人は睨み合う。
「始め!」
開始の合図と同時に男は口に含んでいた種を飛ばす。
「プッ!」
顔めがけ飛ばされた種が視界を奪い怯んだその時。
「待て!待てぇ!!」
審判が割って入る。試合を止めた。
「あ?何で止めるんだ?」
「武器は木刀のみ!それ以外は反則と見なす!」
「禁止は魔法と魔石だろ!聞いてねぇぞ」
すかさず男性が拡声器でルールを追加する。
「卑怯な手は禁止とします!正々堂々戦って下さい!会場の皆さんが見てますよ!」
会場が一斉に反則を非難する。
「きたねぇぞ!卑怯者!」
「男らしく戦え!」
「恥ずかしくねぇのか!」
「クレス様頑張ってー!」
クレスは観客に手を振る。後から追加されたルールに誰も疑問を持たない。
「会場を味方に付けたか‥不味いな」
「そうですね、これで何をやっても反則と言われかねません」
ルーク達の懸念が当たる。それからは木刀以外、拳や蹴りを使うと会場からブーイングが飛ぶようになる。試合の終わった挑戦者が下がりながら吐き捨てる。
「何が模擬戦だ‥これじゃ唯の道場稽古じゃねえか」
挑戦者達の怒りが見て取れる。選べる武器は木刀のみ、得意な得物は与えられず、崩しを仕掛けると反則を取られた。
「あっ!次カーラの番だよ!」
カーラは木刀を振りながら前に出る。その光景にルークは爆笑していた。
「木刀ちっさいな!ハハハ!」
「ほんと玩具みたい」
240cmあるカーラが持つと木刀は短刀位に見えた。それを見た会場が湧く。
「デケェ!!あの竜人見ろよ!」
「あんなに大きいの始めて見た」
「うっ美しい‥」
「強そう‥」
始まる前にカーラが武器の交換を申し出る。
「なあ、もう少し長物は無いのか?これ短すぎるぞ」
「駄目です!武器の交換は出来ません!」
「えぇ〜仕方ないな」
2人は武器を構える。
「始め!」
ジリジリと間合いを測る。
(このおっさん実戦経験は無いな‥やりにくいな〜)
「はあ!おおお!」
クレスは声を上げ気合を溜める。
(コレ勝って良いんだよな?)
カーラはチラッと右手のルークを見る。察したルークは頷く。
(これ以上挑戦者達の不満が溜まれば危険だ、カーラ終わらせてやれ)
「おっ良いんだ!」
「余所見など!」
踏み込んだクレスの剣を持ち替えた左手で打ち払う。
カーン! カランカラン‥ 木刀が地面を転がる。
「簡単に誘いに乗るなよ」
カーンはクレスの頭を軽く剣で叩く。
「はい、私の勝ちだな」
「ひっ卑怯者!余所見のフリなど恥ずかしくないのか!」
クレスは抗議の声を上げた。その様子に会場は静まり返る。
「今の卑怯だった?」
「いや‥剣で払っただけだよな?」
「そもそも余所見に襲いかかる方が卑怯じゃね?」
ザワザワ‥会場が騒ぎ始める。不味いと感じた司会が終わりを告げる。
「師範代の手が限界の様です!剣を落とす程に疲れています!今の試合は審議の後発表します、今日はここ迄ご参加ありがとうございました!」
「えっ?」
「何だよそれ」
ざわつく会場を他所にクレス達はさっさと逃げ出した。カーラを放って賞金も払っていない。
「えっ?ルーク賞金は?」
「アレは最初から払う気は無いな」
カーラが不満そうに帰ってきた。
「ルーク様〜アイツ弱すぎ、もっと暴れたい〜」
「そうだなギルドで近くのダンジョンでも聞くか?」
「やった!」
「ルーク様あの者達調べますか?」
「放っておけその内痛い目を見る、それより夕飯にしよう」
ルーク達は広場を後に酒場を探す。1日が終わろうとしていた。
それから10ヶ月が経ち
ルーク達は大陸を北から周りアメリアの首都ニューキャッスルに到着していた。
「城が無いのに、ニューキャッスルって変な感じだね」
「新たな政治体制のシンボルとして名付けたと聞いています」
ルークは道行く人をサーチで調べる。
「不味いな、かなりの数のヒューマノイドがいる」
「聖地が目の前ですから、侵略は早いかと」
聖地ヘ礼拝に向かった者は人知れずヒューマノイドに体を交換されていた。
「なあルーク様、ここに来て良かったのか?流石にバレないか?」
「ん?俺は女神に会いに行くぞ?」
「「えっ!?」」
その答えに一同が驚きを隠せない。
「駄目ですルーク様!危険すぎます!」
「戦力足りないよ?本気なの?」
「殴り込むならついて行くぜ!」
各々が反応する。するとルークは皆を落ち着かせる。
「待て待て!行くのは俺だけだ、話をして来る」
「話?ルーク何か企んでる?」
「まあな‥女神に冥界の事を話す、自分が連れ戻されるとなれば対応せざるを得ない、そこを利用させてもらう」
「共闘するのですか?」
「場合によってはな」
ルークは段取りを説明し3人を帰路につかせた。もし誰か捕まれば戦闘になる、それだけは避けたい。
ライラ達が帰路について3日後
「よし!そろそろ行くか」
ルークは路地裏から聖地に転送陣で飛ぶ。
「お〜かなり復興してるな〜」
上空から聖地を眺める。以前吹き飛ばした建物が再建されていた。
「さて‥早く出て来い」
聖地 地下施設
警報が施設内で鳴り響く。突然現れた魔王の存在に慌てふためく。
「なっ!?この反応魔王!?」
「アルファ緊急事態だ!魔王が現れたぞ!」
ベータとガンマが部屋を飛び出る。
「迂闊に動くな!」
アルファの静止を聞かずナンバーズは地上に向かう。地下施設にはアルファとプサイのみ。
「アルファどうするの?プサイ達も行く?」
「いや‥ここに残る、フローラ様の護衛も必要だ」
「わかった!アルファはプサイが守る!」
「ふふっ頼もしいな」
地上にナンバーズが現れたのを確認すると‥ルークは各出入り口を魔力で潰す。
「お前達は邪魔だ!外で待ってろ!」
ドーン!ドーン! 爆音と共に出入り口が吹き飛び瓦礫で埋まる。
「なっ!?」
「何が目的ですの!」
空を振り返るが既にルークは居ない。地下に飛んでいた。
地下 祈りの間
カツカツ‥ 足音が響く。
「やっと来ましたね‥始めましてと言うべきかしら?」
女神がルークの前に現れた。
「そうだな、記憶の中では愛おしい存在だが‥俺はお前を知らない」
「あら、冷たいわね‥あんなに惹かれ合ったのに」
「俺が惹かれたのはライラだ」
「私もライラと同じ魂を持っているのに?」
ルークは女神の中に懐かしさを感じる。確かにライラに似た魂だ。
「取り敢えず俺の後ろの奴を黙らせてくれないか?鬱陶しい」
ルークの背後でメタトロンとアルファが今にも襲いかかろうとしている。
「我が君!直ぐにお助けします!」
「フローラ様!お逃げ下さい!」
女神は手を翳す。
「大丈夫、魔王が戦う気なら私はもう死んでいます‥2人共下がりなさい」
「しっしかし!」
「危険すぎます!」
「はあ‥困った子ね、魔王こちらへ私の部屋で話しましょう」
ルークは警戒する。女神の部屋、侵入者対策はされている筈だ。
「安心して、私の許可した者しか入れないし覗きも出来ない、勿論罠なんて無粋な物はありません」
「はぁ‥仕方がないか‥お前に大事な話しがある」
「何かしら、さあ行きましょう」
メタトロン達を尻目に女神の部屋に向かう。
女神の寝室
「ふふふ‥ようこそ」
「単刀直入に言うぞ、お前を狙っている勢力が現れた、俺にとっても敵だ‥そこで」
話の途中で女神はルークに抱き着いた。
「なっ!?」
「会いたかったわ!やっと会えた!」
「おい!何を考えて‥まっ」
女神はルークの唇を奪う。
「んっ‥」
ルークは女神を引き剥がすと、その目を見て察した。
「お前‥まさか待っていたのか?ずっと?」
「そうよ‥無様でしょ?笑うなら笑いなさい」
「今迄の高圧的な態度は何だったんだ?」
女神は恥ずかしそうに答える。
「だって‥会いたいなんて言えない、恥ずかしい‥」
「は?」
ルークの目の前には確かに1人の恋する乙女がいた。
「さっきのも演技か?」
「そうよ、尊大に振る舞わないと舐められるから」
調子を崩されたルークは頭を描く。
「参ったな、コレは想定外だ」
「ルーク私の所に来ない?歓迎するわ、貴方を助けたいの」
「ナンバーズにはなんて説明するんだ?アイツら散々戦わされて来ただろ?」
「あんなガラクタ別にどうでもいいわ、私の穢を切り離す時に出来た副産物だし」
ルークは更に頭を悩める。
「なら何故ヒューマノイドを増やしている?人間を絶滅させる為じゃ無いのか?」
「??私は救っているのよ?私が呼ばれた理由の1つが死からの救済、ヒューマノイドになれば死から逃れられる」
「悪意は?」
「無いわよ?何故?」
女神は召喚された時と変わっていなかった。唯自分を尊大に見せる為、大袈裟に振る舞っていた。
「なら何故ナンバーズを俺達に仕向けた?」
「だって‥貴方達幸せそうで羨ましかったから、アルファ達の力に恐れを成せば助けを乞うと思って‥でも最初は貴方だけは救うつもりだったのよ!」
「その目‥嘘はついてないか」
女神は恋する乙女の様にそわそわしている。
「もっと早く来るべきだったな、ゆっくり話すか」
「はい!お話しましょう」
2人は椅子に座り話を続ける。お互いの蟠りすれ違いを確認する。そして冥界の事も話す。
「神の座に着けば、この世界の操作が可能なのか‥それで皆天獄を目指すのか」
「そう、神の座に着けば地獄のルールも無くせる、ルークも開放される」
「俺の為か‥フローラは冥界に帰るつもりは無いよな?」
「嫌よ!折角貴方に会えたのに!それにそんな所私は知らない!」
この世界に召喚された時に以前の記憶は失っていた。
「それなら手を組まないか?天使も冥界も共通の敵だ」
「条件があるわ!」
「どんな条件だ?」
「私も愛して!ずっとそれだけを待ってたの」
「700年俺を待ってたんだよな‥」
ルークは息を吐き覚悟を決める。
「わかった、だが俺達だけの秘密だ良いな?」
「良いの?本当に?」
「ああ、全てが終わったら俺の城に来るか?」
女神はポロポロと泣き出す。
「嬉しい‥やっと叶った‥」
(はぁ‥女は本当に読めないな)
女神はルークに抱き着き愛を確かめる。
「ルーク暫くここに居て!色々話がしたいよ」
「外の奴等にはどう説明するんだ?」
「あんなの放って置けば‥」
「バレたら面倒だぞ、せめて天使達を倒すまでな?」
「わかったわ‥でも今日だけ!朝まで話し合った事にして!お願い」
女神は必死に訴える。ルークは仕方なく頭を撫でる。
「今日だけだぞ?ほら言ってきな」
「ありがとう!」
女神は跳ねるように部屋から出てアルファ達に伝える。これから重要な話を朝まで続けると。
「わかりましたね?コレは世界を左右する話、貴方達は控えていなさい」
「しかし我が君!」
「フローラ様せめて護衛を!」
(チッ!鬱陶しい‥)
「冥界の話も重要になります、私を狙う者達その対策も‥アルファお願いできますか?」
「直ぐに対策を練ります」
「メタトロン、我が使徒よ‥天使を倒す為には貴方が必要です、時は近い貴方しか頼れないのです」
「おお!有難きお言葉!」
上手く誘導し2人を納得させる。出来るだけ尊大に振る舞う。
「この地で魔王は迂闊なことは出来ません、貴方達が私を守っている限り、そうでしょう?」
「お任せ下さい!お呼びとあらば即駆けつけます!」
「フローラ様、外にプサイを控えさせます何かあれば直ぐにお呼び下さい」
アルファとメタトロンがお辞儀をする。
「では私は魔王と対峙します、貴方達の存在が私を支える‥誇りに思います」
女神は自分の部屋に入って行った。
女神の寝室
「お待たせ!これで朝まで大丈夫よ」
最早冗談の様な身の代わり。女は怖い。
「それじゃ話を‥」
「そんなの後からでも良いの!それより」
女神はベッドにルークを押し倒す。
「おいおい!」
「700年待ってたのよ?ねぇ」
「それを言うな、反則だろ‥」
「私もライラなの‥」
「そうだな、ライラから食った魂も返さないとな‥確認だがお前は穢れないのか?」
「大丈夫よ、以前穢れたのは何も知らなかったから、愛を知った今はどんな貴方でも受け入れられる」
ぎゅっと抱き着く。
(皆にどう説明すべきか‥)
「700年待たせたな」
「おかえりなさい」
すれ違った2人がようやく交わる。大きな節目を迎え世界は動き始める。




