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女神の謎


       その日の深夜 マーロ


 辺りは静まり返っている。騎士団も眠りにつきルークのとばりで守られていた。


 近くの時計塔の上でルークは周辺を見渡す。


(結界は起動した‥入り込んだ魔獣は調べた限り約200匹、騎士団でも何とかなりそうだな)


 街を見下ろすと‥南門付近の広場に何かが立っている。魔力を感じない、唯不気味にそこに何かが居た。


(かなり大きいな‥魔力は感じないが、何だ?嫌な予感型する)


 ルークは周りに気付かれない様に広場に飛ぶ。


         南門 広場


 グチョ‥グチャ‥ 巨体を蠢かせソレは何処からともなく現れた。


「ぐふふ‥やっと夜になったわ~この世界は明るくて嫌になるわね、妾の珠のお肌が日焼けしちゃうわ」


 女は街の変化に驚く。減った筈の人間が大量に増えた事に。


「あら?あらあら?人間が沢山居るじゃない!ぐふふ‥男よ!男が沢山居るわ!」


 騎士団の野営地に向かおうとしたその時、目の前にルークが現れた。


「あら良い男が飛んで来たわ!」


「‥」


 ルークは黙り込む。女の異様な姿に理解が追い付かない。女はその巨体に人間の男を埋め込み、見えるだけで5人、女に抱き着く姿で取り込まれていた。


「お前は何だ?魔獣か?」


「魔獣!?妾が魔獣ですって!?この美しい妾が?」


「言葉を話す‥魔獣では無さそうか、しかし魔力を感じないのは何故だ?答えろ!」


「ぐふふ‥どうしようかな~、貴方良い男だから犯し殺す前に教えてあげる」


 女は座り両手を広げ答える。


「妾はミノス!ネメシス様を助ける為に、この地に来た冥界の審判よ!」


「!?ネメシス‥復活したのか!?」


 お互いが不可解な顔をする。ミノスは助けに来たと言い、ルークは復活したのかと問う。


「復活?何をおっしゃってますの?」


(どういうことだ?助けに来た?駄目だ情報が少なすぎる)


「貴方を犯す前に1つ答えなさい、女神ネメシス様はこの世界の何処に居られるの?」


「女神?女神だと!?」


「?そうです、ほら答えなさい」


 ルークの脳裏に最悪の事態が浮かび上がる。


(この世界に女神はフローラだけ‥まさかアイツがネメシスなのか??)


「残念ながら聞いたことも無いな、それより此方も聞きたい事がある‥お前はどこから来た?」


「妾は冥界から、わかり易く言えば死後の世界から来ました、森の中の門を抜けて‥」


「異界では無いのか?アレは異界と繋がっていると聞いたぞ」


「異界‥なる程、この世界には死後の世界が無いのですね、ぐふふ‥この世界に魔力が満ちているのはその為ですか」


 ミノスは不気味に笑う。


「お前の仲間は?此方に何人来た?」


「答えるのはもうお終いですわ~さあ犯し殺して差し上げます!」


 ミノスは立ち上がり戦闘態勢を取る。


「此処に俺が来て正解だったな、思ったより深刻な事態らしい」


 ミノスは右手を翳すと魔法陣が掌に浮かび上がる。


審判ジャッジ烙印スティグマ!」


 ルークは一瞬でミノスの背後に回ると全力で殴り飛ばす。


 ドーン! 吹き飛ばされ。崩れた民家に押し潰されたミノスが瓦礫を押し退け平然と現れた。


「もう~烙印スティグマを押されてまだこんな力があるなんて、貴方トンデモない化け物ね」


 ミノスは体の埃を払いまた構えを取る。


(効いていない?殺す気で打ち込んだぞ‥)


「あら?妾を殺せなかったのがそんなに不思議なの?」


「何をした?それとも冥界の者は死なないのか?」


「ぐふふ‥死ぬ前に教えてあげる、妾に烙印スティグマを押された者は力が1割しか出せなくなるの、審判に勝てたら裁判なんて出来ないでしょ?」


「烙印の消える条件は?」


「妾を殺すか妾に犯されるか、ぐふふ実質1つよ素敵でしょ」


 ルークはその答えに、にこやかに笑う。


「そうか殺せば消えるんだな、良かったよ安心した」


「まあ!強がっちゃってカワイイ!」


 ルークは魔力を開放し姿を変える。始めて戦闘で悪魔の姿になった。たとえ1割しか出せなくともその姿と魔力で見る見るミノスの顔色が変わって行く。


「なんですの‥その姿!貴方人間じゃありませんの?」


「そうか、そっちには悪魔は居ないんだな、コレが俺の本来の姿だ‥力は人間の時とは比べ物にならない、解るよな?」


 ミノスの烙印スティグマは掛けたときの力換算で1割。変動はしない、対象が変化すれば掛け直す必要があった。


審判ジャッジのら‥」


「遅い!」


 烙印を掛け直す前にルークの一撃がミノスの顔を吹き飛ばす。


「ブッ!!」


 ミノスは手足をバタつかせ必死に逃げようとしていた。


「頭を潰したのにまだ生きているのか、冥界から来たと言ったのも本当らしいな」


 ミノスの頭は口まで再生されていた。


「ぐぐぐ、こんな所で妾が消える訳には!タナ‥」


「その力は厄介だ逃さん!ジェノサイドインパクト!」


 渾身の一撃でミノスの体を粉々に打ち砕いた。


「ギィィィ‥アァ‥」


 ルークに押された烙印が効果を無くす。力を取り戻したルークは直ぐに体を確認した。


(よし!いつも通りだな‥しかし魔力を感じないうえに厄介な力を持つ、仲間が居たら不味いな)


「門は開いたのか?それとも漏れ出したのか‥確認しないとな、それにネメシスは本当に女神なのか?」


 女神フローラがネメシスならバアルが直接会っている、バアルからその様な情報は無くルークは混乱していた。


(先ずは門の確認だ、その後バアルを呼び出すか)


         翌日 朝


 騎士団による掃討作戦が進む中、ルークはライラ達に夜中に起きた事を相談していた。


「以上が深夜に起きた一連の話だ」


「冥界?ネメシス?あっあの魔王様、それ本当の話なのですか?」


 ファリスは信じられないと聞き返す。


「まあ本来機密事項だからな、だがこれから行く場所に関係がある以上話しておく」


「ルーク、もし門が開いてたらどうするの?」


「最悪の場合はマーロは手放し撤退する、相手の戦力が分からない以上仕方がない」


「ルーク様!今の私達で倒せないかな?」


 ルークは首を振る。


「無理だな、ミノスと名乗った女でさえ上位悪魔と並ぶ強さだった、それ以上も居ると想定すると無理は出来ない」


「魔王様、騎士団の仕事が終わる前に確認する事が先決だと思います」


「そうだな、街の安全が確保されたら次は‥森の魔獣を減らす為に外に出るか」


 ファリスは頷く。


「よし、予定より早いが四季の森に向かおう、場所は西門の先‥北西に約1キロだ」


 ルーク達はリリスに事を伝えると四季の森に向かう。


       黒の森深部 四季の森 


 世界に4箇所ある妖精の森に繋がる四季の森、その一つが汚れたこの地にある。


「ルーク、この森が妖精の森に繋がっているの?」


「ああ、この汚れた森からは行けないが、向こうからの場合は来れるらしいな」


「なる程‥ここは禁足地なのですね」


 ファリスは珍しそうに辺りを観察している。


「妖精さんに会いたかったな~」


 ライラは残念そうにしていた。


「旅の目的に妖精に会うことも入れるか」

「良いの!?」

「ああ、ライラの行きたい所に行こう」

「やった!」


 ラブラブな2人を見てカーラとファリスが嫉妬していた。


「羨ましい〜」

「いいな‥」


「2人共ごめんね」


 ライラは申し訳なさそうにしていた。


「ライラは謝らなくていい、2人も蔑ろにしないから安心してくれ」


「やった!」

「わっ私もですか」


 その言葉に2人は浮かれていた。しかし、その雰囲気も突然の来訪者に壊された。


「ん?何じゃお主達は‥何故人間が此処におる?」


 ルーク達の目の前に突然老人が現れた。


「爺さんこそ、何でこ‥」


「チッ!」


 ルークは咄嗟にカーラの尻尾を掴み後ろに下げる。


「おわっ!!」


 ブンッ!! カーラの居た場所に虚空から鎌が振り下ろされた。


「ほう〜お主、今のが見えておったか‥何者じゃ?」


 立ち上がったカーラが武器を構える。


「ジジイやりやがったな!」


「カーラ!下がれ!」


「でも!」


「邪魔だ!!死にたいのか!」


 ルークの鬼気迫る表情にカーラは後ろに下がる。


「ホッホッホ、良い判断じゃ、仕切り直す前に自己紹介でもするかな、儂はタナトス‥有り体に言えば死神じゃな、ホレ次はお主の番じゃ」


 ルークはタナトスと名乗った老人の底を探る。死神‥死を司る者は地獄にも居た、しかし四騎士ヘルとは違い底が見えない。


「俺はルーク、この世界の魔王だ」


「魔王!ホッホッホ、その程度で魔王じゃと?冗談はよせ」


「舐めんなよジジイ!ルーク様は‥」


 ルークは手を翳し静止させる。


「お前がミノスの仲間だな?」


「ほう?ミノスに会ったのか、無事な所を見ると‥奴を倒したか、ならば認識を改めんとな‥お主力を隠しておるな?」


(不味いなコイツ頭が回る‥力も不明どうする?)


 タナトスが戦闘態勢に入る。その場に居たもの全員に死が過ぎる。


「なっ何だよコイツ‥はぁはぁ」

「こっ怖い‥助けて」

「ルーク何これ‥」


 ルークは咄嗟に3人を結界で包む。この場に後数分居たらライラ達の自我が崩壊する。


「ホッホッホ、さあ楽しませて貰おう」


「直ぐに殺す!」


 ルークは悪魔の姿になりタナトスに襲いかかる。


「何という圧じゃ!本当に魔王の様じゃな」


 肉体強度ではルークが圧倒的に上。攻撃はタナトスの体を尽く砕き、タナトスは防戦一方だった。


「ぐおぉ‥これは堪らん!まるでハデス様と戦っておる様じゃ!」


「死ねえぇ!!ジェノサイドインパクト!」


デスサイズ


 虚空から現れた鎌がルークの右腕を斬る。ルークの攻撃が不発に終わった。


「ん?何だ腕の感覚が無い?」


「ホッホッホ、儂の鎌に斬られたらその部位は死ぬ、お主の右腕はもう使い物にならん」


「間抜けだな‥それなら俺の首を跳ねるべきだったな、ぐぐぐ‥」


 ルークは自分の右腕を消滅の魔力で消し飛ばす。そして瞬時に再生させる。


「ふう〜よし動くな」


「なんと!?化け物め‥ならばバラバラになるがいい!ヘルリーパー!」


 無数の鎌が現れ回転を始める。ルークは鎌に見向きもせずタナトスに突っ込む。


「なっ正気か!これでは!」


「その反応!鎌は自分も対象の様だな!」


 ルークはタナトスを袋叩きにしていた。鎌はタナトスを巻き込まない為に動かない。次々と叩き込まれる爆撃の様な攻撃に堪らず森の奥に逃げる。


「ここまでじゃ!覚えておれ!」


「逃さん!」


 タナトスは半分開いた異界の扉に飛び込んだ。


「チッ‥思ったより速い」


 ルークは辺りをサーチする、敵が居ないのを確認するとライラ達をこの場に転送した。


「ルーク!無事だったのね!」

「ルーク様はアイツは?」

「もう怖いの居ない?」


「ああ、奴なら引いた‥その中にな」


 ルークは目の前の扉を指す。


「あっ門が‥扉が開いてる!」


「魔王様の話は本当だったんですね、あんな存在が居るなんて」


 ルークは扉を確認する。その様子は聞いていた話と全く違っていた。本来金色の扉は黒く変色し、封印の鎖は千切られ楔の槍は地面に全て落ちていた。


「聞いてた話と違うな‥それにこれは外から開けたな」


「ルーク様!死体がある!」


 周りを捜索していたカーラが声を上げる。その死体を見たルークの顔は青ざめた。


(腐って面影は無いがこの魔力の残滓、これはディアスか?それにもう1つ悪魔の臭い‥誰だ?)


「ルーク?この人知ってるの?」


 ライラは死体の顔を見てルークに聞いて来た。ライラにディアスの記憶が無い事が幸いした。


「イヤ知らない、コイツが開けたのかと考えててな」


「えっ?この‥」


 ルークはファリスの言葉を遮り肩を抱き移動する。


「ファリス!こっちに!見て欲しい物がある」

(ファリス、ディアスの事は黙っておいてくれ)

(はっはい!)


 皆で扉の前に散乱している槍を回収する。


「凄い‥これ全部聖槍や魔槍ですよ!」


「凄いな!ルーク様これ貰っても良いのか?」


「駄目だ、扉の再封印に使う」


「ルーク?この扉封印出来るの?」


 ライラが落ちている鎖を拾いながら疑問を口にする。


「残った鎖と槍そして俺の魔力で時間を稼ぐ、ガチガチに固めて10年は持つ様にな」


「「10年!?」」


 3人は驚き声が重なる。


「タナトスと戦って痛感した、尖兵であの強さ‥それにもう扉は開く、なら迎え撃つ準備が必要だその時間を稼がないとな」


 ルークは扉を閉めると鎖を巻き付け槍を楔に突き立てた。そして持てる全ての封印魔法で固めていく。


「ふう〜こんなものかな?」


「お疲れ様どうする?マーロに戻る?」


「そうしよう、それにここは誰も入れない様に結界で閉じる」


 話を終えた所にファリスが走ってきた。


「あの死体埋めておきました!」


「態態すまないな‥ありがとう」


「いっいえ」


「よし!帰ろうぜ!」


 カーラを先頭に森を後にする。


 パイモンはドクから逃れた後、四季の森に間に合っていた。妖精の森から異界の門に辿り着きルシファーの力で封印を解いたまでは良かったが‥扉の向こうで永遠と言える時間を待っていたタナトスに、扉が開いた瞬間にデスサイズでディアス毎両断され即死していた。呆気ない幕切れ、パイモンもディアスと同じく世界に嫌われていた。


 その後時間を掛けゆっくりと門の鎖が緩み扉が開いた。ミノスが先に送り込まれ、タナトスはこの地に出た直後にルークと交戦することになる。



       夕方 解放されたマーロ


 ルーク達はマーロに戻ると、騎士団による魔獣の掃討が終わっていた。司令部のテントに入る。


「もう魔獣を一掃したのか、凄いな」


「お義父さん!外はどうでした?」


「外は魔獣だらけだな、暫くはヘクトールの力を借りるぞ」


「お任せ下さい!マーロが再興するまで、この地を治めて見せます!」


 団員がテントに入って来た。


「団長!報告です!後続の建築及び補給部隊の受け入れ準備が整いました!」


「よし!直ちに要請しろ1日でも早く復興させるぞ!」


「はっ!」


 ルークは椅子に座ると今後の復興予定表を見る。


「ん?おいヘクトール、これは不味いぞ?」


「何か気になる点が?」


「建物やインフラの早急な整備は理解るが、清廉過ぎる‥ここで人が営むのを忘れるな、このままだと何れ不満が爆発するぞ?」


「不満ですか‥例えばどの辺りが‥」


 ルークは椅子に座れと指を指す。ヘクトールはルークの向かいに座る。


「まず寝る場所は仕方がない、テントで我慢してもらう‥だが食欲や性欲はどうする?数ヶ月若しくは半年以上我慢できるか?」


「あっ‥それは‥」


「最悪リリスや女性士官が襲われるぞ?」


「それは駄目だ!早急に対策します!おい誰か居るか!」


 ヘクトールの呼びかけで団員が入って来た。


「お呼びでしょうか」


「今すぐ会議を開く!隊長以上を全て集めろ!」


「はっ!」


 するとファリスが小さく手を上げヘクトールに進言する。


「団長‥その申し上げ難いのですが」


「言ってみろ!」


「はっはい!女性士官の為に男娼や、男性が駄目な士官の為に女娼の用意をお願いします!その‥私達も貯まりますので‥あぁ恥ずかしい〜」


 ファリスの顔が真っ赤に染まる。


「そうだな良く言ってくれた!配慮しよう」


「あっありがとうございます!」


 ルークは感心していた。


(ちゃんと言うことは言える、配慮も出来る‥う〜ん益々側近に欲しくなるな)


「先ずは美味いメシと酒からだよな!ルーク様は何が食いたい?」


 カーラは既に食い気に囚われている。


「気が早いな、これから手配しても来るのは早くて明日だぞ?」


「ええ〜そんな〜今日も軍隊飯かよ〜」


「えっ栄養はありますから!」


「変な味だけど食べられなくは無いし、もう少し我慢しよ?」


 その後ヘクトールは幹部を集め今後の予定の修整を行った。人が生きるうえで必要なものを先ずは揃える。衣食住以外に性欲の発散や娯楽を楽しめる施設も早急に作る予定だ。ストレス程恐ろしい敵はいない‥心が蝕まれると人は簡単に壊れる。


        その日の夜


 ルークはこの地で起きた事を漏れなくマモン宛に報告書を書いた。一度戻れば良い話だが、ミノス以外がもし潜んでいたら大事になる。その為暫くはルークも此処を動けなかった。


「これを研究所に頼む」


「はっ!」


 報告書を受け取った団員がテントから下がる。


「ルークお仕事終わった?」


「ああ、それじゃそろそろ休むか」


「は〜い」


 2人は添い寝して眠りにつく。



        冥界 ハデス城


「タナトス戻ったか、無様に敗走した様だな」


 その場に平伏するタナトス。


「申し訳ありません‥魔王と名乗る強き者と出会いまして、お恥ずかしい限り‥罰は何也と」


「ハデス様!兄をお許し下さい!僕が側に居ればこんな事には‥」


「下がっておれヒュプノス!」


 ヒュプノスと呼ばれた美男子はタナトスの隣で頭を垂れる。


「許す‥ネメシス奪還の前では全て些事、あの扉は何れ開く侵攻の準備を進めよ」


 死者の国では命が産まれない。女神であるネメシスの帰還は冥界全て悲願だった。


 神の時代に侵攻してきた邪神ネメシス。そして人間達が召喚した女神フローラ。ハデスが求める女神ネメシス。繋がらない点が不気味に浮かぶ。



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