マーロ奪還
5日後 早朝スローン城
研究所でカイの復旧が終わろうとしていた。陥没した後頭部はオメガからパーツを融通した。
「ン〜フフ〜♪」
「何じゃ?今日はえらく機嫌がいいのう」
鼻歌混じりに作業をするガブリエル。
「少し前からルークに愛を教えて貰ってるのよ~中々面白くて、人間達が愛を求める意味が解った気がするわ」
「ほう?確かに天使は愛を知らんだろう‥知っておる者は全て地獄に落とされたと聞いた」
「それよね‥愛は憎しみを生み、満たされない心は欲望を抱く、天使には与えられて無い訳だわ堕天して良かった点ね」
ガブリエルは昨日の事を思い出しニヤける。
「魔王ってあんなに素敵なのね‥ああ〜早く夜にならないかしら」
「ホッホッホ、元気じゃのう」
「貴方も堕天使と魔王の子を早く見たくない?」
「それはルークの前で言わん事じゃな、本気で怒るぞ?」
「でも興味はあるんでしょ?」
マモンは悪い顔をする。
「興味津々じゃな、前例も無いどんな化け物が生まれる事か‥見てみたいのう」
「でしょ?研究者の血が騒ぐわよね!」
ピッ! 受付から通信が入る。
「マモン様、ルーク様がお出でになられました、これから研究室に向かわれます」
「わかった、噂をすればじゃな」
ガブリエルは鏡を取り身だしなみを整える。
「来るなら早く言ってよ〜もう!お化粧して来るんだった」
数分後
プシュー 扉が開きルークが入って来た。
「予定が空いたから来てみたが、どんな感じだ?」
ガブリエルが飛んでルークに抱きつく。
「会いたかったわルーク!」
「いや‥お前じゃ無くてカイに会いに来たんだが‥」
「も〜そこは会いに来たよでしょ!」
ルークは少し困惑していた。もう彼女ヅラのガブリエルに。
「それで?カイは無事なのか?」
「外傷は完全に直っておる、問題は脳の機能じゃな‥こればかりは起こして確認するしかない、ルークよカイの側におって良いぞ」
ルークは処置室に入るとカイの手を取る。
「では、信号を送るぞ」
ピピッ! 眠っているカイに修復完了のシグナルを送る。再起動が掛かりゆっくりと目を覚ます。
「ん‥こ‥ここ‥は‥わっわたし‥は‥」
マモンはモニタリングしていた脳波を見ながら首を振る。殺す気で打ち込まれた一撃は、深刻なダメージを脳に与えていた。
「カイ!俺の声が聴こえるか?」
「るっ‥ルーク‥さ‥ま‥」
「良くやった!カイのお陰で不穏分子を掃討出来たぞ」
「よっ‥よか‥た‥」
カイは天井を見上げたままピクリとも動かない。するとルークはカイの頭に手を当て魔力を流し始めた。
「ルークよ無理じゃ!回復魔法には限度がある」
「黙って見てろ!」
モニターに映るデータにガブリエルが声を上げた。あり得ない事が目の前で起きていた。
「嘘!?バラバラだった脳波が安定してる!?」
「何をやった?回復魔法では無いな?」
カイを寝かせルークは戻って来た。
「以前カイから嫉妬の力を喰った時に頭の中は覗いていたからな、それにヒューマノイドの仕組みはミューで知り尽くしてる」
「あら、人形遊びも役に立つのね」
ルークはガブリエルを睨む。その目は本気で怒っていた。
「2人の人形呼びはヤメロ‥」
「ごめんなさい、その‥悪気は無かったの」
(あぁ‥その私を射殺す様な眼差し、興奮しちゃう)
謝罪は上辺だけ、ガブリエルはルークの悪魔の部分だけを見ている。
「ルーク、私はまだ愛が足りないから‥今夜色々教えてね」
「ああ、お前も大切な者が出来たら理解るだろうからな」
ガブリエルはルークに寄り添うが、2人の愛には決定的な相違がある。お互いが与え合う「愛」を説くルークに対し、ガブリエルは自分だけが得る「愛」を求めていた。
「ルークよカイは暫く動けんじゃろう、旅はカイ抜きで予定を組み直すしかないのう」
「そうだな、申し出通りファリスを連れて行くか‥」
「ファリスか、先日は随分活躍したそうじゃな」
「あの娘は本物だよ、正直悪魔にして側に置きたい位だ」
「ほう〜そこまでか、なら悪魔にしてはどうじゃ?」
ルークは困った顔をして答える。
「ヒルデやステラに手を出すなと釘を刺されてな~」
「ホッホッホ、それは大事じゃな」
「そう言うマモンはどうなんだ?最近見ないがエリザとは上手く行ってるか?」
「ホッホッホ、ラブラブじゃよ次の子が欲しいと毎日せがまれて参ったもんじゃ」
マモンは惚気話を始めた。今のエリザは後進の育成係として、城の外の騎士団修練場の専属教官をやっている。
「ここだけの話‥実はエリザには新たな命が宿っておる」
「「え?」」
突然の吉報に2人は驚く。
「なんで早く言わないんだ!皆で祝うぞ!」
「待て待て待て!待つんじゃ!まだ安定期では無い!ここだけの話と言ったじゃろう!」
「でも、そのうち自覚するわよ?」
「変なプレッシャーを与えたくないって事か」
マモンは頷く。
「念願の子宝じゃ、がっかりさせたくは無いからの」
次代の魔族達が次々と産まれ行く。魔王側の体制は刻一刻と磐石になる、対天使 対女神には最早負けは無い程に差が付いてきていた。
「これからの事だが、一度異界の門と扉を見てこようと思う」
「ほう?バアルの言っておった邪神ネメシスか」
「壊滅したマーロの奪還、騎士団と俺達でマーロを取り戻す‥旅はその後からだな」
「なる程‥マーロを再拠点化して門の監視をする訳じゃな」
ガブリエルが現在のマーロの状況をモニターに映す。僅かに残る監視魔石が映像を送って来た。
「湧いてくる魔獣を狩っていた冒険者も居なくなり、今やマーロは魔獣の巣窟よ?」
「地下のゲートはまだ生きてる、俺と騎士団なら直ぐに取り返せる」
「魔獣はここの魔物と違い、交配機能が備わってるから油断しないでね」
「そうじゃな‥あそこに居た人間を苗床にしておる可能性もある、もし人型が居ても決して人間とは思わん様に‥通達しておくかの」
暫く経ち 旅立ちとマーロ奪還の日
ヘクトールが城内で待機する団員に激を飛ばしていた。
「いいかお前達!我々はマーロ奪還の任を完遂する為に訓練を積み重ねてきた、重要なのは結果だ!!失敗は許されない!魔王様も共に戦って下さる、恐れるな!各自奮闘せよ!」
「「オオオオオオオ!!!!」」
団員達の咆哮で城が鳴動する。
「ヘクちゃん格好いい‥」
「様になって来たな、そろそろ認めても良いか」
ルークとリリスが出陣前の騎士団を見に来ていた。
「えっ!良いのパパ!」
「ああ、気構えも強さも申し分ない‥それに本気でお前を大事にしてるからな」
ルークはリリスの首に手を当てると、掛けていた封印を解く。
「やった!これでうちも赤ちゃん出来る!」
「俺が旅から戻ったらまた封印するからな?お前の体質は危険すぎる」
「は〜い」
ルークと同じく種族問わず子供を作れるリリスは危険すぎた。もし邪神にでも捕まったら‥もしそれを知った者がリリスを捕獲し実験を始めたら、世界はキメラだらけの地獄と化す。
旅の準備を整えたライラがやって来た。
「お待たせルーク、用意できたよ」
「ママ!聞いてよ~うちも子供産んで良いってパパが認めてくれたよ~」
「ホント?良かったねリリスちゃん、でも私がおばあちゃんになるって事よね‥ちょっと複雑だわ」
記憶を失ったライラは子育ての記憶も無い。それが突撃おばあちゃんになる、複雑な心境だった。それとは別にルークはライラから目を離せない。
「ライラ‥その格好は、その‥刺激が強すぎないか?」
「そっそう?リリスちゃんに選んでもらったんだけど」
「あ〜パパ顔が真っ赤だ~」
ライラはホットパンツに軽装備、ルークはスタイル抜群のライラに見惚れていた。遠目で見ていた騎士団達もざわつく。
「それ防御機能殆ど無いだろ?大丈夫なのか?」
「パパが魔力障壁張るから問題無し〜」
「やっぱり着替えて来る?」
少し残念そうにルークに聞く。
「下だけでも変えてくれ‥」
「ええ〜パパこれ嫌なの?」
「そうじゃない!凄く似合ってる!問題はこれから旅をするって事だ、行く先々で口説かれるのが目に見える‥」
「あ〜確かに放って置かないかも、ママめちゃくちゃ美人だし‥仕方ないママこっちに来て何か探そ」
2人は着替えに向かう。入れ代わりにカーラとファリスが装備を整え終わった様だ。
「ルーク様お待たせ!」
「よっ宜しくお願いします!」
カーラは重装備で身を固めファリスは軽装備のスカート、わかり易く前衛と後衛だ。
「ファリスは魔法使いか?」
「私はサポーターです妨害専門の」
「珍しいな、余り人気の無い魔法だが‥」
「はい‥強い魔力抵抗を持つ相手には通用しないので、いざという時に役にたたない事も人気の無さですね」
カーラはファリスを励ます。
「効けば最強の支援なんだ自信持ちな!」
「はっはい!」
着替えを終えた2人が戻って来た。
「お待たせ〜どうパパ〜」
「うん、いい感じだ良く似合ってる」
「あっありがと」
「パパってちゃんと褒めるよね〜偉いぞ」
「言葉にしないと伝わらないからな‥思いが通じるなんて都合のいい、独りよがりの解釈はしない」
控えていたメフィストが時間を告げる。
「ルーク様!そろそろお時間です!」
「よし行くか!」
ルークは壇上に立ち騎士団に命令を下す。
「マーロを取り戻すぞ!出陣!」
「「はっ!!」」
団員達は敬礼すると剣を抜きゲートに入って行く。
「俺達も行くぞ」
「おう!」
「「はい!」」
「よっしゃ!」
1人余分な声がした。
「リリス?今なんでお前も返事した?」
「えっ?だってヘクちゃん暫く駐屯するなら着いて行かないと、子作り出来ないし‥」
「お前だけ目的が不純何だが‥」
「いいじゃん!ほら行くよ」
ルーク達もゲートを潜る。待ち構えるは魔獣の群れ。
マーロ 地下ゲート
「団長!地下施設はまだ生きています!灯りも付きました!」
「気を抜くな!索敵は密に行なえ!」
「はっ!」
ルーク達も追いつく。
「ヘクトール!俺達が先に出る後は任せるぞ!」
「お義父さん此方はお任せ下さい!」
着いてきたリリスがヘクトールの側に行く。
「えっリリスさん?どうして此処に??」
リリスはヘクトールの耳に手を当て小声で話す。
「パパから子供作っても良いって!ヘクちゃん認められたよ!」
「ほっ本当?良いの僕なんかで?」
「今の聞いてなかった?パパは「任せるぞ」って言ったよ?」
ヘクトールはワナワナと震え始めた。
「やるぞ!ここが!ここからが僕の英雄譚だ!」
剣を掲げ叫ぶ。
「お前達!魔王様の後に続くぞ!各隊作戦通りに、もしもの場合は直ぐに救援を要請しろ!行くぞ!」
ルーク達は昇降機で、数の多い騎士団は通常搬入口から外に出た。
マーロ 地上
それは見るも無残な有様だった。都市は崩壊し魔獣達が跋扈していた。見た事も無い魔獣、明らかな交配種や人型も歩いている。
「マモンの予測通りか‥皆油断するなよ!」
「ルーク様、私達は壁と門を塞げば良いんだよな!」
「そうだ南門以外は崩れてる、先ずは西門から塞ぐぞ」
ルーク達の匂いや姿に反応し魔獣達が動き始めた。
「オラ!どけえぇぇ!!」
カーラが先頭に立ち目の前のオークをメイスで殴り飛ばす。
「グガッッ!」
ズバッ!!立ち上がろうとするオークの首をライラが跳ねる。
「ごめんね」
戦いが始まると背後から銃声が聞こえてきた。
「騎士団も戦闘に入った模様です、皆さん射線に入らない様に注意してください!」
ファリスが注意を促す。
「おう!それならガンガン進むぜ!」
ルークは空を見つめる。ワイバーンやドラゴン、巨大な鳥も飛んでいる。
「アレは鬱陶しいな‥処理するか」
ルークは天に手を翳すと魔力を撃ち出す。
「ジェノサイドクラスター!!」
空を覆い尽くす程の小さな黒い玉が弾けると、玉に触れた魔獣達は蜂の巣に抉られ、バラバラになりながら地に落ちた。
「凄い‥コレが魔王様の力」
ファリスはルークを見つめながら疑問を抱く。
「あっあの‥魔王様なら1人でここを奪還出来るのでは?」
ルークは口に人差し指を当てる。
「し〜ここだけの秘密な?」
「あっなる程‥騎士団を活躍させる為ですね」
「理解が早くて助かるよ」
西門の前にある教会から人間が出てきた。
「ルーク様!人が居るぞ!」
「惑わされるな殺せ!」
ルークの言葉通り人型の魔獣だ、腕や脚があり得ない長さに伸びる。
「遅い!」
カーラは形態変化の最中に脳天からメイスを振り下ろす。
グシャ!! 魔獣は一撃で即死した。
「どうやら知能は低いみたいですね」
「そうだな、だが明らかに人間を苗床にしてるな」
「ルーク!この中見て!」
ライラが覗いていた教会から声を上げる。ルーク達が中に入ると。
「ここが繁殖場所の1つか、酷いな」
教会の中は小型のウェアウルフやオーク、それに見た事も無い魔獣が人間を飼っていた。
「酷い‥助けないと」
助けようとするファリスを静止する。
「無駄だ、今楽にしてやる安らかに眠れ‥ジェノサイドブレイカー」
放たれた魔力の渦が教会諸共消し飛ばした。
「魔王様!なにも殺さなくても!」
「ファリスだったら生きていたいか?」
「それは‥」
「ルーク様の言う通りだ、それに多分精神はもう崩壊してる‥マトモで居られる筈はない」
それを聞いたファリスは納得するしか無かった。ライラが優しく声を掛ける。
「弔う為にも早く此処を取り戻しましょう」
「はっはい!」
騎士団も順調に奪還範囲を広げていた。
「団長!ドラゴンです!」
「僕に任せろ!各自防御体制!起きろデュランダル!」
聖剣に魔力を流すとヘクトールに加護が付与される。
「おおおおおお!!」
「ガアアアアア!!!!」
振り下ろされる一撃を盾で弾き飛ばすと、聖剣一閃斬り上げた一撃はドラゴンを真っ二つにしていた。
「おお!流石は団長!」
「警戒を怠るな!敵は外からも来るぞ!」
響き渡る銃声に魔法の爆裂音。魔獣の咆哮に騎士団のウォークライ、マーロはまさに戦場と化した。
「ルーク様!壁と門が見えた!」
「よし、障壁を張る」
ルークは穴の空いた壁と門を障壁で塞いだ。そして何故穴が出来たのか周りを見渡す。
(これは‥内側から空いたのか?こんな事が出来る奴なんて限られるな)
ルークは地面を触る。穴の正面は砂や塵になっていた。
(ここだけ砂?周りは土だ‥ああ‥そうか、ケルベロスの報告にあったな、バアルの力は分解だと‥)
「ルーク?何かあったの?」
「ん?ああ、大丈夫だ」
ゾロゾロと魔獣が集まって来た。
「2人共、新手が来ました!迎撃します!」
ファリスが銃を撃ち始める。
「次は北だ!取り敢えず敵の掃討からだ、行くぞ!」
騎士団総勢700名を動員した作戦は夕方まで続き、多少の負傷者は出たものの、圧勝に終わった。
その日の夕方 マーロ
壊されたマーロの防御結界を新たに設置する為に、後詰めの部隊が到着し作業に入った。
「団長、結界の設置に入りました!予定通りなら1時間後に起動します!」
「よし、それまで各自持ち場を守りぬけ!起動後はキャンプの設営と安全確保だ油断するなよ!」
「はっ!」
門と壁を塞いだルーク達が合流した。
「ヘクトール順調か?」
「今結界の準備に入りました、1時間後に起動予定です!」
「おお、早いな深夜になる予定だったろ?」
「騎士団は日々強くなっています!作戦本部の予測を遥かに上回る程です」
「頼もしいな、明日は朝から敵の排除と各施設の捜索だろ?俺が夜の警備に当たるからゆっくり休んでくれ」
「お義父さんにそこ迄させる訳には!」
「明日の方が大変だぞ?室内戦闘に魔法は使えないし、銃も硬い石壁で跳弾する‥嫌でも剣で戦う事になるぞ」
ファリスが申し出る。
「団長!明日が正念場です、疲れで判断が鈍れば死者も出ます今は休んで下さい」
「ムムム‥君がそこ迄言うなら‥」
「ヘクちゃん添い寝してあげようか?」
話を聞いていたリリスが声を掛ける。
「お断りします!余計に寝られません!」
ヘクトールは全力で手を振る。緊張の糸が切れ笑いが起きた。ルークは騎士団を休ませる為に各テントに消音の結界を張り見張りに立つ。誰もいないと逆に安心出来ないとの申し出に最低限の見張りの団員を残して夜は老けていく。




