愛の歪み
約束の日 武装都市マーロ
ベータ達が帰還して2ヶ月約束の日が訪れた。バアルは動く事なく、ベータ達をマーロで待っていた。
「今日が約束の日、奴等とも話をせねばな‥」
「私も一緒に居ても良いの?」
「ああ、元々はロザリーを王都に送る為だったからな、居ないと困惑するだろう?」
バアルは壁の向こうにワープゲートが開いたのを感知する。
「来たか、ん?数が多い‥5人‥応援を呼んだな、さて迎えに行くか」
マーロに到着したベータ達は、シグマの信号が無い事に気が付く。
「おかしいな‥シグマが確認出来ない、まさか1人で?」
「イヤイヤ無理だろ、たった1人で目の見えないロザリーをどうやって守るんだよ?」
「それはそうだが、どうなっている?」
「あら〜行き違いですか?困りましたね」
話をしていると1人の男性が近づいてくる。
「何だおっさん?オレ達になんか用か?」
「相変わらずだなガンマ」
「えっ‥その声‥まさかシグマか!?」
バアルは5人を確認する。
(ベータにガンマ‥イプシロンとオメガ、後は‥カッパか)
ベータとガンマは警戒して戦闘態勢を取る。
「その姿は?お前は誰だ?」
「落ち着け、戦う気は無い話がしたい‥」
「まだお前がシグマと確認してない!信用出来るか!」
今にも戦いが始まろうとしていたが、オメガが2人を止める。
「2人共落ち着きなさい、相手の強さも分からないのですか?」
「コイツがシグマならオレ達で余裕‥は?」
「何だこの数値は‥」
2人の魔力測定では測定不可能と表示されていた。魔王と互角かそれ以上、2人の頭の中の警告音が鳴り止まない。
「分かるな?お前達が束になっても無駄だ、変な気は起こさず着いて来い‥話がある」
「どうするベータ?」
「抵抗するだけ無駄だ‥それなら現状を把握したい、話だけでも聞くぞ」
5人はバアルの家に招かれた。家に入るとロザリーが歓迎する。
「あっ!おかえり!皆と合流出来たのね」
「えっ?ロザリーさん目が見えるのか?」
「その声ベータさんね!じゃあそっちの小さい子がガンマ君かな?」
「小さくて悪かったな!で?それもシグマの仕業か?」
「ええ、治して貰ったのよ!あと今はシグマじゃなくてバアルよ」
「バアル?それが今のアイツの名前か‥」
5人は椅子に座るとテーブル越しにバアルと睨み合う。
「そう警戒するな、俺に起こった事そしてこれからこの事を話す、聞いた上で判断してくれ」
バアルはベータ達に覚醒した経緯を話す。ガンマはベルゼブブを捕食した場に居合わせていた為、思い当たる節も多数あり納得した様だ。
「ベルゼブブの侵食‥同期したオレ達でもヤバかったのに、直で喰ってたシグマは既に手遅れだったって事か‥」
ダーーン!! ベータが突然テーブルを叩く。アルファに次いでシグマまで、愛で覚醒した事がイラついてならない。
「また愛か!何でそんなもので強くなれる!?」
「落ち着けよベータ!らしくねぇぞ?」
「うるさい!!お前は悔しくないのか!?」
「ん〜強くなる理由なんて人それぞれだろ?オレは使う武器次第だから、よくわかんねぇな」
バアルはベータのイラつきの原因を確信と共に話し始める。
「ベータよ、お前が憤慨するのは愛を知らぬからでは無い、逆だ愛を知り理性的なお前だからこそ‥その力「ビースト」が反応するのだ‥」
「何で俺の力と関係が?」
「獣の野生‥その本能のままに暴れた事は無いだろう?お前は常に暴走しないようにセーブしている、何故お前があのニューに好かれていると思う?」
「ニュー‥ニューはお気に入りだけに懐いてるだけだろ?」
「違うな、アレは自分より強い者を愛しておる、本能で感じているのだ「お前の方が強い」とな」
ガンマが気付く、ニューがある条件でベータを求めていた事に。
「そういや‥ニューの奴がベータを襲うのは何時も戦いの後だった!アレ戦いで興奮したんじゃなくてベータの力を感じて興奮してたのか、なるほど!」
「俺の中にそんな力が?」
「自信を持て、アルファは「愛」ベータは「本能」ガンマは「技術」お前達3人は多分特別製だ」
話を聞きながらオメガが隙を伺う。ロザリーを人質に取るチャンスを。
「変な気を起こすなと言った、オメガ殺気が漏れてるぞ?」
「あらあら、気付かれてしまいましたか、上手く隠したつもりでしたが」
「変な気を起こされては面倒だ、では今の俺について話す‥これからの事もな」
バアルは自分が神であった事、地獄に落とされベルゼブブに変質した事、封印された邪神ネメシスそして女神とは敵対する事を伝える。
「本気か?俺達の敵になるんだな?」
「お前達と言うより女神の敵だな」
「変わんねぇだろ!何でなんだよ!」
「アレはこの世界の生命全ての敵だ、そしてアレを呼んだ召喚器も壊さねばならん」
5人は殺気立つ、敵対すると宣言されれば当然だ。ベータを残し4人は後ろに飛び退く。
「カッパ!オレのフルアーマーを出せ!」
「うっうん!」
「今の俺達でどうにかなるのか‥」
「あら弱気は駄目ですよ」
ベータが振り向き4人を制止する。
「止めろ‥よく考えろ態々此処で待っていた事を、俺達なんて何時でも殺せるって事だ」
「クソッ!舐めやがって!」
「それでシグマ‥バアルはどうしたいんだ?」
バアルはニヤリと笑う。
「お前達、魔王と戦って見たくないか?」
「「は?」」
5人は突然の提案に理解が追いつかない。
「何でここで魔王なんだよ!てめぇ何考えてんだ?」
「当初の予定通りだ、ロザリーを王都に送る‥お前達もその為に、魔王と対峙する覚悟で来たのだろう?」
「そっそれはそうだけど‥」
「今の俺ならお前達を逃がす事など造作もない‥どうだ全力で戦って見たくないか?」
「お前が裏切らない保証は?」
「ロザリーを残して逃げはせんよ、それにサタンに話があるのでな‥どの道俺は残る、それならばお前達に土産でもやろうと思ってな」
ベータは考え込む。
(今の俺達の全力データが取れる、それに王都なら魔王とその側近達とも戦える‥コイツが残るなら全て押し付けてしまえば良いか?ロザリーさんが居る間は裏切るとは思えない)
「どうだ?」
「良いだろう乗ってやる!だがどうやって俺達を逃がす?」
「おいベータ!コイツを信じるのかよ!」
「考えてみろ王都は戦場になる、乱戦の中で全てに手は回らなくなる、コイツが裏切ったら誰かがロザリーを殺せば良い」
ガンマがベータの提案を蹴る。
「嫌だね!ロザリーは守ると誓った、それだけは絶対出来ねぇ!」
「あら〜それなら私が殺しましょうか?」
「ああ!?てめぇ巫山戯るなよ?」
ガンマとオメガが睨み合う。カッパがオドオドしながら間に入る。
「待って!僕達が争ってどうするの!ほら喧嘩は止めましょう」
2人を他所にベータはイプシロンに確認を取る。
「イプシロン、俺達の撤退ラインは?お前なら計算出来るだろ?」
「そうだな‥少し時間をくれ」
イプシロンはマザーと常にリンクしている唯一の個体、マザーから魔王達の現行戦力と成長を加味した予測データが送られて来る。
「サタン マモン レヴィアタンをバアルが抑えたとして‥活動時間は10分が限界だ」
バアルがもう一度言い直す。
「聞いてなかったのか?魔王と戦って見たくないか?」
「そうだったな‥計算し直す、以前のラムダ達のデータ通りの魔王が相手なら1分が限界だ、それ以上は命の保証は出来ない」
「1分!?マジかよ‥」
「カッカッカッ!そんなに怖がるな今のサタンは遊ぶ傾向がある、多分5分程余裕がある筈だ、お前達存分にデータを取れ」
「それなら‥皆にお願いがあるわ、チャンスが有れば魔王を取り込んで見ようと思う、撤退前に一瞬でいいから魔王を怯ませて」
「そうだな指の一本でも食えたら膨大なデータが取れる」
魔王と戦える。そのまたとないチャンスにバアルの提案を飲み作戦会議が進んで行く。
(うふふ、魔王を食べる夢が叶いそう‥あの方は私の物よ)
スローン王国 城内
各国から続々と魔王の花嫁達が到着していた。お付きとは名ばかりのスパイ達を引き連れて。
「これはこれは、ゾロゾロと‥よくもまあ集まったもんじゃな」
研究所のモニター越しにマモン達が花嫁達の監視を始めていた。
「ドサクサに紛れる可能性もある、騎士団と連携して目を離さんようにな」
「父さん、僕が何人か血を吸って眷属にする?その方が早いと思うんだけど?」
「それは婚儀が終わってからでよい、先ずは向こうの出方を見てからじゃ、焦って尻尾を出すかもしれんからな」
花嫁達の一団は騎士団に警護され地下の魔王の間に通される。王の間は使わない、勿論婚姻すら行う予定は無い。国民の不満を抑える為、花嫁達は魔王への献上品扱いをする。ステラ達の様に妻では無い、物扱いだ。
「地下に通すとはどういう事だ!このお方はアグレスト公国の公女であらせられるぞ!」
「此方もオルテア連邦の国家元首の御息女だぞ!何だこの扱いは!」
花嫁の側近達が騒ぎ始めた。一団の前にメフィストが立ち一喝する。
「黙れ!貴様らは所謂人質だ!大人しく従ってもらう」
「「なっ!?人質!?」」
「何を馬鹿な事を!いいのか?このままでは国家間の争いになるぞ!」
魔王の間に緊張が走る。しかし側近達は次の瞬間声を失う、眼の前に魔王が現れたからだ。ルークは悪魔の姿に変わっていた‥その姿は正に憤怒の化身、見たものを震え上がらせる異形の姿。配下の者達も初めて見るその姿でわからせる、お前達は逆らえないと‥
「あっあっ‥バケモノ‥バケモノだあぁぁぁぁ!!!」
「助けて!死にたくない!!」
「こっ殺される‥助けて‥神様‥」
ある者は気絶し、ある者は失禁しその場に倒れる。花嫁2人もブルブル震えている。ルークはゆっくりと玉座に座る。
「よく来たな‥見て分かるな?俺が魔王ルークだ、花嫁達よ‥」
(ん?あの一際大きな竜人‥確かルイ商会の‥)
3人はピクリとも動けない、ルークの存在感に目を逸らせない。するとメフィストが花嫁達に命令する。
「お前達いつ迄突っ立っている!魔王の御前であるぞ!」
「「はっはい!」」
3人は魔王の前に跪くと、黒髪のお淑やかな20前後の女性が自己紹介を始めた。
「あっアグレスト公国から参りました、こっ公女シーラと申します」
続いて赤髪の女性が怯えながら。
「オルテア連邦元首の娘メリッサです‥」
最期に見上げる程大きな竜人の女性、230cm以上はある。女性はルークに見惚れていた。
「次!挨拶はどうした!」
メフィストが声を荒げる。
「わっ私はルイ商会、会長ルイの娘カーラ、ルーク様お久しぶりです」
ルークはメフィストを呼び小声で確認を取る。
(おい!ルイ会長の娘が居るなんて聞いてないぞ!怖がらせちゃっただろ!)
(直前に変わったと報告致しましたぞ!)
(しっ仕方ない‥取り敢えずコレだけ怖がらせたら大人しくなるだろう)
「お前達を俺の側室に置く、簡単に壊れるなよ?」
「ひっ!嫌‥嫌よこんなバケモノのなんて‥帰りたい!」
「お願いします‥お許しを‥慈悲を‥」
「メフィスト付き人達にも部屋を与えよ、大使館は遠かろう」
「はっ!直ちに」
側近達は青ざめた顔で次々と帰国すると言い出した。
「そっその‥我々は国へ戻り報告する義務があります、花嫁は確かにお送り致しました、こっ今後の国家間の交渉はなっ何卒宜しくお願い致します」
「何だ帰るのか?つまらんな‥」
「もっ申し訳御座いません‥そのお気持ちだけ有り難く頂戴させて頂きます」
側近達は足早に城から脱出する。恐怖から逃げるように3人の花嫁だけ置いて行った。
「花嫁達を部屋にお連れしろ!丁重にな」
「待て、カーラ‥お前が最初だ俺の部屋に連れて行け」
「はっ!」
ルークの部屋
カーラが部屋に通された。ルークが後から部屋に入るとカーラは覚悟を決めていた。
「ルーク様、わっ私がっ頑張ります!」
「すまないな驚かせて、メフィストも入れ!」
「はっ!失礼致します」
「えっ?メフィスト様も一緒に‥そっそんな!ルーク様それだけは!」
「落ち着けそうじゃない!お前に話があるんだ」
「はっ話?」
ルークは人間の姿に徐々に戻ると、カーラに謝る。
「まさかカーラが居るとは知らなかったんだ、驚かせて済まなかったな‥アレは演技だ邪魔な奴等を引かせるためにな」
「‥効果てきめんでしたね」
カーラは椅子にへたり込むと見えない様に下を向き、ニヤニヤと笑っていた。
(どうしよう‥思い出しちゃった、カッコイイ‥やっと見つけた!)
「メフィストあの顔触れ見ただろ?外交官に紛れて技術士官が居たな」
「はい、此方の調査通りでした」
「ルーク様あの人達を追い払う為に、あの姿になったのですね」
「後の2人にもそれとなく伝えないとな‥ああ〜面倒臭い」
「2人は怯えさせたままで良いのでは?恐怖で此方を探る気にもなれますまい」
メフィストは放って置く事を提案するが。
「いやいや‥可哀想だろ、恐怖で狂われても困るぞ?」
「狂った方が都合が良いですな」
「駄目だ、それなら逆に此方のスパイとして手懐けるぞ」
「ルーク様甘過ぎますぞ!」
それから暫くメフィストと話し合い、残りの2人に取り引きを持ち掛けて此方に取り込む算段をつける。
「それでは失礼致します!」
メフィストが部屋を後にする。
「あ〜疲れた、慣れない事をするもんじゃ無いな」
「あの‥私はどうすれば?」
カーラが座ったままルークを見ている。すっかり忘れ去られていた。
「そうだったな‥どうするカーラ?呼んだ手前返すのも変な噂が出そうだし‥ここで休んで行くと良い、安心しろ何もしないよ」
「えっ?私は嫁ぎに来たんですよ!それとも私が竜人だからその気になれないのですか!?」
「覚悟は決まってるって事か‥」
「はい!あっ‥側室の件は父様に説明しないと」
「それならメフィストが手配してる筈だ、それにカーラは特別扱いする俺の一存でな、ルイ会長の娘だからな‥それと話し方だが普段通りでいいぞ?疲れるだろ」
「えっと‥良いのか?母様から釘を刺されたんだけど‥」
「疲れるだろ?それに似合わないぞ」
椅子に座っているカーラは脚をガニ股に開き、上着を脱ぎ捨て背もたれに体を預ける。
「いや〜助かる〜、肩が凝って仕方がなかったんだ‥あぁ〜楽になった」
「公の場以外では普段通りで大丈夫だ、これから宜しくな」
それを聞いたカーラは安心すると、服を脱ぎ始めた。
「良し!ルーク様やろうぜ!どうだ?この筋肉凄いだろ〜」
竜人のカーラは身長約240cm、竜人の中でも飛び抜けて大きく筋肉質でルークにとって初めて見るタイプだ。
「美しい‥戦士の身体つきだ、かなり鍛えたな」
「ずっと冒険者やってたからな、ほら」
ルークはカーラを抱きしめるが、178のルークが子供に感じるサイズ差。
「ハハッ!デカいな不思議な気分だ」
「ルーク様‥えっ〜と‥」
「どうした?」
「悪魔の姿になってくれ!」
「駄目だカーラを壊してしまう」
「だぁ~そこら辺の女と一緒にするな!アレが良い!」
突然の癇癪にルークは驚くとカーラの顔を見て察した。
「アレが好みなのか?」
「‥」
カーラはコクリと頷く。
「だっ誰にも言うなよ‥」
カーラは自分の嗜好の話を独白する。体の小さい者では満足出来ず、冒険者をしていたのも自分より強く大きな者を探す為、しかしその中で自分より巨大な相手は魔物のみ‥段々と魔物に興味が湧き、少しずつ歪んでいく自分を感じながら苦悩の日々を過ごしていた。そして今回はそれを唯一知る母親に半ば強制的に嫁がされた。
(魔物はマモンが生殖機能を無くして生産している、それのお陰で道を踏み外さなかったのか‥)
「そうだったのか‥それは辛かったな、よく耐えたな偉いぞ」
「今のルーク様は私の理想そのものなんだ!」
「なら期待に答えないとな‥カーラよりデカくなってやろう」
ルークの姿が変わっていく‥より大きくより逞しく。
「カッコイイ‥それに‥うわっ‥凄い」
「ほら試しにその牙や爪で噛んでみろ、俺は強いぞ」
カーラは思いっきり首に噛み付きルークの体を引っ掻く。
「かった〜傷一つ付かないや」
「そらっ!コレも初めてだろう?」
ルークはカーラをお姫様抱っこをしてベッドに運ぶ。
「嘘!夢みたい!アハハ!」
カーラは初めての体験に子供の様にはしゃぐ。
「お前は特別だ他の奴等には内緒だが、俺は妻として扱う、宜しくなカーラ」
「ああ!」
(この子も幸せにしないとな‥歪む前に出会えて良かった)
その日の深夜 武装都市マーロ
バアルはロザリーを魔法で眠らせ優しく包むと、出発を待つベータ達と合流した。
「それは?ロザリーさんを結界で包んでいるのか?」
「ああ、ロザリーが寝てる間に森を抜ける‥それにこれからやる事を見せたくはない」
「んん?何かやんのか?」
バアルの顔が初めて怒りに染まる。その殺意の凶悪さにベータ達は身構えた。
「どういうつもりだ!!」
「落ち着け、お前達では無い‥この街の奴等にだ!俺のロザリーを誰も助けなかった!3年間誰1人としてな‥その罪その罰を受けてもらう」
「おい‥何をする気だ‥」
バアルは城壁に手を翳すと‥
「さあて‥何人生き残るかな?カッカッカッ!!!」
自分達の出る南門以外の城壁に向けて魔力を撃ち込んだ。
「デッドリースクライド!!!」
巨大な魔力の渦が地面を削りながら飛ぶ! ゴゴゴゴゴゴ!!! 轟音と共に3方向の壁が吹き飛んだ、それと同時に街を包んでいた結界が消失する。
「おい‥何やってんだ!魔獣が雪崩込んで来るぞ!」
バアルの顔が醜く歪む、満足そうに嬉しそうにニタニタと‥
「さあ行くぞ、俺の気は済んだ」
街が一瞬で地獄と化した‥轟音で集まった魔獣達が押し寄せる、辺りは混乱と叫び声で埋め尽くされる。
「たっ助けないと!」
カッパが動こうとすると。
「助ける?誰を?」
バアルの殺意がカッパに向く‥動けば殺すと警告していた。
「ぼさっとするな、行くぞ!」
「クソッ‥胸糞わりぃな‥」
ベータに促された4人はバアルと共に南門から外に出る。夜の森に木霊する助けを呼ぶ叫び声を聞きながら‥
スローン城 地下研究所
研究所にオルスが訪ねて来ていた。受付に話をするとエレベーターで研究室に降りてきた。
「こんばんは、お邪魔します」
研究室ではドレイクが1人作業をしている。
「ん?珍しいねオルスが此処に来るなんて、何かあったの?」
「お母様に頼まれてヒルデ様の診断書を持って来たの、そろそろ準備してって言ってた」
オルスは診断書を手渡すと、ドレイクはそれに目を通す。
「ホントだ‥来週には産まれそうだな、ありがとう準備しとくよ」
(??ドレイクだよね‥魔力も姿も本人だけど、何か違和感がある、誰?この人‥)
「それじゃ帰るね、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ドレイクがモニターに振り向いた瞬間!オルスは気配を殺したままドレイクの首を跳ねた。
「アレ?外した‥」
ドレイクはギリギリの所で躱していた。2人は距離を取り睨み合う。
「いきなり何するの?気でも狂った?」
「貴方誰?ドレイクじゃないよね?」
オルスは両腕に白い炎を纏う。ケルベロスの黒炎とは真逆の力、狙った相手のみ燃やす選別の炎。
「僕はドレイクだよ、信じられない?」
「違うわ、別人ね‥何時も見てたから分かるわ」
ふ〜っと息を吐きドレイクは両手を上げる。
「分かったオルスには話すよ、唯此処では話したくない、僕の部屋に来てくれるかな?」
「どうして?」
「この部屋は記録されてる、誰にも聞かれたくない」
「マモン様は今何処に?」
「父さんなら母さんとラブラブ中だよ、3人目が欲しいって母さんが張り切ってたからね」
会話も返答も普段のドレイクだ、だがオルスには何かが引っかかる。
「いいわ部屋で話しましょう」
オルスはドレイクの部屋に入ると‥その異様な光景に驚く。部屋は荒れていた、壁は傷だらけ。
「驚いた?酷い部屋だよね」
「何があったの?」
「最初は酷かった‥あの女に弄ばれたトラウマで心がズタボロになっていたんだ、今は落ち着いたけどね」
「あぁ‥そうなのね貴方も苦労したのね」
「えっ?」
オルスが核心を突く。
「今の心は女の子なのよね?」
「どうして‥どうしてわかるの‥」
レヴィアタンに植え付けられた強烈なトラウマでドレイクの心は2つに別れていた。
「わかるわ、私はどちらでも無いから」
「どちらでも無い‥まさか!」
「そう私両性だから、生まれつきね」
「でもデータでは女性だって」
「知ってるのは私の両親とマモン様だけよ」
2人は椅子に座りお互いの話を語り合った。2つの心を持ったドレイクと、どちらか自認出来なく曖昧になったオルス。
「フフ‥私達似た者同士ね」
「嬉しいよ本音で話せる相手が見つかって!」
「ねぇドレイク、私と結婚しない?私なら貴方を傷付けない、両方愛せるわ」
「僕で良いの?こんな僕で‥治るかわからないのに」
「治さなくていいよ、在るが儘‥お父様が言ってた我慢するなって、性は他人が決める事じゃ無いよ自分で決めよ?」
ドレイクは涙を流す。不死の王になっても心迄は不死にはならない、心は誰にも理解されなければ死ぬ可能性がある。
「オルス、僕と結婚して欲しい!」
「はい!‥知ってた?私が小さい頃から貴方を見てたのを」
「そうか‥それで僕の小さな変化に気が付いたんだね」
「何となくだったけどね」
「嬉しいよ!本当に、ありがとう‥」
2人は確かめ合う様に抱きしめる。誰にも言えない秘密を抱えた、運命とも呼べる出会いに2人は感謝していた。




