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世界に嫌われた者


       翌日 ヘクトール邸


「フゴォ〜!フゴォ〜!」


 大きなイビキをかきながら、ヘクトールは気持ちよさそうに眠っていた。


「おお〜い!ヘクちゃん!朝だよ〜!」


 リリスはペチペチと頬を叩く。


「ンガッ!んん〜?」


「あっやっと起きた〜ヘクちゃんおはよ」


 ヘクトールは必死に目を擦る。


「あああ!!夢じゃない!やっぱり夢じゃないリリスたんだ!」


「は〜い、貴方のリリスたんですよ〜」


「くうぅぅぅ!昨日のアレも夢じゃない!フヒッフヒヒ」


「も〜何時までニヤけてるの、今日は大事な着任挨拶よ!ほら〜朝ご飯食べたらビシッと決めるわよ、さっさと起きなさい!」


 ヘクトールはモジモジして出てこない。


「あっ‥ちょっと待って!」


「だ〜め!」


 リリスが毛布を剥ぐと‥ヘクトールは恥ずかしそうに顔を押さえる。


「あらまっ‥おじさんなのに元気ね〜」


「ごめんなさい‥」


「アハハハハッ!恥ずかしがらなくていいの!元気で宜しい!」


 ベッドから出ると2人は部屋着に着替える、ヘクトールはリリスの着替えをチラチラ横目で見ていた。


「フフ‥そんなに気になる?昨日散々見たのに?」


「だって、凄く可愛いから!」


「ありがと!でも約束して、うちを「たん」と呼ぶのも、いやらしい目で見るのも2人でいる時だけだって、守れる?」


「やっぱり‥やっぱり僕と居るの恥ずかしい?」


「ちが〜う!公私混同しないって事!誰かが居る時は騎士団長、うちと居る時は何時ものヘクちゃんって事!うちはヘクちゃんのカッコイイ姿が見たいな〜」


 それを聞いたヘクトールは頬を叩き気合を入れる。


「よ〜し!僕のカッコイイ所見てて!」


「今日は聖剣の授与もあるから、これからは体や剣技も鍛えないとね!」


「えっ‥剣技はちょっと‥ほら銃があるから!」


「パパに頼んだのよ?デュランダルが欲しいって」


「ええ!デュランダルが僕に!?‥頑張ろうかな‥」


「うちも手伝うから頑張ろ?」


「うっうん!」


 ヘクトールは部屋から出ようとしてドアノブに手を掛けると、その場に留まる。


「ん?どしたの?」


「リリスたん‥イヤ、リリスさん!僕だけを見ててね!」


「つまんない男になるなよ〜」


 リリスがヘクトールの両頬をグリグリ突付く。


「はっはひ!がんはりまう!」


       スローン城 王の間


 聖剣の授与式が行われる王の間に、大臣達に騎士団の各隊長や前団長ブリュンヒルデの姿があった。


「ヘクトール、おめでとう騎士団を宜しくね」


「ブリュンヒルデ様!ありがとう御座います!任せて下さい僕が騎士団を‥ん?」


 ヘクトールは辺りをキョロキョロと見渡す。


「どうしたの?」


 するとヘクトールは団員に対して命令する。


「お前達!ブリュンヒルデ様の椅子を御用意しろ!お体に差し障ったら大変だ!」


「はっ!」


「あら、ありがとう‥フフフ何だか頼もしくなったわね」


 ヘクトールはグッと決め顔をする。


「僕も、もう一人じゃありませんから!」


(リリスさんは本当に男性の扱いが上手いわね)


 授与式も順調に進んて行く。


「これなる剣は王より賜わった聖剣デュランダル、前任者ブリュンヒルデを勝利に導いた勝利の剣、見事使いこなして見せよ」


 本来ヒルデに授けられる筈だったが、リリスのおねだりでヘクトールが受け継ぐ事になった。代わりにヒルデには聖剣フラガラッハが与えられた、デュランダルに勝るとも劣らない聖剣だ。


       城内広場 騎士団 一同


 ヘクトールの就任挨拶も終わり。空席となった部隊の再編や副団長の指名が行われていた。


「副団長はファリス!君に任せたい!」


 それを聞いた団員達は驚きを隠せない。ざわつきが収まらない。


「ファリス!登壇して挨拶を!」


「あっあの、自分なんかで良いのでしょうか?」


 他の団員達も納得していない様だ。するとヘクトールが団員達に説明を始める。


「ファリスの書いた論文、銃火器による新戦術と新たな部隊構成は、これからの騎士団に絶対に必要だと僕が判断した!速やかな指揮を取るためファリスを副団長とする!」


 ヘクトールは戦術論を読むのが趣味だった、以前からファリスの才能に目を付けていた。


「しかしヘクトール様!彼女は地方領主の娘、田舎者に副団長の座は相応しくありません!せめて補佐に」


「駄目だ!補佐になると上申する度に副団長の審査がある、何度も再考された案など見るに耐えん!疑義があるならファリスより優れた案を出せ」


 団員達は黙る。戦術論など普通の兵士は学校で習う基礎しか知らない。対案など出せる筈も無かった。


「よし!ファリス挨拶を、お前で決まりだ!」


「はっはい!」


 異例の抜擢だが、この登用は騎士団に革新をもたらす事になる。ヘクトールの嗅覚は本物だった。


         同日 焔の里


 ディアス達は焔の里に留まっていた。パイモンの提案でディアスの改造をしている。


「こんな所かな?ハハハ!凄いね〜もう継ぎ接ぎだらけでキメラだよ〜」


「これでもうメンテナンスは必要無いけど‥これじゃあ」


「拙者達は同罪だ‥集めた臓器もパイモンが攫った者達だ‥」


 毎日メンテナンスが必要なディアスは旅の足を引っ張る。その為にパイモンの能力「異種配合」で人間や亜人から、臓器や筋肉を生体ユニットと入れ替えた。


「骨格はヒューマノイドのフレームのまま、他は全て元通り‥継ぎ接ぎだらけなのを除いてね‥」


「これでメンテ地獄ともおさらばだね〜」


「直ぐに目覚めるのか?」


「脳内の制御装置も外したから、わからないわ‥」


「まあまあ、ゆっくり待とうよ〜」


 夜も老け各自部屋に戻る。勿論ファイとパイモンは同部屋だ。


「ねぇパイモン?これからどうするの?」


 ベッドでパイモンの腕枕に横になるファイ。


「ん〜ファイはどうしたいの?」


「別に‥望んで旅に出た訳じゃ無いから」


「なら私の手助けをしてよ」

「手助け?」

「妖精の森にある異界の門を開ける、それが私の目的」

「貴方と一緒なら何処でもいいわ‥」


 パイモンはファイを優しく撫でる。


「後でデータベースにあった妖精の森の入り口を教えるわね、2人で行く?」

「イヤ‥ディアスとドクも使おう、もしもの時囮にもなる‥」

「どうやって2人を誘導するの?」

「そこなんだよね‥ディアスは妖精の森に魔王と戦える聖剣があると言えば簡単に騙せそうだけど」


 問題はドクだ、下手をすると自分が取りに行くと言い出しかねない。


「ファイ僕の言う事聞ける?」


「私に出来る事ならなんでも」


「ドクを誘惑して君の虜にして欲しい、出来るよね?」


「‥もし断ったら?」


「ここでサヨナラだね、私は一人で探すよ最初からそのつもりだったし」


「わかった‥やります‥」


「ハハッ‥大丈夫、今の君に落とせない男は居ないよ、私が保証する」


 パイモンは妖精の森を探しながら、このパーティーを滅茶苦茶にする最初の目的も忘れていない。あくまで自分が楽しめる選択をする。


(先ずはコイツらを滅茶苦茶にしてやる!苦しみ悩んで絶望しろ!)


         翌日 夜


 ディアスはまだ目を覚まさない。パイモンは改造に問題があったように見せかけディアスを付きっ切りで様子を見ると言い、ドクとファイを無理矢理同部屋に押しんだ。


「待つんだ!?何故拙者達が同じ部屋に」


「仕方がないよ、この宿も大きくないから1パーティーで2部屋までって言ってたし」


「ファイはよいのか?」


「良いよドクなら」


「なっ!駄目だ駄目だ!拙者は野宿をするぞ」


 ファイが立ち塞がる。


「何を考えておる!!」


「何って?‥ドク指名手配犯でその性格だから、随分ご無沙汰なんでしょ?」


「いい加減にせんと本気で怒るぞ?拙者には国に妻も子もおる‥それを‥」


 痺れを切らしたパイモンが部屋を結界で包む、本能を刺激する強烈な興奮作用のある魔法を使った。


「はぁはぁ‥何だ?拙者に何をした!」

「何も?それよりホラ、見て‥」


「拙者は拙者は!くっ‥クソッ!うぐぐ‥はぁはぁ‥駄目だ駄目だ!」


(ドクの精神力凄いね、コレに抗うなんて流石だよ‥ファイ聞こえる?最期のひと押しだよ)


 ファイはドクに抱き着くと唇を奪い押し倒す。ドクの我慢は遂に限界を超える。


「もう知らん!どうなっても知らんぞ!はぁはぁ‥女だ、久方ぶりの女だ!」


 ドクは今まで溜めていた全ての欲望を吐き出す。それを覗きながらパイモンはゲラゲラと笑い転げている。


「アハハハハッ!ドク〜そんなに我慢してたの?存分に楽しんでね、ファイは私がしっかり躾けたからね」


(あぁ‥楽しくなって来た!ディアスを起こすのはもう少し後にしよう、先ずはドクを落としてからだ)


 暫くしてパイモンの興味が薄れ興奮の魔法が切れかかった頃、ドクにキスを強請ったファイは耳元で囁く。


(ドク‥そのまま続けながら聞いて!)


 ドクはハッと我に返る。


(拙者は何を!?)

(駄目!バレちゃう!)


 離れようとしたドクに抱き着き、頭に手を回すと胸に押し付ける。


(ドク話を聞いてお願い!)

(んっ!話?)

(全てパイモンが仕組んだ事なの、お願い力を貸して!)

(なら今直ぐ‥)

(駄目!覗かれてるの動かないで!)

(では、どうすれば‥)

(今は私を抱いて、必ずチャンスは来るから)

(しかし!?)

(私なら大丈夫、ドクとなら良いよ)

(すまん!この責任は必ず取る)



        4日後 朝


 漸くディアスは目を覚ます。パーティーが滅茶苦茶になったとも知らず。


「ディアスおはよう、漸くお目覚めね」


「俺はどのくらい寝てたの?」


「大体3週間かな?大変だったのよ街からお医者さん呼んでくるの」


 ディアスを騙す為に、高熱で倒れた事にし記憶が曖昧なのは軽い記憶障害だと説明した。勿論医者は金で雇った偽物だ。


「ディアスよこれからの事なのだが‥」


「それは僕から話すよ〜ディアスが魔王を確実に倒せる様に強い聖剣が必要だと思うんだ〜」


「聖剣!何か宛があるのか?」


「なんでも〜妖精の森に隠された聖剣があるんだって〜知ってた〜?」


「いや‥初耳だよ、妖精の森か」


「先ずは僕達が強くならないとね〜今のままだと絶対に勝てないよ〜?」


 ディアスは戦力の確認をする、ドクは申し分ない‥ファイとパイモンは未知数、自分は女神から授かった力がある‥が確かに強い武器はあって困ることは無い。


「俺だけじゃなく2人の強化も考えないとな‥妖精の森探してみるか」


「それならば善は急げだ、明日にでも出発する準備は出来とるぞ」


「何処に向かうんだ?」


「北西の小国グランドールに妖精の森の入り口、四季の森がある、そろそろ入り口が移動する頃だが‥間に合えば直ぐに妖精の森だ」


「分かった明日出発しよう、皆もそれで良いね?」


 3人は頷いた。 その日の夕方、久しぶりに4人で食卓を囲む、にこやかに談笑しながら後ろめたい感情にドクは後悔していた。


(拙者はディアスを裏切った‥何と言う事を‥)


「ディアスこれ美味しいよ!飲んでみて」


 ファイが飲物を手渡す。綺麗な琥珀色の飲物だ。


「うわっ綺麗だね!んんっ美味しい!」


「でしょ?」


 根暗だったファイはもう居ない、演技も1人前に熟す女狐に成長していた。食事を終え各自部屋に戻ると、明日に備え早めに休む事になった。


「ふあぁぁ〜!何だかもう眠たいよ、長い間寝てたのに‥不思議だな、ドク先に寝るねおやすみ」


「ああ、おやすみ」


 隣のパイモン達の部屋。パイモンは最悪な選択をファイに命令していた。


「さあ、いよいよだ!ディアスの眠る部屋でドクとやるんだよ‥フフッ‥ドクの武人としての誇り!尊厳を徹底的に破壊するんだ!」


「そんな最悪な事を‥酷い」


「ん?拒否権は無いよ?さあ早く行ってきなよ‥ドクは毎日君の相手をしてもう骨抜きだよ、絶対に抗えない」


 2人の話す後‥開いた窓からドクが覗き込む。ファイを送り出そうと窓に背を向けたその時!ドクは必中の魔剣を投げた。


「ホラホラ、早く行ったいっ‥」


 ドスッ!! 後頭部から魔剣が突き刺さりパイモンはその場に倒れる。


「やったか?」


 ドクは部屋に入ると、トドメとばかりにパイモンの首を切断し心臓に剣を突き立てた。


「これで死んだ筈だ」


「ドク!ドク!ありがとう!やっと開放される!」


 ファイはドクに駆け寄り抱き着いた。これで悪夢の様な毎日から開放されると涙を流す。


「もう大丈夫だ、よく耐えたな」


 2人が抱きしめ合い安心した一瞬の隙を突き、パイモンは窓に飛び退く。頭の無い体で普通に動いていた。


「なっ!?何故動ける!?」

「何で!?頭と心臓をやられて何で生きてるのよ!」


 バキッバキ!グシャ‥グシャ‥ 骨を砕き肉を裂き女性の背中から小柄な少女が出て来た。


「残念でした~本体はこっちなの!じゃあね〜!!」


「逃さん!!」


「無駄だよ!「ブラックミスト」!」


 部屋を黒い霧が立ち込める。あっという間に部屋は闇で包まれた。


「ドク追って!」

「駄目だ!今出たら狙い撃ちにされる!」


(アヤツがこの魔剣を見たのは一度だけ!一度で魔剣の弱点を見抜いたのか!?)


 ガシャン! 隣の部屋の窓が割れた音がした。


「ディアスを?何故!?」


 ファイは後の扉からディアスの部屋に向かう。それと同時にドクは窓から飛び出ると軒を掴み屋根に上る。


 ガシャガシャ! ファイは施錠されたノブに手を掛ける。その音を合図にパイモンは窓から飛び出した。


「逃さんぞパイモン!!」

「ハハッ!投げれる物なら投げてみろ!」

「うっ卑怯な‥これではディアスに当たる‥」


 小柄なパイモンは魔剣対策にディアスを背負い飛ぶ。ディアスで覆い隠されドクはパイモンを視認出来ない。


「お客様!大丈夫ですか!」


 窓の割れた音で従業員達が集まってきた。飛ぶ事の出来ない2人は追撃を諦めるしか無い。


        それから数時間後


 逃げ延びたパイモンは森に降り立つ。ディアスを投げ落とすと、イライラしながら地面を蹴る。


「クソッ!もっとファイを調教しておけば!従順な振りをしていたなんて、あの女狐め!」


 パイモンは頭を掻き毟る。


「あぁ〜つまんない!楽しい玩具が無くなっちゃったよ‥残すはこの出来損ないか」


 ディアスを見ていたパイモンは次の面白そうな事を考える。この出来損ないで何か出来ないかと。


「そう言えばコイツ魔王の息子だったよね、指名手配犯ってファイが‥確か妹からも命を狙われてる‥ベルゼブブが言ってた、魔王の娘は簡単に子供を産めるって‥」


 パイモンの顔が醜く歪む。最悪で醜悪な作戦を思い付く。


「コイツを被って魔王の娘を誘い出そう!魔王の娘に沢山子供を産ませて悪意を世界中にばら撒くんだ!ハハハ!まだまだ楽しめそうだ!」


 ブスッ! パイモンはディアスの脳に指を突き刺す。能力「異種配合」でディアスの体にズブズブと潜り込む。


「さよならディアス‥恨むなら親殺しをした自分を恨みな、君は世界に嫌われてるんだよ」


(見ててルシファー様!私が世界を滅茶苦茶にする所を!)


 カマキリに寄生するハリガネムシの様にパイモンはディアスを操る。何も知らないまま眠るようにディアスの魂が消失した。



 その後ファイとドクは部屋で2人、話をしていた。


「ドクはこれからとうするの?」


「行く宛もないが‥それより大事な話がある、ファイお主を守りたい守らせてくれ」


「‥その顔本気なのね、それなら私と一緒に聖地に行こ?魔王ともそのうち戦えるよ」


「本当か!?それなら好都合だ!」


 ドクはファイを抱き寄せる。


「ファイよ拙者と共に居てくれんか?」

「それは私への償い?」

「それもあるが‥お主は幸せになるべきだ、拙者に出来ることをさせて欲しい」

「ドクは大丈夫だよね?」

「ああ、利用したり1人にはしない!」

「信じて良いよね?」

「もう大丈夫だ、お主の敵は拙者が全て斬る」


 ドクは震えるファイを優しく撫でた。


 その後聖地に帰還したファイは、ドクをナンバーズに参加させる事をアルファに願い出る事になる。


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