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経験の差



    戦勝パーティから2週間後 ルークの部屋


 朝を迎え1人の女性が朝食の用意をしていた。


「これで完成、そろそろ起こそうかしら」


 ベッドで眠っているルークの頬を撫でる。


「ルーク様起きて下さい、朝ですよ」


 ルークは勿論起きている。ここ最近は深く眠った事が無い‥見えない敵パイの存在がプレッシャーになっていた。


「おはようヒルデ」


「おはようございますルーク様、簡単な朝食を用意しました、召し上がりますか?」


「ああ食べようか、それと2人の時に様は要らない」


「私は妻では無いので流石に呼び捨てには‥」


 ブリュンヒルデは少し戸惑っていた。


「それに一度で妊娠するなら、何も2週間も私の相手をなさらないでも良いのですよ?」


「子供が出来ました、はいさよならとは行かない‥大切な家族だ例え結婚出来なくてもな」


「お優しいのですね」


「そうかな?いただきます‥うっ美味い!いつも簡単な料理なのに凄いな!」


 彼女は嬉しそうに笑う。


「料理が趣味なので自信があるんです、フフ」


「なあ、聞いた話だから聞くか迷っていたんだが、騎士団に再登用される迄かなり荒れていたって本当か?」


 彼女はコクリと頷く。


「それは酷いもので‥自暴自棄になっていました、そんな時に魔王の話を聞いて掛けてみようと決心したのです」


「それでステラに直談判か」


 壁の鏡を見ながら話を続ける。


「それに、もうこんなオバサンですから男性からは見向きもされません」

「そんな事はない!俺は今のヒルデが好きだ!」


「あら嬉しい、あの‥これからも偶に会いに来てもいいかしら?」


 ルークは両手で抱きしめて答える。


「夫に会うのに了承は要らない、何時でも待ってる」

「ありがとう‥」



       客間 ルシウスの部屋


「ふあぁぁ〜もう朝か」


 ルシウスは引き籠もりのリハビリも兼ねて義母に付いて来ていた。


 コンコン! ノックの後1人の紳士が入って来た。


「失礼致します、ルシウス様おはようございます」


「爺や、おはよう」


「今日はヒルデ様のお帰りになる日、ルシウス様も準備は宜しいですか?」


「ああ、荷物はもう纏めてるよ、今日で帰るんだよな」


 執事の老人がテーブルにカードを置く。


「これは?」


「勝手ながら‥リリス様とオルス様に午後迄時間を作って頂きました、ルシウス様後悔のないようお過ごし下さい」


 引き籠もりってからもずっと面倒を見ていた執事だからこそ、今回の出会いを逃すなと背中を押す。


「僕なんかで釣り合うのかな?心がザワザワするよ‥嫌われたらどうしようって」


「ルシウス様、ヒルデ様の教訓を覚えておりますか?」


「あれだよね「3つの教え」覚えてるよ、でも恋愛でも使えるの?」


「勿論で御座います、あの教えは全てに通ずるものです」


1 「努力」を怠るな

2 「才能」を磨け

3 「結果」に拘るな


 この3つの内 2つが当てはまれば評価される、1つなら評価が落ちるブリュンヒルデの教訓だ。


「才能を持ち努力すれば結果が悪くても評価される。才能が無くとも努力と結果で納得する。努力しなくても才能と結果で納得させる。成功へのプロセスだよね」


「その通りです、努力も才能も無い者が結果を出しても、「運が良かった実力では無い」「忖度だ買収だ」と陰口を叩かれます」


「真理だと思うけど‥これ恋愛に当てはまるの?」


 執事は頷くと3つの教えを言い換える。


「捉え方次第ですよ「努力」を「自分磨き」に「才能」を「駆け引き」に「結果」を「デート プレゼント」に置き換えるのです」


「なるほど?‥爺や少し無理矢理な気がする」


「ゴホンッ!ルシウス様、このチャンスを逃してはなりません、また部屋に籠もるのですか?」


「やっと変われそうなんだ、じゃあ行ってくる」


 執事はルシウスを見送ると感慨深く窓から空を見上げる。


(心に傷を負ったルシウス様にやっと立ち直るチャンスが訪れた‥本当に長かった‥)


 ルシウスは7歳の頃にブリュンヒルデと出会い好意を寄せていた、しかし彼女は既に2回離婚しており荒みきっていた‥子に恵まれなかった彼女は11歳になったルシウスを養子に、好意を寄せた女性が母になりルシウスは引き篭もると更に事態は悪化。彼女はやはり実子が必要だと20歳の若い婿を取る、この事が切っ掛けで更に家庭事情が複雑に‥結局は1年で破綻し5年経ち現在に至る。


「今のヒルデ様は本当に幸せそうだ、ルシウス様も前を向かれた‥良かった本当に良かった‥」


 執事の眼から涙が流れた‥



       スローン城 会議室


 定例会議が行われている、ルークが久しぶりに顔を出した。


「入るぞ、何か変化はあったか?」


 ルークが部屋に入るとみな椅子から立ち頭を垂れる。


「座ってくれ、現在の情勢を聞きたい」


 メフィストが現在の世界情勢を話し始める。


「戦争が終結し、各国にダンジョンでの足止めの必要が無くなったので現在は魔禍やダンジョンの生成は止めています。その結果スローン王国と友好国以外の国で冒険者が職を失い経済が破綻しかけています」


「そうか‥冒険者達の為に魔物だけでも各地に送ってくれ、それとダンジョンについてだが‥まだ教会が協力的なのは何故だ?」


「ミューに聞いた所、ヒューマノイドの強さは元になる魂の強さに比例する為、冒険者の育成は教会にも利があると」


「そういう事か‥それなら放って置くしか無いな」


「フローラ教の少ない地域にダンジョンを作るように手配します」


「勘付かれない様、慎重にな?」


「はっ!」


 1人の大臣が立ち上がり亜人達の今後の立場を明確にしたいと申し出た。


「貴族達からエルフやドワーフを奴隷にしたいと申し出があります、如何致しますか?」


「奴隷は却下だ、メフィスト貴族達を監視しろ奴隷取引や人身売買は見つけ次第殺せ」


「はっ!」


「ルーク様!エルフもドワーフも敗戦国なのです、それ相応の対応を!」


 ルークは大臣を睨む。


「女神が亜人を認めたのを忘れるな、全ての亜人を敵に回すつもりか?場合によっては全ての国から敵視されるぞ」


「うっ‥しかし!軍資金を出した貴族達に見返りが無ければ王国への不信に繋がります!」


 貴族達は勝てば好き勝手に出来ると思い込んでいた様だ。


「答えろ、そこ迄食い下がる理由は何だ?」


 別の大臣が答える。


「ドワーフ領の資源や人材の奪取、美しいエルフの売買、各領地の支配権、新たな君主、簒奪者達は飢えておる‥もっと奪いたいと」


「醜いな‥悪魔と何ら変わらん」


「人間の欲望は底が知れません‥」


 王国民の一部にも不満を持つ者が声を上げていると報告があった。


「わかった、5年いや10年その間エルフとドワーフを帰化国民とする、あくまで区別だ差別では無い勘違いするなよ?」


「それなら王国民の優位性が保たれましょう」


 続いて各勢力の動向が配下の者から伝えられた。天使 四騎士 女神の監視からの報告。


「天使の監視に当たっているサマエル様からです、旧魔王城の改装は進むも現地の浄化に梃子摺っている模様」


「続いて四騎士の監視、ケルベロス様からの報告では目立った動き無し‥女神の方は現在マモン様がミュー様からの技術提供で近い内に索敵可能になるとの事です」


「あの見えない奴も索敵出来るのか?」


「はい、かの者は味方にだけ識別信号を発しているらしく、その信号さえ受信出来れば見破るのは容易いとの事です」


 ルークの最大の懸念の1つに解決の見通しが立った。


「それの開発を急いでくれ、正直ずっと警戒しっぱなしで疲れていた所だ」


「はっ!最優先事項とします」


 ピピッ! 会議室に置かれた装置が鳴る。


「これは通信機だったか?」


「会議中失礼します、ルーク様シータ様がお呼びです。ライラ様の事で直接話したいと自室でお待ちです」


「すまない席を外す、メフィスト後は頼む」


「お任せ下さい」


 ルークは外に出るとシータの部屋に向かった。


 コンコン! 部屋の扉をノックし中に入る。


「入るぞ」


「お待ちしてましたルーク様」


 シータが椅子に座り待っていた。


「ライラは回復したのか?」


「はい、傷は完全に治りました問題は心の方です」


 シータの表情で察してしまった。


「目が覚めないんだな?」


 シータは頷く。


「そうか‥何か手は無いのか?」

「時間が解決するのを待つか強制的に起こすかです」


「強制的に起こすと何か問題があるのか?」


「恐らくディアスに斬られる瞬間を思い出す可能性があります、その場合精神的ショックでどうなるか」


 シータが今後の事を相談する。


「あの、私で良ければ暫くライラ様の姿になり、代わりを演じましょうか?」


「そこ迄させる訳には‥シータは本来の姿で生きるべきだ」


「残念ながら私に本来の姿は無いんです‥相手の望む姿になるので目覚めた時から誰かの理想の姿でした」


「なりたい姿とかは無いのか?」


 シータは少し考える振りをすると‥自分の欲望を叶える為に動き出す。


「貴方に愛されたい、だからライラ様の姿でも良いの‥それに今はライラ様と一心同体、本物と言えます」


「それで良いのか?シータとして愛されたく無いのか?」


 シータは首を振る。


「わかった、それならライラとして暫く代わりを務めてくれ、突然居なくなって不審に思われてるだろうからな」


(やったわ!これで私がライラに成り変われば魔王と夫婦になれる、「簡易同化」とはいえ時間を掛ければライラを完全に取り込める筈、先ずは記憶から頂くわ)


 シータはライラに姿を変えると、ルークに抱きつく。


「愛してるわあなた」

(絶対に離さない、あなたは私のものよ)


「あっああ、凄いな本当にライラだ」


「だって「本物」ですもの‥フフ」


 シータはルークをベッドに押し倒す。


「オイ!まだ昼だぞ!」

「良いじゃない、ずっと私が欲しかったんでしょ?」


 ルークはシータを起こす。


「調子に乗るな!流石に怒るぞ?」

「は〜い」

(時間はたっぷりある、私の「魅了」で虜にしてやる)


(この目見覚えがある‥昔のルナの目だ俺を騙す気だな、ライラは既に完治してると見るべきか、慎重に動くか‥先ずはミューをから同化を解かせる方法を聞き出さないとな)


 様々な経験を積んだ今のルークに隙は無い。



      ユーラ大平原 国境キャンプ


 ディアスは聖地に向かう為ユーラ大平原の入口キャンプに到着していた。此処から先は何処にも属さない広大な平原が続く、余りに広い為管理出来ずどこも領土だと主張しない。1年中強い風が吹き作物も育ち難く先住民族も殆ど居ない。


「そこの兄ちゃんまさか1人か??」


 キャンプで売店を営む夫婦から心配する声が掛かる。


「あんた1人なんて無理だよ、この大平原は歩くと1月は掛かる止めときなって」


「関係ない‥俺に構うな」


 ディアスは死んだ様な目で答える。


「悪かったよ!そんな目で見ないでくれ」


 ディアスは最低限の水と食料を買いコテージに戻ろうとしていた。


「あっ見〜つけた〜アレが器‥冴えない男ね〜」


 聖地に戻る途中に指令を受けたパイがディアスを探し当てていた。


(アレを更に絶望させればイイのね‥カイが作ったこの映像本当に悪趣味ね〜流石は「嫉妬」だけはあるわ)


 パイはディアスに声を掛ける。


「は〜ぁ〜い!貴方がディアスちゃんね〜?」


 ディアスは無言で剣を抜く。


「待って!待って!怪しい者じゃ無いわ〜」


「誰だお前は‥何故俺を知っている」


 パイは懐から手紙を出す。


「パ‥いえ私は前までラムダ達のパーティーメンバーだったのよ〜貴方の事は手紙で聞いていたわ〜」


「巫山戯るなよ?手紙だけで顔が分かるわけ無いだろ!」


「これよこれ、写真って言うのほら見て見て」


 パイは写真をディアスに渡すと、ディアスから涙が流れた。


「俺達が写ってるこれはどうやって?」


「私達は女神様から力を授かってるのよ〜新時代の力をね、科学っていうの」


「聞いたことがある、北の大陸で使われていた文明か?」


「それよりもっと凄いのよ〜」


 ディアスは納得し武器を収める。


「話は何だ?もう女神の事すら隠す気は無いようだが」

(最後の一押しをヤリに来たのよ〜貴方にはもっと壊れて欲しいからね〜)


「シータちゃんの事知りたくない?」

「!?」

「パッいえ、私の力で偵察してきたのよ〜その時に凄いの見ちゃって〜」

「不可能だ城に侵入は出来ない」


「私の力見せてあげる〜」


 パイはディアスの目の前で「疑似神隠し」を使った。


「なっ消えた?」


 消えては現れを繰り返す。


「どう〜凄いでしょ〜」

「わかったからヤメロ鬱陶しい」


 ディアスはコテージの扉を開けて中に入る。


「話は中で聞く」

「オッケ〜」


 パイは部屋のテーブルにディスプレイを置く。


「これは何だ?」


「記録した映像を流す機械よ‥先日取ったシータを映すわね〜」

(さあ絶望するのよ!)


 画面が光り映像が映し出される。そこにはルークに弄ばれるシータの姿があった‥


「なっ!!」


 シータの泣き顔とルークの笑みが交互に移り変わる、カイが作ったフェイク映像だ。


「クソッ!クソッ!クソォォォォ!!!」


(効いてる効いてる‥うふふ)


 パイは更に追加の映像を流す。


「ここからよ‥よく聞いてね」


 シータの顔がアップになる。


「ディアス‥助けて‥助け‥」

「アイツの事なんて忘れさせてやる!ガハハハ!」

「イヤ!もうヤメて!」


(不味い!笑い方がシグマのままじゃない!)


 ピッ! パイは直ぐに映像を切った‥次の瞬間。


 ドガッ!! ディアスは剣でディスプレイを叩き割っていた。


「殺してやる‥絶対に殺してやる‥」


(ん?気付いてない‥ラッキ〜)


「オイ‥お前はこの場所でただ見てたのか?その力で助けなかったのか‥」

(やっぱりそう来たわね)

「これは城に侵入させたカメラって機械から飛ばした映像よ?」


 パイは腕から超小型の虫型カメラを飛ばす。


「これに映像を取らせたの、流石に魔王には近付けないわ〜」


 超小型カメラの通信範囲は数メートルがやっとだがディアスには知る由もない。


「俺はどうすればいい?」


「女神フローラ様から力を授かれば魔王を倒せるわ〜」


「なんの力だ‥」


「フローラ様は貴方の母親よ?貴方は神の力を受け取れる唯一の存在」


「そうだ‥俺は女神の子‥」


 パイはディアスに手を伸ばす。


「私達はナンバーズ貴方を導く為に作られたの」

(魔王と違いホントに扱いやすいわね〜馬鹿で良かった〜)


 ディアスはパイの手を取る。


「アイツを殺せるなら何だってやる‥」


「ようこそ歓迎するわ〜」


 対照的な親子に驚くパイだった。




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