蠢く悪意
4ヶ月後王都
メフィストはルークの居るエキドナの私室に入る。
「失礼します、ルーク様エルフの国から使者が‥あっ‥」
「メフィスト見てくれ、大きくなっただろ?」
ルークはエキドナのお腹を愛おしく撫でていた。
「フフフ、マモン様の検査結果でどうやら男の子のようです」
「そうか男の子か!楽しみだ」
メフィストは窓の方を向きエキドナを見ないようにしている。
「メフィスト貴方もいずれ親になるのです、こんな事で恥ずかしがっていては今後大変ですよ?」
「そうだぞ、お前も‥」
「ゴホン!ルーク様エルフの国から使者が来ています、謁見を求めていますので準備をお願いします」
「ん?ステラじゃ駄目なのか?それに使者‥使節ではないのか‥」
表向きはこの国の王はステラだ、普通ならステラに謁見を求める。
「はい、ルーク様宛に国書があるとのことです」
「何かあるな‥ガブリエルも呼んでくれ、向こうの内情を知ってる筈だ」
「はっ」
王城地下 魔王の間
コツコツコツ、2人のエルフが玉座の前に進み膝を着く。
「お目にかかれて光栄です魔王様、エルフの女王フィオナからの国書をお持ちしました」
女性は懐から国書の入った箱を取り出し献上すると、メフィストが受け取りルークに渡した。
「これは‥なるほど」
ルークは読み終えるとメフィストに国書を投げた。
「なっ!いくら魔王と言えど無礼な!」
「黙れ、死にたいのか?」
メフィストの一声で緊張が走る。
「メフィスト声に出して読んでみろ」
「はっ!では要点だけ簡潔に‥」
メフィストは国書を読み上げる。
「1つ スローン王国との同盟を望む」
「2つ 現在侵攻中のドワーフ首都攻略戦に協力の準備あり」
「3つ 協力の見返りに不可侵条約の締結を望む」
「4つ 裏切らない証に女王の妹を献上する」
「5つ 同盟国内でのドワーフの奴隷化の推進」
メフィストが国書を畳むとルークはエルフの使者達を見る。
「何だコレは?全てお前達エルフの都合だけが書かれてるな‥ここまで酷いと笑えないぞ?」
使者は平伏し隣のエルフを前に出した。
「この方が女王の妹ドロシー様です、エルフの至宝と言われた美貌の持ち主!きっと魔王様のお気に召しましょう」
ドロシーと呼ばれたエルフはフードとコート脱ぎ姿を表す、その美貌に周りにいた近衛兵や配下の者たちの声が上がる。
「おお‥なんと美しい」
ドロシーは一礼しルークに挨拶をする。
「魔王様ドロシーと申します」
配下の者たちの視線がルークに集まるが、ルークの目を見た瞬間死を覚悟する。
「貴様ら浮かれるな馬鹿にされてる様なものだぞ?女一人で操れるとな‥」
魔王の間は静まり返った。
「はいはいそこまでよ、ルークも知ってるでしょ?エルフが傲慢なのを」
ガブリエルが手を叩き凍りついた空気を溶かす。
「貴女はルシア!?何故此処に?」
「久しぶりねドロシー」
「何だ顔見知りか、ガブリエルこの女が女王の妹なのは本当か?」
「ええ本当よ、私が保証するわ」
ルークは口元に手を当て考える。内容的には到底受け入れられない、此方の利が殆ど無いからだ。
「無駄にプライドだけが高い種族だから面倒だな‥まあ魔王らしくは振る舞うか、メフィスト此方から使節団を送るぞ」
「はっ!」
「この国の王はステラだ国書はステラに任せる、大臣達にもこの事を伝えエルフが降伏するような草案をまとめさせろ、それと‥そのエルフは見せしめに殺せ」
平伏していたエルフは出口に向かって走り出すが‥近衛兵達に取り押さえられた。
「お待ち下さい!殺すなら私を!」
「別に両方でも構わないそんなに死にたいのか?」
ルークの視線が冷たく光る。
「聞いていた話と違う‥魔王は女に弱く人間と変わらないと聞いていたのに!」
「それは合ってるぞ?大事な部分が間違っているが‥俺が甘いのは味方にだけだ、他国の事情や国民等知ったことではない」
「そんな‥では私は何のために」
ドロシーの顔が絶望に染まる。
「昔からエルフは空気が読めないから仕方がないわね、多分ルークのことはセシリアの研究データから見つけたんでしょ」
「そういう事か、なら情報が古すぎたな」
「ルーク様この女、如何致しますか?」
「人質として俺が預かる、ライラ達の話し相手くらいにはなるだろ」
ドロシーはルークに嘆願する。
「お願い!交渉が上手く行ったら私を妻に迎えて、エルフとの友好の証に!」
ルークは何も答えず魔王の間から立ち去った。
(ルナとの約束がある‥エルフの国は一度滅ぼすそれは絶対だ)
同日 スローン城内
(ん~~ふふっふ〜)
城内を歩く1人の男、ムキムキの全身タイツ姿‥異様な姿で歩いているが誰の目にも止まらない。
(パイ様のステルスモードは疑似[神隠し]誰にも見つけられないわよ〜ん)
音もなく魔力も使わず悠々と城内を歩く。
(あら〜〜い・い・お・と・こ!み〜っけ!)
パイは近衛兵の一人を捕まえ気絶させ、人気の無い場所に連れて行く。
(パイ様の掴んだものもステルスになるのよ〜便利だわ〜でも燃費が悪いのよね〜ではいただきま〜す)
パイの腹部が割れ巨大な口が現れると兵士をバリボリ噛み砕き飲み込んだ。
(あぁ〜美味しい〜食べる前に色々楽しみたかったけど仕方が無いわよね〜さて魔王ちゃんは何処かしら?)
パイは城の探索を進める、[神隠し]を再現した能力に誰も気が付かない。
(あら〜中庭に誰か居るわね?お腹が大きい‥そうかアレが妊婦ね〜パイ様が子供を産めない事への当てつけかしら〜お仕置きが必要ね〜)
中庭でエキドナが侍女達と寛いでいる。
パイは中庭で休むエキドナに近付き、その腹部を全力で殴ろうと構える。
(親子共々バイバ〜イ!!)
ガッ!!!エキドナの腹部に当たる直前パイの腕は何者かに掴まれた。
「えっ?」
「誰だか知らんが俺の大切な家族に手出しはさせん‥」
ルークがパイの右腕を掴み攻撃を阻止していた。ルークはそのままパイの右腕を握り潰し肩から引き千切る。
「ぐっ!?ああああぁぁぁ!?腕が腕が〜!」
パイは右腕を千切られ、のたうち回りステルスが徐々に剥がれていく。
「ん?コレは機械の腕か?オイ貴様‥何者だ」
「はぁはぁ‥その顔データにある貴方が魔王ね」
「死ぬ前に答えろお前の所属と名は?」
パイは左腕を前に出しルークを制止する。
「もう一人仲間が居るわ迂闊に動かない事ね〜」
「ハッタリだな俺の感知には何も引っかからない」
(化け物め‥正直に話すしかないようね〜まあ動揺した瞬間に逃げちゃうけど〜)
「名前はパイ様よ〜覚えて置きなさい、此処にはメッセンジャーとして貴方に会いに来たのよ〜」
その言葉にルークは苛つく。
「なら何故エキドナを狙った?」
(正直に話したら殺されちゃうわね〜)
「貴方に深く関係がある御方からの命令でね〜仕方がなくやったのよ〜」
「そいつは誰だ?まあ無理矢理にでも聞き出すが」
「それじゃメッセージを流すわね〜「ジッジジ‥聞こえるか魔王よ妾は女神フローラじゃ、お主を7年待ったがもう妾には興味が無いようじゃの‥お主を助けるつもりじゃったがもうよい。この世界と共に滅びるがよいこれは宣戦布告じゃ」どう?びっくりした〜?」
パイの口から女神の声でメッセージが再生された。
「女神か忘れていたよそんな奴居たな」
「さてパイ様はこの辺でお暇するわね〜」
ルークが魔力を開放しトドメを刺そうと構えたその時。
「魔王ちゃんコレあげる〜大事な物だから受け取ってよね〜」
パイはタイツの中に隠していた何かをルークに投げる。
「何だコレは?人の髪‥この魔力の残滓はディアス!?」
ルークは一瞬動揺してしまう。パイはその隙を見逃さなかった、全力で駆け出しステルスモードを展開する。
「しまった!?アイツの能力はヤバい逃さんぞ!」
ルークは全力で追うが、高速で隠れながら距離を取り離れていくパイの存在を殆ど感じなくなる。ルークでも距離を取られると探知出来ない。
「くそっ!俺としたことが‥」
警戒の為にエキドナの元に降りると、ルークの魔力開放を感じ取ったメフィスト達も来ていた。
「あなた大丈夫ですか?」
「ルーク様一体何が?」
「ああ、エキドナは?2人共無事だよな?」
エキドナはお腹を擦ると子の安全を感じる。
「大丈夫ですわ、それよりその髪は本当にディアスの物なの?」
「その様だ‥メフィスト侵入者が居たぞ、これがそいつの腕だマモンに調べるように渡してくれ」
「侵入者!?まさか此処に?」
メフィストは驚きを隠せない。幾重にも張っている警報が機能していないことに。
「フレアの神隠しに似ていたアレは不味い、直ぐに対策を取れ、俺なら見つけられるが他の奴らには無理だ」
「ルークはどうやって感知しているのですか?私達は何も感じませんでした」
エキドナが疑問を投げかける。
「俺は憤怒を司っていたからな怒りや殺意を直接感じ取れる、エキドナに向けられた怒りと殺意で飛んで来たよ」
王都から離れた森の中
「はぁはぁはぁ‥ここまで離れたら大丈夫でしょ」
パイは只管逃げていた。魔王と対峙しその強さを肌で感じた、アレには生半可な力押しは効かないと。
「最上位に効く弾丸も用意してたけど無理ね〜当てれる気がしないわ〜取り敢えず報告ね、ここからはお仕事モード」
パイの背中が開き、空に向け通信機能の付いたドローンが飛び立つ。
「ザザーピッ!こちらパイよ応答お願い」
少し待つと返信が返ってきた。
「聞こえてるこちらシグマだ、魔王と接触は出来たか?」
「接触には成功よ、但し成果は何も無いわメッセージを伝えるのがやっとよ」
「あぁ!?何も無いだと?お前のステルスなら闇討ち出来ただろ!」
シグマは怒りを露にする、予定では新造の弾丸も試す筈だった。
「それがステルスが見破られたのよ‥何も出来なかったわ、右腕は引き千切られたし逃げるのがやっとよ」
「ステルスを見破る!?化け物かよ‥それで魔王の強さはどうだった?」
「規格外ね‥今のナンバーズで戦えるのはアルファだけね、他は進化型の奴らがあと百年経てばって所ね」
「俺や、お前の様な捕食型ならどうだ?」
パイは少し考え答える。
「上位の悪魔や天使を50体程食べれば少しは戦えるかも‥」
「可能性はあるか‥ガハハハ!分かった、パイよすぐに戻れ面白い事を思い付いた待っているぞ」
「了解、通信を切るわ」
パイはドローンを回収すると聖地への帰路につく、途中で魔物や人間達を食べながら。
北の大陸 四騎士の城
ヘルが本を片手に次の天啓を待っていた。
(アレから4ヶ月一度も天啓が無い‥一体どういう事?)
虚ろな目のアマイモンが報告を始める。
「ヘル様ご報告があります、南の大陸に放った3000のデーモン達は全て駆逐されたようです」
「雑魚共では人間にすら勝てないのね、情けない」
この数年で鍛えられた人間や亜人達は下位デーモン如きでは相手にならなかった、武器も魔石も強力な物が流通している。
「それと魔王の勢力と思われる一団が砦を建設しています、如何致しますか?」
「‥様子を見ます迂闊に手を出さないように」
「畏まりました、では失礼致します」
アマイモンと入れ違いにウォーが入って来た。
「ヘル悪い知らせだよ、僕の能力だけど殆ど効果が無い‥この世界の戦争は誰かが操作してるよ」
「スローン王国へ侵攻した国は無いのね‥」
「僕の戦争の力で各国の野心を煽っても、狙った様なタイミングで強力な魔物や高難度ダンジョンが湧くから各国は戦争どころじゃ無い‥お手上げだよ」
「誰かが邪魔をしていると?」
「そう考えるべきだね」
「それならばファーミンの飢餓の効果は?」
「そっちも駄目だね、農場や穀倉地帯の殆どが魔王や女神の結界で守られて効果なし、飢えてるのは野生の動物位だよ」
本来は人類にとって恐ろしい能力の筈が、魔石や魔法が当たり前にある世界では恐怖の対象ですら無い。
「四騎士の名が泣くわね‥」
「天啓の方はどうなってる?」
デスは本を振り何も無い事を告げる。
「どうする?僕達の判断で動くべきかな?」
「そうね、どう考えても天啓だけでどうにか出来る状況では無いわ‥それなら‥」
テスが音沙汰の無い天啓に代わり指揮を取ろうと決意しかけた時、本が輝き新たな天啓が降りる。
「タイミングが良過ぎる、まるで今まで見ていた様な‥」
ウォーが天啓に意図的な動きを感じている。
「デス、新たな天啓にはなんて書いてる?」
「簡単に言うと半年待て、新たな動きが世界に起きる、その時に我らの力が必要になると‥」
「必要になる?なんか曖昧だね、勝利するとかじゃないのか」
「天啓は絶対よ半年様子を見る、2人にも伝えて」
「わかった」
デスは本を見つめている。
(この本からは天使や悪魔の力は感じない、今までコレの力でアマイモン達も洗脳出来た信じて大丈夫な筈)
デスは気付かない自分も洗脳されている事に。
オルテア連邦 首都マルレーン
ディアス達はこの4ヶ月で家族の様に打ち解けていた。
「ねぇディアス、明日は久々のお休みだからデートしない?」
「シータは何したい?」
「ん〜新しい服が欲しいかな?今の大分傷んでるし」
シータがほつれた服を引っ張る、肌を見せディアスを誘う。
「そっそうだね‥なら服を買いに行こう!」
ディアスはシータの肌を見て顔が真っ赤になっていた。
(本当に子供ね‥まぁその方が扱いやすいけど、誘ってるんだからさっさと押し倒しなさいよ‥あぁ面倒くさい)
「じゃあお休みなさい、明日のデート楽しみにしてるね!」
シータは自分の部屋に戻るとラムダ達と通信を始める。
「2人共聞こえてる?こちらシータ」
「聞こえてるよ〜こちらミュー」
「こちらラムダ聞こえてる」
ラムダがディアスとの進捗を聞く。
「アレとは順調か?」
「う〜ん?向こうから手を出して来ないから何とも」
「え〜まだなの?もう4ヶ月だよ?」
「渡したネックレスを着けてるなら問題無い、器として完成を待つ」
ディアスはシータからネックレスを受け取っている。女神のネックレス‥ゆっくりと体を変質させる器になるように。
「でもシータは大変じゃない?捕食型だから人間や亜人から魔力吸わないとエネルギー切れちゃうよ?」
「大丈夫よ、そこら辺の男誘惑して吸ってるから人間なんて食べ放題よ、この後も数人相手にする予定だし」
「えぇ〜良いな〜ミューも捕食型が良かったな〜」
「面倒なだけよ?私の場合は特にね」
「シータ、アレの記録を送れるか?明後日は定期連絡の日だ」
「了解、データを送るわ」
「確かに受け取った、順調な様だな‥よし今日はここ迄だ」
「ラムダ〜ミューも男漁ってきて良い〜?」
「駄目だ顔を覚えられる、余計な事は控えろ」
「ミューのメンタルケアはどうするのよ〜!」
「なら自分が相手をしてやる」
「えぇ〜ラムダ下手なんだもん」
「なら我慢しろ!通信終わるぞ」
「ちょっと待ってよ〜あぁ通信切ってるし〜も〜」
深夜
シータは服を入れた鞄を持ち部屋を後にする、路地裏で着替え容姿を変え露出の高い殆ど裸の様な姿で街を歩く。道行く男達はその姿に固唾を飲んでいた。
「ここね、この2階の突き当りの部屋だったわね」
シータは長身の妖艶な女性に姿を変えている、メタモルフォーゼの能力で骨格から最早別人に。
コンコン!部屋をノックすると扉が開き中に招かれた。
「オイ!見て驚くなよ?」
「本当に!?本当にこんなべっぴんとヤレんのか!?」
「大当たりだ!!俺達ツイてるぜ!!!」
部屋に5人の男達が待っていた、シータの食事だ。
「私はローザ、フフフ‥視線が怖いわね」
「なぁ早く楽しもうぜ!」
1人の男がベッドに押し倒す。
「あらあら元気ね〜他の方も朝まで楽しみましょう」
翌朝 宿屋
ディアスが目を覚まし部屋の窓を開けると、眼下にシータを見つける。
「おはようシータ!朝の散歩かな?」
「おはようディアス、この時間の散歩は気持ちが良いよ」
シータは男達を眠らせ服と鞄を処分し宿に帰って来ていた。
(呑気な男ね‥)
「ラムダ達も起こして食事にしない?そっちに行くね」
「ああ、待ってる」
「あっそうだ!今日のデート楽しみだね!」
シータは頬を赤らめニッコリ笑う。
「そっそうだね!ハハハ」
(そうよ、もっと私を愛しなさい‥死にたくなる程絶望させてあげる)
笑顔の裏で醜く笑うシータの本性、ディアスはそれに気付く事もなく時が進んで行く。




