旅の始まり
翌日朝、宿の食堂で食事を終え新聞を見ていると入口の方が何やら騒がしい‥食堂を出るついでに話を聞いてみた。
「今の騒ぎは何かあったのか?」
宿の従業員に話しかける。
「王様が玉座に座れなくなったと大騒ぎですよ、約60年ぶりの交代で城はかなり混乱してるようです」
ここスローン王国は名前の通り女神が授けた玉座が王を選ぶ、種族 血筋 思想 性別 年齢など一切関係なく玉座が指名した者が王になるが勿論悪人などは絶対に選ばれない。
「ヴォルグ王は国民に愛されてたのに惜しいな」
国王は若い時から聡明な方で歴代最高の呼び声が高い、魔族が西の地へ追いやられた後に目立ち始めた各種族や周辺国との長年に渡るいざこざも、ヴォルグ王に代わった途端に全て解決した。
「本当に残念ですね、次の王もヴォルグ王みたいな方だと良いのですが」
玉座が世界の平和を目指した王を否定したとも言える、世界に何かが起きようとしているのか女神の気まぐれか何も起きない事を願うまでだ。
部屋に戻ると馬車の出発時間を確認する。
「10時出発で到着は5時間後かそろそろ向かおう」
荷物を担ぎ宿を出て馬車の発着場を目指し15分くらい歩くと目的地が見えてきた、南行きの乗り場を見つけると搭乗券を配っている係に聞いてみる。
「南のカイラ行きはここで合ってるかな?」
係の女性はにこやかに答えてくれた。
「はい!そこの4台の馬車がカイラ行きです、搭乗券をどうぞ料金は中でお支払いください」
近くの馬車に乗ろうとすると先頭の馬車から声が飛んできた。
「すみません!冒険者の方は前の馬車にお願いします〜」
前の馬車に乗ると冒険者や兵士が14人ほど乗っていた。
(なるほど護衛も兼ねてここに集めてるのか‥)
料金を払い空いてる席に座る、しばらくすると出発の鐘が鳴り響いた。
「カイラ行き出発どうぞ!」
御者が手綱を握り魔力を込めると手綱や馬車に付けられた魔石が効果を発動する、魔力解析で見ると馬には体力回復を荷台には重量軽減や耐久上昇が発動していた。
「そりゃ魔法使いは必要なくなるよな‥」
あまりの便利さにボソッと呟いた、まあ嘆いてもしょうがない次の町まで本でも読んで暇を潰そう。
3時間ほどたった時兵士達が冒険者達と話がしたいと提案してきた、兵士長が代表で話を始める。
「私は兵士長のマークスだ、冒険者諸君に協力のお願いをしたい!騎士団からカイラ周辺で魔禍が発生したと知らせがあった、警戒のため護衛の人数を増やす対応を取っている」
(王国内なのに兵士が多いと思ったらなるほど魔禍発生の報告があったのか)
冒険者を1箇所に集めたのも協力を得る為だ。
「冒険者諸君には魔物の襲撃もしくは群れの確認が出来次第我らと共に戦って欲しい!報酬は1人金貨3枚でどうだろうか」
自分を含め8人がざわめく。
(金貨3枚?ただの護衛でそんな破格な報酬があり得るのか?)
考えていると1人が立ち上がり兵士長に答える
「俺はこの6人でパーティーを組んでるリーダーのバルトだ、1人金貨3枚はありがたいが護衛でそんなに払うのはどういう事だ?それに何故今になって協力要請なんだ、出発前にギルドに依頼するなり騎士団に任せたらいいことだろ」
(バルトの言う通りだ、しかも話を切り出したのは出発後3時間もう引き返せない距離を進んでからだ意図的にやったとしか思えない)
「ヴォルグ王が玉座に座れなくなったのは知っているな?その事で騎士団他大臣達は対応に追われ、魔禍の対応まで手が回らない状況だ黙っていてすまない」
お互いに睨み合いになっている。
(このままだとマズイ協力どころでは無くなる)
立ち上がり話を進めるため提案する
「二人とも落ち着いてくれ、このままだと連携も取れないまま魔物の群れと戦う事になる、相手の数が分からない以上協力しないと後ろの馬車の一般人や商人達も犠牲になる可能性が出てくる」
自分達以外の人達を思い出しリーダー達は冷静になりマークスが戦力の確認をする。
「こちらは盾兵1名剣士3名弓兵1名サポート2名だそちらは?」
バルトがパーティーを紹介する
「俺を含め戦士が3名ハンター1名サポート2名だ」
残りの2人に視線が向く隣の青年はおどおどしていた。
(仕方ない一緒に紹介するか)
「俺はルーク魔法使いだ、君は?」
隣の青年に話をつなげる
「えっと‥ぼっ僕はリオンサポートで薬師です!」
周囲がざわめく、視線が一斉に自分に集まるとマークスが期待を込めた目で聞いてきた。
「こちらのサポートも魔石で中級魔法は使えるが、君は魔法使い何だな?上級や超級魔法は使えるか?」
勿論上位魔法は習得済みである、自信を持って答える。
「任せてくれ、戦術クラスの魔法なら全て習得してある」
周りから一斉にオォーっと声が上がるとバルトが戦略を提案してきた。
「提案なんだが、拙い連携を考えるよりルークの範囲魔法で敵を分断して、兵士達と俺達の各パーティーで対応したほうが上手くいくと思うがどうだ?」
確かに乱戦になると魔法使いの出番はほぼ無くなる、先手でぶちかませるなら圧倒的火力で半壊には出来る、しかしどうやって先手を取るかだ。
「先手が取れる前提なら俺の魔法で分断は出来るがどうやって先手を取る?」
女性の兵士2人が立ち上がり魔石の埋め込まれた水晶と細い鎖のついた方位磁石を取り出した。
「報告で魔禍発生の場所は分かっています、後はこの道具で正確な位置を特定すれば奇襲が出来ると思います」
(最悪自分が探索魔法や感知魔法で探すしか無いと思っていたが、先見や追跡の魔石があるなら兵士達に任せよう)
「2人は正確な位置の特定を始めてくれ、では冒険者諸君の協力に感謝する!共に戦おう!」
兵士達は一斉に敬礼する、すると隣から。
「あの〜僕は何をすれば‥」
薬師の青年が気まずそうに声を上げるとバルトが答える。
「薬師なら魔力強化や回復出来るだろ?ならルークと組むといい俺達や兵士の中に入っても守ってやれんからな」
(確かに他のパーティーの邪魔になりかねないので俺の側にいた方が安全だ)
「戦闘が始まったら俺の側から離れないようにな」
肩をポンポンと叩くと嬉しそうに答える。
「はい!頑張ります!」
旅の始まりがいきなりの魔物の群れとの戦いになるとは‥学校の授業ではない始めての命を賭けた実戦に手が少し震えていた。




