闇の声
ルークは司令室に入るとクリフを探す。
「クリフ隊長!話がある!」
「ルークさん何かありましたか?」
(クリフは隊員以外には丁寧に話すみたいだな)
公私は分けるタイプの様だ、冒険者は部下では無くあくまで協力者として。
「ミノタウロスの対応だがライラに任せてみないか?」
「ライラさん1人に!?正気ですか!」
クリフは驚くと同時に心当たりに気が付いたようだ。
「まさか幻影の魔石ですか!?無茶ですよ!」
「ライラの実力は本物だ、実戦でも追いきれない速さだった、あの速さに幻影が混じれば対応は不可能だと思う」
実際に坑道から出てきたオークは自分がやられた事を認識する前に倒されていた。
「確かに報告にもありました、オークが何かに倒されたと‥ライラさんだったんですね」
獣人本来のスペックに身体強化の魔石とドランの装備。
(まだ実戦経験は浅いとはいえ速さだけなら並ぶものは居ないはずだ)
「ライラがミノタウロスを抑えてる間に魔禍を先に浄化出来ないか?」
「なるほど‥ダンジョンを消滅させて魔物の強化を消すんですね」
クリフは考えているこれが最善手だと思うが。
「ルークさんは納得しているんですか?」
(痛い所を突いて来た)
「正直に言う、納得なんかしていない‥すぐにでも止めたい気持ちだ」
「それが聞けて良かった、血も涙もない人かと心配しましたよ」
クリフはミノタウロスの詳細が書かれた報告書を渡してきた。
「これを‥どう思います?」
報告書の内容に目を通す。
「体長4m!?全身が赤く血管が浮き出る、武器を所持!?何だこれは‥何故武器を持っているんだ!」
魔物が武器を持つ場合ほとんどが冒険者から奪った物だ、それ以外は木や石で武器らしき物を作る、報告書には巨大な剣と書かれている。
「剣‥一体何処から?」
「武器も問題なんですが、ミノタウロスとしても規格外の大きさに確認されてない色、明らかに変異種です」
この異常な状況にあのサイクロプスが頭によぎる。
「クリフ隊長ここに来る以前に人語を話す魔物と戦った事がある、そいつと似たような空気を感じる」
「人語を話す魔物!?本当ですか!」
ルークは頷くと簡単に説明をする。
「巨大なサイクロプスで異常な再生力を持っていた、致命傷すら瞬時に回復するほどの‥」
「それに似ていると?」
状況が似ているだけでただの変異種の可能性もある。
「俺の考えすぎかもしれないが」
「いえ、武器を持ってる時点で何者かの意思を感じます、魔禍の浄化から始めましょう戦闘中に何かが現れたら対処出来なくなります」
クリフは部下に指示を出す。
「足の速い者達で魔禍の浄化を最優先で行う、部隊の組み直しだ!すぐに取り掛かれ!」
「了解しました!」
「ライラさんには浄化までの時間を稼いでもらいます、我々も協力しますが浄化を優先しますいいですね?」
「ああ、それでいい」
(本当にこれでいいのか?何か他に無いのか?)
自問自答が続く。
「陣形は包囲陣で距離を取りつつ戦います、大事なのは魔禍から遠ざける事です‥ライラさんに囮をお願いしますが最悪の場合こちらの兵士が囮になります」
「最悪の場合‥」
「はい、戦いが始まるともう止めることは不可能です、どちらかが倒れるまでは」
クリフはこの戦いで決めるつもりだ。
「浄化が成功したら我々ドワーフから戦います、考えたく無いですがミノタウロスも回復持ちの場合冒険者達と交代の長期戦になります」
ダンジョン内だと強力すぎる魔法は使えないクリフ達を信頼するしか無い。
「出来るだけのサポートはするつもりだ」
「お願いします!」
話はまとまりライラを作戦に組み込んだもう後戻りは出来ない、司令室から外に出ると。
「ルーク!どうだった?」
「あっ‥ああ、正式に採用されたライラに任せるそうだ」
「やった!私頑張るね!」
(駄目だ最悪な事態が頭から離れない、弱いな俺は)
顔に出ていたのかライラが抱きついてきた。
「生きて帰ろうね!まだやりたい事いっぱいあるから!」
(そうだまだ結婚したばかりだ、こんな所でくたばってたまるか!)
「大丈夫だきっと上手くいく」
自分に言い聞かせるように呟く。
各部隊の準備が整い魔禍のある広場まで来た、確かにミノタウロスが居た魔禍らしき物を見つめている。
「ライラ大丈夫か?」
ライラは少し震えていた、臭いで相手の強さを理解したのかそれともその巨大さに驚いたのか。
「アレと戦うの?」
「そうだ、アレと戦うんだ」
一目でわかるその戦力差に他の兵士達も絶望していた。
「ルーク‥お願いがあるの」
「俺の出来ることなら何でも」
「キスして欲しい!」
「は?‥今ここでか!?」
周りも今の発言に驚いていた。
「頑張るためのおまじない!」
(普通こういうのは逆な気がするが)
ライラの助けになるなら何でもする。
「わかった、だけど無茶はするなよ!無事に帰るぞ!」
2人はキスをして抱きしめ合う。
クリフが最終確認を始めた。
「いいですね!部隊が中で展開するまで時間がかかります、包囲陣の完成と浄化部隊の到着までなんとしてでも耐えてください!」
ライラが閃光弾を手に取る。
「これが光ったら開始の合図!」
後ろの皆が頷く。
「行ってきます!」
ライラは飛び出すと全力で閃光弾を投げつけた。
「目を塞げ!」
坑道内が強烈な光に包まれた、腕で目を押さえてても瞼が光を感じる。
(強すぎだろ!あのばあさんなんて物を)
物騒だからってしまっていたのはこのためか。
「ライラはどうなった!」
視界を失ったミノタウロスをライラが挑発する。
「こっちだよ!こっち!こっち!」
剣で地面を叩きながら移動している。
「グオォォォォォ!!」
ミノタウロスは音の鳴る方に突進する。
「突撃開始!!止まるなよ!」
各部隊がなだれ込む、先行する浄化部隊とそれを守るように包囲部隊が展開される。
ルークも最前線に立つが見守る事しか出来ない。
「ほらほらこっち!」
ミノタウロスが顔を振り始めた。
「ライラ!そろそろ視界が戻るぞ!」
視界が回復したミノタウロスは目の前の獣人を捉えた。
「フーゥゥ!フーゥ!フーゥゥ!」
鼻息が荒くなると剣を振りかざし突進する。
「行くよ![ミラージュステップ]!!」
振り下ろされた一撃は空を切り地面に叩きつけられた。
「これは‥凄い‥どうなって」
包囲陣の完成を忘れるほどに目の前の光景に釘付けになる。
「足を止めるな!今のうちに包囲陣を完成させろ!」
「はっ!」
ミノタウロスは狂った様に剣を振り回すが、圧倒的なスピード差と無数の幻影で全く捉えられない、ルークは確信する。
「いける!クリフ隊長浄化を優先してくれ!」
「はい!合図を送れ!」
兵士が旗を上げる浄化を始める合図だ。
「旗だ!ここは安全だ浄化を始めるぞ!」
複数人で一気に浄化を開始する。
「[世界の歪みよ鎮まり給え]」
魔禍と思われるものはゆっくり縮み始めた。
「よし!縮小を確認、旗を上げろ!」
「隊長!浄化部隊成功したようです!」
「ダンジョンが消滅するぞ!各隊光源魔法を使え!」
ルークも魔法を使う。
「俺の魔法でこの空間全体を照らす、死角は無くなるはずだ!」
「[深き闇を照らせ日輪]!」
天井に光の輪が現れ空洞全体を照らす明るさはイマイチだが影が無くなる、各光源と合わせれば死角は無い。
「ライラ!予定通りだ!」
ライラは高速で幻影を出しながら攻撃を開始する、ミノタウロスは追いきれない相手からの攻撃で全身を切り刻まれていた。
「ルークさんいけますよ!」
怖くなるほど順調だ。
(このまま被害無く終わる?何か見落としはないか?)
「あっああ!このまま‥」
次の瞬間ミノタウロスが思いっきり息を吸い込むのが見えた‥
(何をする気だ?まさか!)
「ガアァァァァーーーーーーーーー!!!!!!」
ミノタウロスの大咆哮が炸裂する、まるで爆発音のような声に皆動きが止まり耳を塞ぐ。
「ライラーー!!」
ルークは走り出していた、何も聞こえない世界で叫ぶ。
ライラは目の前で炸裂した咆哮で気を失っている、ミノタウロスが剣を振りかぶる。
「止めろ!止めてくれ!」
(駄目だ‥間に合わない‥)
全力で走るが剣が振り下ろされようとしていた。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だそれだけは絶対に駄目だ!ライラが死ぬなんて絶対に嫌だ!)
時が止まったかのようにゆっくりと進む。
ルークの中が黒い感情で埋め尽くされる悪意の塊が敵に向く。
(コイツを殺さないとライラが死ぬコイツをコイツを)
消えゆく闇から声が聞こえた気がした。
「そなた面白いなその闇懐かしい‥これは褒美だ足掻いて見せよ‥」
次の瞬間ミノタウロスの腕が吹き飛んでいた。
「なっ!」
何が起きたのか理解出来ないまま。
(いや考えても無駄だそれよりライラを助ける!)
「宿り木よ![絡め取り縛り付けろ]」
5本の宿り木を投げるとミノタウロスに絡みつき太く長い幹が拘束する、姿が見えなくなる程に。
(何だ?ここまでの拘束力は無かったはず)
「ライラ!もう大丈夫だ!」
ライラを抱えると一気に離脱する、それを確認したクリフが叫ぶ。
「前衛前に!トドメを刺すぞ!」
クリフ達には悪いが下がらせてもらう、ルークは坑道まで走ると回復魔法を使いライラを癒やす。
「うっ‥」
「ライラ!良かった!」
「ルーク?私は」
「ミノタウロスの咆哮で気絶していたんだ」
「そうだ!突然真っ暗になって‥」
ライラは体を起こすと辺りを見渡す。
「戦いはどうなったの!?」
「今はクリフ達が戦ってる、ミノタウロスの両手は吹き飛んでる大丈夫なはずだ」
音は聞こえてくるが武器や魔法の音で判断が出来ない。
「ルーク!みんな押されてる助けないと!」
「なっ‥まさか再生持ちか」
ライラは走ろうとするがふらついて座り込む。
「無茶だ!回復はしたが暫くは安静にしないと」
「でも!」
ルークはライラを背負うと戦場に戻る、そこには予見した地獄があった。
「隊長!どうすれば!」
「怯むな!再生も無限では無い!攻撃を続けろ!」
「駄目だコイツドンドン賢くなる!」
ミノタウロスの戦い方が変わっていた、剣を振り回すのをやめ時には武器を投げ自分から飛び込み、ドワーフを掴み蹴散らしていた。
「駄目だ!止められない!」
「後衛に近づけさせるな!総崩れになるぞ!」
「隊長!隊列が維持出来ません!このままだと押し負けます」
「冒険者達に交代を要請しろ!部隊を立て直す!」
兵士が慌てた様子で走ってくる。
「隊長!冒険者達が逃げました!1人もいません!」
「なっ!なんだと、ここで負けたらこの街は‥」
あの大咆哮を聞いたはずだ、アレを聞いて逃げるのは当然だ。
「ルーク私が前に」
「いや俺がやる、コイツに勝てないならあのサイクロプスにも勝てない」
「クリフ隊長!かなりの無茶をする魔法を撃ったらすぐに引いてくれ、ライラを頼む!」
「ルークなにする気!?」
「アイツを倒す」
「ルークさん前衛とヒーラーを数人残します!部隊を組み直したら必ず助けに来ます、それまでどうか死なないで!」
ライラは兵士達に担がれ下がっていく。
「待って!私も戦う!下ろして」
遠ざかる声を聞きながら目の前の敵に歩き出す。
(コイツはライラを殺そうとした‥絶対にコロス‥)
湧き上がる負の感情に心地良さも感じながら自分の中で何かが目覚める気がした、興奮によるものかこの極限状態のせいか。
ルークの放つ魔力は黒く濁っていた‥




