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待ち受ける地獄

 調査隊からの指示が来るまで2人は宿で仮眠を取っていた。


「ん‥2時間くらい寝てたか、そろそろ起きるか」


 寝ていたソファーから起きるとベッドのライラを起こす。


「ライラ〜起きろ〜」


 ほっぺをツンツン突くぷにぷにだ。


「んんっ」


(可愛いな!)


 いつまでも見ていたいが寝ぼけたまま作戦に参加する訳にはいかない。


「ライラそろそろ時間だぞ」


 肩を軽く揺さぶると眠たそうに答える。


「は〜い、起きる〜」


「おはようライラ」


「おはよ〜」


 2人は椅子に座り眠気覚ましに薬湯を飲む。


「これには眠気覚ましの効果があるんだ」


「へぇ〜」


 すると部屋のノックと共に声がする。


「ルーク様、兵士の方がお待ちです」


「ありがとう直ぐに行く」


 宿の入口で兵士が待っていた。


「ルークさんですね、調査隊あらため攻略隊の作戦がこちらに書かれています!集合は1時間後坑道前にお願いします」


「わざわざ書いてくれたのか」


 作戦書を受け取る。


「ではこれで失礼します!」


 兵士が帰ると部屋に戻り作戦書の内容を確認する。


「どんな内容なの?」


「120人をどう動かすか気になっていたが、最初に坑道を知っているドワーフ達が先行して開けた場所に拠点を作るそうだ」


「ダンジョン内に拠点を作るの!?」


「中の広さがわからない以上拠点は必要だ、安全な場所を確保出来れば交代で攻略部隊を組める、体力も魔力も有限だからね」


 ダンジョンはまだそこまで広くは無いはずだ。


(しっかりとした内容だこれなら安心か)


「ライラ約束して欲しい事がある」


「大事なこと?」


「ああ、ダンジョンには変異種や上位種が出る事がある、見たことが無い魔物やあからさまに怪しい奴には絶対に油断しない事!」


「は〜い、でもさっさと倒しちゃってもいいよね?」


(出来るだけ控えて欲しいがどう伝えるべきか)


 他の人で様子を見るなんて言えない。


「闇雲に戦って欲しくはない、どう言えばいいか」


「大丈夫!危ないのは臭いでわかるよ!」


「そういうものなのか?」


「うん!」


 ライラは自信あり気だ。


(信じてみるかイヤ信じよう)


「そろそろ向かおうか」


 2人は宿を出て現地に向かう、深夜だが皆起きてるなまあこれだけ人が居たら仕方が無いか。


「いっぱい居るね〜」


 坑道前には武装した兵士達が並んでいる、その後方に冒険者達が各パーティー毎に待機していた。


「俺達は後から入る後ろに行こう」


 はぐれない様に手を繋ぐと冒険者達からの視線が集まる。


「おっ昨日の!見せつけるね〜!」

「いいな〜私も男作ろうかしら?」


(やっぱり覚えていたか!)


「有名人だね?」


「何で嬉しそうなんだよ」


 後ろに付くと冒険者に声を掛けられた。


「今のは気にしないでくれ、皆不安を誤魔化したいんだ」


 ダンジョン攻略なんて経験が無いのが当たり前だ、仕方が無い今は我慢しよう。


「気にしてないと言えば嘘だが、役に立ってるなら何よりだ」


「ハハハ!お互い頑張ろうな」


 軽く握手を交わすと前から動きが見えた、ドワーフは背が低いからここからもよく見える。


「ルーク!クリフ隊長が出陣の号令を出したよ!」


「ここから聞こえるのか?」


「うん!聞こえるよ!」


 流石は獣人聴力も段違いだ。


(独り言には気をつけないとな)


「兵士だけでも80人はいる暫くは待機だな」


「ねぇルーク、あそこのドワーフ達は何をしてるの?」


 少し離れた所にドワーフ達が荷物を積んでいた。


「ああ〜アレは補給物資だな、中で消費した回復薬やエーテル他には食料も、拠点が出来たらアレを運び込むんだ」


「あんなに沢山必要なのね」


「まあ120人分だからな時間が掛かれば更に必要になる」


 暫くすると最後の兵士達が中に入って行った、冒険者達が坑道前に移動すると残っている兵士から指示が出る。


「冒険者達も各パーティー毎に入って下さい!」


 並んでいた冒険者達が次々に入って行く。


「ルーク、私達も早く行こうよ!」


「そうだなそろそろ入るか」


 2人は中に入る初めてのダンジョンに。


「何ここ‥壁が光ってる?」


「マズイなダンジョンの入口まで魔力が流れてきてる、これは魔力の光だ」


 出来たてのダンジョンは真っ暗な筈だ。


(成長速度が早いのか?)


「光源魔法は必要無さそうだ」


「ホントだねこんなに明るいなんて」


 2人は進み続けるとゾンビが大量に倒されていた、中で犠牲になった冒険者達だろうか。


「ライラ何か聞こえたら教えてくれ」


 人間には風の音しか聞こえない。


「遠くで戦ってる音がするよ」


「ドワーフの悲鳴では無いんだな?」


「うん、声は聞こえるけど叫び声は魔物ばかり」


 どうやら順調そうだ警戒しながら進む事にする。

 初めて分かれ道に出合うと2人の兵士が立っていた、後続の事も考えて配置されている。


「右に進んで下さいそちらが本隊です」


「左はもう調べたのか?」


「はい、確認済みです先程部隊が戻って来ました」


(優秀だな配置も2人何かあったら1人が即知らせに動ける)


 中の分岐の多さ次第だがそこは考えられているだろう。


「進もう、あまり離れないようにな」


「まかせて!」


 ライラはピッタリと横に付く。


「大分進んだがまだ追いつかないか、死体も魔物のばかりだし少し急ぐか」


 数回の分岐を指示通りに進み本隊に追いついた、かなり広い場所に出ると拠点の設営を始めていた。


「うわ〜広いねここ」


「ここは資材や採掘した鉱石を集めていた場所だな、まだレールの一部が残ってる」


 広場の中心でクリフが指示を出していた。


「交代順は以上だ!各自警戒を怠るなよ!」


「それと絶対に無理はするな!勝てないと判断したら即撤退しろ!ここには戦力がある事を忘れるな!」


(怪我人がやけに少ないと思ったらなるほど、クリフはかなりの慎重派か)


「ルーク向こうから誰か来るよ悲鳴が聞こえる!」


 ライラは坑道の1つを指差すそれを聞いた兵士達が一斉に構える。


「助けてくれーー!!!」


 兵士が叫びながら飛び出してきた!


「大丈夫か!何があった!」


 近くの兵士が駆け寄って抱き起こすと、息を切らしながら報告をする。


「はぁはぁ‥この奥に魔禍と思われる場所を発見しました!」


「他の兵士達はどうした!?」


「ぜっ全滅しました‥」


「なっ!10名居たはずだ!何がいた!?」


 クリフが場を落ち着かせる。


「待て!他の坑道に入った部隊と冒険者達を呼び戻すのが先だ、もし魔禍の場所に繋がって居たら被害が広がるだけだ伝令を向かわせろ!」


「はっ!直ちに手配します!」


 ライラの肩をそっと寄せるお互いが安心する為に。


 兵士は落ち着くと経緯の説明を始めた。


「魔禍はかなり広い場所にありました、魔物や罠がないのを確認した後浄化に向かったんです」

 

「魔禍は確認したんだな?」


「見たこともない形でしたが反応は確かに魔禍でした!」


「浄化は出来たのか?」


「それが魔禍に近付いた途端に背後から魔物の咆哮が聞こえ、振り向くと巨大なミノタウロスが立っていたんです!」


(背後から?)


 兵士に確認をする。


「何も居ないのは確認したんだよな?」


「確認しましたよ!でも居たんです!」


(どういう事だ?いきなり湧いた?どこから‥)


「続けろ!それから何があった?」


「ミノタウロスの一振りで3人が即死しました‥部隊長は自分に走れと叫び残りで足止めをすると」


 兵士は思い出したのか顔が真っ青になり泣き始めた。


「後ろから皆の悲鳴が‥悲鳴が‥うっっううぅぁぁぁ」


「わかったよく知らせてくれた!お前は自分の役目を果たせたんだ!後は任せて今は休め」


 クリフは立ち上がると各部隊に告げる。


「まずは残りの坑道を調べながら魔物の掃討だ!安全の確保が終わったら魔禍の浄化とミノタウロス討伐の部隊に分ける!急ぐぞ!」


「はっ!了解しました!」


 兵士達は部隊の再編成に動き出す、冒険者達はざわついていた。


「聞いたか?ミノタウロスが出たらしいぞ」

「ここってまだ出来たばかりじゃ?」

「金貨10枚だと割が合わんぞ‥」


 ミノタウロスは竜人ですら太刀打ち出来ない強力なフィジカルを持ち魔法耐性も高い、ただでさえ厄介な相手なのにダンジョンと魔禍の強化で更に強くなる。


「ルーク、ミノタウロスって牛頭の魔物だよね?」


「ああ、よく知ってるな見たことあるのか?」


「ううん、昔お父さんが戦ったって言ってたの」


「村に出たのか!?」


 ライラは首を振る。


「お父さんが傭兵の時に戦ってかなりの被害が出たって話てた‥」


(ジノンは只者では無いと思ったが傭兵だったのか)


 各国の軍に雇われる戦闘専門の職業が傭兵だ冒険者とは一線を超える。


 ルークは小声で話す。


「ライラ覚悟を決めてくれ」

 

「戦うんだね!大丈夫だよ!」


「そうじゃない‥人を助けない覚悟をするんだ」


 ライラは困惑していた。


「どうして?ルークどうしたの?」


「はっきりと言う甚大な被害が出る最前線は地獄と化す、誰かに構ってる余裕は無いんだ‥」


 ライラにこれから起きるであろう現実を突きつける、いざとなって動けなくなる事を防ぐために。


「でも‥私は‥」


 優しいライラは確実に誰かを助けようとする、この忠告も効果は無いのかもしれない。


「私は助けたい!見捨てたくない!」


 その真っ直ぐな眼に嘘はない‥


(俺はライラさえ生きてくれたらそれで‥)


 自分のエゴに驚くと共にライラを眩しく感じた。


「気持ちはわかった‥それなら1つだけ方法がある、かなり危険だがやれるか?」


「みんなが助かる?」


「ああ、先日貰った幻影の魔石を使う、ライラの全力の速さで幻影を出し続ければ相手はライラを捉えられない」


 ライラはガントレットの魔石を見る。


「これそんなに凄いんだ」


「いやライラだからこそ出来る業だ他には真似できないと思う」


「名前付けて良い?」


「なっ名前?何に?」


「幻影の魔石使う時にカッコいい名前叫びたい!」


 大勢の前で叫ぶ事になるが本人はヤル気のようだ‥


(まあ魔法使いも必要ない呪文を叫ぶし同じか)


「それなら「ミラージュステップ」なんてどうだ?」


「えぇ〜普通過ぎる!」


「わかりやすいと思うんだが‥」


「う〜ん、う〜〜ん」


(かなり悩んでるな、大丈夫か?)


 暫くするとライラがこちらを向く。


「決まったかな?」


「決まらなかった!さっきのナントカステップにする!」


 ライラの頭をポンっと触る。


「それじゃクリフに提案してくる、待っていてくれ」


「私も行くよ!」


「駄目だ!それよりも幻影を出す練習とそれに慣れること、動きも読まれない様に!大変だぞ!」


 ライラに聞かれたくない話もある、クリフと話すために建ったばかりの司令室に向かう、これから待っているのは地獄だ、その被害を最低限にする作戦会議が始まろうとしていた。





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