飛んで火に入る...
武装都市マーロ
イザナ達がマーロに降り立ち5日が過ぎようとしていた。
「ただいま〜疲れたよ〜」
「おかえり〜何かあった?」
ドサッ!ライラはベッドに突っ伏すと手に持っていた袋を置く。
「魔物討伐の報酬出たよ...」
「ギルドに寄ってくれたんだ、ありがと」
ここ数日は周辺の魔物狩りで暇を潰していた、ライラはその報酬を受け取って帰って来ていた。
「最近の冒険者って皆あんなにガツガツ来るのかな〜?」
「あぁ〜ナンパされたのね?どう?好みの男は居た?」
「顔なんか見てないよ...次々と声掛けてくるから怖くなっちゃった」
「ルークと冒険してた時は誰もナンパなんてして来なかったのに」
ライラはうんざり顔で話す。
「あはは!仕方が無いよ、ここに居る冒険者は特にね」
「特に?」
「パパが居た時は恋人か夫婦に見えてたから声は掛けて来ない、でも今はフリーにしか見えないからね」
「なるほど...なら子持ちって言えば諦めるかな!?」
イザナは苦笑いで答える。
「逆に人妻の方が燃える男も居るよ?」
「えぇ...」
イザナはヒルデに聞いた話をライラに教える。
「冒険者は何時死んでもおかしくない!だから我慢をする人が少ないってママが言ってた、次がある保証なんて何処にも無いから後悔の無い生き方を選んでるの」
「それでナンパなの??」
ライラは納得がいかない。
「ここまで来るパーティーの殆どは恋人同士や夫婦家族で構成されてるの、結成10年以上のベテランじゃないと黒の森の踏破は不可能よ?」
「私達がこの森に入った時は数日しか持たなかったな...」
「でしょ?」
「何とか踏破出来ても被害はかなり出る...恋人や伴侶を失った人は多い筈よ、で!人集めも兼ねてナンパしてるのよ」
「そっか、森を出る為には人が必要...」
「恋人とか良い感じになってくれたら、そのままパーティーを続けられるし」
ライラは疑問を投げかける。
「他のパーティーに依頼しちゃ駄目なの?」
「出来ないことも無いけど...とんでもない金額を吹っかけられるよ?当然足元見てくるし」
「それじゃあパーティーが壊滅に近い被害を受けた冒険者はどうなるの?」
「ギルドにパーティーの記録があるから、壊滅=未熟者と判断されて声は掛からないと思う...森から出たいなら働くしかないね〜手っ取り早いのは娼館とか?」
ライラの顔が暗くなる。
「ライラが気に病む事は無いよ!みんな覚悟の上だし娼館も立派な仕事よ?」
「それはそうだけど〜」
「暗い話はここまで!明日から...」
イザナが明日の予定を話そうとした時、通信魔石が鳴る。
「イザナ聞こえるか?」
「おっ!メイへ何何?」
「此方に接近する強い魔力を感知した、おそらくバフォメットだ」
「迎え討つ?」
「流石に直接此処には来ないよ、向こうが陣取るまで様子を見る」
イザナは少しガッカリしていた。
(う〜ん?どさくさに紛れてメイへと殺るのは無理っぽいな)
「イザナ達は遠くで待機、伏兵が居たら狩ってて良いよ」
「了解〜」
あくまで自分が相手をすると宣言した様なものだ。
「加勢しなくていいのかな?」
「問題ないっしょ〜あの子強いし」
翌朝 マーロから数十km離れた森の端
ケルベロスは森の中で足を止めマーロを伺う。
(居た!エキドナ!遂に見つけたぞ!)
ケルベロスの中に寄生しているバフォメットがヨダレを垂らす。
「はぁはぁはぁ...今すぐ味わいたい!」
興奮しながらも周囲も探る。
(モリガンとメイヘが側に...厄介な...どう出る?)
思考を巡らせていたその時。
「よう!邪魔するぞ」
「!?」
突然の声で戦闘態勢に入る。
「待て待て待て!敵じゃねぇよ」
ヤルダバオトが1人また1人と姿を現す。
「何の用だ?」
「お前の分体に頼まれてな手伝ってやる」
(余計な真似を...)
明らかに不満そうな顔をすると。
「お前餌に気を取られて俺の接近に気が付かなかったろ?」
「うっ...それは」
ヤルダバオトは自信ありげに指を鳴らす。
「そこは相手も同じだ、エキドナを狙えば狙うほど伏兵の俺から意識が削がれる」
「何故我に協力する?」
「簡単な話だモリガンが欲しい!お前と同じだよ!ただ対象が違うだけだ」
2人はニヤリと笑い握手を交わした。
「確かヤルダバオトと言ったな?お前は何体いる?」
「30体だ」
「そうか...なら半数は潜伏させて置け」
「戦力の逐次投入は愚策だぞ?」
バフォメットは笑う。
「くふふ...そもそも奴らとマトモに闘っても勝てんよ、ならば勝ったと思わせて不意を突けば良い」
「姑息だな...だがわかり易い」
「最終的に勝てば良い過程など無意味!結果が全て...」
「ぐははは!ちゃんと悪魔やってんじゃねえか!気に入った!」
ヤルダバオトは安心する、この悪魔なら意地汚く最後まで諦めない。それ故に心置き無く見捨てられると...
(上手く立ち回ればモリガンとエキドナ両方奪える!ツキが回ってきたぜ!)
(くふふ...こ奴を利用すれば...)
マーロ 東門前
イザナとライラは他の冒険者に紛れて外に出る。
「こんなに堂々と出て見つからないかな?」
「平気平気!普通にしてたら大丈夫」
案の定何事も無く森の中に潜む事に成功する。
「これからどうするの?」
「取り敢えずケルベロスを見に行こう、伏兵も見つけないと」
「偵察ね!」
「魔力探知や探索魔法は使わないように!」
「は〜い」
2人は偵察も兼ねて森を駆ける。魔力はフィジカル強化の最低限で済ませ、森の中に居る冒険者達との判別は不可能に近い。
魔物を避けながら移動を始め3時間程が経ち。
「結構遠いね」
「黒の森の端に近いからね...ストップ!ここまで!!隠れて!」
2人は足を止め木々の合間に身を隠す。
「どうしたの?まだ先だよ?」
小声でイザナに問う。
「聴覚強化で辺りの音をよく聞いて」
ライラは言われた通り聴覚強化をかけ耳を澄ます。
「えっ??1・2・3まだ居る...聞こえるだけで20?」
「恐らくまだまだ居る」
ケルベロスの周辺から音が聞こえて来る。
「メイヘに伝えるね」
「待って!見つけた!」
イザナの視線の先にヤルダバオトが姿を現した。
「アレは確かヤルダバオトだ...」
「以前モリガンを狙って来てたのよね?今回もかな?」
「恐らく...ん?」
「どうかしたの?」
「1体やけに距離を置いてる...アレが司令塔かな?」
ヤルダバオトの1体がケルベロス達から離れた位置に1人隠れていた。
イザナの読み通り30体の指揮役だ、聖地から遠く離れた場所でリアルタイムに操作は出来ない。
「よし!戦闘が始まったらアレ捕まえよう!」
「えっ!?捕まえてどうするの?それに自爆するらしいよ?」
「首から上が有れば良いの!聖地のデータが欲しい!決まり!」
「でも危なくなったらトドメを刺す事!」
「わかってるって」
不安を覚えるライラだったが、イザナはヤル気に満ちていた。
黒の森 東端
待ち構えるケルベロスの元にメイヘ達が到着した。
「漸く来たな...久しいなエキドナ!!迎えに来たぞ!」
「...」
「余所見をする余裕あるの?」
メイヘがエキドナを庇いながら威圧する。
「ガキが...貴様に用はない!エキドナを渡せば見逃してやる!来いエキドナ!!」
「はぁはぁ...ふぅ〜大丈夫、ケルベロスの姿なら怖さも半減します」
遅れてモリガンが追いついてきた。
「ふぅ!メイヘ少しは加減なさい!速すぎます!」
「母さん手筈通りに」
「エキドナは私に任せて思いっきり殺りなさい!」
息子に激を飛ばしたその時...3体のヤルダバオトが姿を見せる。
「よう!久しぶりだな!」
「貴方...性懲りも無くまた来ましたの?」
「ぐははは!ああ!お前を手に入れるまで諦めんぞ!その顔!その胸!その脚!最高だ!」
「穢らわしい...」
2人の前にメイヘが割って入る。
「纏めて相手してあげるよ」
各々戦闘態勢に入る...が、それは一瞬の出来事だった。
「イグニッション!」
メイヘから吹き出た霧が辺りを包むと、ケルベロスとヤルダバオトをズタズタに切り裂いた。
「えっ??もう終わりですの?」
「弱すぎる...恐らくまだ居るよ」
「ぐははは!ご明察!」
次々と地面から飛び出しエキドナとモリガンに抱き着こうと飛び掛かる。地下までは血の霧は及ばない為に反応が遅れるが...
「させないよ」
その言葉通りヤルダバオト達は空中で静止した。
「何だ!?体が動かねえ!」
全身に糸のように絡み付く血の拘束。
「なら自爆するか!!」
爆散し目眩しを仕掛けようとしたが。
ドッ... 血の膜に押し包まれ自爆は意味を成さない。
「何だそりゃ!!」
困惑するヤルダバオトを他所にバフォメットが仕掛ける。
(ココじゃ!!)
死体として転がっていたケルベロスが瞬時にくっつきエキドナを拘束し飛び上がる。
「んんん!!!」
「大人しくしろ!足掻いても無駄だ!飛ばすぞ!!」
モリガンが空を見上げる。
(手筈通りとはいえ見てるだけなんて、暇ですわ)
メイヘからはじっとしていてとお願いされていた。
「この体が崩壊するまで飛ばすぞ!」
バフォメットは全力で魔力を放出しその場から遠ざかろうとするが...
「降りてこい...」
全身を血の鎖で繋がれ地上まで引きずり込まれる。
「くそぉぉぉぉ!!何をしてる!ヤルダバオト助けに来い!」
返事は無い。遠く離れた位置に居る指揮役は逃げる準備を始めている。
(あのガキ前より桁違いに強くなってやがる!ここまで差が出来ると自爆特攻じゃ埒が明かねえ)
「残りは特攻しろ!俺はデータを持ち帰っ!?」
突然警戒アラームが脳内に鳴り響く。
バキッ!! 背後からヤルダバオトの首筋にイザナの強烈な蹴りが打ち込まれた。
「何だてめぇ!?」
咄嗟に脚を掴む。
「はいはい!これも喰らいな!ボルテックスサンダー!!」
イザナの脚からヤルダバオトの首に膨大な電流が流れ込む。
「ガアアアア!!!!」
ドサッ... 全身から煙を上げながらその場に倒れ込む。
「あはは!よっわ!」
間髪入れず右手に剣を創造する。
「おりゃ!」
バキンッ!! 首を切り離そうと振り下ろしたが音を立てて剣は砕け散った。
「嘘っ!?何コイツかったい!」
「私に任せて!」
ライラは神剣を抜き瞬時にヤルダバオトの四肢を切断した。
「ライラ首でいいのに!」
「それ機能停止してる!コアも持ち帰ろ!」
イザナは即座にヤルダバオトを担ぐと全力でマーロに向かって移動を始める。
(何だ!?頭が殺られた?)
(この場合優先は誰だ!?)
(直前の指示は自爆特攻だったぞ!)
(もう知らねえ全員で行くぞ)
司令塔を失い統制が取れなくなったヤルダバオト達は勝ち目の無い特攻を仕掛けて行った。
「ねえ?舐めてる?」
纏まり無く単騎で突撃し倒されていく敵にため息を着くメイヘ。
「動くなぁ!!動けばエキドナを殺す!」
「往生際が悪いよ?」
「黙れ!ガキが!」
(隙があればエキドナに潜り込む!)
「はぁ...まあお好きにどうぞ」
バフォメットはまだ勝ち目があると錯覚していた、エキドナとの接近は予定通りとは知らずに...
「この鎖を解け!」
パチンッ! 指を鳴らし鎖を解くとエキドナと距離が少し開く。
(今だ!!)
「遂にこの時が...ずっと待ってたのよ」
「はっ??」
寄生する筈が予想外の言葉に感極まる。
「おおお!そうか!お前も我に会いたかったか!」
「えぇとっても会いたかったわ...私のこの手で殺したかった!」
ドスッ! エキドナは右手をケルベロスの体の隙間に突き刺した。
「なっ何を!?」
「ケルベロスゆっくりお休みなさい」
右手の指輪から白い炎が噴き上がる。
「何だコレは!?熱くない熱くは無いが痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
「コレは異物のみ焼き払う浄化の炎...私の子から出て行きなさい!」
バフォメットは堪らずケルベロスの体から飛び出すが、炎の勢いは衰えない...益々燃え盛る。
「グアアア!!消えない!何故だ!!」
「それは異物を消し去るまで消えません...もう終わりです死になさい!」
「嘘だ...われ...が...こ」
のたうち回りながら丸焦げになり無様に死に絶えた。
「終わった...」
エキドナはケルベロスの亡骸を抱き締める。
「ごめんね...おかえりなさい」
マーロ 東門
イザナは黒焦げのヤルダバオトを引き摺りながら門を潜る。
「おい!何だ何があった!」
門番が駆け寄る。
「冒険者の亡骸を見つけて、この通り丸焦げだけど可哀想だったから回収してきたの」
「こりゃ酷い...まだ新しいな?何処で見つけた?」
「ずっと東の方よ」
「おい!捜索隊を出すぞ!まだ生き残りがいる可能性もある!」
「はっ!」
辺りは慌ただしくなり騒ぎになりかけている。
「お嬢さん悪いがその遺体を安置所まで運んでくれ」
「わかった、行くよライラ」
「うん」
そのまま騎士団の管理する死体安置所に向かうフリをして領主の館に入る。
「お待ちしていました、どうぞ」
「予定変更よ、ヒューマノイドを捕まえたこのまま王都の研究所に飛ぶわ」
「かしこまりました、地下のゲートをお使いください」
2人は地下の王都へのゲートに向かった。
研究所ならヤルダバオトのデータを解析出来る、突如訪れたチャンスにニヤけるイザナだった。
(思ったより早く進めそう!ふふふ)




