計画と覚悟
馬車が村に向かう様子を山の中腹から監視していた男が報告する。
「自警団達はこのまま村に戻る様です、魔物を召喚し村を襲いますか?」
報告を受けたデーモンは顎髭を触りながら答えた。
「無駄だな‥この場所で呼び出せる魔物なぞたかが知れている、あの魔法使いが居ては手も足も出まい」
フードの男が前に出る。
「申し訳ありません‥亜人達に恐怖を植え付け巨大な魔禍を発生させる予定でしたが‥」
「どうやら村に呪を妨害する魔石が設置されていたようです」
デーモンは2人の人間を見ながらため息をつく。
「与えられた事すらまともに出来んとはな‥」
2人は黙っている、迂闊なことを言えない状況に場の空気が張り詰める。
「改造サイクロプスを失わなかっただけ良しとするか」
「メフィスト様!何故サイクロプスを下げたのですか?アレの力なら自警団達を皆殺しに‥」
「おい!名前を呼ぶな!」
「あっ」
デーモンの名前を発した男は次の瞬間メフィストと呼ばれた魔族に消し飛ばされた。
「愚か者め‥この世界には奴の監視がある事を忘れたか!」
魔族達が活発に動けないのは女神の力により魔族の名前や発した魔力に反応し、その位置が各都市に通達されるからだ。
「ここを離れるぞ!騎士団の目がここに向くなら好都合だ、当初の計画通りニール村で実験を行う」
「はっ!」
フードの男が岩の壁を触ると壁が透け中に魔法陣と魔族の祭壇が設置されていた。
「ここの後始末はお任せください」
メフィストはフードの男の肩を叩くと魔法陣を起動させた、発生した渦に入って行くと渦はゆっくりと消滅し何処かに転送されたようだ。
フードの男は懐から魔石を取り出し祭壇の前に置く、魔力を流し直ぐにその場を離れると魔石が点滅を繰り返し周囲を巻き込みながら消滅した。
「本来は自決用だが、証拠の隠滅にはもってこいだな」
フードの男は馬に乗り森を見下ろすと。
「森には辿れる痕跡は無い足止め用に残して置くか‥」
カイラには直接向かわず迂回ルートを進み始めた。
一方ルーク達は村に着きルイ商会と会議をしていた。
「自警団からの報告は以上だ!」
伝えられた内容にルイ商会の人達は困惑していた。
「魔族に魔禍‥それに言葉を話す魔物、一体何が起きてるんだ」
「ここは大丈夫なのか?」
「直ぐに本社と王国に報告しないと!」
皆混乱している‥ジノンが場を落ち着かせる。
「皆落ち着いてくれ!魔禍は沈めたし魔物は撃退した!ここは安全だ!」
「信じて良いんだな?!」
ジノンがうなずくとルイ商会の人達は今後の対応を話し始めた。
「王国には我々から報告をしよう、魔族や話す魔物に関しては自警団から証言出来る人を1人派遣して欲しい」
「マット!証言の方頼めるか?冷静なお前なら上手く説明出来るはずだ」
「そうですね、私が行きましょう」
方針が決まった頃に団員が報告に来た。
「団長!村の警備の再配置が終わりました!村民には村長から安心するよう説明がされています」
「了解だ!では今日はここまでだな」
ジノンが会議を終わらせようとするとライラが割って入った。
「お父さん!亡くなったリッドさんはどうするの?まだお葬式もしてないんだよ?!」
「リッドの葬式は村が落ち着いてからだ、魔禍の発生も噂になっている今皆が悲しみ不安が増すと新たな魔禍が発生しかねん‥」
「そんな!」
ルークはライラに優しく問いかける。
「ライラ悲しいのは皆同じだよ、でもジノン団長や自警団にはこの村を守る責任がある、それは亡くなったリッドさんも分かってくれるはず」
ライラは少し落ち着いたようだルークの隣に座ると涙を拭いている。
「ルークすまないな、ライラを頼む」
ルークはうなずくとライラが小声で話しかけて来た。
「ルークさん外に出れますか?」
「ああ、行こうか」
2人は外に出ると外の長椅子に座る。
「ルークさんお願いがあります、私も冒険者になりたいです!」
「冒険者に?ギルドに職業登録だけじゃ駄目なのか?」
「もっと強くなりたいんです!皆を守れるように!」
(マズイ傾向だ‥義憤に駆られて先が見えなくなっている、このままだと無謀に魔物と戦い自滅する恐れもある)
「自警団で鍛えてもらう事も出来るし、無理に冒険者にならなくても強くなる方法はいくらでもある」
「ここじゃ駄目なんです!確かにお父さん達は強いけど‥この辺りは平和で」
このまま放って置けない、暴走するより自分の近くに居た方が良い駄目だと言えば意固地になりかねない。
「なら俺と一緒に行くかい?取り敢えず鉱山都市のギルドでゆっくり考えてから決めても良い」
「良いんですか!やった!」
「今朝約束もしてたしな」
「後でお父さんに話してきます!」
「説得出来るかな?」
「何とかしてみせます!家で作戦考えなきゃ!ここで失礼しますねルークさんおやすみなさい」
「おやすみ、作戦の成功を願ってるよ」
ライラは走って家に向かって行った、それを確認したのかジノンが出て来た。
「ルーク迷惑をかけるな‥娘を危険に晒したくは無いが、いつかはこの村を飛び出す予感はしていた」
「俺も説得はしてみるが期待はしないでくれ」
「あの頑固さは親譲りだな‥昔の親友を思い出す‥」
「そうかな?俺にはジノン団長に似てるように見えるよ」
「そうか?」
ジノンは少し嬉しそうだ、怒涛の1日が終わろうとしていたルークは宿に戻りようやく気を休めた。
「明日ルイ商会が報告に向かったら早くて2日か3日後には騎士団が来る、その前に村を出ないと取り調べで動けなくなる早めに準備はして置くか」
翌日
「ルークさんおはようございます、朝食の用意が出来ました」
「ありがとう、直ぐに向うよ」
宿の従業員から声がかかる、直ぐに返事をすると食堂で朝食を済ませその後村の薬屋で買い物をする。
「エーテル2つと雨具を買いたい、それと登山用の靴はあるかな?」
「いらっしゃいませ、エーテル2つと登山用具ですねエーテルと雨具と靴で銀貨22枚になります!」
銀貨22枚を払うとエーテルと雨具を受け取り靴を選んだ、ついでに近くの情報を聞いてみる。
「この付近の山にはどんな魔物が出る?」
「この付近だとゴブリンやオークが多いですね、たまにスライムが出るので注意してくださいね」
「スライムか厄介なのが居るな」
スライムに不意打ちされると、粘液で全身を包まれ呼吸も出来ず剥がせないのでゆっくりと吸収消化されていく、物理攻撃も効果は無く対処出来る魔石が無いと魔法使い以外は詰みである。
「ありがとう、これはお礼だ」
銀貨5枚を追加する。
「ありがとうございます!」
薬屋を出るとライラが嬉しそうに手を振りながら走ってくる、どうやら説得に成功したようだ。
「こっちの気も知らないで嬉しそうに」
ライラのギルド登録とルークの装備の為次の鉱山都市に向う準備を始める、村の穏やかな時間の中頭をよぎるあの魔物の言葉‥「お前の顔を覚えた」次があると言うことだ、ルークは考えない様にしながらも覚悟を決めていた次は確実に倒すと‥
出発日を明日と決めライラに皆にちゃんと挨拶をするように促す、村での最後の日が過ぎようとしていた。




