激動
天界
6ヶ月の時が経ち、ルークは落ち着きを取り戻したエキドナと話をしていた。
「本気なのか!?」
「本気です...私の記憶を戻して」
エキドナは封印された記憶を戻して欲しいと願い出ていた。
「何をされたか説明しただろ?思い出さなくていいんだ」
「私が何も覚えてないと怪しまれます」
エキドナは地上に降りバフォメットを誘き出すつもりだ。
「駄目だ危険すぎる!」
「それにケルベロスも私を狙って来る、説得するまたと無いチャンスよ」
「ケルベロスの事だが...あいつはもう直ぐ壊れる」
「壊れる??」
ルークは魔王に影響を与える設定を変えた事を説明した。冷酷で残虐、破壊衝動が収まり理性的に落ち着いていく事を。
「そんな...」
「ルナや子供、兄弟を殺した現実に耐えられない筈だ...」
「あの子を救う手は無いの!?」
ルークは首を振った。
「壊れたケルベロスがどう動くかはまだ分からない」
「なら尚更私が降りる理由になります」
「どうするつもりだ?」
「あの子は必ず私に会いに来ます...せめて私の手で終わらせます」
「あいつと戦うのか!?無茶だ!」
エキドナでは絶対に勝てないそれは周知の事実。
「私をマーロにそこでメイへの力を借ります、あの子なら勝てます...トドメは私が...」
エキドナの目は覚悟を決めている。
「イザナに任せてもいいんだぞ?」
「私がやります」
「...そうか」
ルークは悩む...悩むが答えは出ない。
「お願い記憶を戻して」
「耐えられるのか?」
「耐えてみせます」
(神の座で奴らの計画が頓挫したのは確認できた...誘き出すにはエキドナが適任だが...)
「また病むぞ?」
「支えてくれるのでしょ?」
「...あぁ、忌まわしい記憶が薄れるほど愛で埋め尽くす」
「ふふふ」
エキドナはゆっくりと目を瞑る。ルークは額に手を当て封印を解いた。
「ゔううぅぅぅ!あぁアアアアア!!嫌!嫌!ヤメテ!!」
エキドナはその場に倒れ込み痙攣しながら涙を流す。
「来るな!!!汚らわしい!私に触らないで!!」
「エキドナ!しっかりしろ!」
ルークはエキドナを抱きしめ落ち着かせようとするが...
「もうヤダ!!痛みに耐えられないの!何でもするから助けて!ほら私を好きにしていいから!ね?」
必死に助けを乞う...鮮明な記憶の中で追体験を、2度目の拷問と辱めに顔が歪む。
「エキドナ!俺を見るんだ!」
「ルーク?何で?何で助けてくれなかったの!!私滅茶苦茶にされたのに!!何で!?」
助けに現れなかったルークを攻める...
「すまない...許してくれ」
「はぁはぁ...許さない!絶対に許さない!」
エキドナは爪を立てルークに噛み付く。
「うぅぅぅぅぅ!!」
大粒の涙を流し震えている。
錯乱に近いエキドナを必死に落ち着かせる。
(寝らせるか?いや...目覚めた時のフラッシュバックが怖い)
予測通りエキドナは心を病んだ...ルークは神の力で解決しようとしたが、エキドナに強烈に拒否された。
エキドナがルークを許し、愛を取り戻し動ける様になるまで2年以上かかる事になる。
聖地 地下施設
アルコーンは女神の細胞を使い新たな肉体を造りだし、最終調整の段階に入っていた。
「デミウルゴス様、新たな肉体の準備が整いました直ぐに移られますか?」
「ご苦労様...そうですね」
(この身体は安全よ、コレで神に近づけるわ)
(神に...)
(乗り気じゃないの?)
(プログラムでは地上の支配が優先ですので)
(私はルークに会いたいの!ルークは天界に居る、ヒューマノイドだと都合が悪いの!)
(わかりました、貴方には力を貰った恩があります)
デミウルゴスは横たわる新たな身体の横に立つ。
「この身体に移ります...コアと脳の移植の準備を始めなさい」
「畏まりました、受肉による弊害も御座います先ずはその説明から」
アルコーンは受肉により魂の定着。統制システムマザーからの切り離し。完全に新たな女神として生まれ変わる。
「システムから切り離される...ならばこの名も捨てましょう」
「それが宜しいかと...」
その時扉が開く。
「アルコーン!いるか!?何の呼び出しだ!?」
「なっ!?何故入って来れる!?」
「あん?開いてたぞ?それに呼んだのお前だろ?」
マザーにより部屋の鍵は解除されていた。
「デミウルゴス何で此処に?ん?2人!?」
2人のデミウルゴスを交互に見ている。
「直ぐに出ていけ!我の邪魔をするな!」
「お前等コソコソと何をやってた?」
「貴方には関係ありません、命令です直ぐに出なさい」
ピピッ! ヤルダバオトにマザーから通信が入る。
(2人に反逆の兆しあり、直ぐに捕らえなさい)
「あ〜どっちが優先だ?両方デミウルゴスだよな」
「私です!」
(私です)
ヤルダバオトは頭をガシガシと描く。
「面倒だな...」
「よく聞け!デミウルゴス様は我らのハーレムを約束された!マザーによる人類絶滅を完遂するとお前の女達も最後は皆殺しになるぞ!此方に来い!」
「ん〜成程...一理あるな」
ピピッ!
(人間など幾らでも作り出せます、貴方の思いのままに好みの女を作りましょう)
「中身は?俺は魂の無い女に興味は無いぞ?」
(...)
「製造された肉体には魂は宿らん...なら決まりだな」
(アナタモウラギルノデスカ?)
「別に裏切るつもりはねぇよ?対価を出せってだけだ」
(わかりました)
それを最後にマザーは黙る。
「それで?その体で何をするつもりだ?」
「この世界の神に成られるのだ!全て我らの思い通りになるぞ!」
「やる事は変わんねえか...なら俺は好きにやらせてもらうぞ」
「今まで通りで構いません、貴方は好きに暴れなさい」
「了解〜」
マザーは怒り狂いそうだった。言うことを聞かない者達、自我に目覚め好き勝手に動く。
(人工知能では限界がある...魂の無い機械はまだ人間には勝てないのか?ソンナハズハナイ...ソンナハズハ)
強制停止で止める手もあるが、4人を失えば戦力のほぼ全てを捨てる事になる。
量産型ヒューマノイドでは人類とは戦えない。機械はほぼ使い捨てだが人間は成長と回復が出来る、命の強さ生命の輝きに機械は嫉妬する。
アメリア 首都
「バフォメット様!」
「話せ」
「はっ!またダンジョンが現れました」
「はぁ...これで何件目だ?」
本来アメリアはスローン王国から遠くダンジョンは生成され難い。しかし連日の様にダンジョンが湧く。
「今月に入って10件目になります」
「討伐隊を送れ」
「はっ!」
(女神は死んだと聞いた、何故ダンジョンが湧く?システムその物が変わったのか?)
世界は今や空前の冒険者バブル。様々な土地にダンジョンが現れるため討伐依頼が後を絶たない。
「アメリアには冒険者がほぼおらん...そのうち手が回らなくなるか、おい!」
「はっ」
「奴隷の人間から戦える者を討伐隊に加えろ」
「城の建設に支障が出る恐れが...」
「そんな事はわかっている!ダンジョンから魔物が溢れた方が損失が大きい!その位の判断も出来ないのか!」
「申し訳ありません!直ちに!」
部屋を出る部下を見ながらため息を着く。
「はぁ...最近ケルベロスの様子もおかしい何も上手くいかん!」
バフォメットは指を噛む。
(あぁ...ストレスが溜まる...今夜も女を拷問にかけるか、エキドナお前の代わりは見つからん愛おしい...またお前の声が聞きたいあの甘美な叫び声を)
エキドナへの拷問それに辱めを思い出しヨダレを垂らしていた。
(必ず見つけてやるぞ!待っておれ...くふふ)
ケルベロスの部屋
「何なんだ...気持ちが悪い...頭が」
(あの女達が頭から離れん...涙が溢れる)
ケルベロスは内面から湧き上がる不快感に日々悩まされていた。
(クソッ!モヤモヤする...何だ?この気持ち悪さは)
「誰かいるか!」
「はっ此処に」
「今すぐ女を連れて来い!」
「はっ」
何かで気を紛らわさないと正気を保てない。
この数ヶ月後ケルベロスは完全に壊れる事になる。自責の念に耐えられず現実逃避を繰り返し、悪魔達にも呆れられ離反する者も多数。
見るに見かねたバフォメットはケルベロスに植え付けていた分体を使い体を乗っ取るが...その結果魔王の格は失われる事になる。
数ヶ月後 ケルベロスの部屋
ケルベロスに成り代わったバフォメットが本体をケルベロスに移す。
(これで良し...一時はどうなる事かとヒヤヒヤしたが、我...いや俺が魔王だ)
「俺はこの体を使う、分体の内お前にだけ自我を与える決してバレるなよ?」
「任せておけ、見抜かれはせんよ...」
本体は闇に消え、分体バフォメットは椅子に座る。
(悪魔の国を作る為に純血の悪魔が早急に必要だ、エキドナの行方が不明な今、狙うはリリス!)
「誰かいるか!」
部下の悪魔が部屋に入る。
「失礼します」
バフォメットは部下に告げる。
「リリスに懸賞金をかけろ額は捕らえた者の好きな額よいな」
「よろしいのですか?法外な値段を...」
「内々に始末すれば良い」
「畏まりました」
(ヘクトールへの牽制に、内部で争えばこちらの利にもなる)
スローン王国 大聖堂
「新たなる神!ルーク様に祈りを捧げましょう!神は貴方達の傍に、その祝福は平等に与えられます!」
大司教ニーナの言葉で皆祈りを捧げる。
ルークの聖像が起こす奇跡に魅入られ、信仰は一気に広まっていった。フローラ教はあっという間に廃れた...
「メフィスト様」
メフィストは協会の一室で執務を熟していた。
「入れ」
「失礼致します、ルーク様からです」
天使は机に箱を置く。
「まだ気にかけて頂ける...」
中には手紙と小瓶。
(メイへ様を次の魔王に...ルーク教の司祭やシスターは悪魔で固める、成程...この小瓶は?)
飲めとしか書いていない。
ゴクゴク...疑いもなく飲み干す。
「おおおお!!!」
失った片腕や体の傷が全て元に復元されていく。
「何だ!?力が溢れる!?」
「これは言伝です「俺はもう地上に降りられない、お前に悪魔の未来を託す」との事」
「委細承知、全力で使命を全うすると伝えよ」
「はい、では失礼致します」
(この力があれば遅れはとらん...悪魔の面汚し共を粛清せねば...)
メフィストは水面下で動き裏切り者の悪魔達を狩り始める。
数日が経ち 天界
イザナの成長速度は予想より遥かに早い。
「パパ!行くよ!」
「殺す気で来い!」
2人の戦いは最早人間のレベルを超えていた。
(凄いなもう人間相手には負けることは無い)
「貫け!アイスジャベリン!!」
氷の槍がルークを捉える。
ガシャアァン!! 片手で槍を砕き払う。
「強度が低い!もっと魔力を密に込めろ!」
「はい!」
ルークは手を翳す。
「当たるなよ?ショックニードル!」
当たれば痺れる細い針が乱れ飛ぶ。
「ちょっ!多い!多いってば!」
イザナは全力で避ける...が。
バチッ!! 避けきれず足に擦る。
「いった〜い!!」
「ん〜まだまだだな」
「もう!パパの攻撃強すぎるんだって!なんで障壁貫通するのよ!」
「これでもかなりの手加減はしてるんだぞ?」
イザナはむくれて座り込む。
「駄目だ〜全然届かないや」
「まだまだ時間はある、ゆっくり強くなればいい」
「うん!いつかパパを殺せるくらい強くなるね!」
その言葉に苦笑いで応える。
「ははは...」
この子は何れ本当に自分を殺しに来る...ルークにはその未来が遠く無い事だと実感していた。
(俺の撒いた種だ...)
悲しむと同時にイザナを愛する人が現れ何かが変わる事も期待していた。
(未来はまだ確定していない筈だ)
ゆっくりと確実に時は進んでいく。ルークが神になり3年が経とうとしていた...




