魔王と魔王
スローン城 魔王の間
「ぐああああ!!」
左腕を焼かれたメフィストはその場に蹲る。
「この程度か…期待外れだ」
「まだだ!まだっ…」
ドゴッ!!
顔を上げた瞬間、殴り飛ばされ後方に吹き飛び城の壁に叩き付けられた。
「もう寝てろ」
気絶したメフィストを他所にケルベロスは次の行動に移る。
「いるか?バフォメット!」
「はっ!ここに」
老人の悪魔が控えていた。
「宰相はお前に任せる」
「我で宜しいのですか?」
「お前が裏でコソコソやってたのは知っている…回りくどい!好きにやれ」
「全てお見通しでしたか…恐ろしや恐ろしや」
過激派や純血派を焚き付けていたのはバフォメットだ。
誰にも気付かれずに上手くやっていたつもりだったが、鼻の聞くケルベロスには筒抜け…しかし刺激を欲したケルベロスは見て見ぬふり。
「さてと、ルナ達を殺しに行くか」
「本気で?」
「もちろん」
移動した2人は部屋の前で立ち止まる。
「ここで待ってろ、直ぐに終わらせる」
「はっ」
外で待つバフォメットの耳にも中の様子が届く。
女性2人の叫び声と必死に説得する声…それともう1人の男性の声と泣き叫ぶ声。
(ルナ親子とタルタロス…それにこの声はラードーンか)
室内は地獄と化していた。一方的な虐殺、大切な家族を嬉々として殺し満面の笑みを浮かべるケルベロス…
「ハハハッ!!楽しい!楽しいなあ!!」
(アレは最早サタンと同義…我らの王と成った)
「バフォメット入れ!」
「はっ」
部屋の中は焼け焦げた臭いが充満していた。
「お前は手練を連れ母さん…いやエキドナを捕らえろ」
「どうするおつもりで?」
「ん?オレの子を産ませる」
「なっ!?実の母親ですぞ!」
流石のバフォメットも軽く引いていた。
「次の魔王は純血の悪魔であるべきだ、元々はライラに産ませる予定だったが行方不明…なら残るはエキドナだろ?」
「それならばリリスがおります」
「駄目だ、今アイツに手を出すとヘクトールや騎士団と戦闘になる…オレは問題無いがお前達は別だろ?」
銃火器や聖剣そして強力な装備、今の悪魔達でも勝てるか微妙な所だ。
「しかし!それは余りにも不憫」
「そうかお前はエキドナに惚れてたな…オレの子を産ませた後はお前にやる、好きにしろ」
「…エキドナが我のものに…」
遙か昔からエキドナに惚れていたが…当時は出来損ないと揶揄されていた彼女を登用すると、自分の立場が危うくなる事を恐れ一線を引いていた。
「ほらさっさと行け、やる事は多いぞ」
「はっ直ちに」
その後エキドナを拘束し悪魔達は東に飛び立つ。新たな魔王軍として…
天界 管理室
ルーク達はケルベロスの行動を見ながら何も出来ない自分達に打ちひしがれていた。
「頭がおかしくなりそうだ…」
「研究で見てるだけは慣れておったが、コレはキツいのう」
「アマテラス!何か手は打てないのか?このままだとエキドナが…」
「ん〜?無いことは無いけど?」
「本当か!?」
「神が下界に出来る唯一の事忘れてない?」
その言葉にマモンがハッとする。
「ルークよ天啓や神託じゃ!」
「しかし誰がエキドナを救える??」
「おるじゃろ!暇しておるハエが!」
「そうか!バアルなら!」
ルークは直ぐにバアルに神託を下す。
王都郊外 バアル宅
バアルが洗面台で顔を洗っていると……
「ん?何だ?」
顔を吹いた所で目の前に光の粒がキラキラと輝いている。
「まさか!?神託か?神が選ばれたのか!?」
光は鏡に文字を写す。
「助けてくれ!魔王軍が離反したエキドナの救出を頼む!」
その威厳のないメッセージに呆気にとられる。
「ブッ!!カッカッカッ!!何だこの駄文は…ひっヒィヒッヒッヒ!!」
呼吸困難に陥る程その場で笑い転げる。
「はあはぁはぁ…腹が痛い!笑わせおって…この感じはルークか?全く情けない」
マモンとアマテラスはルークを見る…
「仕方が無いだろ!急いでたんだ!」
「いやお主らしいわい、じゃが普段はワシが送ろうこんな文章力では舐められるからのぅ」
バアルは知覚範囲を広げ王都周辺を探る。
(悪魔の団体が東に…これだな?ほう〜ケルベロスとは思えんなこの魔力、完全に魔王と成ったか)
「仕方が無い恩は売っておくとするか」
その後バアルはロザリーと娘2人に仕事だと告げ家を出た。
(タイミングを誤れば負ける可能性があるか、暫くは様子見…まあ移動中は必ず隙が出来る)
それから数日 聖地
「だあああ!クソッ!惜しかったなぁ」
「作業中だ少し黙れ」
「あと少しだったんだぞ?あぁ〜あのヴァンパイアを喰いてえなぁ」
「似たような女を攫えば良かろう?それとも同じ姿のヒューマノイドでも作ってやろうか?」
「お前はそれで満足出来るのか?」
「私は満足出来る」
その言葉にヤルダバオトはニヤつく。
(相変わらず嘘がバレバレだ)
他愛の無い会話をしていると、突然警報が鳴り響く。
「侵入警報か?」
「これは…わざと引っかかったか、大聖堂前の大広場でお待ちかねだ」
「おい!俺のメンテはまだ終わんねえのか!」
「うるさい、もう終わっている」
大聖堂前 大広場
女神と3人になったナンバーズが広場で待ち構えていると、そこにヤルダバオトとアルコーンが駆け付ける。
「おお!?すげぇ別嬪さんがいるじゃねえか!」
「データと一致した、アレが女神だ」
「アレは俺が貰うぞ!」
2人の前にディアボロスが降り立つ。
「その前に周りを排除しないとね」
3人はナンバーズを視界に入れる。
「何だ?この感じ覚えがある?」
ヤルダバオトは3人の魔力の波長を照合すると…
「ベータとニュー?コイツらナンバーズか?」
「哀れな…化物に成り果てたか」
2人を他所にディアボロスは女神の視線を感じとる。
「僕に何か用?」
「其方…ディアスか?」
「僕はディアボロスだよ?」
女神は魂を見れる、その目にはディアスの魂が映る。
(七罪を扱える器となれば納得じゃ…何処かに隠しておったな)
「お主、妾について来ぬか?」
「ごめんね興味無い」
「そうか…ならば…」
2人に割って入る。
「おいおい!女神さんよお!俺にしろよ!俺が可愛がってやるぞ!」
「ゴミめ…妾に話し掛けるな」
「そんなガキより俺のテクニックの方が愉しめるぞ」
「そんなに妾が欲しければ、ナンバーズ達を倒してみよ」
ヤルダバオトはニヤリと笑う。
「言質取ったぞ?おい!さっさと始めようぜ!」
数は丁度3対3だが…ヤルダバオト以外は動かない。
ベータが舐められたと思い挑発する。
「ディアボロスお前が1番強いな?俺と勝負しろ!」
「ごめんね、弱い者に興味は無いんだ」
「何だと!?」
「だって君…その目は弱者の目だ」
戦士に対し余りに失礼な態度に言葉を失う
「巫山戯るなよ…俺だって死線を超えて来た!」
「嘘だね…思い出してみなよ?」
ヤルダバオトが畳み掛ける。
「てめぇ!俺との戦いでも逃げやがったの忘れたのか!?」
「逃げてない!俺は…」
そうヤルダバオトの言う通り、退けたのはニューだベータでは無い。
「俺は…」
見ようとしなかった現実に直面する。
今迄勝ってきたのは殆どが集団戦…メタトロンは連戦で弱っていた、カーラに負け、ウリエルには決定打を欠けニューに任せた、そしてヤルダバオトを退けたのもニューだ。
「俺は…」
思い起こすと唯の1度も死線を超えていない。
「あっ…」
「グハハハ!!情けねえ顔だな!ほら相手してやるからさっさと掛かって来い!」
「だまれ…黙れえぇぇ!!」
ベータは全力でヤルダバオトを叩きのめす!
「カハッ!ぐはっ!?」
戦闘力ではベータが圧倒的に上、ヤルダバオトは為す術なくバラバラに砕け散った。
「はぁはぁ…どうだ!ハハハッざまぁみろ!!雑魚の癖に偉そうに!!ハハハハハ!」
「ハハハハハッ!」
ヤルダバオトの笑い声に驚き飛び退く。
「なっ何で生きてる!?」
「なんでだろうな?」
ガンマが辺りをサーチすると…夥しいカズの反応が返ってきた。
「ベータ!そいつ量産型だ!」
「なっ!?」
「おっ当たり〜」
その言葉と同時に大量のヤルダバオトが姿を現す。
「クソッ何体いやがる!」
辺り1面ヤルダバオトだらけ、不気味を通り越し冗談みたいな光景。
「俺が量産され始めて3年近く経つ、さあ何体いるだろうな?グハハハハハ!!」
「ガンマ!ニュー!片っ端から片付けるぞ!」
「嫌だね」
「は?」
ガンマはアルコーンの側に降り立つ。
「降伏する」
「懸命だな、良いだろうデミウルゴス様に進言してやる」
「ありがとうございます」
「裏切る気か!ガンマ!!」
「もう着いて行けねえよ…ニューお前はどうする?」
ニューは何も反応を示さない。
「残念だ…じゃあな」
その言葉と同時に…
「さあ始めるぞ!少しは抵抗して見せろ!」
ヤルダバオトが一斉に突撃を開始する。
それは一方的な数の暴力だった、数体倒してもその倍が飛び掛かり自爆…捨て身で襲い掛かる戦法に為す術がない。
「ふう!終わった終わった!」
何度も何度も繰り返される自爆に2人は跡形もなく消し飛ばされた。
「これは戦いでは無いな、虐殺だ」
そこには大義も正義も誇りも無い、流石のアルコーンも首を振る。
「後は女神だけだね」
ディアボロスは女神の前に浮く。
「どうする?殺るかい?」
「役に立たないゴミ共…」
「生み出したのは君だろ?」
そんな会話をしている時だった…
「うっ…体が熱い!何だ?」
ディアボロスの様子が変わる、纏う魔力が膨れ上がっていく。
「おお!七罪が揃ったのか!素晴らしい輝きじゃ」
「あああああ!!」
ディアボロスが魔王として覚醒する。
「良いぞ良いぞ!その力まさに魔王!」
天界 管理室
「マモン!コイツはディアスなのか!!」
「お主も魂を見れるじゃろう…」
「生きていた…ディアスが生きていた…」
1度は見捨てた息子が生きていた。助ける可能性があるにも関わらずルークは手を出せない。
「ルークよスマン…ここに来てワシの欲は満たされた、強欲の格はディアスに移ったようじゃ」
「マズイな…魔王が2人…くそっ!何方も俺が撒いた種だ」
アマテラスが提案してきた。
「ルーク?天使の製造始めるよ?」
「…以前の様な傲慢な天使は駄目だ天使から選民思想を抜け」
「は〜い」
聖地 大広場
「おいディアボロス!聞こえてるのか!」
「大丈夫…問題無い」
魔王と成ったディアボロスは湧き上がる破壊衝動を抑えつける。
「僕に命令出来るのはデミウルゴスだけだ!」
「デミウルゴス…其方達の創造主か、何処にいる?」
「此処に居ますよ?」
戦いが終わりデミウルゴスが姿を見せる。
「女神よ勝負は決しました、我が軍門に下りなさい…その力を私に渡すのです」
「…」
「逃げようとしても無駄だ、この包囲網は抜けられんぞ!さあ約束通りお前は俺の女だ!」
ディアボロスが手を翳す。
「約束は守らないとね?」
「妾と来る気は無いようじゃな…」
「口説いよ?君はヤルダバオトの物だ」
女神の落胆は計り知れない…なにも上手く行かず心がぐちゃぐちゃになっていた。
気力も無くなり地面に降りたその時…
「いたいた!探したぞ!」
ケルベロスが突然その場に現れる。
「なっ!?何処から来た??」
「何も反応は無かったぞ!」
余りの速さに警報すら鳴らす間も無い。
「ケルベロス…ん?お主その力は!?」
「名実共に魔王になった、でだ!最初はこの世界の信仰対象のお前を穢そうと思って追いかけて来た…逃げられると思うなよ?」
本能の赴くままに動くケルベロスに女神は見惚れる。
「よい!よいぞ!お主なら妾の全てを穢すのを許す」
「いい返事だ!ハハハッ!」
その言葉にヤルダバオトが激昂する。
「おい!その女は俺のもんだ!勝手に何言ってやがる!」
「邪魔するな」
黒い閃光が走った瞬間、数十体のヤルダバオトが燃え上がり崩壊していく。
「何だコイツ!?攻撃が見えない!?」
「皆下がってて、僕が相手をする」
ディアボロスがケルベロスの前に立ち塞がる。
「ん??この匂い懐かしいな…お前まさかディアスか?」
「僕はディアボロスだ」
「ん〜?成程記憶が無いのか…」
ケルベロスは辺りを見渡すと、手を叩きある提案をする。
「なぁオレ達組まないか?」
「僕に決定権は無いよ?」
「誰が持ってる?」
デミウルゴスを見る。
「あの女か…おい聞いてただろ?どうする?」
「良いでしょう、此方としても手駒は多い方が…」
「舐めてるのか?」
「…分かりました立場は対等とします」
「それでいい」
魔王のプレッシャーに気圧される。
「おいおいおい!俺の立場はどうすんだよ!」
「女神が堕ちたら好きにしろ」
「それじゃ唯の淫乱じゃねえか!そうじゃねえ」
「これからオレの配下も此処に来る、気に入った女が居たら好きにしていいぞ」
ヤルダバオトは少し考えると。
「全部と言ったら?」
「悪魔の繁殖用の女だ壊さなければ全員に手を出しても構わない」
「おおおお!!懐でけぇな!気に入ったぜ!」
ディアボロスが呆れ果てていた。
「君ずっと女の話だね」
「俺の生き甲斐だからな!」
ヤレヤレと肩を竦める。
(此処でディアスと会うのも運命を感じるな…しかも共に魔王だ)
事は最悪の結果を生み出した…女神、魔王、そしてヒューマノイドが手を組む形で幕を閉じる。
王都での共生とは違い共に世界を征服する協力者として…
天界 管理室
「これからどうするんじゃ?」
「このままだと地上は悪魔とヒューマノイドのみになる」
「ねぇ天使を送り込む?」
「それは最終手段だ」
ルークもただ見ているだけでは居られない。
「アマテラス!此処で生まれた子を地上に送ることは可能か?」
「可能だよ」
「此処で育てた後でも?」
「うん、駄目なのはルークが観測してからの介入のみよ」
神は全能過ぎる故に介入出来ない、巫山戯たシステムに嫌気が差してくる。
「ルークよどうするつもりなんじゃ?」
「此処で子供を作り育てようと思う、地上にはそれ迄耐えてもらう」
「持つと思うか?」
「ヘクトールに神剣を授ける」
「ふむ…それならば少しは持つか…賭けじゃな」
ルークはこれからの事全てを予測する。権能を使い予言に近い未来を見た。
(鍵を握るのはやはりライラとの子か…頼みはお前だけだ)
そしてライラが選ばれた事により彼女の悪魔としての力を浄化し元の獣人に戻す作業が始まる。
時を同じくして後続の悪魔達にバアルが追い付きエキドナ奪還の戦いが始まろうとしていた…




