痕跡と脅威
ルークは草木を掻き分けながら声のする方向へと進んで行く。
「ルークさんもう少しですよ!」
ライラが木の上から声を掛ける、流石は獣人枝から枝へ飛び移って行く。
「明るくなって来たなこの先か」
最後の茂みを抜けると開けた場所に出た視界が明るくなる。
「これは‥切り拓いた後か」
周りの木々が切り倒されている、辺りを見渡すとジノン達が準備を始めていた。
「こっちだライラ!ルーク!」
「お父さん何でこんな端に居るの?」
「こんな場所を切り拓いて何かをしていたんだ、罠が無いとも限らんからな」
団員の1人がゴーグルを掛け周囲を見渡す。
「魔力反応は確認出来ません!」
「反応は無しか‥ルーク上空から調べて欲しい」
「上空からで良いんだな?」
「ああ、ここから見えない中心を見てくれ!」
「天空から見渡せ[フィールドサーチ]」
上空の魔力の玉から視界に情報が入ってくる、詳しく確認するためにいらない情報を遮断し真上から見下ろす。
「ジノン団長!中心に焚き火の跡がある、ここに誰か居たのは間違いない」
「周りには誰も居ないか?」
「ああ、俺達以外に人は居ない」
「よし!中心を調べるぞ」
中心には焚き火の跡と地面に杭が何本も打ち込まれていた、鉄の杭には鎖が繋がれているルークは鎖を持つと‥
「ウェアウルフはここに拘束されていたようだな、鎖が傷だらけだ」
ライラが不思議そうに聞いてきた。
「どうしてウェアウルフは拘束していた人を襲わずにルークさん達の馬車を狙ったんですか?」
(確かにそうだ拘束を解かれたら目の前の敵を狙うはず‥)
考えているとジノンが指示を出す。
「マット!まだ匂いは嗅げるか?」
マットと呼ばれた獣人は地面に伏せると匂いを嗅ぎ始めた。
「我々以外に3人居たようです」
「種族は分かるか?」
「2人は人間ですが1人は嗅いだことのない匂いですね」
(嗅いだことのない?亜人でも無いのか?)
ライラがマットに確認する。
「マットさんの今までで嗅いだことのない種族は?」
「魔物を除けばヴァンパイアとデーモンですね」
周りがざわつく。
(ヴァンパイアは数が少ないので出会う事も滅多に無いがデーモン‥魔族か)
「マットさんが知らないって事は、その1人は村に来てないって事よね?残りの2人はどう?」
(ライラは本当に直感が良いというか素直というか、物事の本質に気が付く)
「1人覚えがありますね‥村の中で嗅いだ匂いです、今は居ませんが、皆さんが言っていた顔の思い出せない人だと思います」
村で魔王の話をしていた人物が関係している‥なら一緒に居たのは魔族の可能性が高い。
ジノンは頭を抱えていた。
「参ったな‥魔族だとしたら一大事だぞ、ヴァンパイアの可能性は無いか?」
ルークに確認するように聞いてきた。
「ウェアウルフを従えて居たと考えると魔族で確定だと思う」
「鎖で拘束していたのは何故だ?」
「飢えたウェアウルフが仲間を襲わないように拘束していたなら辻褄が合う」
「ヴァンパイアがウェアウルフを従える事は?」
「純粋なヴァンパイアなら可能かもしれないが、魔力を無差別に吸い上げる存在が居たらこの辺りの木々は枯れ果てているはずだ」
ヴァンパイアが魔王側に付いたのも周囲の魔力を吸う特性が人類達に疎まれていたからである。
「お父さん!さっきから話が進んで無いよ!」
ジノン団長が魔族と認めたく無いのも理解出来る、国王不在の今領内に魔族が出たとなると大騒ぎになる上、調査に騎士団や兵士達が押し寄せこの辺りは騒がしくなるだろう。
「自警団には報告義務がある‥しかしよりによって亜人の多いこの村とは、変な疑いを持たれないと良いんだが」
ジノンは団長として村の皆の事を思った上で苦渋の決断をするしか無かった。
「ここを調べ終わったら村に帰るぞ!」
バラバラになり辺りを調べ始めるもう痕跡は無いと思うが‥
団員の1人が切り倒された木の下に何かを見つけた。
「何だこれ?」
倒れた木と草の間で何かが光っている、手を伸ばし拾おうとすると‥
「うあぁぁぁぁ!?」
男性の悲鳴が響き渡る。
「どうした!」
皆が一斉に悲鳴の方を見た瞬間背筋が凍りつく、そこには魔禍が発生していた。
「そこから離れろぉぉぉ!!!」
ジノンが雄叫びに近い声を上げる。
「ああぁぁぁぁ」
団員は腰を抜かして座り込んで震えている、一斉に走り出すが間に合わない魔禍の渦から何かが出て来て団員を掴んだ。
「何アレ‥腕?」
巨大な左腕が出て来ると魔禍が少し広がり顔も出て来た、皆の足が止まる。
「サイクロプス‥マズイぞかなりデカイ上位種か!」
サイクロプスは左腕を振りかぶり団員を木に投げつける。
「早く助けなきゃ!」
「あいつはもう助からん!それより魔禍の対処だ!」
ライラは泣きそうな顔で俺を見るが首を振って答えた。
「そんな‥」
「ライラ!今は生き残る事を考えるんだ!アレが出て来たら皆やられるぞ!」
ライラは顔を叩き武器を構える。
幸いサイクロプスはまだ左上半身しか出ていない、魔禍が小さすぎるせいで出られないでいた。
「グオォォォォォォ!!!」
左腕を振り回しながら魔禍から出ようと藻掻いている。
ジノンが命令を出す。
「お前達ここでコイツを倒すぞ!!魔石に魔力を込めろ!」
「了解!!」
自警団はフォーメーションを組み各自強化を始めるとルークが走り出し先頭に立つ。
「デカイのを打ち込む!追撃を頼む!」
「お前達ありったけ打ち込むぞ!!」
サポートの3人が中級魔法をライラともう1人が弓を構える、ジノンと前衛3人は武器の魔石に魔力を込めた。
「双頭の暴風よ猛り狂え![ブレイドストーム]!!」
魔禍を中心に2つの竜巻が発生する、竜巻はサイクロプスを挟み込むと、対象を八つ裂きにしようと数え切れない刃が発生する。
「ガアアァァァァ!!!」
体を切り刻まれ苦痛の声を上げると自警団が一斉に攻撃を始める。
「ファイアーボルト!サンダーアロー!ウインドカッター!」
3人が一斉に魔法を放つ!竜巻に取り込まれる形でブレイドストームの威力も上がって行く。
「そろそろ竜巻が消えるぞ!」
ルークの声にジノン達は武器を構える、竜巻が消えると左上半身が切り刻まれたサイクロプスが見える。
「射て!!」
「このとっておきで!ファイアーストライク!」
ライラは魔石の付いた矢を放つ。
矢がサイクロプスの頭部に刺さると一気に燃え上がった。
「ウゥゥガアアア!!」
左手で頭の炎を消そうとする、その隙を逃すはずもなく。
「おおおおぉぉ!喰らえぇ!」
「オラァァァァ!!」
攻撃が続く中サイクロプスはその苦痛に耐えきれず地面を何度も叩き怒りをあらわにする。
「上位種だけあって頑丈だな‥どうする周辺に影響が出るが超級魔法を使うか‥」
ルークが悩んでいるとライラ達が声を上げる。
「嘘‥回復してる!!」
「なっ!何だこれは!?」
サイクロプスの無数の傷が物凄い速さで治っていく。
(こんな現象は聞いたことがない‥)
「皆下がってくれ!超級魔法で跡形も無く吹き飛ばす!」
(地形が変わるが仕方が無い回復出来ない様に跡形も無く消し飛ばす!)
魔法を唱えようと構えると。
「マッ‥魔法‥魔法づがいぃぃ!!」
サイクロプスが喋った‥まさかの光景に一同が固まる。
「おまえ‥お前の顔おぼぇ覚えだぁぁ!かならずごろず!」
(上位種とはいえ魔物が喋るなんて聞いたことが無い、ましてや人語を話すなど)
「何なんだお前は!何故言葉を話せる!答えろ!」
ルークの問にサイクロプスは答えず笑いながら魔禍の中に消えていった。
ジノンが咄嗟に声を上げる。
「今のうちだ!魔禍を消すぞ!」
「はっ‥はい![世界の歪みよ鎮まり給え]」
魔禍はゆっくりと消滅して行くルークはそれを見つめながら声を漏らす。
「アイツは一体‥」
ジノンが声を掛ける。
「ヤバい奴に目を付けられたな、これからどうする?騎士団に説明して保護してもらう事も出来るが」
「いや、これは俺の問題だそれにあんなのが王都に来たら大変な事になる、俺を標的にしたのも自分が倒される恐れを抱いたからだろう」
「ルークさん‥これからどうするの?」
ライラは心配そうにルークを見つめていた。
「旅を続けるよ、世界を回って何が起こっているのか調べようと思う」
「1人で?」
「ああ‥他人を巻き込みたくない」
覚悟を決めたルークにライラは何か言いたげにしていた、するとジノンが仲間の亡骸を包んで仲間と持ち上げる。
「皆よく頑張った!村に戻るぞ!泣くのは帰ってからだ」
森を抜け馬車に亡骸を乗せると一同は村に向かう、犠牲者が出たこともあるが何より魔族や言葉を話す魔物に衝撃を隠せずにいた、世界に何かが起ころうとしている‥




