幕間、一
-プエルの図書館。巻物に本、石碑が無造作に積み上げられた空間が広がっている。筆者とプエルがあなたに話しかける。
筆者:
みなさん、こんにちは。もしくは、こんばんは、でしょうか。
おはよう、は無いでしょう。精製前の原油みたいな文章を読んではいい朝にはなりませんよ。
プエル:
おーい、筆者くーん。悪い癖が出ているぞー!
筆者:
これは失礼。
プエル:
んんっ…それはそうと、本題に入ろうか。
筆者:
まずは、私めの作品をここまで読んでくださっていることに感謝を。
プエル:
色々な視点を交錯させて話を進めてるから、滅茶苦茶な感じが強いかもしれないけど、どうかご勘弁!
筆者:
これは、私の眼から見た、とある英雄、そして世界についての物語。
プエル:
英雄の名は、ティベリウス・ユリウス・カエサル。ローマ帝国第二代皇帝。
あなたが読んだ、あるいはこれから読む教科書に名前が出てくるかは分からない。でも、世界にとってはとても重要な人だ。もちろん、僕にとってもね。
筆者:
彼がいなければ、帝政ローマは短期で自滅した可能性が高い。もしローマ帝国が一時の現象として終わっていたら、今日の世界は存在し得なかった。
プエル:
あの人は、あなたが生きる現代へと続く歴史にとって欠かせない通過点の一つを担った。あなたが今、法律で守られた国家に住み、ローマ字入力で友達にメッセージを書いたり、そしてこの戯曲もどきの謎空間を読んだりできるのも、ある程度は彼のおかげってこと。
筆者:
ええ。アウグストゥスや五賢帝、コンスタンティヌス大帝といった他の皇帝たちも、もちろん現代世界に大きな影響を与えていますから、あまり過大な評価をしてもいけませんが。
プエル:
あ、そうだ!せっかくだし、古代ローマ講座やろうよ!
筆者:
嫌です。
プエル:
なんで。
筆者:
熱が入ると、話しすぎてしまうので。
プエル:
ならば、お兄さんがお手本を見せてあげよう!地図とホワイトボード持ってきて!
-筆者、上手からホワイトボードを取り出し、西ヨーロッパと北アフリカ、西アジアが描かれた地図を貼り付ける。
プエル:
ではでは~!あ、ペン頂戴!
筆者:
仰せのままに、陛下。
プエル:
まず、ローマの建国は伝説によると、あなた達の西暦ってヤツの紀元前8世紀!最初は知る人ぞ知る田舎町!だけど周辺民族と同盟したり戦ったりして拡大!
-プエルは楽しげに文字を書いたり消したりしている。
プエル:
王政が倒れて共和政になったり、水道や街道が整備されたり、カルタゴと三度に渡る死闘を繰り広げたり、色々あって数百年!
MLKT:
楽しそうなお二人さん?あまり時間をかけないで。
プエル:
アイアイサー…アレ、何か今いなかった?
共和政末期の混乱と帝政の開始については省くとして、えっと…。
筆者:
ユリウス・クラウディウス朝。
プエル:
そう!アウグストゥス、ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、そして疫病神…じゃなくてネロ君!
筆者:
帝政ローマ最初の日々。歴史ある名門、ユリウス氏族とクラウディウス氏族から皇帝が輩出された時代ですね。
プエル:
ネロ君がグッバイ!された後はフラウィウスって家の人たちが皇帝をやって、続く五賢帝時代に帝国は最盛期を迎えたんだ。
筆者:
しかし、驕れるもの久しからず。増大し続ける軍事費、ゲルマン民族の大移動、征服活動の停滞による奴隷不足…。
プエル:
セウェルス朝を経て起きた、最悪の内戦、軍人皇帝時代。内戦をひとまず収めたディオクレティアヌスの時代には、人心は乱れ、社会秩序は固定化し、経済活動も停滞してしまっていた。
筆者:
そういう時、既存の宗教が信用を失うのは世の常ですね。
プエル:
…急速に広がる新宗教があった。ティベリウス時代を生き、処刑された「救世主」を信仰する、シリア・パレスチナ発の一神教。
筆者:
ディオクレティアヌスは苛烈な弾圧によってその勢いを止めようとした。ですが、その程度で時代の流れが変えられるはずがない。
プエル:
コンスタンティヌスは、313年、ミラノ勅令で新宗教、つまりキリスト教を公認、合法化した。それは別に構わないよ?信教の自由は守られるべきだ。でも、最後の皇帝、テオドシウスはキリスト教を国教化…つまり、ギリシアやローマ…全ての神々を邪教の偽神とみなして、切り捨てた。
筆者:
……………。
プエル:
その後、ローマ帝国は完全に分裂した。西ローマ帝国はゲルマン人の傭兵の手で消滅。東ローマ帝国は東方のギリシア文化圏が主な支配地域だったから、ローマ帝国っていうより、ギリシア帝国と言うべきモノだった。
筆者:
またの名をビザンツ帝国。これは千年存続しましたが、最期はオスマン帝国に今日のイスタンブール、コンスタンティノープルを陥落させられて滅亡。
プエル:
その後もローマを名乗る国はいくつかあったね。名前に嘘しか書いてない神聖ローマ帝国とか、自称ルーム・カイセリのオスマン帝国。ルーシの帝国もそうだっけ?…全く、ローマの名前を、そんなに安売りしないで欲しいものだ。
筆者:
…それだけ、その名は歴史に強く残ったということです。そして、その痕跡は今も私や、そこにいるあなたの中で生きている。
MLKT:
時間をかけないでって言わなかった?膾切りにされたい?
プエル:
ねえ、さっきから何かいるよね!怖いんだけど!?
筆者:
少しばかり不穏な気配がでてきましたし、一旦ここでお開きにいたしましょうか。
…本当の戦いはこれから。どうか、最後までお付き合いください。