A Girl Who Inherited Wills/エピローグ
明るい満月が、街を照らしている。
…心音が戻ってきた。
階段の踊り場に顔が…と思ったら、左手が勝手に地面をタッチして、くるりと身体が一回転。
私は、体操選手みたいに歩道へと着陸していた。
「…えっと…なん…だっけ」
クソカルトの幹部に襲われそうになって、逃げて、歩道橋の階段から転落したけど無傷。簡単にまとめると、そういうことになる。
でも、何かが足りない。微かな頭痛が、何かが欠けていることを訴える。
光の向こうに、大きな背中が…そして、たくさんの声が…霞んでいる。
…そうだ。何か、やるべきことがあったはず。
「『さあ、行くわよ、私』」
自分の内側にいる誰かが励ます声。…どんな心境の変化か、自分でも分からないけど…。
向かうべきところへ、真っ直ぐ。
「うん、行こう、私」
ターンして、階段を駆け上がる。今度は、うっかり踏み外したりしないように、慎重に。
部屋の前に立つ。…大丈夫。やるべきことを、この身体が知っている。
バーン、とドアを開け放つ。私、平和主義者だと思ってたんだけどなぁ。
「暁音ちゃーん、良くないよ?私はただ、神様の教えを、君に分かって欲しいと思…ヒュッ」
おかしいな。気まぐれに、首に向かって指をピッて一閃しただけなのに、冷や汗ダラダラ。この人は、一体何を想像したんだろう?
面白くなって、ちょっとデカい態度を取ってみることにした。
「『この私の眼の前で、神だなんて。なかなかの蛮勇ね』」
「あ…あか…ね…ちゃ…?」
「今は、母と二人で話がしたいんです。だから、お引き取りください」
「あ、あ、うわああああ!」
靴も履かずに逃げていった。…誰かの声が蘇ってくる。
(…誤り続けたのが、お前達の歴史だろう!違うか、害獣!)
…その憤りは正しいものだ。私たちは獣だ。私たちにとっての本能は、お金とか、好き嫌いとか、社会とか、そういうもので…何度も、何度も同じ過ちを繰り返す。本当に悪い奴もいて、理解し合えないことなんてザラにある。狂気に囚われ、周りが見えなくなる人だってたくさんいる。
でも…私たちには言葉がある。言葉は記憶を刻み、失敗も成功も記録し、未来へ教訓を遺す。そして、分かち合い、手を取り合うための歯車となる。
だから、先に進める。必要なのは、覚悟と、そして一歩立ち止まり、見つめ直す勇気。
…誰の言葉だったかな。目を見て、できるうちに、話をしよう。そうだ、今、私がすべきことは、それだ。
お母さんは、私を怯えた目で見つめている。あちゃー。少し、やり過ぎたかな。
「お母さん、暁音だよ。さっきはごめん、逃げたりしてさ」
でも、ま、致命的ではないでしょ。今度は、なるべく、優しく。不安に思わせないように。
「暁音…その目は…ハル…君…?」
「…そうかもしれないね」
…お父さんも、数多の過去の残り香も、今も、私の中に息づいている。火は、まだ灯されたままだ。
そして、彼らの遺志を無駄にしないためにも。一歩、前へ。
「お母さん、二人で話そう。これまでのこと、あと、これからのこと」
醒めない夢がないように。
明けない夜も、ないと信じて。
暁の音-Bridge of Lethe 完
…よくぞ、ここまで。
どうも、再び筆者です。
最初の問いについて、考えてくれましたか?
オルフェウス教のくだりです。
では、一つ。私めの個人的な回答で締めさせていただきましょう。月並な蛇足ですが、ご容赦ください。
私の好きな言葉の一つに、「知行合一」というものがあります。儒教の一派、陽明学のキャッチフレーズです。知識とは、実践あって初めて意味を持つ、といった意味ですね。おおよその理解なので、間違っていたらすみません。
真理とやらに、どれほどの価値があるのか。私にはよく分かりません。ですが、それが意味を持つのであれば、それは我々の人生の中、それ以外ではあり得ないと思うのです。
なので、私はレテの川の水を一気飲みする派です。生まれ変われるなら、それもいいでしょう。
まあ、永遠の命に惹かれなくもないですがね。優柔不断な私です。
では、ここでお開きといたしましょう。
この作品を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!
おやすみなさい。あるいは、良い一日を。
次があれば、また。




