表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

堕落論

今日おそらく最後です。

6万字くらいまでは週2~3で更新していきたいと思っています。

その後はペースダウンして週1の予定です。10月後半から仕事が忙しくなりますので。


!!ブックマーク評価感想いいねいただけると飛びあがるほど喜びます!!

 あまり良い状況ではないことはすぐ理解した。俺は知らず手で口を押さえる。


 その光景に嘔吐(えず)きそうだったから?

 違う。


 ―怒声がこぼれてしまわないようにだ。


******

 とりあえず「まあまあ安全で」「街が近くて」「その割に人通りが少なくて」「その上水場が近い」という、世界に数千はありそうな場所に落とすと宣言した神の言葉通り、目覚めた世界は人通りの無い、さりとて進むこともままならない、とも言い難い、木々がまだらに茂った林であった。


 自分の身体が以前の通り動くことをひとしきり確認した後、ひとまず水場を探してみると、三十分も経たない内に細い川を見つけることも出来た。


 しかし、この世界は魔獣が跋扈すると聞いていたが、今は小鳥がチュンチュン(さえず)るのどかな声しか聞こえない。周囲には新緑の樹葉に澄んだ空気。

 あの二人間違って軽井沢に落としたのかな、と心配になった矢先、平和の象徴のような小鳥の声に混じって、微かな悲鳴が聞こえた気がした。


「……」


 のそりと脚を踏み出すと、なるべく葉擦れの音を出さないよう声のした方向へ近づく。別にどうすると決めたわけではなかった。この世界の人間に会えるのであればそれも良し。まずはここが異世界なのか軽井沢なのかを判断したいだけ。という建前を用意して行動に移す。

 声が、いや悲鳴が鮮明になる。もはや方向に迷うことはなかった。嫌な予感が左胸を速いストロークで叩き始める。泣き喚く声の主は子どもだ。おそらく女の子である。一刻も早く辿り着きたいところだが、逸る気持ちを慎重にさせる声が近づくごとに明瞭になる。数名の男の、下卑た声だった。


 不意に木々の隙間が連なって視線が抜ける。二十メートルほど先に見えた事実は、割と色々あった己の人生の中でも最高ランクに胸糞悪い光景だった。


――

 「おかあさんっ! おがっ、おかあさん!」


 顔を歪め、目元も頬も涙でびしょびしょになった女の子。もがくその子を後ろから羽交い絞めにしてニヤニヤと笑う体格の良い男。幼女の視線の先には、母親の姿は見えない。三人の男が覆いかぶさっているからだ。


「やめてっ! おかあさんっ!おかあざん!おかあざん!」


 鼓動は未だ強く鳴っていて、鼓膜から飛び出しそうだ。


「―すうぅー」


 しかしそれは緊張でも不安のせいでもない。


「ふぅぅー……」


 怒りだ。


 あの二人も言っていた俺の『死相視』が過去無いほど拡張されるのを感じる。


 俺の視界に収めた全員から、黒い靄が湯気のように吹き上がっていた。

 なぜだろう。



 知れたこと。

 俺がこれから殺すからだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ