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ハーブティーのお加減は

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「まあ強引でしたね」

「強引だったねー」


 ははは、と空笑いした組合長に対して、ユーテリアも疲れたように微笑んだ。元開拓者の受付嬢と素性不明の新人は既にこの場から離れており、今部屋には二人きりだった。


「青田買いするならば、もっと印象良くやればよかったのでは」

「身元不明で金の無い男に、恩着せがましく、助けてあげますよって? それも有りだけど、不誠実な方法で築いた信頼関係は脆いから。後々してやられたっていう不満を持たれたらその後に信用はもう生まれない。理解されないかもしれんが、『強引な手を使われた』って、帰り道すがら苦笑するくらいが一番いいよ」


 リルフィールドの言にユーテリアは肩をすくめたが、特に否定もしなかった。


「にしても彼、本当にものを知りませんでしたね。学はありそうだったので余計に不自然でした」

「そうだねぇ」


 言われてリルフィールドも思い返す。薄々気づいてはいたが、彼の一般知識の無さと年齢、そして垣間見える聡さは確かにちぐはぐな印象を受けた。

 そしてあのセントロの報告。


「彼の贈装は若い、か」

「……」


(……奇妙な男だ。得体の知れない、と言ってもいい)


 対面しても人となりを見通すことはできなかった。信頼の置けない人物とは思わない。しかし一抹の不安は消えない。

 それでもリルフィールドは彼を取り込むことに決めた。


 それはほとんど彼の『勘』だった。


(オズくんは奇貨)


 セントロから彼の話を聞いた時。そして今日実際に会って、その思いはより強くなった。

 あの齢で出自不明、珍しい服を着てふらりと街に現れた男。その不審人物に対し、リルフィールドは賭けてみたくなった。


 膂力偏重のこの時代だが、最近新たに発見される魔獣の傾向が変わってきているように彼は気づき始めていた。

 前衛都市からの情報を聞くに、魔獣は『大きく、強い』から、『大きく、強く、速い』へ。さらに、『強く、固い』『強く、死に難い』など、バリエーション豊かになり流れが読めなくなってきている。


 これまでと同じだ。歴史は繰り返す。


 人間はいつも後発で追う側。魔獣の進化に合わせてスタイルを変えてきた。ならばおそらく、再び人間側が手痛い一撃を喰らうことになるだろう。そうしてようやく潮流が変わり、膂力に重きを置いた時代が終わりを迎えることになる。そうなるはずだ。


「青田買いってのは、ほんとにその通りだね」


 独り言に隣のユーテリアは首を傾げる。

 しかし本人は説明を付け足すことなく、再び思考の海に潜った。


(きっと彼は、この街の力になる)


 時代が変わる時、多くの人が死ぬ。歴史がそれを証明している。

 種の一部が欠損する程の被害が無ければ、人類という鈍重な生物は向き先を変えられない。手足を失って初めて私達は、生き残る道から逸れ始めていたことに気付くのだ。


(この街が、巻き込まれてたまるかよ)


 最悪の事態を回避するためには、玉石混交の中で光る人材を見つけ出し、リスクを負ってでも手札にすべきである。そして先ほどの男を見た瞬間、「今がその時」だと彼の勘が告げていた。


 ふわりとハーブティーの香りが鼻孔をくすぐる。


 いつの間にか、目の前の卓の上には自分のお気に入りのカップが置かれていた。ふと周囲を見回すと有能な補佐の姿は無い。

 彼は知らず知らず強く握っていた拳を解いて頭を掻くと、誰もいない部屋に片手で礼の形をとって優雅にカップに口をつけた。


「―あっちぃ! ……えぇ?」


 溶岩でも流れ込んでるのかと思うほど熱かった。


 それからリルフィールドはオズの事をしばし忘れ、この激熱ハーブティーの意味するところを一時黙考することになる。


******


「体力はまだまだですね。鍛えたほうがいいですよー」

「それは……、そう……みたいね」


 自分の喉がぜいぜいと音を立て、何とか空気を取り込もうともがいている。


 「決まったからにはビシビシといきますよぉ」という宣言と共に、急造パーティーを組んでからすぐにミリアからの訓練が開始された。

 ちなみに開拓者の先輩ということで彼女に向かって「ミリアさん」と言ったら若干喜んではいたが、すぐに「ミリアでいいです」と訂正された。年上からさん付け敬語で話されるのはどうにも腹の据わりが悪かったようである。


「はい休憩終わりでーす。リギニアまではまだまだありますから、急発進急停止を繰り返しながら行きますよー」

「はやいよ……」


 この通り、彼女はスパルタであった。口から文句はつい溢れるが、俺はそれ以上何も言わずに膝に力をいれて地面から尻を引き剥がした。その姿を見たミリアが嬉しそうに近寄る。


「やー、最初は年上初級者との訓練なんてヤダなぁって思ってましたけど」

「そんなこと思ってたか」

「まあまあ。でも今は悪くないなって思ってますよ。前は今よりずっと若かったんで、教えててもやっぱりナメられるっていうか。いや違うか。相手のプライドの問題かな、ちゃんと従ってくれなかったんですよね」


 それはありそうだ。彼女の容姿はかなり幼い。癪に障る人間もいるだろう。この娘も意外と苦労人らしい。


「体力って『もう無理っ』てとこまで到達してからが勝負なんです。もう一歩だけでも頑張れたら、次の日にはぎゅんと伸びるもんなんです。なのでオズさんが汗と鼻水にまみれた情けない顔して『もうかんべんしてくださいぃ』ていうまで続けますよ。もちろん贈装は無しで基礎体力強化です!」


 よっぽど今言ってやろうかと思ったが、若さ故の苦労話を聞いた直後であったため大人げない事をするのは控えた。それも計算の内ならば可愛い顔してなかなかに狡猾である。


 プルプルと震える足腰に無理矢理喝を入れ、先行したミリアを追うように俺も走りだす。


 目的地のリギニアについたのは、日本よりも濃い深緋(こきあけ)の夕日が、黒い森へ潜り込んだ直後の事だった。

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