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朝が似合わない男

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 低い建物の上を通り抜ける、一面の青天井が目に眩しい朝。


 備え付けの姿見で自分の服装を何度かチェックしてから部屋を出る。と同時に、建付けの悪いドアが奇妙な音を奏で、階下から「お一人さま起床ー」という明るい声が聞こえた。もしや外出や防犯に利用するため、あえて修理していないのかもしれない。油断ならない宿だ。


「あ、やっぱりオズかー。おはよう!」

「おはよう」


 青い空、白い雲、さわやかな笑顔、という三拍子揃った朝に幸せな気分に浸っていたが、そこに入道雲の如くぬうっと現れた巨漢に姿勢を正した。


「あ、おはようございます」

「……おう」


 グリさんと争うほどの巨躯の持ち主は、リラの父親でこの宿の経営者兼料理人であるガルドである。しかし開拓者以外の職業のほうがガタイがいいのはなぜなのか。彼らが特殊なのかそれとも理由があるのかは異世界二日目の俺には不明だった。


(牽制、かなぁ)


 看板娘で愛娘と昨日買い物した男である。当然父としては面白くない。昨日、リラを連れ出したことについて低頭した際は強く頬を撫でられることはなかったが、客と宿主の関係にあるまじき殺気が溢れていたのは記憶に新しい。きっと自分で自分を視たら沸騰する死相の影が視えたに違いない。


「お客さんをそんな目でみない! ほらほら朝食よろしく!」

「ふん……」


 ガルドはその後受付兼食堂である1階を睥睨し、食事する客を無意味に委縮させてから調理場へ戻っていった。遺伝子の法則を疑うほどリラはガルドに似ず可愛いので、粉をかける客も多かったことだろう。父親が一睨みがそれを証明していた。


「ごめんねー、お父さん心配性でさ」

「心配してくれるのはいいことだ」


 俺の言葉に「まあそうなんだけどさ」と呟いた後、リラは気づいたように声を上げた。


「昨日も思ったんだけど、オズって開拓者だよね。まだ開拓者証(プレート)持ってないの?」

「ああ、うーん」


 答えようとしたとき、後ろから「おい」と声をかけられる。剣呑な類の声音だった。


「いつまでしゃべってんだよ」

「ああ、ごめんなさい」


 ここは受付なので彼の言い分は正しい。いつまでも喋って良い場所じゃないので、俺は素直に謝って一歩後ろに引いた。


「あ、ごめんねゼンスリーさん。私が引き止めちゃったの」

「リラちゃんが庇うことじゃないでしょ。言い寄られてもお客さんだから対応しなきゃなんないなんて大変だねぇ」


 解りやすい当てこすりに「そんなんじゃないから」と反駁する彼女を、「いいからいいから」と押さえつけてわざわざ俺に向き直った。


「申請出したばっかのランク1が、調子乗ってリラちゃんにちょっかいだしてんじゃねえよ。迷惑だろうが」


 盗み聞きしていたことを大っぴらにしつつ「それにしても」とゼンスリーとやらはつづけた。


「当日に申請も出ねえとは、てめえよっぽどだったんだろ。脛に傷でもあるのか、審査でこっぴどくやられたか」


 そう言いつつ俺の体を眺め「まあ後者だろ?」と嗤った。食堂にいる同業者の耳目を集め始めたことに感付いて、俺は顔をしかめた。


「そのスカした顔に痣つけられるのは遠慮してもらったのかよ? なあおい」

「別に、そういうわけじゃないですよ」

「―あぁ? そういうわけじゃない、ならなんだよ?」


 リラから「やめなよここで」という声が聞こえるが、ゼンスリーは無視して俺に詰め寄る。どうやら衆目の前で恥をかかせたいのだと理解した俺はいよいよウンザリしたが、とても引き下がりそうになかったので正直に伝えた。


「昨日認定試合をしたんですが、結果は今日伝えるという事だったので」


 そう返答してチラリとリラを見ると、彼女はまんまるのびっくりまなこでこちらを見返していた。ゼンスリーも一時驚いた顔をしていたが、何かに思い至った顔になった後、薄ら笑いに変わった。


「認定試合、だって?  ……いいカッコしようとするから怪我すんだ。覚えとけ、

 ―よっと」


 薄笑いに怒気が含まれている事を察知した時から警戒していた。


 喋り終えると同時に振り抜かれた短剣を、俺は折りたたんだ状態で手中に顕現していたナイフを真下から振り上げて弾き飛ばし、一瞬で手首を返して首の死相に添えてみせた。


「―!」


 しん、と静まり返った食堂に、床に落ちた短剣の鈍い音が響く。ゼンスリーの首からは赤い滴が一つぷくりと浮かんでいた。


「……」


 俺はどうにも言葉が思いつかなかったので、リラに向けて「すまん」と言い置いて宿を出た。どうせ夜には戻る。その時分には良い謝罪の言葉も思いついているだろう。そこは未来の俺に任せる。



 しかし。


(どうも、タガが外れかけている気がする)


 昨日この世界に来てからすぐに、自分の意志で三人殺した。一人壊した。

 殺意の無い相手に対して、死相目掛けて凶器を振るった。


 疲れ果てて昨日寝落ちる瞬間には思い浮かばなかった事実が、俺の気持ちを少し仄暗くさせた。


(うっすら分かっていたことだけど)


 やはり、俺はどこかオカシイのだ。

 能力だけでなく、気質が。

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