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誤字報告、ブクマをありがとうございます!
その後は軽く着替えて、屋敷周辺を散歩されたいと仰る王太子殿下とリューレイア様を案内しながらブラブラと歩く。
途中、失礼があっては不味いからと隠されていた子供達がワラワラと出てきてしまって、長男の嫁な義姉が凄く慌ててたけど、リューレイア様が笑いながら一緒に散歩しようと誘って下さったので、それは騒がしい散歩になった。
特に珍しい物も無いと思っていたのだけど、王都生まれ王都育ちの王太子殿下と大国出身のリューレイア様には、見渡す限りの畑や草原、昼でも暗い森、視界を遮るものの無い空などはとても新鮮に感じるらしい。
楽しそうに歩かれる姿はとても穏やかで仲睦まじい。
まあ、ちょっと離れた場所では護衛騎士と兄達と近所のおっちゃん達が魔物相手に戦ってるけど。
すぐ側でも子供達が魔物に向かって石を投げてるけど。
気付いてはいるけど護衛騎士の中でも防御魔法の得意な騎士が、バリアを張っているので王太子殿下達は平和。
細かい魔物なら私の魔法でも吹き飛ばせるし。
小一時間ほど屋敷の周囲を散歩して満足されたのか、屋敷へ戻り湯浴みをしてゆっくりと談笑している内に晩餐の準備が調い、晩餐室へ。
給仕の為の使用人も居ないので、近所の平民に嫁いだ姉2人が手伝いに来ていた。
あ、三男は三つ程離れた男爵家に婿に行ったのでここには居ません。
それと子供達が交ざると肉の争奪戦になるので、義姉と子供達は別室で食べてます。
「………………これは、」
王太子殿下の言葉に、
「田舎料理だもんでお口に合わんかっただべか?」
父上が真っ青になって聞くと、
「いや、実に旨い!盛り付けは少々豪快に過ぎるが、味は王家の晩餐にも劣らない旨さだ!このような辺境の地でこれ程のご馳走に出会えるとは!いや、失礼、辺境とは言い過ぎた」
「いやいや、事実国の端ですだで、辺境でも間違いねーです。お口に合ったんなら光栄だべな~」
真っ青から一転ニッコニコと相好を崩す父上。母上もほっと胸を撫で下ろしている。
ちょっとダンテ?!なぜ我が母の胸を見てニヘッとしてるの?!我が母上は何処にでもいるおばちゃんですよ?!王都にも似たようなおばちゃんは大勢いるよ?!むね?むねなの?!ならせめて姉に目を向けようよ!母上は胸だけでなく腹と尻も大きいよ?!尻は大きくて良いのか?
ダンテの好みについて少し混乱したけど、リューレイア様も普段よりも沢山召し上がられてほっとした。
食後は肉の処理方法とか臭みを消す植物の話で盛り上がったし。
魔物の肉は美味しいんだけど、ちょっと臭みがある。なので料理をする時には香りの強いハーブを使ったり胡椒や生姜、ニンニク等を多く使うので、どうしても味が濃くなりがち。
だけど我が家のような貧乏貴族家では、大量に香辛料など買うお金がないので、捕った獲物の処理方法やその辺に生えてる食べられる植物で臭みを消せないかと試行錯誤した結果、王太子をも唸らせる料理が完成したらしい。
そう言えば王都へ出ていった直後は、香辛料のきつい料理のせいで食欲がだいぶ衰えていた時期があった。
すぐに市民市場でゴーリンデ出身の人が開いている店に出会えたので、買って帰ったり材料を分けてもらって寮で密かに料理して食べてたりしたので、気にしなかったけど。
逆に高位貴族ともなると、飼育された家畜の肉を食べているので、香辛料まみれの料理はあまり出てこなくなる。
肉の旨味は劣るけど、臭みは激減するし味付けも程々ですむので却って健康的。
ただし飼育には相当手間隙掛かるので、仕入れられるコネと金が相当かかる。
王城では家畜を飼育しているので、王侯貴族様のお零れで食堂のご飯はとても美味しい。
「成る程。処理する時間と手際、そして臭みを消す植物か!」
王太子殿下がとても感心しながら話を聞いてくれるので、長男が調子に乗って我が家独自で作っている干し肉やソーセージ、ハムをお土産に勧めてた。
あれは好き嫌いがハッキリと分かれるので止めた方が良いと言ったんだけどね?
干し肉は王太子殿下のお気に召したようです。
ソーセージは明日の朝食に出してみて口に合えば、お土産にってことになった。
干し肉はリューレイア様の口には合わなかった様子。
何時までも噛みきれないのが不満そう。味は好きだそうです。
久しぶりの我が家の私が使っていたベッドは、転がった途端寝落ちする程安心感があったけど、朝起きたら変な所が凝っていた!お城のフカフカベッドに慣れてきつつある自分にビックリした!
そして朝から騒がしく魔物を追いかけ回しているのは、アホの兄2人と兄の幼馴染みの3人。
ギャーギャー言いながらボアを追いかけ回して騒いでいる。
王太子殿下とリューレイア様を起こしたらどうすんだ!と思って、ボアの前方に土壁を作ってやったら、ボアだけでなく兄達も勢い良くぶつかってた。まあ良いだろう。
田舎の朝は早いので、皆もう起きて朝食の準備に取り掛かっている。
私も着替えて手伝いに厨房に向かうと、母上と姉2人と義姉が明るく挨拶してきた後に、
「まだ寝てて良かんべ~?」
「んだ、ま~だこんあど馬車に乗って長えんだべ~?」
「休んどりゃ~え~のに?」
と休め休めと進めてくる。
「ほんでもめ~覚めたべ。てづだ~よ」
そう言えばニコニコと仲間に入れてくれる。
「王都っちゃど~だべ?華やかなんだべな~?」
「お城っちゅ~のは、おっかねぇとこなんだべ?苛められでねが?」
「おっかねぇお姫様とかいね~が?」
「だいじょんぶだ、皆親切にしてくれるべ」
「ほんでもミミはどっか抜けてっとごさあるべ?仕事でミスとがしでねが~?」
「今んとごろはそんなミスしでねさ~、一回だげ、大臣様にミスを指摘されだども、元々の書類のミスだったんで、おごられではね~し?」
「ならよがっぺ。んだども、ミミもそろそろ好い人見付けねば!」
「ほーだほーだ!王都にいねーのげ?人さいっぺ~居んだから、誰か捕まえねば!」
「そう簡単にはいがね~よ。男爵家と釣り合う身分のもんが周りに居ね~んだ」
「あ~、お城だば、身分が上~のえら~い人ばっかりか?」
「んだんだ、み~んな伯爵様とか侯爵様とか、たまにいる男爵様は、結婚してたり、う~んと年上だったりで~、どうにもなんね」
「何時でも帰ってきて良いんだでな?仕送りはありがて~けど、あんたが体壊す方が、大変だでな?」
「うん。わがっと~」
母上と姉に代わる代わる抱き締められて甘やかされて、何だかとても充電された感じ。
ホカホカと温かい気持ちのまま朝食を食べて、大量のお土産を積んで領地を出ることに。
勿論積んできた王都土産は昨日の内に屋敷に運び込んで皆に配っておいた。
それ以上のお土産を積んでくれたのは、家族の私への愛情故と知っているので、さらにホカホカの気持ちになった。
ちなみに自家製ソーセージとハム、ベーコンは、王太子殿下にもリューレイア様にも大好評だったので、大量に積まれている。
家で食べる分が無くなる勢いで積まれてるので、王太子殿下が心配して下さったけど、今朝捕まえたボアを加工すれば問題ない事を告げれば安心してホクホク顔になってた。
定期的に冷蔵の魔法を掛けなくてはいけないのが面倒だけど、無事王都まで持って帰れるだろう。
視察なので来た時とは別のルートを通って帰る。
途中の領地はだいたい知り合いの領地なので、お世辞だろうけど綺麗になったと口々に褒められて、酷く照れ臭かった。
その後すぐにメイドさんや、リューレイア様を見て無言になってたけど!
田舎者の中では!美人とか可愛いと言って貰える容姿だとしても、王都で生まれ育ち洗練された令嬢や、大国のお姫様とは比べる対象にも入れないですよ!月と石ころくらい違うよ!分かってるから慰めるな!頭を撫でるな!
近所の知り合いの気遣いが痛い旅でした!
お土産に持ってきたハムソーセージベーコンは、陛下や王妃様、まだ幼い殿下や姫様達にも好評で、注文が入る程。
ただし我が領地には魔法使いがほぼ居ないので、運搬に心配があることを告げると、王家御用達の商人を向かわせるとのこと。
大袈裟な事になってしまって、我が家は大丈夫だろうか?
先に手紙を出したけど、はしゃぎ過ぎて怪我をするアホが出ないことを祈る。
仕事は順調で、婚活は不調。
数少ないお友達に相談して夜会なるものにも参加してみたけど、微妙な結果に終わったし、メイドさんに王都の婚活事情を聞いてみたら、家と家の政略結婚が主流だと言われてしまったし。
我が家は何の旨味もないド田舎底辺貴族なので、政略の意味が無いし。
色々と行き詰まって、もう仕事に生きるべき?とか変な決意をしようとしてたら、街で偶然ゴーリンデ地方出身の幼馴染みに会いました。
たまに市場調査とか言って、市民向けの娯楽小説を売ってる本屋に行った帰り道。
「ミミ?」
と呟かれた声に振り向くと、何処かで見覚えのある顔が?
「トランス兄ちゃん?」
「おおお~、やっぱりミミでね~の!随分綺麗になって~、最初わがんなかったべ!」
「トランス兄ちゃんも!随分背も伸びて~、顔つきも変わったんでね~の?声かげられるまで気づきもしねがった~」
「ミミ暇が?お茶でも飲むべ~よ奢ってやっから!」
「お!万年金欠のトランス兄ちゃんが奢ってくれるって?天変地異の前触れが?」
「今はそうでもね~よ!これでもちっとは稼げるよ~になったんだべ!」
「おお~、んだば遠慮なぐ奢って貰うっぺ!」
「おうおう、腹がはち切れるほど食え~!」
トランス兄ちゃんは三男と同じ年で私よりも6歳年上。
隣の隣の領地を治める男爵家の三男で、子供の頃は良く遊んで貰っていたけど、15歳になったら冒険者になると言って領地を出ていった。
「何年振りだべ~、元気らった?」
「あ~。色々とあったけんど、元気だべ。Aランクの冒険者にもなれたしよ」
「そのランクってのはわがんね~けど、元気ならよがったべな~」
「Aランクつうのは、上から2番目だ。結構凄いこどなんだぞ?」
「ほんでもこの前聞いたけど、タスクタイガー倒せれば、Cランクって言われたど?Aランクってどんな強さだべ?」
「まあ、ゴーリンデ地方ってのは、ちっと特殊な地方らしいんで、知らんかったんだども、Aちゅ~んは、ワーベアやリザードを単独で倒せる強さってとこだべな?」
「ふ~ん、兄ちゃんらよりは強いってことだべか?」
「まあそんなとこだべな?んでミミは王都で何やってんだべ?おじさんとおばさん説得して、王都で仕事でもしてんだべか?」
「それが、マクガリーの伯爵様に、魔力があるから王都の学園さ入れっていわれで、学園卒業したら、王太子様の補佐官さなれ、って誘われでよ、今お城で働いてんだべ」
「っは~?こりゃたまがった!あのこまくて泣き虫のミミがお城で王子様と働いてんのけ?いやいやいや~、おらがAランクの冒険者になるよりも、何倍もすげぇこどだべ~!確かに昔っから頭はよがったがよ~、お城で働くって!苛められでねが?」
「姉ちゃんにも心配されたけど、全然苛めとかされてね~べ!すんげぇ働きやすい職場だど?皆も良くしてくれっし!」
「ほ~か。まあ顔みればわがるわな!綺麗さなって、たのしそうだべな?」
「トランス兄ちゃんも元気そうだべ!悪い女に騙されでね~が、おじさん達心配してたべよ?」
「あ~、まあ、一時はあぶね~目にもあったども、今は平気だ」
「やっぱり騙されたんだべな?おっぱい大きければすぐ釣れるって言われでたしな?」
「今は、そう簡単にはいってね~よ!」
「ふ~ん?」
「ニヤニヤ見んな!本当に、騙されたりはしてね~べ!」
他愛ないお喋りを楽しんで、また会う約束をして別れた。
トランス兄ちゃんは今は王都を中心に活動していて、暫くは王都に滞在しているらしい。
今度は仲間も紹介してくれるそうなので楽しみだ。
全員がゴーリンデ出身で、男3人女2人のチームを組んでいるらしい。
その辺の冒険者の事も教えてくれるかな?
翌朝ご機嫌に職場に行ったら、訳を聞かれたので幼馴染みに会った事を話したら、凄く心配された。
幼馴染みは良いとしても、よく知らないその他のメンバーに会うときは注意しなさい!とか言われた。
高位貴族の方々は、冒険者に偏見でも有るのだろうか?
ダンテに聞いてみたら、貴族から依頼を出してそれを専門に受ける冒険者は、一見純朴そうに見えて曲者が多いんだとか。
下位から高位まで幅広い貴族と付き合うには、強かでないと理不尽な目に遭うし、交渉力が無いと一方的に命令されるだけで、奴隷のように扱われてしまう事もあるんだとか。
そんな冒険者のAランクとは、警戒する対象でもあるそうな。
機密も多い職場なので、仕事の内容などは決して話してはいけないよ!とか言われた。
そのくらいは分かってますよ!