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国を挙げての盛大な結婚式とそれに続くパーティーは三日も掛けて行われ、大国からも祝いの品として大国の特産品が大盤振る舞いされ、そのお零れが王都の平民にまで振る舞われ、大変な祭りとなった。
そんな盛大な結婚式があってから早2年。
王太子夫妻の夫婦仲は他国にも知れ渡るほど睦まじく、大国の後ろ楯を得た我が国は穏やかにだが確実に発展してきた。
私も十代最後の年。
結婚年齢の早い世界なので、そろそろ本腰を入れて婚活をしなければ!と一応周りを見回した。
だが同じ職場の同僚達は、王太子殿下以外は全員独身であるのに、身分が高過ぎて私が相手では鼻どころか毛先にさえ引っ掛からない。
ダンテでさえ伯爵家出身だし、何なら何時もお世話になっているメイドさんも伯爵家出身。
基本王族に直接関わる職業の人達は伯爵家以上と決まってる。
男爵家や子爵家出身の人も居ないことはないけど、叩き上げ!って感じのやり手の人しか居ない。
そういった人達は大概既婚者だったりうんと年上だったり。
私の場合は王太子殿下が直々にスカウトしたってことで特例が認められただけで、そんなラッキーは万に一つもない。
ならどうする?数少ない友人に頼んでパーティーなんぞに参加してみるか?決意した矢先、ダンテにお姉様の結婚式に一緒に参加してくれないかと相談された。
何でも結婚式のパーティーは、パートナーがいないと参加出来ないんだとか。
それが王都貴族の常識だそうです。
王太子殿下の結婚式は国の行事なので例外。
まあ、人の結婚式に参加して婚活と言うのもありかな?とダンテの相談を受けてみた。
同僚で恋人では無いので、ダンテのお姉様のお下がりのドレスを借りて参加。
ダンテの家は代々王家に支える執事やメイドの家系で、王太子殿下ご夫妻も参加する中々に盛大なパーティーだった。
その王太子夫妻に話しかけられた。
「お前も来てたのか?」
「ダンテのパートナーを頼まれたんで」
「お前の給料ならもう少し良いドレスが買えたんじゃないか?」
「いやいやいや、これもすんばらすぃドレスだべ!借りもんだけんど」
「いや、そこは買えよ!そこそこ良い給料払ってんだから!」
「半分は実家に仕送りしてますんで、そんなに裕福でもねっす」
「ああ、ご実家ではまたお子さんが生まれたとか?おめでとう」
「ありがとうございます。まあ、8人目だもんで、めでたさはそんなに感じねっすけどね」
「8人とは多いな?」
「貧乏子沢山っちゅー諺通りの、子沢山家系っすね」
「安泰で良いんじゃないか?」
「子育て費用で年中貧乏ですけんどね」
「クレッシェル男爵家は歴史の長い由緒正しい家柄だろう?」
「浮きも沈みもしねぇ、歴史だけは古い貧乏男爵家ですけんど」
「クク、フフフフ、歴史があると言うことは、それを誇りに思い大事に守られてきたと言うことですわ。漫然と爵位を継承するだけでは、貴族家と言うのは続きませんもの」
リューレイア様は私と会話する時は、必ず先に笑い声を溢す。
他の地方の訛りを聞いた時は耐えるのに!最初に爆笑させてしまったからだろうか?
「そう言うもんだべか?」
「まあ、呑気なだけではやってはいけんだろうな?」
「へ~、父上は馬に乗ってっと平民と見分げがつかね~ってほど、貴族らしさ皆無だけんども、なんかそれらしい所もあんだべか~?」
「ゴーリンデ地方は自治が驚く程安定しているから、余り視察にも行った事が無いな?今度ゆっくりと視察に回ってみるか?」
「まあ、その視察にはわたくしも行けるかしら?」
「ああ、良いんじゃないか?日程の調節をしよう」
「はい、楽しみですわ!」
とても楽しそうなリューレイア様。
別に訛ってるだけで愉快な人は居ませんよ?
結婚式は華やかで賑やかに終了した。
この世界にもあったブーケトスでは、ダンテのお姉様が何故か私に向かってブーケを全力投擲してきた!
後ろに体を反らし振りかぶっての全力投擲だった!
ダンテのご家族達がニヤニヤしてたけど、そんな関係ではありませんよ!ダンテの好みは心身共に強くてダイナマイトなボディの持ち主だと思う。王妃様付きの女性護衛騎士様みたいな。
1ヶ月半後。
王太子殿下もリューレイア様も社交辞令だと思ってた視察の為に本気で仕事を調節して、3週間の日程を確保してゴーリンデ地方の視察に向かうことになった。
「社交辞令だど思ってたのに」
「いや、全く行ったことの無い地方があるのは、王太子として駄目だろう?これはいい機会だった」
「ええ、わたくしもお城に籠ってばかりではこの国の事を本当の意味では学べませんもの」
お二方ともとても真面目!
「レイアの初めての視察としては、ゴーリンデ地方は最適だろう?安全で長閑で賊の警戒も少なくてすむ」
「まあ、農業と牧畜が主産業なんで、食い詰めて賊に落ちるってこども少ね~べな~。そんでもグレる奴はその辺のおっちゃん達にボコボコにされで泣ぎながら農作業させられでるし」
「ん?グレる奴など居るのか?」
「たま~にいるべ。自分ばこんな田舎で埋もれる存在でねー!って意気がってるもんが」
「それが大人達にボコボコ?にされて改心するのか?」
「おら達に負けるぐれーのペラッペラなやづが都会でやっていげるわげねー!って、その後おっちゃん達につれ回されてグッタリしたとごろにおばちゃん達のなが~~い説教があれば、大概おどなしくなるべな」
「な、中々に厳しいのだな?」
「いやいや~、そったらごど言うやづは、甘ったれの世間知らずで、自分を過大評価しでるアホばっかだがら、一回ポッキリ折ってやればおどなしくなるべよ~。本当に根性あるやづは、鍛えておばちゃん達説得しで、おっちゃん達ボコボコにして都会にいぐしよ」
「成る程。ゴーリンデ地方出身の者は逞しいと聞いたことがあるが、領地を出る際にそんな洗礼があるとは!逞しくもなる訳だ!」
何故か変に感心されているが、グレかけた子供を鉄拳制裁している脳筋と言うだけの話だ。
この視察には、中々里帰り出来ない私の事を考慮してくれたのか、クレッシェル男爵家も視察予定に入っている。
乗り合い馬車とは乗り心地もスピードも段違いの高級馬車なので、乗り合い馬車なら片道2週間掛かる領地も、3週間で往復出来る!
久しぶりの里帰りなので、王都のお土産も大量に積んでもらっているし、私としては仕事と言うより里帰りの気分で居る。
勿論聞かれたことには知ってる限り丁寧に答えるけどね!
季節は春の終わり。
ポカポカと暖かい気温。
種を蒔いて芽吹く時期なので畑は淡い緑色。
緩く風も吹いているので視察と言うよりピクニックにでも行きたい天気。
幾つかの領地を経由して一週間掛けて実家の領地に着いた。
王家の馬車は揺れも少なくフカフカのクッションも大量に置いてあるので、恐ろしく快適な旅だった。
王太子殿下やその側近は疲れもなく溌剌としてるけど、リューレイア様がちょっとお疲れ気味。
旅に疲れたのではなく、笑いすぎて疲れてるんだけど!視察中は澄ました顔で耐えておられるんだけど、部屋に入った途端爆笑されてる。毎日。お腹を押さえて机をバンバン叩く程爆笑しておられる。
それを王太子殿下とリューレイア様付きのメイドさんが微妙な顔で見ながら、最終的に皆して釣られて笑ってるし。
ゴーリンデ地方はリューレイア様の笑いのツボを連打するらしいよ?
我が家は貧乏男爵家だけど、ご先祖様が叙爵した時に建てた屋敷は、田舎特有の頑丈さと大きさを兼ね備えた石造りの砦のような堅牢さで、見た目だけは立派に見える。
実際に使っている部屋は一部だけだし、手入れが間に合わず崩れている場所もあるけど、見た目だけは立派。
使用人を雇う余裕も無いので、一応貴族として最低限の体裁を整える為に執事とメイド長と言われる爺ちゃんと婆ちゃんが居るが、いい加減の歳の二人なので、使用人と言うより家族として暮らしている。
失礼があったら大変なので、先に謝ったら、
「無礼で失礼なのはお前で慣れている」
とか言われた!リューレイア様が王太子殿下の腿をつねってたけど!
「ところで、この屋敷には兵士が居ないようだが、領地に魔物が現れたらどう対処するんだ?どこかの領地に救援を頼むのか?」
「え?この辺に出る魔物くれーなら、その辺に居るおっちゃんや若いのが倒すべ。ちっと強いのが出だら兄が出ますけっど?」
「ん?兵士ではなく農夫やお前の兄上が倒すのか?」
「こまいのなら母ちゃんや姉ちゃん達も倒して、その場でさばくけっど?」
「はあ?ご婦人達が魔物を倒す?!」
王太子殿下だけじゃなく、馬車に乗ってる全員が驚いている。
すぐ近くを馬に乗って並走してるカイエン様も聞こえたのか、凄くギョッとした顔で見てくる。
「まあ、王都では滅多に魔物も出ねーし、ご婦人方も魔物を見だこどもねー方々ばっかだがら仕方ねーけども、この辺では10歳にもなればホーンラビットやタスクマウス、スライムなんかは狩って解体しで、夕飯の献立を一品増やしてもら~のが普通だべな?」
「……………………あれか、お前の逞しさはそこから来てるのか?」
「まあ、おらもタスクタイガーくらいは狩れっけども、ここら辺じゃ珍しくもねーし、逞しいって程でもねーべ?」
「いやいやいやいや!タスクタイガーと言えば、一端の冒険者として認められるCランク以上の討伐対象だぞ!」
「へ~」
ちなみにタスクタイガーは牙の発達した虎です。
「へ~って!へ~で済ます気か?」
「いやでも、うちの兄弟なら全員倒せるし、その辺の姉ちゃん達でも倒せるしとはゴロゴロ居ますんで、都会とはちがんだな~と思うくれぇで?」
「…………………確かに僕の常識は通じない土地のようだが、ここまで認識が違うとはな?」
「まあ、こまい魔物に脅えでだら、生きてはいげね~土地ではあるべな」
そう言って何気なく窓の外を見れば、子供達が今まさにホーンラビットを倒している場面に遭遇した。
棒で叩いて退治して、腰に下げてるナイフで解体、肉の塊を持って大喜びで家に帰っていく子供達。
馬車内外が無言です!
そして到着した我が家では、出迎えの為に父上と母上と執事とメイド長が玄関先で待っていた。
ただその後ろには半裸の兄が2人、呑気に魔物の肉を担いで屋敷に入ろうとしていた。
思わず窓から身を乗り出し、
「ばがこの~!お姫様が来てんのに、肉を担いで半裸で居るやつがいっか~!さっさと服を着ろ~!」
叫んだら慌てて別の入り口に駆けていく兄2人。
馬車内外が爆笑してます。
父上と母上が気まずそうな顔をして王太子殿下とリューレイア様を出迎えてる。
父上と母上と執事とメイド長がガッチガチです!
ガッチガチで動けない人達はほっといて、一応応接間としている部屋にお連れして、自家製の茶葉でお茶を淹れようとしたら、リューレイア様付きのメイドさんが代わってくれた。
自家製の茶葉がこんなに美味しいとは初めて知った!
遅れて慌てて部屋に入ってきた父上と母上も、淹れて貰ったお茶を飲んで驚いていた。
リューレイア様がお茶を褒めてくれた。
緊張でガッチガチながらも何とか受け答え出来ている父上に、領地の事や天候、作物の出来具合等を聞く王太子殿下。
暫くは和やかに話していたら、部屋の外がバタバタしだして、扉の前で何やら揉めてる気配。
こちらから開けてやれば、案の定兄2人がどちらが先に入るかで揉めていた。
仕方無いので長男の尻を蹴って部屋へ入れ、続けて次男の尻も蹴って部屋へ入れた。
「うわ~、本物のお姫様だっぺ!目~潰れそうなほど綺麗だなや~!」
「おらは鼻血吹きそうだべよ!」
「アホが!まんずは挨拶が先だべよ!」
無駄に高いところにある頭には届かないので2人の尻をつねってやったら、慌てて挨拶をしていた。
王都の貴族とは比べ物にならない程無礼な挨拶だったけど、王太子殿下とリューレイア様周りは爆笑を堪えてスルーしてくれた。
今夜はこの家に一泊する予定。
客間に案内をすると、使える部屋が少ないからか、この屋敷で一番豪華な部屋ではあるけど一室しか用意されてなかった。
メイドさん達用の部屋は別に用意してたけど。
こう言った高貴な方々をお迎えする時は、夫婦だろうが新婚だろうが、最低限人数分の部屋を用意するのが常識なのだが、3日前にワーウルフの群れが襲ってきて、用意が間に合わなかったそうです。
父上と母上と執事が平謝りしてた。
王太子殿下とリューレイア様は笑って許してくれたけど。