2 聖騎士エル vs スライム(服を溶かすタイプ)
まずはエルを傷つけたスライムの駆除だ。
「【攻撃魔術回廊・起動】! ――【火炎弾】!」
手を前に向け、初級魔術のファイアーボールを使用した。
魔法は動きの鈍いスライムに命中し、跡形も無く焼き払った。
討伐した証に白い光の粒子が立ち昇り、ビン詰めされた『スライムゼリー』という液体が出現する。
「大丈夫か!?」
「あ、ああ……」
駆け寄って背後から支えると、エルは悔しそうな顔をしていた。
「すまない、ケイン。まだ昔の癖が抜けていないらしい」
「い、いや、気にしなくても」
「お前がそばに居てくれて助かったよ。でないと、全身を溶かされていた……」
恐怖を感じていたのか、体をギュッと縮め、胸の谷間を強調してくる。
俺は視線が谷間に行くのを止められない。
エルもそれに気がついたようだ。
「あ、あまり見ないでくれ。恥じらいくらいはあるんだ」
「ご、ごご、ごめん……!」
慌てて目をそらすも、気恥ずかしい空気になる。
ケインはとりあえず帰らせようと、こう言葉を漏らした。
「でも、服が溶けたから、もう――」
「いや、そっちは問題ない」
「?」
彼女はベルトから赤い液体の入った試験管――最上級の瞬間修復剤を抜き取ると、栓を外し、ごくっと一気に飲んだ。
するとエルの目の前に赤い色の棒――体力ゲージが表示され、満タンになった。
同時に、防具の溶けた部分も完全に修復される。
最上級の瞬間修復剤は、回復量に応じて防具も修復するという不思議な現象を起こすのだ。
「よし、これでまだまだ戦える」
「まだやるのかい!?」
「当たり前だ! 今度は油断しない!」
エルは元気よく立ち上がると、威勢よく両手剣を構えた。
しかし重いのか、腕をぷるぷると震わせていて、今にも落としてしまいそうだ。
なぜかと言うと……
「くっ、ステータスリセットさえ、無ければ……!」
「お、重いんだろう、無理は」
「無理ではないっ! これは過去への贖罪であり、神の試練だっ!」
「エル……」
かつて彼だった彼女は、ダンジョンの爆破トラップによって一度死亡し、『転生のお守り』という貴重なアイテムによって蘇生したものの、『蘇生後はステータスリセットされる』というデメリットによって、ステータスやレベルを初期値に戻されているのだ。
しかも、追加で付与されていた『性別逆転の呪い』が『蘇生後の要素』になったことで、女性として。
「だめだ、これ以上は……くっ」
エルは重さに耐えきれず、武器を落としてしまう。
無茶や怪我をさせたくない俺は、エルに別の方法を提案した。
「な、なぁエル」
「なんだっ」
「鍛錬からやり直さないかい? 一から」
「何を言うケインっ、特S級魔道士のお前が居るじゃないか。身体強化魔術くらい、使えるのだろう?」
「それは、そうだけど――」
彼女の言う通り、俺は世界でも指折りの実力者。
特S級とは『特殊技能持ちS等級冒険者』の略で、これは世間で最高位と言われている『Sランク』よりも上位だ。
一通りの魔術を扱える冒険者だったので、迷宮ギルド――ダンジョンへの人員手配・産出資源の管理を行う組合だ――と臨時契約を結び、派遣魔道士として活動していた時期もある。
実は、エルとはその時に出会った。
俺は蘇生後の彼女の容姿に一目惚れしてしまい、夫になる道を選んだ。
なので全盛期の実力も知っていて、彼女が冒険者を続けるのがとても不安で、心配なのだ。
俺はエルをどうしても家に返したくて、説明を並べ立てた。
「聞いてくれ、エル。俺の強化魔術は通常の物とは効果が違うんだ。加算じゃなくて倍率で上昇する特殊強化ばかりで、素の筋力が高くないと――」
「嘘だな。お前は嘘をつくとき、いつも長ったらしい説明を言い出す」
「い、いや、嘘じゃな――」
「ケイン」
するとエルは俺の手を取って、目を潤ませながら、不安そうにこう問うのだ。
「……なぁ、ケイン。私のことが嫌いか?」
「うっ」
それはズルい、ズルいぞ。エル。
エルの容姿――巨乳で、色白で、スタイルのいい、美しい青髪と透き通った青い瞳をした、思わず見惚れるような美貌の女騎士は、俺の理想の女性なのだ。
そんな嫁に上目遣いで見つめられるのだから、俺は協力する以外の道がない。
「はぁ……分かった。疲れたら家に連れて帰るよ。それでいいかい?」
「ああ!」
ぱあと咲いた笑顔が可愛い返事だ。
我慢できなくなって頭を撫でると、頬を少し赤くして喜ぶのだから、なおのこと可愛い。
ずっとこうして愛でていたい。
「ふふ」
「なぁケイン、撫でてくれるのは嬉しいが、強化魔法はまだなのか?」
「わ、分かった分かった。【強化付与回廊・起動】……【筋力強化】――【速度上昇】――【防御力上昇】――」
「おお……!」
エルの体に、強化魔法が掛けられた証――魔力膜が付与される。
力は赤、速度は青、防御力は緑色で、三つ同時に掛けることで【聖光三原色】という特殊な相乗効果を発揮。
三色のオーラは自動で合成され、【全能力値倍加】の効果を持つ白いオーラになるのだ。
「エル。剣を構えてくれ」
「ああ、分かった!」
エルは地面の儀礼用両手剣を拾って構えた。
まだ不安定だが、多少は振るえそうだ。
「どうだ?」
「行けそうだ! 行くぞッ!」
「な!? まっ――」
引き止める間もなく、次の獲物に狙いを定めて、剣を引きずりながら走り出していった。
俺は慌てて追いかける。
「せめて俺と連携しろぉぉ――――!」
「くっ、また服に……!」
エルは当たり前のように、再び消化液を浴びていた。
今度は腰からお尻付近に大きく被弾したようで、ピンク色のパンティが見えてしまっている。
そう、オーラで表層の防御力を高めたので、消化液が下着まで届かなかった。
だが彼女からすれば『痛みがない=無傷』となるようで、反撃を繰り出していた。
「フンッ!」
スライムは大剣に押し潰されて飛び散った。
エルの前で青い粒子がポウ、と昇る。
討伐成功だ。
「はは、見ろケイン! 倒せたぞ!」
「お、おめで……――!?」
エルは喜んでこちらを向いた。その服はスライムまみれだった。
しかもどうやら、スライムの体内に消化液が残っていたらしく、少しづつエルの防具服を溶かしている。
「やはり魔物を倒すのは楽しいな!」
「あ……ああ、ああ」
中に着ている白いシャツブラウスや黒スパッツの他にも、消化液の濃い部分は可愛いピンク色のブラジャーとパンティー、さらにはきめ細やかそうな白い肌が露わになってゆき、目のやり場に困ってしまった。
エルは、俺の目が泳いでいることに疑問に思ったのか、こちらに詰め寄ってくる。
「ケイン、どこを見ているんだ。ちゃんと私を褒めろっ」
「え、偉いよエル」
「ふふん、当然だ」
腰に手を当ててえへん、と威張った。
その腰――地肌に触れた感覚で、ようやく自分がどうなっているのか気付いたようだ。
「うぅっ、くっ、殺せ!」
顔を真っ赤に染めて、恥じ入るようにしゃがみ込んでしまう。
本当は真っ先に言わなければいけなかっただろうが、俺もしょせんは男。
理性よりも『好きな人のエッチな姿を見ていたい』という欲の方が、その何倍も強いのだ。
一ヶ月くらい前に書き散らした産物を投げ捨てていくスタイル
TSのNL物って実質BLなのでは? と思いましたが、誰かの性癖に刺さればOKですv(´∀`*v)ピース
(続編構想は特に)ないです