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俺は顔が良くて胸がデカい金髪の女騎士が好きだ

 エルとの出会いは一年前。

 まだ俺が派遣魔道士――職業【魔術師メイジ】以上の冒険者兼・臨時職員のことだ――をやっていた頃のこと。

 S級ダンジョンの全制覇を目指すパーティーから『協力な強化魔術を使える魔術師』が欲しいとの連絡を受けて派遣され、冒険者ギルドで顔を合わせた、と記憶している。


「初めまして、派遣魔道士のケインです。よろしくお願いします」

「貴様が例の特S級魔道士か。フンッ、期待はしてやる」

「そりゃ嬉しいですね」


 初対面の印象は、鼻持ちならなくて言葉尻がキツい、いけ好かない野郎だった。

 顔にはグレートヘルム……いわゆるバケツと呼ばれる兜を常に被っていて素顔が分からず、装備も何というか、悪く言えば成金趣味の豪華な装備だった。

 彼の仲間――というか取り巻きは、聖女のナーメ・トルンガルと大賢者のクーロ・マークだったはず。

 嫉妬と殺意の視線を向けられていた以外、いまいち記憶にない。


「それで俺――ではなく、私にどういった役割をお望みですか?」


 軽い雑談を持ちかけてみると、衝撃の事実が判明した。

 なんと彼らのパーティーは、前任者の特S級魔道士を『無能』と断じて追放したばかりだと言う。

 特S級に在籍しているから分かるが、あからさまに特大級の地雷パーティーだった。


「すみません派遣の件なんですが」

「ケインさん!?」


 気がついた時には受付前に居て、契約破棄を申し込んでいた。

 ただ、上層部の意向ということで受け入れられず、悪態をついていたなぁ。


「いくぞ、ケイン。送れるなよ」

「……分かりましたよ、リーダー」


 俺は仕方なく、ダンジョンダイブをすることになった。

 先頭を歩いていくのが、オーダーメイドの大盾と持ったエル・カーディナルで、その威風堂々と歩く様には正直、男として惚れたね。


 ただ、当然ながら連携は壊滅的で、『どうして敵がこんなに強いんだ!?』とか『魔法が効いていない!?』とか、『回復が遅い!? なぜですか!』などなど……

 追放したパーティー特有の連携崩壊劇が盛りだくさん。

 俺としては予定調和だったけどな。


 ま、問題が分かれば対処は出来る。

 ただ、ある程度の内申点は必要だったので、影からサポートとは言わず、具体的な改善案を模索したり、強化魔術以外にも、攻撃・回復魔術を使って支援したのだが……


「素人の貴様が大賢者の私を差し置いて攻撃するな!」

「回復魔法は聖女のみが扱える奇跡! 魔術のような下等な手品で汚しては――」


 もう、後衛二人のプライドが高すぎて地獄だった。

 反発はしつつも、納得できれば改善案を飲み、黙々と盾役をしてくれる聖騎士エルが如何にまともに見えたか。

 だが、それでも没落の未来は変えようが無かった。


 ついに攻略難易度がCまで落ち、成功しなければ公爵家からの援助が打ち切られると決まった迷宮探索の最終日、俺は最終階層ボスフロアで出会ったエルダー・ミノタウロスから逃げるための囮にされ、ダンジョンに一人で取り残された。

 彼らが逃げる間際に見えた、聖女と大賢者のニヤついた笑顔はいつ思い出しても苛つく。


「はぁ、前任者の追放、絶対あの二人が元凶だろ……」

「グモオオオオオ――――ッ!」

「クソが、こんなところで死ねないんだよ……!」


 魔力も体力も残り少ないが、俺はえるだー・ミノタウロスと単騎で殺り合うため、全身に強化()を掛けた。

 無抵抗で死ぬよりも、全力で抗って生き伸びる方に賭けたのだ。



 詳細は省くが、何とか倒せた。

 運良く『麻痺魔術(パラライズ)』が通り、敵の振り回す巨大な斧を奪えたことが勝因だろう。


「……はぁ、帰るか」


 長い休憩の末に呼吸を整えた俺は、戦利品のネックレスを手に、フロア中央に出来た転送陣に乗って地上に戻った。

 最初に見えた景色は、前方から光が差し込むダンジョンの入り口と、その床に転がる、トラップに引っかかって死んだ大賢者、聖女、聖騎士の遺体だった。


「は?」


 聖騎士は振り子トラップで袈裟に斬り伏せられ、大賢者は弓矢で蜂の巣、聖女は頭を潰されて圧死と、死因はバラバラで。


「待て、おい、俺を囮にした意味は……?」


 思わずめまいを覚えて頭を抑えた。

 聖女や大賢者はすでに解任され、後釜が職務を引き継いでいる。

 だけど、聖騎士エルだけは別だ。

 彼は公爵家の子息なのだ。


「ふ、ふざけんな……おい……」


 俺はエル・カーディナルを守れなかった罪を公爵家に問われ、おまけで聖女や大賢者の死にも言及され、死刑しけい流刑るけいが確定するだろう。

 どうすればよかったんだ。


「……いや、せめて弔ってやるか」


 彼らの死と、俺の立場を天秤に掛けてしまった罪滅ぼしではないが、少なくとも命の価値は平等だ。

 冥福の祈りを捧げたあと、残り少ない魔力で棺桶を生成し、大賢者と聖女を棺に収めた。

 最後にエルに手を伸ばして触ったところ、かすかに息があることに気付く。


「嘘だろ……!? おい、エル! エル! 聖騎士エル・カーディナル! 起きろ! 起きてくれ!」


 俺の揺さぶりで微かに意識を取り戻したエルは、か細い声で『ヘルムを外してくれ』と懇願してきた。

 言われた通りにしてやると、その顔は男性ではなく、絶世のブロンド美女だった。

 一目惚れに近い衝撃を受けて、ゴクリと息を呑む。


「だ、だれ……?」

「すまない、ケイン。私の……最後につき合わせて、しまって……」

「あ、ああ」

「だが、お前の無実は、晴らさねばな……私の、大事な勲――――……あれ?」


 エルは次第に元気を取り戻していく。

 唐突にハッと体を起こすと、壊れた鎧を外し、服越しでも分かるたわわに実った二つのメロンを、その華奢な手で揉み……違う、肩や胸を触って、体の怪我が消えていることに驚いていた。


「これは……」


 次は胸の谷間に手を突っ込み、掛けていたネックレス引き上げると、二つに割れた銀色のタリスマンが出てきた。

 それには見覚えがあった。


「それは『転生のお守り』か?」

「なに? これはそういう名前なのか?」

「……っ、ああ」


 彼女が振り向いた時、服の隙間から見えた薄いピンク色の突起に耐えられずに目を反らし、早口で説明した。


「それは転生のお守りと言って、死んでも蘇ることのできるダンジョン産のレアアイテムだ」

「なるほどな。実家に感謝せねば……」

「ただ、デメリットとしてステータスリセットされ、呪いで性別が変わる。『性別逆転の呪い』という呪いだ」

「呪い!? ど、どうすれば呪いが解ける! 教えろケイン!」


 かなりの衝撃を受けたようで、薄着のエルは俺に掴みかかってきた。

 全てを知っている俺は、こう答えるしか無かった。


「解呪方法が存在しないから、永遠に呪いが解けないんだ。聖騎士エル・カーディナル。悪いがお前はもう、男には戻れない」

「な、なッ……」


 俺を手放し、ぺたんと座り込んでしまうエル。

 それから少しして、思案するように周囲を見渡したあと、ついに覚悟を決めたようで、俺を睨んでこう言い放った。


「せっ、責任を取れ! でないと、お前を殺す!」

「責任ってなんだよ」

「私と結婚しろ!」

「なんで!?」



 どうやら実家がかなり厳しいらしく、成人したら女は結婚し、男は伝説の英雄にならなければいけないらしい。

 なので、女に生まれ変わったのだから、女としての責務を果たさなければならないというのが相手の言い分だ。


「そんなメチャクチャな!?」

「ケイン、お願いだ! 私よりも優秀なお前にしか頼めないんだ! 私を(めと)ってくれっ……!」

「――!?」


 自分好みの女性に、目を潤ませながら求めるように懇願されて、折れない男が居るだろうか。

 縋り付き、抱きついてくる彼女の胸の柔らかさを知って、拒絶する男が居るだろうか。

 いや、居ない。断言する。


「――っ、分かった。……エル、俺と結婚しよう」

「ああ! 私と一生添い遂げてくれ……っ!」


 ケインは相手が元男だと分かりつつも、その容姿に惹かれて責任を取ることにした。

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