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9/20

そのときゼットは……

 ゼットは悩んでいた。

 まず海岸の木を見に行った。

 海風を防いでいる防風林だ。

 植林された木に混じって柑橘の木が植えてあるのが見えた。

 なぜわかったのか?

 実がついていたのでもぎって食べたからだ。

 種類はわからないが甘くて美味しい。

 皮も干して乾燥させれば咳止めの薬になるだろう。

 みんなの分を取って革袋に入れて持ってきた。

 そのまま今度は廃墟を散策する。

 家の破片と思われる木が散乱している。踏んだら危ない。

 片付けねば。

 片付け、清掃、道具の修繕、洗濯、配膳は見習い騎士の仕事。

 ついつい手が動きそうになる。

 でもそれより気になることがあった。


「……まだ新しい」


 散乱している木は風化してなかった。

 なにかの動物が壊したかのようであった。

 ヤンキーのゼットはこれでもいいところのお嬢さまである。

 大陸が丸ごと放棄されたのなら歴史で習っているはずだ。

 いやそれ以前に島なり大陸が本当に存在するのなら地理で習っているはずだ。

 軍において士官級は国家の地図を頭に叩き込んでいる。

 こんな場所の話を聞いたことがないのだ。

 最近放棄されたと考えてもおかしい。

 島なり大陸なりが放棄されたら大騒ぎになるはずだ。

 防風林を作るほどの土地が放棄されたとしたら、中央の役人のお偉いさんが左遷される騒ぎになるだろう。

 でもゼットはこの土地を知らない。

 見習いとはいえ宮殿の騎士の耳に入らないわけがない。

 アリッサも知らなかった。

 官僚の耳に入らないなんてありえない。

 いったいいつ放棄されたのだろう?

 ゼットは悩んだ。……が、わかるはずがない。


「うん、考えるのやめた!」


 あとでアリッサに話して代わりに考えてもらおう。

 難しいことは頭いいやつに考えてもらえばいいのだ。

 ゼット自身が考えるよりもずっとマシな答えが出るだろう。

 ゼットは脳筋だが素直に人に仕事を振り分けられる脳筋なのだ。


「お土産もあるし帰ろうかな」


 探索終了とばかりにゼットは踵を返す。

 するとドドドドドドという音が聞こえる。

 ゼットは弓を構えて建物の陰に身を隠す。

 この音はセイラのトラクターの音ではない。

 動物が走る音だ。しかもかなり大型の。

 ゼットは弓を引き建物から様子をうかがう。

 猪が、林檎の木ほどもある巨大な猪が走り回っていた。


(あっちゃー、弓で勝てるかな?)


 猪といっても走り回っているのはワイルドボア。

 魔物、それも危険種に分類される。

 人間を襲う習性があるので冒険者や騎士の討伐対象になっている。

 近衛騎士のゼットも討伐の訓練を受けている。

 だが、相手は少なくとも騎士5人は必要な怪物だった。


(この弓じゃ勝てるかどうか……でもセイラやアリッサが襲われたら困るなー。しかたない……やるか!)


 獣の毛皮は思ったよりも硬い。

 刃をなかなか通さないし、ある程度は矢も防ぐ。

 傭兵が鎧代わりに着用するほどだ。

 ゼットは息を吐き肺の中の空気を出す。

 そして一気に息を吸い弓を構え前に出る。

 そのまま弓を放った。

 弓はあくまで低級のもの。

 小動物ならまだしも猪を殺傷するには至るのは難しい。


 ならば二撃目は魔法で、という……はずだった。


 ドンッと大きな音がした。

 放たれた矢。手作りの精度もあやしい矢が猪の体を貫通した。

 矢の衝撃で猪の体が宙に投げ出され地面に激突する。

 猪は一撃で事切れていた。


「うそだろ」


 目の前で起こったことが信じられない。

 だが悩む暇はない。

 ゼットは目の前の得物を運ぶことにした。

 とりあえず重さだけ確認しよう。

 と、両手で猪を引っ張ると……動いた。

 重さを感じることもない。

 あまりにも軽いので軽く叩いてみた。身はぎっしりつまっている。

 片手で引っ張ってみた。軽い。


「ま、いいか。肉ゲット」


 ポチの出した食事が体に良いものかわからない。

 あまりに美味だ。

 セイラはいいものだと信じている。

 食料も少ないので頼らざるをえない。

 だがなるべく普通のものを食べるべきだとゼットは考えていた。

 パンだけを食べ続けるより肉と野菜をちゃんと食べた方が体の調子がいい。

 それをゼットは経験から知っていた。

 ずるずると重い音を立てながらゼットは猪を運んでいく。

 家に帰るとみんなが駆け寄ってきた。


「ゼット! それどうしたんですか!? って血がついてる!」


「ゼットお姉ちゃん! 襲われたんですか!?」


 ゼットは手を振る。


「あー大丈夫、大丈夫。猪狩ってきたわー。それでよー、いきなり力がついてさー。こいつ引きずっても疲れもしねえ……」


「レベルが上がったのだ!」


 ポチがひょこっと出てくる。


「は? 戦ってもないのにレベルが上がるわけ……」


「いいからレベルと唱えよ!」


「お、おうレベル! ってなんじゃこりゃーッ!!!」


 レベル144。

 猪の分まで経験値が入っているようだ。


「おおー……おおおおおおおおお!」


 ゼットはうなった。

 そもそもレベルは騎士団において重要な数値であり、レベルに応じた手当もあるくらいなのだ。

 レベルが高い人間はシンプルに強い。

 レベルが上がれば巨大な猪すらヘロヘロ弓矢で討伐可能なのである。

 化け物じみて強いゼットもレベルはそれほど高くない。レベル15のはずだ。

 まさか近衛騎士団にいたときより強くなるとは思っていなかった。

 それも100オーバー。

 達人の域まで到達したと考えられる。


「なんで今になってこんなにレベルが上がるんだよ……」


「そりゃ農協の組合員が農業害獣を倒したんだからレベルが上がるだろ。報償ポイントも出ているぞ」


 すでにポチは農協の組合員という言葉を隠さなくなった。


「あー、もう! わかった! 説明してやる。セイラ、もう一つ畑を作るぞ! そうすればお前らのレベルが上がった理由がすぐにわかるのだ! 次は野菜だ!」


 こうして二つ目の畑を開拓することになったのである。

 三人は釈然としないまま猪の処理にあたるのだった。

現在体調不良で動けませぬ。

感想の返信待ってくだされ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] お大事に。
[良い点] 目の前の未知の実を何も疑わずいきなりもいで食べるヤンキー。 凄いレベルの腕力でも壊れない手作りの粗末な弓。 [一言] お大事にしてください。
[良い点] ノーキョーは月に行くぐらいだもの異世界だからレベルだってあるよね [一言] お大事に
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