腹の中で
宮殿。
宮廷貴族の中にその男はいた。
大臣に次ぐ地位。
実務畑のトップ。
事務長官……の腹の中。
腸内に潜むもの。
サナダムシである。
もちろんこの世界では種としては違う名前……いや分類法が確立されてないため単に「虫」または「蟲」、「腹の虫」、「ケツから出てくる虫」などと呼ばれているが便宜上サナダムシとする。
庶民から王族までおなじみの虫である。
彼はその中でも究極のサナダムシ。
全寄生虫を統べる知性を持ったサナダムシである。
彼(正確には雌雄同体だが)は、あるときは食堂のキャベツに卵を混入、あるときは手を洗わない人間の手に(汚いので略)と繁殖活動をコツコツこなしていた。
彼の最大の能力は宿主を操ること。
とはいえ、完全に洗脳するほどの力はなく、少々判断を誤らせる程度。
だがコツコツと繰り返せば、人一人の人生を壊すくらいのことはできる。
彼はその能力を使い、聖女候補者を排除し世界を牛耳る作戦に従事していた。
要するにセイラたちを排除した勢力はこいつらに寄生されていたのである。
彼の予想では彼の滅びた後数十世代を経過したあとに人間は彼らに支配されるはずだった。
寿命は短いのに恐ろしく気の長い計画である。
おそらくサナダムシが寿命を迎える三年後には忘れ去られているだろう。
なぜなら他の個体と通信する手段などないのだから。
だが……その前に異変は起きた。
声が聞こえた。
「魔王の陰謀だ!」
(え……? 聞いてない!?)
サナダムシは自分こそ魔王だと思っていたのだ。
誰も教えてくれないし、教育を受ける機会のない生物の限界である。
「聖剣こそが魔王だったのだ」
(なんだってー!)
サナダムシは度肝を抜かれた。
(ま、待て、我こそが魔王ではなかったのか!?)
結構自信家である。
だが次の瞬間、変化が起こった。
(い、いや待て。も、もしかして我は……魔王ではない……のか?)
知性があるといっても所詮は寄生虫。
宿主の腹の中しか世界を知らないサナダムシである。
人間が声高に叫べば「そうなのかもしれない」と思ってしまう。
そもそも社会性のある生物ではない。
主体性など……ない。
コミュ症ティーンエイジャーの如き中途半端な知性が暴走する。
(そうか! 我は魔王軍四天王だったのか!)
サナダムシは結論を出した。
根拠などない。
ただの思いつきである。
だが腹の中の寄生虫にツッコミを入れるものなど存在しない。
よって寄生虫は思いつきを信じた。
(いますぐ魔王の元に馳せ参じねば)
サナダムシはそう考えた。
この考えすら腹の中で盗み聞いた騎士心得のコピーでしかないのだが。
そして同じ事を考えたサナダムシたち(と寄生された人間)が集う。
それぞれが魔王軍四天王だと思い込み。
寄生先の人間は汚職役人、汚職騎士、汚職領主など。
この国に巣くう病巣が一斉に島を目指したのである。
いつもの三人。それと犬とドラゴン。
ブチ切れる娘ラブゴローちゃん&ゼットパパ。そして家臣一堂。あとショタ。
聖剣と王子。
聖剣陰謀説ですべてを丸く収めようとする王。
国をだめにしてるクズ一行と黒幕の寄生虫。
彼らが島に集うことになったのである。
……ある意味地獄である。
そのころ島。
「うおおおおおおおおおおおッ! 品が増えてる! 酒えええええええええッ!」
ゼットが雄叫びを上げた。
アリッサも続く。
「甘味だああああああああああッ!」
全知全農。
そのショッピングメニューに並んだ数々の品。
そして酒、つまみの数々。
ホッ●ーやコンクなども並ぶ。
アリッサやセイラには甘味が並ぶ。
ケーキ、クッキー、チョコレート、プリン。
味の良さはカップラーメンや菓子パンから学んでいる。
じゅるり……。
「ポイントをためましょう!」
セイラは目をキラキラさせた。
ゼットとアリッサも目を輝かせる。
「酒!」
「甘味!」
大量の農業機械、解禁された農薬、発電機つき温室、水耕栽培施設などもあるが目に入らない。
ドローンや無人飛行機による農薬散布も目に入らなかった。
「買えば?」
ポチがつぶやいた。
「買っていいんですか?」
セイラが聞くとポチがうなずく。
「好きにしろ。聖女よ」
「聖女じゃありませんよ」
「セイラよ。神の意志を奇跡をもって成すもの。それを聖女と言わずしてなんと呼ぶ?」
「聖女ってもっと高潔なものではないんですか?」
「我らの聖女は土いじりと全知全農を使えるだけで充分だ」
なんか変だなと思いながらもセイラはケーキを注文。
ジュースとお酒も注文する。
「くっくっくっく、魔王討伐まであと少し……」
「なんですかポチ?」
「なんでもない。ケーキ少しくれ」
柴犬はほくそ笑んだ。




