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三人の追放令嬢

 セイラが拘束された同時刻、二人の令嬢もまた危機を迎えていた。

 一人はゼット・スタローン。15歳。

 スタローン伯爵令嬢にして近衛騎士団の見習い隊員である。

 背が高く自信にあふれた顔。そのクールな美貌は騎士学院の華と呼ばれ女子生徒に人気であった。

 彼女はセイラが拘束されたその時刻。

 近衛隊長であるブロンソン侯爵の……胸倉をつかんでつるし上げていた。


「てめえこのハゲ! 大人しくしてりゃあ、いい気になりやがって! よくも人の尻なで回しやがったな! ぶっ殺してやる!」


 騎士団の華。

 美しき女騎士。

 氷結の乙女。

 と言われていた彼女だが本性はヤンキーだった。

 もともとスタローン伯爵家は武門の家柄。

 武門の家で荒々しくすくすくと実に雑に育った。

 王立学院や騎士団では王子様キャラで表面を取り繕っていた。

 だがブロンソン侯爵に尻をなで回されたことでブチ切れた。

 取り繕った仮面など一瞬のうちに剥がれ、ブロンソン侯爵の顔面に鉄拳制裁。

 そのまま胸倉をつかんでつるし上げたのである。

 すでにブロンソン侯爵は白目を剥き舌を出して意識を失っていた。


「や、やめろ! ゼット! 隊長閣下を放すんだ!」


 近衛隊員が必死な声で訴えた。

 近衛騎士団の隊長は閣僚と同格。

 見習いの暴挙としては相手が悪すぎる。

 だが鬼神の如き表情をしたゼットが叫ぶ。


「止めたかったら止めてみやがれ! できるもんならな!」


 そう言うと拳骨を握り拳を引く。

 殺るつもりだ!

 隊員が叫んだ。


「ぐ、止めろ! 閣下を殺す前にゼットを止めるんだ!」


 隊員たちがゼットに飛びかかる。


「ふははははー! 知ってるぞ、てめえらが人の胸をガン見してたことをな! てめえら全員教育してやる! オラオラオラ、まとめてかかって来いやーッ!」


 ゼットは胸も尻も女性らしい曲線を描いていた。

 男子の本能として視線が行くのはしかたない……いや、やはりセクハラである。

 ゼットはブロンソン侯爵を騎士に投げつけ、近衛隊員を蹴散らした。

 その後はちぎっては投げ、押しては倒し。

 というのも相応しくない一方的な暴力の嵐。

 鎧を来た騎士たちが素手の一撃でぶっ飛んでいく。


「ぐはははははは! ぐははははは! オラオラオラァッ! まだ終わらねえぞ!」


 チチをガン見されたことが腹立たしかったのか、それとも喧嘩が楽しすぎたのか。

 とにかくゼットは止まらなかった。

 彼女の伝説の一夜、ワンナイトカーニヴォーはその場に立つものがいなくなるまで続いた。

 最後に悲壮な覚悟を決めた国軍が来たところでゼットは大人しく投降。

 暴れ狂った魔人も関係のない人間を巻き込まない程度の理性は有していたらしい。

 これが「近衛隊壊滅病院送り事件」と後に伝えられる事件である。

 重傷者15名。

 素手のゼットに剣を抜いた隊員は問答無用で懲戒処分。

 近衛隊を壊滅に追い込んだゼットは無人島に追放。

 事件後、騎士団においてセクハラが公式に禁止されることになった。


 そしてもう一人。


「アリッサ・ヴァイパー……すまない。君を追放するしかない。申し訳ない」


 中年の文官が心からすまなそうに頭を下げた。

 その前には若い文官の女性が悔しそうな表情で立っていた。

 アリッサ・ヴァイパー、18歳。

 ヴァイパー男爵令嬢。3人姉弟の長女である。

 眼鏡をかけたスレンダーで知的なお姉さんである。

 ヴァイパー家は男爵家ではあるが領地を持っていない。

 中央官庁に官僚を多数輩出した文官の家門である。

 アリッサも王立学院を卒業後文官採用試験に合格。

 優秀な彼女は財務省に採用。主計局司計課で予算執行の調査をしていた。

 とはいえ優秀な官僚が数多くいる司計課、アリッサがいくら優秀でも年が若すぎる。経験もない。

 即戦力は無理でも数年後に使い物になればいい。

 そのくらいのポジションである。

 ところが彼女は優秀だった。……とんでもなく。

 なんと古い資料から長年行われてきた軍部の不正を見つけてしまったのである。

 予算の一部がどこに行ったのかわからない。巧妙に隠蔽されている。

 アリッサは直ちに上司に報告。

 そして現在に至る。

 これがなにかの目的があって確保している金ならば堂々と目的を説明するだろう。

 仮に飲み会や祝い事や葬式などの慶弔金のために使われているのなら胸を張って不正の必要性を訴えるだろう。

 ところがいきなり圧力をかけてきたのだ。

 ……よほど後ろめたいのだろう。


「すまない。本当にすまない……私にはどうすることもできない。とんでもない圧力がかかっているんだ。僕にできるのは君を無人島に逃がすことだけだ」


 上司は本当にすまなそうに謝罪した。

 ……要するに司計課、いやもっと上がグルだったのである。


「父はなんと?」


「一言……すまない……と」


 それでアリッサは察した。

 父もどうにもできないほどの闇。

 それに触れてしまったのだと。

 もう誰にも自分は助けられない。

 それをアリッサは理解してしまった。


「島に行こうと思います」


「そうか。建前上、君は新しい土地に派遣された税の徴収官ということにしておく。なるべく君が帰ってこれるように尽力するつもりだが……期待はしないでくれ」


「承知しました」


「定期的に商人に荷物を運ばせよう。本当にすまなかった」


 アリッサは踵を返し部屋を出て行く。

 荷物をまとめよう。

 キャリアは断たれたが、生活は続く。

 頭を切り替えねば。

 誰も見たことがない土地なんて面白そう!

 アリッサは案外図太い性格だった。

 部屋につくとアリッサは荷物をまとめる。

 まとめている最中、本を見つける。


【世界のもふもふ大全】


 それをパラパラめくる。


「今まで王宮の寮だったからペット飼えなかったけど……無人島なら大きな生き物飼い放題! 待っててね! わんちゃんねこちゃん!」


 すでにアリッサの頭の中にはペットのことしかなかった。

 こうして三人の令嬢が無人島に送られることになった。

 それが世界を揺るがす大騒動になるとは本人たちも思っていなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女子一人に近衛騎士団壊滅。理由の如何に関係なく、そんな近衛は解体待った無しでしょう どう考えても恥さらし。仮に解体を命じられなかったとしても、そんな近衛に止まる事自体が恥の上塗りなので自分…
[良い点] なんとぶっ壊れた世界観 広げまくった風呂敷畳めるか お手並み拝見 [気になる点] トラクターは赤ですか [一言] 3人か トラクターからの レッツ「コンバイン」できるのに
[一言] 珍しいね。 追放令嬢が複数人とは!? ってか、最初の公爵令嬢の父親は娘を助けに島に行かないのかな? まずは国(王子)をぶっころす所から始めるのか?w 今後が楽しみです。
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