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王様の拳

 ジェイクたちに料理を持ってくる間、セイラはポチに聞いた。

(クライブは涙目体育座りでいじけている)


「ポチ、教えて」


「なんじゃセイラ?」


「ここにずうっといたら人の何倍もはやくお婆ちゃんになっちゃうの?」


「なぜそんなことを聞く?」


「私、背が伸びてないから……本当は年は取らないんじゃないかな?」


「……勘のいいやつめ」


 するとジェイクまで顔色を変えた。


「ぽ、ポチ様。それはどういうことでしょうか?」


「そんなに謎という話でもないのだが……。年は取らぬよ。ただお主らの考えてるような都合のいい話ではないがな」


「やっぱり魔王のせい?」


「半分は、な。ざっくり言うと魔王の呪いだ。時の流れを速くする大魔法。魔王は兵を増産しようとしたのじゃ。害虫の寿命は約一ヶ月。何万倍にも増やして人間の国に放てば大量の餓死者が出るという算段じゃ」


「あら、やっぱり魔王は優秀なのですね。ただ農耕神様との相性は最悪だったようですけど」


 料理を持ってアリッサとゼットが帰ってきた。


「そうだな。優秀と言えば優秀か。これが魔王の意図したとおりに運べば、人間の数は今の100分の1もいなかっただろう。だが神々も負けてはいない。農耕神様は焼き畑と農薬で戦い。他の神々はここにいる人間の加齢を止めた。人間が農耕をする限り、バランスは崩れぬのだからな。まー、レギオンも品種改良しすぎて人間がいないと爆増できないのと、人間があっさり大陸を放棄したせいで餌がなくなったのも魔王にとっては盲点だったようだがの」


「……ではなぜ人間をここに入植させようとしてるんですか? このままでいいのでは?」


「今はいいがいつかバランスが崩れる。やつらが海を越える能力を手に入れたら終わりだ」


 それにゼットが突っ込む。


「わざわざ強調するってことは……近いんだな。バランスの崩れが」


「勘のいいやつめ!」


 ポチの言葉にジェイクはこれまでにない使命感を感じていた。

 先祖の過ちを正さねばならない。

 今度こそ魔王軍と戦わねばと。



 後期ショタにゼットがひどい仕打ちをしたのと同時刻。

 夜もふけた宮殿に怒声が響いた。


「このバカ息子が! なんてことをしてくれた!」


 バカ王子と初老の男性が言い争っていた。

 誰もが予想した通り男性は王様である。

 王様は両手で王子の胸倉をつかんで揺さぶる。


「だ、だってパパ! セイラが生意気なんだ!」


 王子がチョップを繰り出す。


「こんの、バカチンがッ!」


 次の瞬間、王様は片手を離し王子の喉に手刀をお見舞いする。

「へぶ!」と悲鳴を上げた王子の胸倉を再びつかんで揺さぶる。


「王家などそれほど偉くないッ! 家庭教師に習ったはずだ! 我が家にとってバルザック家はどんな存在だ!? 言ってみろ!」


 王様は叫んだ。

 王子は「ふえっ?」という顔をしている。

 それも仕方ないことである。

 日本においても良い学校を卒業をした人間すべてが日本国憲法や行政の仕組みを理解しているわけではない。

 人間には向き不向きがあるからだ。

 なお文理体芸術なんでもできちゃうレアキャラも存在するがここでは除外する。


「たしか……バルザック家は……哀れな蛮族? あまりにも暴れるから仕方なく家来にしてやった?」


「このバカチン!」


 右フックが王子の横っ面に炸裂した。


「おぶッ! 二度もぶったね! パパにもぶたれたことないのに!」


「うるさい!」


 ヒザ蹴りで黙らす。

 やだこの王様、戦いなれてる。

 王子の方も無駄に打たれ強い。


「絶対にバルザック家を敵に回すなと何度も言ったはずだ! バルザック家は王家が頭を下げて一族に加わってもらったのだ!」


「私は! セイラが! 苦手なのです! あの私にまるで関心のないといった! 無表情! バカにしやがって! 私は! 王子! だ!」


 王子が立ち上がり椅子を手に取り振り落とす。

 王様はよけることもなくなすがままにされる。

 何度も何度も椅子の凶器攻撃が王様を襲う。

 一……二……三……四……五……。

 ファイブカウントを迎えたとき、王様は椅子に向かって鉄拳を振り下ろした。

 一撃で椅子がバラバラになった。


「言ったはずだ。凶器攻撃はファイブカウント以内だと。それすらも忘れる貴様に正義はない!」


「ち、父上! 私はただ真実の愛を……」


「黙れ!」


 次の瞬間、王様の地獄突き(喉突き)が炸裂。王子の身体が崩れると両手チョップ。

 問答無用のモンゴリアンチョップが王子の両肩に炸裂する。


「ぐはッ!」


「愛とか惚れたとかそういう問題じゃない! 国が滅ぶわ!」


「ぐ、ぐう、だが! 私は愛に生きる!」


 王子がラリアット。

 だが王様はビクともしない。


「軽い軽い軽い! 己の正義に絶対の自信がないから攻撃が軽いのだ! 愛など大義のため! 世の平安のためなら無用!」


 王様は王子の頭を抱え込み締め上げる。ヘッドロック。


「ですが父上! 私は毒婦を排除しこの国を正常な姿に戻したいのです! 愛の力で!」


 そのまま締め上げると王様は王子の手をつかみ窓へ振る。


「己を正当化するな! このバカ息子! なんの罪もない少女を力で排除しようなど貴様の器がしれるわ!」


 王様は王子を追いかける。そして側転。そのまま飛び上がりジャンピングエルボーをお見舞いする。

 それは見事なスペース・ローリング・エルボーであった。王子は石畳に倒れ込む。

 王は間合いを取ってタイミングを計る。

 王子が起き上がった瞬間、走る。


「王は民のためこそに存在するのだあああああああああッ!」


 王子の膝を踏み台にして顔面にヒザ蹴り。

 それは見事なシャイニングウィザードだった。

 がしゃーん!


「ぬおおおおおおおおおッ!」


 王子が窓の外へ落ちていく。


「私こそが王にいいいいいいいいいいいいッ!」


 王子は滅びる三文悪役の如く叫びながら城の堀へ落ちていった。どっぱーん!


「成敗!」


 王様は何事もなかったように乱れた髪と服を整える。

 すると内務大臣が会釈した。


「陛下。お見事な技でございました」


「世辞は良い。バカ息子を回収したら牢に入れておけ。女の方もだ。最悪、バルザック家に差し出して和平の材料にする必要がある」


 王子はすでに死んでいるような気がするが、王は生きていることを前提に話をしていた。

 王子も大概化け物なのである。


「バルザック家のセイラ嬢はいかがなさいますか? 魔の島に追放されたそうですが……幸いにも近衛騎士見習いのゼット・スタローンと文官のアリッサ・ヴァイパーが島へ派遣されたようですが」


「スタローン? あの騎士の一族か。ではセイラ嬢は生きておるのか?」


「おそらくは」


 近衛騎士は王族が直接目にする護衛である。

 それゆえに王様もよく知っている。

 王様の中ではスタローン家の印象はとても良い。

(逆に若手文官であるアリッサは存在すら認識されてない)

 王様は指示を出す。


「早急に保護せよ!」


 王様に内務大臣はただ「御意」とだけ答えた。

 王様のプロレスを見ても動じない内務大臣が一番メンタル強者なのかもしれない。

 こうしていくつかの勢力が大陸に集うことになったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] ギャグ補正の力かやたら頑丈だなアホ王子・・・ ここまでアホだと家庭教師の人もさぞ苦労をして教え込んだんだろうなぁ、まったくの徒労だったが!
[良い点] プオタだ…プオタが還ってきた!!
[一言] あらやだ♪ 蛮族のお父さんに震えている無能な王ではなかったのですね! これだけ素晴らしい技をお持ちなら話が合うような気がしますねw
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