まさに外道! ゼットお嬢さまのフラグ管理術(フラグに気づいてない)
マスケット銃を持った男たちがニカッと笑う。
先ほどの音は銃声のようだ。
松明に照らされた男たちの顔は悪意があるようには見えない。
セイラは彼らを見てニコニコしている。
ゼットは少々引き、アリッサはどん引きである。
(雑だ……雑すぎる)
アリッサの基準ではありえない行動だ。
だがセイラの実家では普通のことのようだ。
さすがバルザック家である。
「三ヶ月か……よく生きてたな……」
ぼやくジェイクにセイラが説明する。
「神様が農業をしろって……これが収穫物です」
三人で持ってきた木箱の一つをジェイクの前に置く。
「俺たちに売るってことか?」
「はい。置いてても腐ってしまいますし。干せるものはそう多くないですし。それに……大量にあるんです……」
ポチの出荷基準を満たしたものだけでもとんでもない量である。
「中を確認しても?」
「ええ、もちろん。ご自由に。お食事がまだなら召し上がりますか?」
「お、おお……って、おいッ! こりゃなんだ!」
中を見たジェイクが叫ぶ。
木箱の中はトウモロコシでいっぱいだった。
ゼットが頭をポリポリ掻く。
「あー、私たち素人農家だから……やっぱ売り物にならない?」
「逆だ! なんだこの品質! 虫もカビもついてない! 見たことのない野菜だが、これはみんなこうなのか!」
「いんや、ダメなのは家で食べる用。そうか、見たことないか……セイラ、夕飯に茹でたやつの残りあげてもいい? 持ってくるわ」
「あー、うん、ゼットお姉ちゃんお願いします」
「あいよー。アリッサ手伝って」
「了解」
二人が戻る。
ジェイクは他の箱も調べる。
「おい……こりゃ瓜か? えらく形が均一で整ってやがるが……」
「神の国ではキュウリと呼ばれる野菜です。完熟すると美味しくないのではやめに食べ」
「まさか! 神様に会ったのか!?」
ジェイクはセイラに詰め寄った。
その顔はまさに必死。
なにかに突き動かされたかのような表情であった。
「神様……農耕神様ですか? 御使いのポチにしか……」
「ポチ様! まさか伝説は本当だったのか!」
ジェイクが興奮した声を出すと、気怠げな声が闇に響いた。
「なんじゃ……眠いのに」
ポチが翼をパタパタしながら飛んできた。
その下を「お姉ちゃん! 待ってー!」とラクエルが走ってくる。
「ポチ様!」
次の瞬間、ジェイクたちがひれ伏した。
「ん? 入植者の子孫か?」
「はッ! 農耕神様の助言に逆らい呪われた島から逃げ出し破門されたものの末裔にございます!」
「いや島じゃなくて大陸……まあいい。そもそも破門などしておらぬ。農地を放棄したから組合員の資格は失効してるがの」
「ははー!」
「ひれ伏すくらいならここに戻ってくればいいのに……とはいえここに悪い印象を持ってしまった後では無理か」
「無理なんですか?」
ラクエルを抱っこしたアリッサが疑問を投げかける。
「そりゃ農薬飲んだ連中の末裔だからな」
「あー……毒ですね」
「神の審判……薬に耐えられなかった我々はここを離れ、近くの島に移住した。それが我が一族のはじまり……」
「またそんなこと言ってるのか! いや誰でも耐えられんぞ、あんなもん。いきなり農薬飲み出したから「吐き出せ」って怒鳴ったわけでな」
「前々から思ってたんですけど、なぜ薬を飲んだんですか? 毒だとわかっているのに」
「わからなかったのじゃ! 少なくとも魔法を知ってる知識層なら毒の存在を知っている。お主らなら毒だと言われれば飲まない。それに普通は宣教師が止める。だけどその知識層の宣教師がパニック起こしてアホ丸出しの扇動しやがったのじゃ!」
「なんで扇動したんですか!」
「飢餓じゃ! 前にも言ったとおり猜疑心丸出しでこっちが渡した食べ物食べないわ。やめろって言ってるのに脂肪も糖分も取らずに肉食って餓死寸前まで行くわ。で、ヘロヘロになった挙げ句にこっちを過剰に神聖化して農薬を民を救う薬とか言いだしたのじゃ!」
「うわー……」
うわーである。
まるっきりコミュニケーションが成立してない。
「おまけに生き残りが「我々は楽園を追放された」とか言いだして逃げ出すし……もう……ぐすん。誰も話を聞いてくれなかったのだー!」
そのままポチはセイラに抱きつく。
セイラは「よしよし」していた。
真実を告げられたジェイクも混乱している。
「ま、まさか真実がその様な話だったとは……聞いた話とまるで違う! 俺たちは小さなころから神の薬を盗み飲んだ罰として楽園は呪われたと聞いていた」
「言い出しっぺの宣教師はのうのうと生き残ってな。どうせ自分の都合のいいように隠蔽したんじゃろ。港から先は禁断の地なんてバカなことを言いだしたしな。王国が再発見しなければセイラたちも来なかっただろうな」
ガチクズである。
クズのホームランバッターがこの大陸にやって来たのがすべての間違いだったのかもしれない。
「そもそもだな……ここは楽園ではない。かつて魔王軍と人間との戦争の最前線だった場所じゃ。今じゃ人間は三人だけ、魔王軍もだいぶ野生化してしまってるがな」
「う、うわぁ……」
「御使い様。我々にできることはございませんか?」
ジェイクはひれ伏して声を上げた。
それは許しを請うかのようだった。
「あえて言えば……人じゃ。人が作物を作りさえすれば農耕神様の力により魔王軍を今度こそ滅ぼすことができるだろう」
「はは! 里に戻り人を連れて参ります!」
と話がまとまりかけたところ。今度は海から少年の声がした。
「ゼットオオオオオオオオオオオおッ! 迎えに来たぞおおおおおおおおッ!」
「ポチ様、うるさいのが来てしまい誠に申し訳ありません。クソ、船倉に押し込めてたのに!」
「あー……まあいいんじゃない。ゼットの関係者みたいだし」
少年は日焼けショタだった。
ゼットという地雷をあえて踏みに来たショタ。
クライブくんだった。
クライブは高速でボートをこぎ、砂浜から上陸するとダッシュ。ゼットの前へ来る。
そのステップはまさに「るんたったー♪」。
うれしさが隠し通せなかった。
「ゼット! 迎えに来たぞ!」
その目は輝いていた。
キラキラしすぎて歯までキランと輝いていた。
クライブの初恋がいま、ここで実らんとしていたのだ。
「あー無理。アタシ、二人の護衛しなきゃならんし」
「ぎゃん!」
こうかばつぐんだ!
「あ、あの……どなたですか?」
セイラが聞くとゼットは笑顔で答える。
「あー、弟?」
「ぶべら!」
クリティカルヒット。
「領地の騎士の息子なんだけど、昔から私の後ろをついて来たやつ。まー、弟だな。どうした? 単独で救出任務なんて偉い出世じゃん。結婚でも決まったか? お、カワイイ子か? 姉ちゃんに教えろ、おい!」
「ごぶッ!」
ゼットの容赦のないコンボ!
まさに死体蹴りである。
それを見てアリッサが叫んだ。
「やめてー! ショタのライフはゼロよー!」
「なにが?」
「気づいてあげてーッ!」
ゼットはひどい女だった。
セイラとラクエルは目を見合わせた。
ラクエルが「きゅ?」と鳴いた。




