表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/20

初収穫

 トマト、キュウリ、ピーマン、トウモロコシ……。それに豆。

 多種大量の作物が並んでいた。

 すべて収穫したものである。

 明らかに5人分ではない量である。

 アリッサはブツブツつぶやいていた。


「おかしい……土地の広さから計算してこんなに収穫できるわけが……」


 土地の広さは現代の農業を知っているものからすれば三人分としては過剰に広い。

 ポチとラクエルの分を入れても広すぎる。

 そもそもこの世界の野菜の収穫量はとんでもなく少ない。

 人口密度が低いため農地を使い放題なため量を確保できている状態だ。

 できた野菜も現代日本では組合の出荷基準を満たさない。

 きれいな野菜など存在しない世界なのだ。

 セイラたちもこれでも半分は害虫にやられ廃棄予定である。


「いいじゃん干しときゃ食えるって。廃棄用のやつ加工しとくな」


 ゼットがテキトーなことを口走った。

 だがそれは間違った判断でもない。

 廃棄用と言っても害虫や病気で変形や変色した物だ。

 日本の出荷基準なら許されない……が、食べられる。

 加工用にする予定だ。

 さすがに腐った物やカビが生えた物はコンポスト行きである。

 ただ一つ問題がある。

 食べきれない。

 問題は量が多すぎたことなのだ。

 セイラたちは知らなかった。

 この謎の作物。

 F1種なのである。

 F1とは簡単に言うと雑種である。

 一代交配種とも言われ遺伝的に固定されてない。

 味がよく高収穫量で病気に強い。

 ただしF1種から同じ品種は生まれないため常に種や苗を購入せねばならない

 それ以外にもいくつかの問題はあるものの、現代の作物は中世ヨーロッパ風世界では化物クラスの性能なのである。

 そんな思わず笑顔になる収穫だというのにセイラはどんよりしていた。

 ポチもラクエルも心配そうに見ている。


「セイラちゃん……やはり気にしてるんですか?」


 セイラが立っているは家の柱の側だった。

 柱にはナイフで傷がつけられていて、そこに3ヶ月前の日付と「セイラ」と書かれていた。


「身長が伸びてません……」


 成長期、しかも追放される前よりたくさん食べているというのにセイラの背は高くなっていなかった。

 体重も変わっていない。(ただしなんらかの計器で正確に計ったわけではない)

 多少の体型の変化もあるはずなのに、前に買った部屋着が使える状態だ。

 足のサイズも変わっていない。下着も同じ。

 セイラは納得できなかった。


「まあまあ、セイラちゃん。私は小さいままでもいいと思いますよ」


 明らかに邪念の入った顔でアリッサが言った。

 それにラクエルも発言する。


「あのね! あのね! セイラお姉ちゃんはかわいいと思うの!」


 よくわかってない発言ではあったが、セイラはひしっとラクエルに抱きつく。

 それを見てゼットが口を開く。


「なあなあポチ。お前なんか知ってるだろ?」


「シラナイヨ?」


 ポチは目をそらした。

 しっぽが股間に挟まっている。


「それ明らかに知ってるよな? なんか理由あるんだろ? 怒らないから説明してくれ」


「言えぬ」


「まだしらばっくれるか! こっちはわかってんだよ! なんだここは! 三ヶ月も経ってるのに気温が変わらないんだよ! 雨も降らないし!」


「地下水が使えるからいいだろうが!」


「雨が降らなきゃいつか海水が混じるだろうが! 海に近いのに!」


「ぬうううう……余計な知識をつけおって……」


 今度はアリッサが口を開く。


「ポチちゃん。どうして星が動かないんですか?」


 アリッサは天文学にそれほど詳しいわけではない。

 だが季節が変わるほどの期間を経ても星が動かないのは異常な事だった。


「ぐ……わかった。妾が直接語ることはできない。だから一つ教えてやる。そろそろ補給の船が来る。そしたら疑問の一つは解決するだろう」


 三人は顔を見合わせ、ラクエルはよくわからずにお腹を見せていた。

 アリッサはラクエルを抱っこする。


「じゃあポチちゃん。教えて。私たちは神様に選ばれたの? それとも結果的に生き残っただけ?」


「あー……うん……生き残っただけだ。我々は常に組合員を募集しているが、この大陸への入植を強要したことは一度もない。あれだぞ! お主らの国のことは国が悪いだけだぞ!」


「まー……そうだな。私は二人よりはくだらない理由で追放されたけどねー……ちょっとショック」


 ゼットが落ち込む。

 アリッサは珍しくゼットのフォローに入る。


「私の方だって同じですよ。軍部が内務省の名義で軍人年金の余りを長年プールしてたのを見つけただけですし」


「うん? いまなんと?」


 ゼットはまるでお化けを見たかのような顔をしていた。


「だから引退した騎士や兵士の年金の端数を長年プールして……それだけじゃなくて備品の数をごまかしたり……」


「ちょっと待って! おかしいだろ! 金も備品も数が合わなかったら合うまで計算し直しだぞ。もしごまかしても給料から補填させられるし。最悪の場合、死刑だぞ! 記録にもばっちり残るし、上司の上司まで責任を追及される。長年? いや無理だって!」


「いやだってそれが原因で追放ですし」


 ゼットは「おかしい……そんなはずが……」とブツブツつぶやいていた。

 結局、その日はそこで終了。

 とりあえず収穫した野菜を全知全農で購入した木箱に詰めておく。

 箱は山積みだったが体力の有り余っている三人には難しくなかった。

 そして次の日未明。

 遠くで爆ぜる音がした。

 その音でいち早く飛び起きたのはゼットだった。


「あん? 火薬の音! なんだ!」


 次にセイラが起きる。


「……うーん……補給が来たのでは……?」


 寝ぼけ眼をこする。

 アリッサがうなる。


「起きねば……起きねば……起きねば……ぐう」


「起きろ!」


 三人は部屋着のまま外に出る。

 まだ外は暗かった。

 全知全農で買ったLEDランタンを手に海岸へ向かう。

 すると海岸の先に大きな船が見え、海岸にはボートでやって来たジェイクたちがいた。


「よう! 約束どおり三日で補給物資持ってきてやったぜ!」


「え……三日……ですか……?」


 セイラは困惑した。

 三ヶ月ではなく、三日。

 いったい自分たちに何が起こっている?


「ああ、ここから一日の場所に拠点が……ってなにか起きたのか!」


 ジェイクが焦った様子で詰め寄る。

 セイラは小さな声で答えた。


「三ヶ月です……」


「なにが?」


「私たちはもう三ヶ月ここにいるんです!」


 思えば最初からおかしかった。

 なぜジェイクたちは立ち入り禁止だったのか?

 この大陸は……最初からおかしかったのだ。

ようやくここまで書けた。

次回、後期ショタ。


それと風邪で動けませぬ。

ちょっと更新休みます……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お大事に。
[一言] ゼットさんが考える筋肉だと良くわかる回でしたね。 まさかのリューグーアイランド∑(゜Д゜) どうぞゆっくりお休みくださいませ。
[良い点] 時空が歪んでる? [一言] 時節柄ご自愛を
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ