表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/20

村崩壊の真相

 育苗中の種から芽が出た。

 植えるのはもうまだ少し後。

 その間は草むしり。草むしり。ひたすら草むしり。

 雑草を抜く。

 マルチシートはまだ解禁されてない。

 手作業でやるしかない。

 三人とも麦畑の草むしりに追われている。

 雑草を取りまくり取り終わった雑草を切断。

 拾ってきた落ち葉と混ぜる。

 そこに細かく切断したゴミを混ぜ、さらに少量の土と砂を混ぜる。

 混ぜた物をゴミ捨て場に入れる。

 ゴミ捨て場にはゼットが落ち葉の下から拾ってきたミミズを入れてある。

 ミミズは土の中の有機物を食べる種類ではなく、土の上の落ち葉などを食べる表層性種だ。

 いわゆるコンポストと呼ばれる生ゴミ処理機だ。

 ミミズが生ゴミや落ち葉を食べ消化排泄し分解を促進する。

 微生物がミミズの生産物を分解し生ゴミを肥料に変化させる。

 とはいえ微生物の概念をセイラたちが理解するのは難しい。本来ならばロックされているはずの技術である。

 ただ概念こそ難しいが怪我する可能性は非常に低い。

 それゆえに現段階で解禁されている。

 ゴミを入れる。ゴミは肉や魚は取り除いてある。

 主に野菜や柑橘類以外の果物を入れてある。

 そのときウジ虫がわいてないか注意深く確認。

 いたらすぐに撤去せねばならない。

 ムカデも見かけたら駆除対象だ。ネズミも同じ。

 ミミズが食べられてしまう。

 においはほとんどない。土のにおいだけだ。

 作業が終わったら蓋を閉める。

 最後に蓋の周りを見て隙間が空いてないか確認。

 隙間が空いていたら村の日陰で採取した粘土で埋める。

 そしてできたミミズのフン。

 いやここは上品かつ知的に「ミミズの生産物が微生物により分解されたもの」とでも言うべきだろうか。

 それらをスコップですくい上げ、まだ作物を植えてない畑にまく。

 うねうね蠢くミミズを嫌がって初日こそ当番を巡ってもめたが、今では三人とも気にしない。

 むしろ虫大好きなセイラは率先してやっている。

 よく考えたらネズミのように噛まれるわけでも病気になるわけでもない。

 ただ気持ち悪いだけだ。

 ミミズによって微生物の補充ができるとのことである。

 効果がわかるのはかなり後だろう。

 なお声を聞くと「わっせわっせわっせ」としか言ってない。

 普通の生き物はこんなものらしい。

 魔王軍はなぜ害虫に高度な知性を与えたのだろうか?

 三人もポチもよくわからなかった。

 麦の世話をして、土壌改良に勤しんでたまに狩りをする。

 家の修理に、廃屋から道具を運び、使えそうな道具を修理する。

 スローライフというにはいささか肉体労働の程度が激しい。

 そんな毎日を過ごしていると苗が大きくなっていた。


「そろそろ植えるのじゃ。これは手作業な」


 ポチが言った。

 今まで便利な道具をレンタルしてくれたのに今回はないらしい。


「なぜって顔をしているな。言っておくが……知識のないものに危険な作業はさせない」


「なんでだよー! ちゃんと言われたとおりやってるじゃねえか!」


 これにはゼットが口を挟む。


「……聞きたい?」


「なにがよ? ずいぶん怖い顔するじゃないか……」


「そうですよポチ。今まで危ない目にあったことなんてないですよ」


 アリッサも疑問に思っていたようだ。


「そうだな。この大陸の村が全滅した話をしようか。この村はもともと500年前にサーロニアの民が入植したところだ」


「魔王軍の残党がいるのに?」


「魔王を封印したからな。だから我らはその残党と戦うために農薬をまこうとしたのだ」


「農薬?」


「毒だ。本来人間には毒性が低いものだ……だが……」


「なんだよもったいぶって!」


 とうとうゼットが我慢できなくなった。


「飲んだのだ。神から与えられた神酒とか言いだしていきなりな。倒れていく島民に宣教師は神の試練だと農薬を飲ませた。いくら毒性が弱いと言っても飲み干したらおかしくなるのだ! やつらは神がいくら毒だと警告しても聞かなかった。以降我らは信用できぬものに技術を渡すことはなくなったのだ」


 現在の農薬や殺虫剤は人間には対しては毒性が低い。

 だが致死量はわかっていて、死亡事故の報告は存在する。


「私たちは信用されてる?」


「まだに決まってるだろ! 根幹の技術はロックしているのだ。機械もレンタルだ。だがゴーレムを知っているから動いてるトラクターに近寄らないところは評価してる」


「えーっと……起きたんですか? トラクターの事故?」


 回転する機械は動作中に近づくと事故に繋がる。

 しかもかなり悲惨な事故である。


「毎日な! それだけじゃない。別の村ではセイラたちと同じようにポイントによる食料援助をしたが信頼せずに食べなかった。それはまだいい。だがウサギを食べ続けるのはやめろとあれほど言ったのに言うこと聞かずに全滅。他の村も同じだ。サプリを拒んだり、種を拒んだり、そもそも我らを悪魔と呼んで話すら聞かなかった村もある」


 アリッサがひくついた。

 やりかねない。

 ヘタに知識がないセイラたちだから素直に聞いたのだろう。

 よく考えれば農業地帯でのゴーレム導入を聞いたことがない。

 あんなに便利なのに。従来型のゴーレムすら誰も導入しないのだ。

 それを考えたこともなかった。

 きっと導入しようという話はあったに違いない。

 だが反発があってあきらめたのだろう。

 新しい技術の導入はアリッサが思ったよりも難しいのだ。

 アリッサだって自身の専門分野だったら新しい技術に反発したかもしれない。


「つまり……全滅した原因は」


「栄養失調にタンパク質中毒による餓死に事故に……どれも回避できる死であった……」


 ウサギは過度に高タンパク低脂肪。

 炭水化物や脂肪分をとらないと代謝障害を起こし餓死に至る。

 現代でも過度に高たんぱくな食事によってアスリートが突然死することがある。


「最期は弱った体でパニックを起こした住民たちが宣教師にだまされて農薬を飲み出して……」


 ポチは一気に悲しそうな顔になった。

 その背中をラクエルが「お姉ちゃん大丈夫?」とぽんぽんと優しく叩く。


「ちょっと待って……つまり私たちは……」


「生死の境にいた。猜疑心が弱くてよかったのう。さすがいいところのお嬢様だ」


 ひどい話である。


「つまりこの大陸が放棄されたのは……」


「入植の失敗だ」


「じゃあなんで国では大騒ぎになっていないのですか!」


「隠したのじゃろ? 隠さねばならぬ理由があるからな」


「それはいったい……」


「この島の秘密は収穫を迎えればわかるだろう。それまでは我慢してくれ」


 結局、また新たな疑問が生まれただけだった。

 アリッサたちはその日は追求をあきらめ、充分な大きさまで苗を育てると植えた。

 トマト、キュウリ、ピーマン、トウモロコシ。

 追放されるまで知らなかった品種が多い。

 三人がかろうじて知ってたのはキャベツくらいだ。

 さらに各種豆。

 これは知っている。

 お医者様はエンドウマメしか食べてはいけないと言ってたが、全知全農で購入した枝豆は美味しかった。

 もちろんトマトもトウモロコシもキュウリもだ。

 ピーマンはゼットがあまり好きではないと言ってた。

 未知の野菜の味を知ってしまった。

 手作業で行う農業はとにかく手間がかかる。

 ヘトヘトになって苗を植える。

 やたら雨の降らないこの土地で水をやり、雑草を取って、害虫を退治する。

 そして三ヶ月が経過したのだった。


「いつまで経っても補給が来ませんね」


 アリッサは疑問に思うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なぜ農薬を飲む?
[良い点] 島の秘密が徐々に明らかに! [気になる点] >信頼して食べなかった。 ? インチキ宣教師を信頼したから? 信頼せず? [一言] 包丁の使い方の次は、うちの子も食べました的な素材別マニュア…
[良い点] マルチまさにマルチ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ