1話「そして、転生勇者はステイサムになった」
◇デイビッド・フォスター
「まったく、なんの冗談だこれは?」
デイビッドは困惑していた。気がつくと、突如として見覚えのない空間にいたからである。
「ようこそ、人の子よ」
困惑するデイビッドの目の前に、一人の女性が現れる。
「ジーザス…… 俺は夢を見ているのか?」
デイビッドは目の前に現れた人物を見て驚愕する。何故なら、その女性が十年前に死んだ彼の母親の姿をしていたからだ。
「いいえ、人の子よ。これは夢ではありません。あなたは第三次異世界転生プログラムに選ばれたのです」
目の前の相手が何を言っているのかデイビッドにはまるで理解が出来なかった。
しかし、目の前の女性が懐かしい母親の姿をしていたからだろうか、不思議と彼女からは危険や怪しさは感じられず、デイビッドは自然とその話を飲み込んでいた。
「人の子よ、これから私はあなたがこれまで生きてきた世界とは異なる世界へ、あなたを転送します」
「異なる、世界?」
「ええ、あなた達の地球とは異なる文化、法則が息衝く世界のことです」
「なるほど、それで異世界、か」
「……随分と、聞き分けがよいのですね」
やや驚いたように母親の姿をした女性は目を丸くする。
「そりゃあ驚きも混乱もしているが、こんな空間にいきなり呼び出されて、目の前に死んだお袋と同じ姿をした人間が立っていたら、逆に大抵の話はすんなり飲み込めるってもんさ」
「そういう、ものですか」
「そういうもんさ」
デイビッドの言葉に、女性は始めて笑みを浮かべた。
「やはり、あなたを選んで正解だったみたいです。無駄な話をしなくて済んでいい」
「そういえば、なんで俺が選ばれたんだ?」
「ただの偶然、ですよ。私が参加者を選ぼうとしているときに運悪く、いえ、ある意味では幸運なことに、ちょうど事故にあって死んだ人間がいた。それがあなただったというだけです。この姿もあなたの記憶から再現した母親の姿を借りているに過ぎません」
「なるほどな。でも、そうか、やっぱり俺は死んだのか」
デイビッドは自らの手の握ったり開いたりしながら独り言ちる。
「実感はないが、“転生”っていうくらいだもんな……」
「すんなり納得していただけたようで、助かります」
「ああ、だが、もう一つだけ聞いてもいいか?」
「なんでしょう?」
女性が首をかしげる。
「あんたは一体、何者なんだ? もしかして……」
「神様ではありませんよ。私はただの採用担当です。ただ、そうですね、あなた達からすれば超常の存在であることには変わりありません」
「それじゃあ、便宜上とりあえず女神様と呼ばせてもらうが、構わないな?」
「構いませんよ」
女神の言葉にデイビッドは満足げにうなずくと、話の続きを促した。
「これからあなたが転送される異世界には、あなたと同じようにまた別の異世界からほかの採用担当によって送り込まれた転生者たちがやってきます。中には、すでに送り込まれている者もいるでしょう。あなたには、私たち採用担当の代理として、その転生者の中で最後の一人になるまで生き残りをかけて戦っていただきます」
「ちょっと待て、生き残りをかけて戦う? この俺が?」
「ええ、そうですよ」
「おいおい、冗談はよしてくれよ。俺はこう見えて格闘技もやっていなければ銃の扱いだって得意じゃねえ、ただの善良なアメリカ国民だぜ? どうやって戦えっていうんだよ」
「安心してください、各転生者にはそれぞれの採用担当が一つ能力を与えることになっています。そして、あなたは運がいい」
「どういうことだ?」
眉を顰めるデイビッドに、女神は指を振りながら答える。
「私に割り振られた能力が、当たりだということですよ」
そう言うと女神は、人差し指でデイビッドの額に触れた。
「はい、これで能力があなたに手渡されました」
「おお、随分と簡単なんだな。それで、俺の能力は一体どんなもんなんだ?」
デイビッドの問いに、女神はしたり顔で答える。
「あなたの能力、それは……“最強になる”能力です」
「最強になる、能力……?」
「ええ、その能力を使えばあなたは、あなたが思う最強の存在になることができるのです」
女神の説明にデイビッドは興奮する。
「おお! これってもしかして、無敵の能力なんじゃないのか?」
「いえ、無敵というわけではありませんよ」
女神は首を横に振りながら説明する。
「この能力で得られるのは、あくまであなた自身が最強と信じる力だけです。例えば、その力に対してあなたが本心から岩を砕ける!と信じることができれば拳で岩を砕くこともできるでしょうが、極端に言えば、心の底から信じることが出来なければその力ではバナナを握り潰すことすらできないということです」
「なるほど、俺の信じる“最強”の尺度によって弱くも強くもなるっていうことか……」
「そういうことです。さっそく試してみては如何ですか? この空間ならば、どんな力を振るっても誰にも迷惑はかかりませんし」
女神の提案にデイビッドは頷いた。
「それで、どうすれば能力を使えるんだ?」
「簡単ですよ、ただ心の中で使おうと思えばいいだけです。そうすればあなたは最強になれます」
「わかった、やってみよう」
デイビッドは目を閉じて深呼吸をすると、自分が信じる最強を思い浮かべようとした。
__最強、か。そもそも、最強ってなんだ? 鉄を曲げることができる筋力、誰にも傷つけられない肉体…… いいやダメだ、そんなの実感が沸かない
この能力が女神の言う通りのものであるならば、きっと実感の湧かない力を行使しようとしても中途半端なものになるか、最悪なにも効力を発揮しないのだろう。それならば、とデイビッドは考える。
__そうだ、俺自身が最強になる必要はない…… 俺が“最強のだれか”になればいいんだ!
デイビッドには、自身の考えが素晴らしいもののように感じられた。これならばきっとうまくいく、そう考えて彼は、意味があるかは分からなかったが、腹筋に力を込め、能力を発動させようと強く念じた。
「………………?」
しばらく目をつぶっていたデイビッドだったが、なにも起きた様子がない。
デイビッドが恐る恐る目を開くと、女神が残念そうにその目を伏せていた。
「あれ、これで能力は発動したのか?」
「ええ、発動していますよ。ですが、これは……」
女神は途中で言葉を切り、静かにデイビッドの後ろを指さした。
デイビッドが振り返ると、そこには巨大な鏡が置かれていた。そこに映る自身の姿を見て、デイビッドは驚愕した。
「おいおい、マジかよ……」
「ええ、大マジですよ。あなたはその能力を使って、ただ筋力を増強しただけです」
「……は? なにを言っているんだ?」
頭を抱えて嘆く女神に、デイビッドは首をかしげる。
「おいおい、これがただの筋力増強? ちがうだろ、これは……」
デイビッドは改めて鏡に映った自身の姿に目を移す。
鋼のように引き締まった筋骨隆々な身体に、目を引くスキンヘッド。
「これは…… ステイサムだ。ジェイソン・ステイサム、無敵の男だ」
デイビッドは、ジェイソン・ステイサムになっていた。
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「あの、そろそろいいしょうか?」
デイビッドがステイサムになってから数分後、女神がおずおずと口を開いた。
「フンッ、フンッ! ん? どうした?」
「そろそろあなたを異世界に転送させなければいけないのです」
女神の言葉にデイビッドは腕立て伏せを中断して立ち上がる。
「そうか、わかった。それじゃあ、転送してくれ」
デイビッドの言葉に反応するように、デイビッドの足元が白く光りだした。
まばゆい光に包まれていくデイビッドに向かい、女神が口を開く。
「実をいうと、最初にあなたのその姿を見たとき、正直見込みはないなと思ったのです」
女神は、自身に言い聞かせるように言葉を続ける。
「でも、もしかしたら、可能性はあるかもしれません…… 私には分かりませんが、あなたがその、ステイサム、という人物に対して絶対的な信頼を寄せることができるのであれば……」
「ああ、それなら安心してくれ」
首をかしげる女神に、デイビッドは得意げに笑った。
「この能力は、やっぱり無敵の力だぜ。なんせステイサムは」
__無敵だからな
デイビッドの最後の言葉は、転送の光に飲まれて女神に届くことはなかった。
「幸運を祈りますよ、デイビッド・フォスター。あなたの世界の命運は、あなたに委ねられました」
何もない空間に、疲れたような女神の声だけがこだました。
この代理戦争においてデイビッドが背負った責任の大きさを、彼はまだ知らない。
異世界転生プログラム。
それは、次元の管理者たちが執り行う可能性の剪定。
無数の平行世界の存在権利を賭けて行われる、デスゲームなのだ。
2,3日で1話くらいのペースで連載できたらと思います。
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